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2015年9月28日 (月)

不正調査のむずかしさを痛感するVWの排ガス偽装事件

まだ全容は判明していないVW(フォルクスワーゲン)社の排ガス偽装事件ですが、最新の社内調査によると、①2007年ころから、偽装に用いられたソフトは「あくまでも社内テスト用であり、実車で活用すれば違法」とのボッシュ社の警告書がVW社に届いていたことや、②2011年には社内技術者が不正の存在を指摘していたことなどが判明した、と報じられています。また、2013年ころには、実はEU当局も不正の存在に気づいていた、といった報道もなされています。ではどうしてこれまで社内調査では不正は発見できなかったのか、どうしてEUはVW社の不正について声を上げなかったのか・・・と新たな疑問も出てきます。VW社が利益を出し続けているかぎり、自分たちも恩恵を受けるのだから、ということで「おかしい」とは知りつつも「不正だ」と手を挙げることはしなかった方々もいらっしゃるのではないでしょうか(世界最大の巨額詐欺事件バーナード・マドフ事件と同様の構図?)

こういった不正が明るみになると、「こんな人たちが、不正を指摘していた」といった報道が次から次へと出ることは、企業不祥事報道では毎度のことですね(アメリカの大学の検証結果が「おかしい」と指摘した、という報道もありますね)。問題は誰が手を挙げて「おかしい」と公表するかということであり、その勇気を持っていたのが、今回は米国環境局(EPA)だったということでしょうか。そのあたりについて、ロイターのこちらの記事によって、かなり不正発見の経緯が見えてきたように思われます。アメリカの大学による調査が不正発覚の発端となったことは事実ですが、それでもVW側は「偽装ではなく、制御装置のミスだ」と強く反論し、リコール対応で逃れようとしていたようです。しかし8月下旬にはVW社幹部が自ら不正を認めたそうです。

そして、最終的にVW側が自ら不正を認めざるをえなかった要因は、米国当局による執拗な調査だったようです。上記のロイター記事から、その部分を抜粋しますと、

・・・・・事態の打開につながったのは、車のコンピューターシステムに保存されていた診断データを調べたときだった。

ヤング氏は「いくつか非常に不思議な異常を発見した」と言う。「例えば、通常とは逆に、車は温まった状態よりも冷えた状態での方がクリーンに作動していた。普通は温まったときに汚染制御システムも最善に働く。だが、この車は違った。明らかに何か違うことが起きていた。われわれは時間をかけて、彼らが合理的な説明ができないほどに十分な証拠と疑問を集めた」と同氏は説明する。

とのこと。この報道内容は不正調査の典型例を示したものです。つまり「普通ならAという事実が生じるとBという結果が生じるはずである。しかし目の前に生じた結果はCである。これはおかしいのではないか?」という推論を積み重ねて、相手の反証を封じ込める、というものです。企業不正では、目の前にいきなり「不正事実」が明らかになることはありません(不正事実など、内部通報や内部告発がなければ容易には判明しません)。強制調査権を持たない者が、企業の不正を調査するにあたっては、この推論を繰り返して最終的には対象者が不正を認めざるを得ない状況を作ることに腐心します。だからこそ、不正調査はビジネスモデルを理解しておかなければ実効性は高まることはありませんし、たとえば会計不正事件などは、経理や会計監査に携わった経験がなければ「普通ならA→B」がわからないので不正発見は困難なのです。

2011年にはVW社内において内部者による情報提供があったようなので、今後は経営トップがいつから不正に関与していたのか、組織ぐるみの不正と判断できるのかどうかに焦点があたるように思われます。しかし、これだけ大きな不祥事が、「企業不祥事」と世間で認知されるに至ったポイントはどこにあったのか、「バカなことを言うな!おまえ、自分が何を言っているのかわかっているのか?」と反論されることを承知のうえで、「これは不祥事だ」と世間に公言する勇気は一体誰が持っていたのか、そのとき、どんな証拠を持って公言したのか、というところを知ることはとても重要だと考えます。自動車工学には疎いので、私が事件の全容を理解することは困難かもしれませんが、本件を他山の石として不正リスクを理解するためには、本件が「企業不祥事」と認知されるに至った経緯だけは丁寧に辿っておきたいと思う次第です。

9月 28, 2015 企業不祥事を考える |

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コメント

米国の報道を見ているとやはりVWが「Intentionally(故意に)」車に組み込まれているソフトを検査時にいい数値が出るように細工をしていたことが今回の一番大きな争点になっているようです。

今回は組み込まれている電子データである「ソフトウェア」を検証すると一発で動かぬ証拠がでてくるので経営側も迅速に不正を認めたといわざるを得ません。

・・・となってくると、そのソフトを開発した企業が果たしてVWだけにそのソフトを納品していたのか、他の自動車メーカーにも同様のソフトを納入していないかどうか、調査が待たれます。


投稿: 和田 | 2015年9月28日 (月) 11時42分

コメントありがとうございます。やや論点はずれますが、米国の大学の不正発見の道具となったのは堀場製作所製の機器だそうですね。こんなところにも日本の技術が使われていると知って、少しうれしくなりました。

投稿: toshi | 2015年10月 7日 (水) 00時35分

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