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2015年9月24日 (木)

変わるか?-最高裁の金融商品リスクへの評価アプローチ

VW(フォルクスワーゲン)社の排ガス偽装事件の影響はものすごいですね。この先、同社はどうなっていくのでしょうか?しかし4年前に日本でも起きた いすず自動車さんの件と、このVW社の件はどれほどの違いがあるのでしょうかね?また時間があるときにでも調べてみたいと思います。

さて、連休でしたのでニュースとしては若干前のものになりますが、9月19日の産経新聞ニュースにおいて、最高裁の司法研修所が、複雑化するデリバティブ(金融派生商品)の仕組みやリスクに関する研究に乗り出した、と報じられています。最高裁は、早ければ来年中にも研究報告をまとめる見通しとのこと(産経新聞ニュースはこちらです)。

つい先日、ある金融機関の企画課の方と、某研究会終了後に金融商品のリスク評価に関する話をしておりました。金融機関内においてデリバティブ商品を企画する方々は、金融工学に基づいてリスクを数値化し、商品を企画するわけですが、コンプライアンス担当部署の方々のリスクというのは、全く別物とのこと。つまり訴訟対応が重要であるため「こんなリスクがあります」「元本割れはこんな場合に生じます」といった、金融機関側がきちんと説明責任を尽くしたと裁判所で認定されるためのリスク概念が尊重されるそうです。商品購入者が、損を承知で購入し、自己の相場観をもって損をしたのであれば、それは自己責任として甘んじなければならない、ということになります。同じ金融機関の中でも部署が異なるとリスク概念も異なるというわけです。

裁判に登場する「金融商品のリスク」の考え方は、「当事者が被る不利益」と捉えられ、説明責任というのも、「損失を被る可能性があることの説明責任」とみられる傾向があります。ただ、これはおかしいのではないか、ということで最新の現代消費者法28号84頁以下では、金融法務に詳しい鈴木英司弁護士が「金融商品の説明義務に関する新たな視点-金融商品のリスクとは何か-」と題する論稿を出しておられます。元銀行マンでいらっしゃる鈴木弁護士は裁判所が採用するリスク観を(一般的な用語に近い)「主観的リスク論」、そして金融市場取引で用いられる(期待収益率と対比して用いられるバラツキ-分散としての)リスク観を「客観的リスク論」として「現在の最高裁の考え方(主観的リスク論)は間違っている」と主張されています。この論稿は、むずかしい金融商品のリスクを一般の方にもわかりやすい形で説明がなされており、とても勉強になります。

仕組債を勧誘した証券会社の従業員の説明責任が争われた東京地裁平成24年11月12日判決(判例時報2188号75頁以下)などは、この客観的リスク論を採用して原告勝訴の判断となりました。ちなみに同判決では、金融機関側の説明義務の内容として、オプション取引における金融工学上のリスク評価の基礎となる確率統計の方法や債券購入代金として預託する元本額が損失負担のリスクの大きさを実質的に担保する目的で定められていること等を明確にしています(そもそも、そのような説明がわからない方に販売すること自体、適合性原則違反ということになろうかと-ちなみに、本訴訟の原告は東証一部上場会社の社長だった方で、過失相殺がされています)。その後も同様の判決が相次ぎましたが、同種裁判の最高裁判決(平成25年3月)が、やはり主観的リスク論に立脚した判断を行ったために、その後は再び主観的リスク論に立った下級審判決が増えているそうです。

金融商品のリスクというものが、抽象的で投資家にとって主観的なもの(いわば相場観によるもの)ではなく、リスクは客観的で事前説明可能なものといった認識が共有されなければ、おそらく裁判における原告・被告間の議論はかみ合わないものと考えられますし、そもそも金融商品の健全な市場が形成されないのでは、と危惧します。販売対象となる金融商品に適合する相手方に対して、その自己責任を真に問いうるための情報の非対称性解消のための説明を行うことが消費者法として求められるのであれば、司法も鈴木弁護士がおっしゃるように、金融商品のリスク観についてきちんと理解を深める必要があるのではないかと思います。消費者契約法改正論議が進む中、最高裁が金融商品のリスクについて研究を開始したということは、(本件で取り上げた問題だけではないと思いますが)消費者契約への配慮によるものとして、今後も注目しておきたいと思います。

9月 24, 2015 商事系 |

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コメント

山口 先生

この記事に取り上げていただきました鈴木です。
適切なご紹介・解説ありがとうございます。
この件に限らず、このブログについては、今後とも参考にさせて頂きます。

投稿: 鈴木英司 | 2015年10月 6日 (火) 10時12分

鈴木先生、こちらこそ何の予告もなく引用させていただきましてありがとうございます。先生のブログも存じ上げておりますが、いきなりリンクをつけるのはご迷惑かと思いまして自重いたしました(笑)。先生の見解はとても関心をもっておりますので、また勉強させてください。

投稿: toshi | 2015年10月 7日 (水) 00時31分

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