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2015年9月10日 (木)

東芝事件-株主代表訴訟と役員の責任調査委員会設置の必要性

東芝の不正会計事件について、大阪の「株主の権利弁護団」の方々が早々と動かれたようです(原告は奈良県在住の60歳の男性株主・・・とありますので、よく提訴されている方でしょうか)。毎日新聞ニュースによりますと、10億円の損害賠償請求を歴代役員28名に対して求めるよう、東芝さんの監査委員宛てに「提訴請求書」を送付された、とのこと。なお、この28名の中に監査委員である取締役さんや会計監査人さんが含まれているかどうかは不明です。

ちなみに、東芝さんは9月30日に臨時株主総会を開くそうなので、そこで監査委員会を構成する取締役は全員社外取締役になります。提訴請求に対する回答期限は提訴請求を受領してから60日ということなので、会社として歴代28名の役員に対して損害賠償請求訴訟を提起するかどうかは、この新しく構成された監査委員会によって実質的な審議がなされるものと思われます(就任早々、社外取締役の皆様は試練ですね)。

ところで気になる点がひとつあります。東芝さんのような指名委員会等設置会社の場合、訴訟を提起するかどうかは(監査役会設置会社とは異なり)監査委員会における組織的な判断によって決定されます。そこでもし提訴妥当と判断した場合には、監査委員会で選定した監査委員が会社を代表して歴代役員に対して訴訟を提起することになります。しかし株主代表訴訟の被告となる社長さんがそのままボードに残っている状況では、取締役会の構成員である監査委員の方々が、提訴の可否を中立公正に判断できるとは思えません(そもそも、そのような緊張関係を抱えたままでは「攻めのガバナンス」など到底期待できないでしょう)。原告株主さんへの不提訴理由通知の内容にも、あまり期待がもてないような気がします。しかし、だからといってこのまま原告株主からの提訴請求を放置して株主代表訴訟の提起を待つ、という姿勢で本当に大丈夫なのでしょうか。

たとえばオリンパス事件の際には、第三者委員会報告書では歴代の取締役の法的責任が判断され、また監査役等責任調査委員会報告書では監査役及び会計監査人の法的責任が判断されましたので、同社の監査役さんは、これに依拠して会社を代表して元取締役、元監査役の方々に訴訟を提起しました(平成24年のオリンパス社のリリースはこちら)。しかし今回の東芝さんの事件では、そもそも第三者委員会報告書は当事者の法的責任の判断には及んでおらず、ましてや株主代表訴訟の対象となる監査委員会の取締役や会計監査人の責任問題などはまったく触れられていません。不祥事によって経営トップが一掃されたオリンパス事件ですら、上記のような報告書がそろっていたのですから、経営トップが残っている東芝事件においてはなおさら中立な第三者による責任調査が求められると思います。

このような状況において、新しく監査委員に就任される方を中心に、ご自身で提訴請求に対応することは至難の業であり、また先に述べたように構造的に提訴することが期待できない状況にあるので、東芝さんとしては可及的速やかに第三者による「取締役等の責任調査委員会」を立ち上げたほうが無難ではないでしょうか。いやむしろ監査委員会の職務として60日間で訴訟提起の必要性に関する判断を下すためには、現在の監査委員の方々が、せめてそのような委員会を立ち上げなければ善管注意義務違反(取締役の不作為による違法状態を是正する義務の不履行)に問われる可能性も出てくるのではないかと思いますが、いかがなものでしょうか。

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コメント

 利益相反を考えると、どういった対応になるか、注目ですね。
また、監査委員会の調査(これこそ、第三者委員会のような会社法上の根拠がないものではなく、会社法上の調査として重要と思います。)は提訴請求に対応しなければならないですが、とても時間が足らないでしょう。また、今回の第三者委員会のメンバーと違った、監査委員会が指名する弁護士・会計士による調査の報告を受けて監査委員会が提訴・不提訴を決定するのですが、どうなるのでしょうか。

投稿: Kazu | 2015年9月14日 (月) 12時00分

予想が的中しちゃいましたね。というか、これしか方法がないと思います。

投稿: toshi | 2015年9月18日 (金) 22時59分

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