Mファンド元代表による相場操縦事件とスチュワードシップ・コード
旧村上ファンドの元代表の方による相場操縦強制調査事件が報じられています。相場操縦の中でも、もっとも頻繁に行われているとされる金商法159条2項1号の変動操作に関する調査対象事件です。また金融庁の平成27事務年度の重点政策項目である「市場の健全性確保」を実現するためには、相場操縦事件の摘発は喫緊の課題であるわけですが、不公正取引規制は正に刑事法と行政手続法、そして金融商品取引法の知見が求められる領域なので、おそらくマスコミの方々がこの話題をフォローすることは至難の業ではないかと(ある程度の支配力をもった人が株式の売買を行えば相場が変動するのは当たり前なので、どこまでが「適法な取引」で、どこからが「違法な取引」なのか、その線引きは「取引誘因目的」という主観的要件の有無にかかっていて非常に難しいわけです)。
とりわけ調査当局の報じるところをそのままマスコミが「垂れ流し」てしまいますと、機関投資家をはじめとした「モノ言う株主」の姿勢を委縮させてしまい、スチュワードシップ・コード、コーポレートガバナンス・コードを基本とした「株主との対話」に悪影響を及ぼすことになる可能性もありそうです。いくらスチュワードシップ・コードの存在(中長期の企業価値向上を目指した対話)を強調したとしても、株主にとって短期的売買が悪いわけではなく、上場会社の事業戦略、成長戦略に積極的に意見を述べることも必要かと思われます。不公正取引規制のポイントは一般投資家が市場に寄り付かなくなるような「トンデモ取引」を排除しようとするものなので、金融庁や検察庁としては「これはアカンやろ」と投資家が思えるようなメルクマールを明確に打ち出して立件する必要があるのではないでしょうか。
11月26日夜の日テレニュースでは「M元代表が、取引時間が終わる直前に大量の株を安く売って株価を引き下げる、『終値関与』と呼ばれる手口などで相場操縦をしていたとみられることがわかった。M元代表は株価を下げた後、時間外取引などで買い戻し、値上がり後に売り抜けていたとみられている。」と報じていました。このあたりは、(リーディングケースである平成6年の協同飼料事件最高裁決定の前に出されたものになりますが)証券取引審議会不公正取引特別部会中間報告書「相場操縦的行為禁止規定等の在り方の検討について」(商事法務1275号35頁以下)等で、相場を変動させるべき取引に該当するか否かは、一日のうち、もっとも重要な時間帯である終値付近での関与状況も判断要素になりうるとされているので、当局の持つ解釈指針に従って、その他の判断要素も総合考慮したうえで「取引誘因目的」という主観的要件を立証していくものと思われます。一般投資家を取引に誘因するためには特殊な手口を複雑に活用することになるでしょうから、そういった一連の手口が経済的に合理性のあるものとして説明がつくのかどうかが焦点になるのでしょうね。
私個人としては紅白初出場のレベッカと同じくらい(?)、経済刑法ネタは大好きなのですが、当ブログで一番アクセス数が少ない傾向にあるのがインサイダー規制や不公正取引規制に関するエントリーです。金商法ネタで唯一アクセスが集中するのは有価証券報告書の虚偽記載事件ネタだけですね。ちょっと寂しいですが、本日のエントリーも、RSSリーダーでタイトルだけをチェックしてスルーされている方が多いと思います(>_<)。しかし(エントリーとは全く関係ありませんが)NOKKOを紅白で視ることができるというのは50代のオッサンには涙モノです。
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コメント
山口先生。
ご無沙汰しておりました。
レベッカのコメントがあり、ついこちらもコメントしたくなりました。
私もレベツカ出場の知らせを聞いて、感激しております。
初めて紅白歌合戦を観て「泣くかもしれない」と思いました。
楽曲は「フレンズ」ですかね?
投稿: 小嶌正史 | 2015年11月27日 (金) 09時41分
小嶌さん、そこはベストテン的な「フレンズ」と「ラズベリードリーム」になってしまうのは(紅白の性格上)しかたないでしょう。でも私はそれでも良いのです。できれば往年の振り付けでNOKKOに歌っていただければ・・・
投稿: toshi | 2015年11月27日 (金) 17時23分
トッちゃん坊やのイナゴ焼畑資本主義と
スチュワードシップ・コードの在り方とは
似て非なるものなので、行政当局の基本姿勢は
全く揺るがす必要は無いものと思います。
日本の資本市場・国民経済に迷惑をかけないで欲しいなぁ。
マネーゲームやりたければ、お好きなシンガポールなり
なんなり、余所でやって欲しいです。
ようやく、日本経済が人に優しい方向へ進みつつあるのになぁ。
投稿: snow_angel | 2015年11月28日 (土) 20時56分