適時開示義務違反は東芝だけの問題ではない
会計不正事件に揺れる東芝さんが、原子力事業子会社の米国ウェスチングハウス社の過年度決算の減損損失について内訳を明らかにした、と報じられています。東芝さんも、東証さんからの「適時開示義務違反」を指摘されたことで開示に至ったことをHPで明らかにしています。
子会社等における「発生事実」については、有価証券上場規程403条および同上場規程施行規則402条(軽微基準)において、上場会社による適示開示が求められています。とりわけ子会社が保有する重要資産の減損損失については「災害に起因する損害又は業務遂行の過程で生じた損害」(規定403条2号a)に該当し、連結純資産額の100分の3に相当する額以上の損害と認められる場合には「軽微基準」が適用されませんので、開示すべき損害にあたります(同規則402条1号)。東芝さんは、この上場ルールに抵触するものと東証さんから指摘を受けて、しぶしぶ(?)内訳を開示したものと思われます。
東芝さんの理屈としては、「ついうっかり開示義務違反をしてしまった」というものではなく、一応の理由がありそうです。この適時開示義務が発生する減損損失は、ウェスチングハウス社のグループ全体もしくは原子力事業部門全体からみて(つまりグルーピングの上で)判断すべきであり、そこで損失は出ていない。したがってウェスチングハウス単体の公正価値判定による減損を開示しなくても投資家に重大な影響を及ぼすものではない、つまり適時開示に関する上場ルールには抵触しない、といった判断があったようです。これはこれで東芝さんの理屈としては、(文言解釈はさておき)ルールの趣旨からすれば合理性がありそうです。
しかし東芝さんの理屈は、原子力施設の販売は不振であったとしても、既存施設の保守管理によって儲けが出ているのだから順調ではないか、というものですが、売るべき「ハコ」が売れない中で、保守管理で儲けを出したとしても先細りの懸念は払しょくできないのではないでしょうか。投資家が関心を寄せるのは、ウェスチングハウスの将来的な企業価値であり、そこで求められる情報は、どの単体事業が順調で、どの事業が不振かという内訳です(そうでなければ投資家が将来予測を立てることが困難です)。そう考えますと、やはり上場規程の文言に忠実に、適時開示すべきは単体事業を中心に軽微基準の該当性を認識することが当然のようにも思えます。
こういったことは何も東芝さんに限られるものではなく、そもそも適時開示という制度は経営者と会社との利益相反問題の一つだと言えそうです。どうしても経営者は自分たちにとって都合のよいルール解釈をしてしまいます。昨年出版しました「不正リスク管理、危機対応-経営戦略に活かすリスクマネジメント」(有斐閣)でも述べた通り、会計処理が絡む適時開示の判断については経営判断類似の原則が適用されるものではなく、できるだけ保守的な対応が求められるのではないかと。東芝さんとしては、とくに悪気があってやったわけではないのかもしれませんが、それでも明確な法令違反行為があったこと、徹底して「開示に消極的」だったことが、今後の裁判等において不利益な事情のひとつとして根拠つけられることは十分にありうるものと考えます。
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コメント
ウエスチングハウスの減損、あるいは東芝自体の原子力部門の減損は、3.11を受けた後の2012年3月期のどこかでやってしまえば良かったのでしょうね、結果論としては。あのときにやっていれば、「東芝は将来を見据えてウエスチングハウスを買収したが、運悪く、その直後のタイミングで東日本大震災が起きて、原発建設への一時的(あるいは長期的?)停滞が生じたから減損をしたけれども、経営者の経営判断自体は間違っていなかったのだ」といった言い訳や、アナリストの分析になったと思います。つまり外部環境に責任を持っていけるときに減損などはやってしまうことで、会社のダメージを少なくすることもできると思います。もちろん社内の力学などに影響するのかもしれませんが。とはいえ、「あの時にやっておけば、こうだったのに」といった議論ができること自体が、現在の会計制度が見積りに依拠した制度になっていて客観性がないという証左でもあります。東日本大震災の直後に原発建設の停滞がいつまで続くかなんて、会社自体も監査法人も判断付きません。神のみぞ知る世界で決算組んで、それを監査して・・・という不可思議な世界だともいえると思います。
投稿: ひろ | 2015年11月18日 (水) 08時33分