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2015年10月 5日 (月)

東芝事件は不正リスク対応基準改訂の契機となるか?

9月末に、東芝さんの臨時株主総会が終了しましたので、東芝さんの会計不正事件も経営陣の法的責任問題、監査法人さんの監査の適正性に関する問題等、次のステージに入ります。10月3日の毎日新聞朝刊では、「不正会計問題、問われる責任 監査法人の指針策定を」と題するCPAAOB(公認会計士・監査審査会)千代田邦夫会長のインタビュー記事が掲載されていました。監査法人さんへの調査はまだ始まったばかりとのことで、コメントは何も述べておられないのですが、今後は監査法人さんの行動原則を定めたコード(指針)を策定することもひとつの方策だと述べておられます。

英国コードを模範とした監査法人向けの指針の策定は、当ブログでも書きましたが、今年1月の日経ヴェリタスにおける前CPAAOB事務局長のインタビュー記事でも「すでに検討している」とされていたので、このたびの東芝不正事件を契機に・・・というわけでもないように思われます。ひょっとすると上記千代田会長のコメントは、東芝事件を契機に検討のスピードが高まっている、といった趣旨なのかもしれません。ただ、この監査法人向けの指針というものは平成27事務年度の金融行政方針でも重点項目とされている「監査法人の品質向上」を目標(公益の番人たる監査法人の役割向上)としたものではないでしょうか。CPAAOBや日本公認会計士協会による監査法人検査や審査に資するものとして策定されるのではないかと。

むしろ今回の東芝事件を受けて検討すべきは2年前に施行された「監査における不正リスク対応基準」の見直しだと考えます。たしか同基準は会計監査に「より厳しいレベル」を求めたものではなく、従前からまじめな会計士さんが履行していた不正対応の監査の内容を明らかにしたものにすぎない、と(とりわけ監査法人サイドから)確認されてきました。したがって今回の東芝さんの件に関する基準適用においても、(基準施行後である前々期以降と限定することなく)すべての決算訂正時期について、この不正リスク監査基準によって監査の適正性を判断すべきだと思います。

これは野次馬の私見にすぎませんが、①とくに職業的懐疑心を発揮すべき「重要な虚偽表示の存在を示唆する状況」というのは、今回の東芝さんの件については認められるのか、認められるとするとどのような点を指すのか、②その状況が特定できた場合に、その虚偽表示(もしくはその虚偽表示の重要性)を打ち消すために監査人が収集した証拠は「心証形成に必要なほど相当程度収集した」と言えるのか、③証拠の収集や重要性判断において、監査委員会とは十分な連携を図ったのか、④たとえ未修正でも虚偽表示を認識した時点で現場の監査責任者と監査法人の審査部門とのコミュニケーションは十分だったのか、⑤有事監査を前提とした追加報酬に関する交渉はどのくらい行ったのか、といった点にはたいへん興味があります。

また、SELL-BUY取引が事業上の合理性に乏しく、実質的に循環取引に該当するのであれば、たとえば日立さんやシャープさんの同種取引の慣行との比較、取引相手方企業の監査担当者との意見交換等、もし不正リスク対応基準が改訂され、監査人間の意見交換が(守秘義務の解除特例として)容易になった場合には同種不正事件を防止できたのかどうか、といった点にも関心が向きます。「抜き打ち検査」というものがさらに基準で明確にされた場合にどうなるか…という点も同様です。

いずれにしても、このたびのCPAAOBの担当監査法人さんへの調査の結果、「やっぱり監査法人による監査の限界事例だ」として「おとがめなし」となれば、(社会的に見れば「監査の失敗」事例となるわけですから)なんらかの(監査における)不正発見機能を向上させるための施策が講じられることは間違いないと思います。それが監査法人向けコードの策定なのか、不正リスク対応基準の改訂なのかはわかりませんが、東芝事件の次のステージにおいて、監督官庁が監査法人に対してどのような施策を打ち出すのか、それは担当監査法人への調査結果と行政的措置が明確になってからの問題だと推測いたします。

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