東芝をギリギリまで追い詰める「グループに残された自浄能力」
昨日(8月31日)のエントリーで「今日は東芝さんが有価証券報告書を提出する日」と申しましたが、皆様ご承知のとおり、新たな不適切会計処理事案が国内外のグループ会社で10件ほど発覚したことで、報告書提出日が再延期(承認)されたそうです。一昨日(8月30日)に監査法人に報告書を提出して「なんとか明日までに監査を終了してもらえないだろうか?」と尋ねたところ、監査法人さんから「1日でなんてとんでもない!7日はかかる」と拒絶されたそうですが、そんなことってホントにあるのでしょうか?
しかも(そのような理由なら午前中に延期申請の開示があってしかるべきなのに)再延長申請の開示が31日の夕方ですよね?さらに夕方に再延長申請の開示をしたにもかかわらず、その1時間後には(再延期が)承認されたとする開示がなされています。ということは関東財務局の驚くべき「速攻承認」(超法規的措置?)が想定されますが、これは国策会社さんが申請者だからでしょうか、それとも他の新興上場企業でも同様の速攻は認めてもらえるのでしょうか?うーーん、これは謎です。いずれにせよ9月17日までは上場は廃止されることはないわけですが、とりあえずこれで名門企業の監理ポスト入りだけは回避されることになりました。
「守るべきは会社か正義か」
さて、今週の日経ビジネス(2015年8月31日号)は「東芝-腐食の原点」と題する特集が組まれております。私のコメントも42~43頁あたりに掲載されておりますが、そこには数々の東芝グループ社員から日経BP社に宛てた内部告発が紹介されています。中には録音によってパワハラの様子が克明に紹介されているものも含まれています。「まぁ、この程度はどこの会社でもあるんじゃないの?競争している組織なんだから」といった感想を持たれた方も多いかもしれません。しかしゼンショーさんの「職場環境改善促進委員会」の報告書を思い出していただけますでしょうか。みなさん、ご自身の成功体験や「自分もこうやって叱られて成長した」という思いがあるので、平時であれば(叱られる側も)「この程度なら」といった思いからグッとこらえておられるわけですが、いざ組織が有事となりますとパワハラ申告をためらわせる意識がなくなりますので、まさに不正発覚の起爆剤となります。
ここまではあまり驚くほどのことでもないのですが、本特集で驚くのは日経BP社の対応です。特集の最後に東芝グループの社員の方々に向けたメッセージとして、「守るべきは会社か正義か」と題して、さらなる内部告発を呼び掛けています。いまこそ、すべての膿を出し切るとき、新生東芝の出発のときとして、勇気を持って告発せよと慫慂しています。日経新聞が、このように内部告発を奨励する記事を掲載するのは本当に異例ではないでしょうか。紹介されている内部告発の中には、内部通報をしたが上司に筒抜けになってしまったという本社50代の研究開発部の社員の供述も掲載されていますので、公益通報者保護法上の「第三者通報の保護要件」を満たす可能性は高いはずです。
「日経がここまでやるか!?」と思っておりましたが、本日の東芝さんの対応(新たな不適切処理案件の発覚による報告書提出の再延期)と社長さんの謝罪会見の内容を聴き、たしかにまだまだ火種は残っているということがよくわかりました。わずか12日ほど前には「当然、31日には提出できます」と説明されていたにもかかわらず、このようなドタキャンに至るというのは名門企業としては考えられないところでして、グループ内では内部通報や内部告発に基づく不適切会計処理の発覚がいまだ相次いでいるものと推測されます(現に、社長さんの昨夜の記者会見では「今回新たに発覚した原因は監査法人の監査によるものと内部通報によるものがある」と明言されていましたね)。そして、そうであれば、日経BP社の上記のような呼びかけによってまだまだ東芝グループにおける不祥事が発覚する可能性は十分に残っています。9月7日の有報提出が無理となりますと、もはや上場を維持することも困難になるかもしれず、本当に東芝さんはギリギリまで追い詰められたことになりました。
ただ「ギリギリまで追い詰められた」といった表現は、野次馬的な片面的な物言いなのかもしれません。上記日経ビジネスの特集を読み、日経の対応だけでなく、もうひとつ驚くべきことは、日経BP社に集まった内部告発が問題としている不祥事の時期です。なんと告発は、不祥事が世間に発覚した後の社内問題にも寄せられているのです。つまり「守るべきは会社か正義か」というテーマは、今も続いていると思われる悪しき社内常識を、自浄能力をもって変えていかなければならない、といったメッセージが込められているとみるべきです。東芝という日本を代表する企業が上場廃止になるかどうか、といった問題はもちろん重要です。しかしそれよりも重要なことは、日本企業が真にグローバルに競争していく前提として、それにふさわしい労働環境を整備することであり、優秀な社員の方々がそのパフォーマンスを上げるための企業風土を自ら取り戻す契機が求められている、ということです。東芝さんにとって、上場を維持することと同じくらいに、企業風土の改革も大切なのでしょう。
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コメント
上場維持=会社を守る、という発想自体がなんかやっぱり、という気がします。
上場維持=株主を守る、というのが本当のところではないでしょうか?
(いまさら東芝株を保有している株主をどこまで守るのかって気もしますけど、大口の機関投資家なら一気に売れない事情もあるかもしれない)
上場廃止になっても取締役が株主代表訴訟で被る損害はどれぐらいなのでしょうか?
上場廃止になっても、営業は継続できますし、直ちに経営破たんするのでしょうか(経営破たんするしないでは銀行の支援がより重要だと思います)。
7日に限らず徹底的に社内調査をやったらいいと思います。
投稿: katsu | 2015年9月 2日 (水) 08時42分
上の者、最高責任者が責任をとって辞める。ただ辞めるだけではなく「私にすべて責任があります。私が部下に出した指示、判断が間違っておりました。部下には何ら罪はありません」と言って、完全にその組織から身を引く……
そういうことさえ出来ない国になっちゃってるような気がします。公も民も。下の者を尻尾切りする。責任を取るにしても、「私は悪くないんだけど、まあ誰かが責任を取らないといけないので辞めます」的な辞め方をする。それじゃあ、ケジメにも何にもならないですよ。逃げただけでしょう。責任を取るべきトップが逃亡し、本当に誰が悪かったのか、何に問題があったのかハッキリしないから、下っ端役員や部長や課長が責任の押し付け合いをしている(現在進行形)…それが、東芝の現状であり、例えば某五輪組織委員会の現状でしょう。
「犯人捜しなどしている暇はない」というようなことを言いすぎているように思います。みんなが悪い、などということはないのだから。それは巧妙な責任隠しです。そこがナアナアのままでは、企業風土の刷新など望むべくもないと思います。
投稿: 機野 | 2015年9月 2日 (水) 16時40分