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2015年10月17日 (土)

企業価値向上を邪魔しない監査等委員会設置会社の条件-後編

最新号の旬刊商事法務(10月1日、15日合併号)の座談会記事(2015年株主総会にみえる運営実務の変化と今後の課題-上)の中で、監査等委員会設置会社へ移行した会社の総会実務について議論がなされていまして、たいへん興味深く読ませていただきました。その座談会において、総会運営の現状に詳しいM信託銀行の証券代行グループ長の方が、

「(移行前)まで監査役だった方のうち、監査等委員会設置会社への移行をきっかけにお辞めになったのは弁護士がかなり多い」

「経営評価のような重い職責は担いきれないということで、お辞めになった方は、監査役と監査等委員の違いに対する十分な認識のもとに降りられていらっしゃるという状況があります」

と発言されていらっしゃいます(20頁)。

私も、昨年出版しました「ビジネス法務の部屋からみた会社法改正のグレーゾーン」の中で、取締役会における審議が、もはや満場一致の時代ではなくなったということへの経営者の覚悟がなければ(監査等委員には)就任できない、と書きました(同書143頁)。この機関形態に潜む法的なリスクを考えるのであれば、ビジネス法務に精通した法律家が「監査役ならやるけれども監査等委員であればやらない」と考えるのは至極当然かと(法的リスクという言葉が過激だとすると、その法的リスクを回避するための「膨大な時間的負担の増大化」と役員報酬とのバランスといってもいいかと思います)。ましてやそれまで常勤監査役だった方が取締役常勤監査等委員に就任されず、非常勤の監査等委員や監査等委員会事務局長などに納まっている監査等委員会設置会社が多数出現している状況からするならば、とても怖くて監査等委員に就任できない方も出てくることは自然の流れかと思います。

ただ、私は監査等委員会設置会社について、決してネガティブキャンペーンを張っているわけではなく、この機関形態の性質をよく理解したうえでの移行は企業価値向上に資するものだと考えています。それは「長所を伸ばす」ための移行です。元々監査役会設置会社のもとで監査や経理、法務の重要性を理解されている社長さんもいらっしゃいます(監査や法務、経理、総務等の社員の方々の仕事ぶりをみていたり、そられの方々が責任者となっている社内行事への社長さんの参加状況などをみていると、なんとなくわかります)。そのような会社であれば、「重要業務執行の取締役への委任」に関する定款変更と相伴って、経営のスピードを上げ、経営の透明性を高める機関形態としては抜群のガバナンス機能を発揮できるのではないでしょうか。

しかし前編でご紹介したような統計資料を前提とすると、やはり後向きの対外的理由(社内改革をする気はないが、ガバナンス改革と言われて社外取締役を増やさないといけないので)、後向きの対内的理由(できるだけ監査費用を少なくすむように)をもって監査等委員会設置会社に移行した会社が多いように思われます。このような会社では、監査機能が低下して不正リスクが顕在化する、これまで(移行企業において)長所だったアドバイザリー型の取締役会の機能が低下する、ということにもなりかねないと思います。監査等委員会設置会社に移行した企業の8割から9割が「重要な業務執行の取締役への委任」に関する定款変更をしていますので、かりに今後そのような実務運用がなされた場合には、さらに企業価値を低下させてしまう懸念は大きくなるものと思います。

ただ、どのような事情によって監査等委員会設置会社に移行したにせよ、上場会社としては、一般株主のために(移行したことを)前向きに考えなければなりません。企業価値の向上いや、せめて企業価値向上を邪魔しない監査等委員会設置会社のガバナンスとしては、ひたすら取締役監査等委員の方々の頑張りにかかっていると考えます。そこで私が「せめて企業価値向上を邪魔しない監査等委員会設置会社の条件」(ご提案)としては、

①理屈の上ではやや問題があるとしても、任意の「指名委員会」「報酬委員会」を設置して、そこに取締役監査等委員が就任して「いやでも」社外役員が社内取締役の人事・報酬の決定過程に関与する

②内部監査部門と協働の上、企業グループにおける情報共有体制を整備して(具体的にどのような情報を共有するか、どの情報に優先順位があるか、そのような見直しをどの程度の頻度で行うかを実質的に社外役員を中心に検討して)、取締役会の開催頻度、付議(上程)案件、報告案件の柔軟化を図る

③定時株主総会の招集通知には、各取締役監査等委員がどのように報酬・人事に関与したのか、その概要を示すとともに、かならず選定された取締役監査等委員による報酬・人事に関する意見陳述の概要を記載する

④経理部門や財務部門、そして会計監査人と会計処理方針の是非について対等に議論できるような公認会計士の社外取締役監査等委員を必ず選任する、

というものであり、このような体制作りを監査等委員側から積極的に行うべきです。

④以外の提案については、いずれも費用を伴うものではなく、ただひたすら監査等委員会の環境整備を図るというものです。また③の提案については、そもそも「株主総会が取締役の人事・報酬に意見を表明できる機会を付与するための監査等委員による意見陳述」という建てつけからみて(会社法立案担当者による「一問一答-平成26年改正会社法」初版42頁参照)、この程度のことは施行規則等でルール化してもいいくらい当然のことかと考えています。決して企業価値向上に結び付くというものではありませんが、こういった内容は取締役監査等委員側から積極的に提案しなければ実現しないと思います。

取締役会に責任を負う指名委員会等設置会社の監査委員会とは異なり、監査等委員会は(身分保障が厚い分)取締役会との距離は遠いのです。ひとつ間違えると取締役会で手を挙げる立場にいながら重要な情報が入ってこなくなるリスクは高いのです。国策(ガバナンス改革)に協力することは良いことだとは思いますが、せめて経営トップの作為・不作為による暴走(リスクをとらないという経営トップを後押しするという意味も含めて)を社外取締役がチェックできる態勢だけは整えておかねばならないと考える次第です。

10月 17, 2015 監査等委員会設置会社 |

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