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2015年10月20日 (火)

企業不祥事は内部統制では防げないというけれど(それでも構築には意義がある)

東芝さんの事件、東洋ゴム工業さんの事件、そして横浜のマンション工事データ偽装事件など、大きな企業不祥事が発覚するたびに「内部統制が機能しなかった」「内部統制では不祥事は防げない」と有識者の方々がおっしゃいます。どの企業でも「経営管理」のための内部統制はある程度機能しているはずですが、不正リスク管理という視点では、たしかに不正の未然防止や早期発見のための内部統制、という意味からすると、このような不祥事発覚事例からみて「内部統制は機能しなかった」と指摘されてもやむをえないのかもしれません。しかし、だからといって「では企業は不正リスク管理のために内部統制を整備してもムダ、費用だおれ」というものでもないのです。

たとえば本日(10月19日)の日経朝刊「法務インサイド」ではオリンパス社の中国における贈賄事件への対応が紹介されていました(当ブログのこちらのエントリーでも以前に紹介している件ですね)。オリンパス社の中国におけるFCPA疑惑等、米国当局に積極的に自主申告をすることによって摘発リスクは減少するわけで、「内部統制をきちんと整備し、これを運用していた」という事実がペナルティの回避もしくは最小化につながることになります。「一次不祥事」は残念ながら防止できないとしても、マスコミが喜ぶ(?)「二次不祥事」(不祥事を隠す、放置する、証拠を隠滅する)を未然に防止することに役立つはずです。

また、産経新聞のこちらの記事でも報じられていましたが、公正取引委員会による課徴金処分の裁量化が検討されているようですが、来年春に施行予定の平成26年の二度目の景表法改正などとともに、今後は裁量性の課徴金制度が導入される機運が高まっています。行政調査への協力の度合い等によって行政処分が軽減されるのであり、これも結果的には未然防止にはつながらなくても、内部統制を適切に整備・運用していたことが企業の不正リスクの低減につながります。住友電工さんのカルテルに関する株主代表訴訟などをみても、役員が不正リスク最小化のための努力を怠った場合の責任追及は、今後厳しくなることが予想されます。

また、これは危機対応の専門家でなければ体感できないことではありますが、現実に「内部統制が機能した」ことが不正の未然防止や早期発見に役立った事例はたくさんあります(拙著「不正リスク管理・危機対応」でも既に書いたことですが・・・)。ただ、そのような会社は「こうやってうまくいったから不祥事を防げた、早期に発見した」といった事例を公表しないのがあたりまえなので、成功例が表に出ないだけだと思われます。ちなみに20日午前1時半の日経ニュース記事では(横浜のマンション事件との関係で)建設工事会社の役員の話として、データ偽装は他でも行われており、またかなり多くの関係者が知るところだと述べておられます。一次下請会社がデータ偽装に気づいた場合には、くい打ちのやり直しを依頼してきたこともあるようです。

もちろん整備するだけでなく、適切に運用していなければ意味がないことは言うまでもありません。当ブログではもう何度も同じようなことを書いていますが、不正リスク対応という目的から企業が内部統制システムを構築する意義は、未然防止、早期発見のほかに、危機管理という意味でも十分な意義があることを忘れてはいけないと考えます。

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