企業の反社疑惑は公正な調査と徹底した開示が必要である
プロ野球球団の投手が野球とばくに関わっていたとして、同球団はNPB(日本プロ野球機構)に申告した上で、調査委員会による社内調査を開始したことが(朝日、毎日等)新聞のスポーツ欄で詳しく報じられています。同球団の全ての選手への調査も開始されたとのことですが、内部通報によって判明したのではなく、賭博に関わっていた選手に対する「借金取り立て」によって判明した、ということですから(他の選手もやっているのでは?との風評を打ち消すためにも)やむをえないところだと考えます。「ジャイアンツはCSを辞退すべきである」といった意見が出てくるのも(私はその必要はないと考えていますが)、自浄能力の欠如で招いた反社疑惑が「組織ぐるみ」を想起されるからだと思われます。
プロ野球の世界だけでなく、上場会社等においても反社疑惑についてはもっとも自浄能力の発揮が求められる不祥事であり、「見つかってしまった」というのは組織にとっては致命的です。会計不正事件や性能偽装事件ならまだ覚悟できても、「反社会的勢力との接触」は、誰がみても、その組織の社会的信用を失う不祥事として一番隠したい事情ですよね(ちなみに上場会社であれば直ちに上場廃止基準に抵触します)。あの富士通さんの経営陣でさえ、堂々と隠してしまって東証さんから厳重注意を受けたのは記憶に新しいところかと。したがって「見つかってしまった」という自浄能力の欠如事案では、「知っていながら隠していた」「他にも存在する」といった社会的評価を受けてしまいます。
以前、当ブログでも紹介いたしましたが、反社疑惑への対応としてベストプラクティスだったのは大阪ガスさんの3年前の野球とばく事件への危機対応です。社内から「野球部員が賭博をしている」との通報があり、これを受けた本社は2週間の社内調査で36名の社員の不正を特定、速やかに社内処分を行い、社会に公表しました。さらに公正な調査を行ったことを示すために、調査書類をすべて大阪府警に提出しています(後に、残念ながら数名の社員は書類送検)。この1年ほど前、大阪ガスさんは重要子会社の幹部社員が多額の資金流用事件を起こしましたが、この件については(社員個人の不正であり組織としては関与していないとして)公表していません(当時の産経新聞が取り上げただけです)。これほど反社疑惑事件の危機対応は厳格なものが要求される、ということです。
この「反社疑惑」への危機対応でもっともむずかしいのが公表の要否です。皆さんが上場会社の経営者だったら、「反社会的勢力との関与」というのを、どの時点で公表されますでしょうか?社内調査で確実に関与の事実が認められた時点でしょうか、それとも「関与の疑惑」が証拠によって認められた時点でしょうか。関与の事実は認められても「反社」というところに疑問が残る場合はどうでしょうか。それとも「墓場まで持っていく」覚悟で、バレないことに賭けますか?おそらく諸事情(心のバイアスも含めて)によって関与の事実が認められた時点までは公表しないのではないでしょうか。いや、公表しない自分を正当化させる理由をいくつも考えて、自分の決断は正しいと思い込みたいはずです(たぶん私も同じ衝動にかられると思います)。自身の主観的判断からすれば、おそらく永遠に「関与が認められた」との判断には至らないと思います。
しかし世間は「関与が認められた」場合だけでなく、ある法人が「関与の噂がある」というだけで、その法人はブラック企業だと断定して信用は毀損されます。合理的な根拠によって関与の疑惑が認められた時点で公表しない法人が、その後何らかのきっかけで疑惑企業であることが明るみになった場合、もはや「ブラックであることを隠している」とほぼ断定され、疑惑の時点で自主公表しなかったことが企業の損害として認定されるおそれがあります。何度か過去に同様の危機対応に関与しましたが、私の失敗体験からみても、冷静なリスク判断により、調査や開示に伴う人権保障手続きを含めたデュープロセスのもとで、すみやかな公表を怠らないことが適切かと思います。適切な公表だけが「黒い交際は社員個人の問題」と社会的に認知されるための切り札であり、「組織のすべてが真っ黒」と評価されないための唯一の手段です。
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