« 東芝会計不正事件-不提訴理由通知書の内容は如何に? | トップページ | 東芝会計不正事件-鬼よりコワい「内部告発」? »

2015年11月10日 (火)

東芝役員責任判定委員会報告書-鬼より怖い「社長月例」?

昨日のエントリーでご紹介したとおり、東芝さんは元CEO、元CFO5名を相手に損害賠償を求める訴訟を提起しましたが、その根拠とされる「役員責任調査委員会報告書」がリリースされました(関係者が特定される部分はマスキング処理されています)。委員3名、弁護士、会計士、フォレンジック担当者等委員補助者総勢20名ほどの委員会が、極めて短時間で事実調査、意見形成を行ったもので、たいへん興味深い内容です(単に第三者委員会報告書で認定された事実をなぞる、ということではなく、一生懸命新たな事実認定のための調査を行っておられるようです)。私の意見が新聞等でもコメントとして掲載されているようですが、一応誤解のないように以下、私見を述べます。

責任調査の対象者は98名ということですが、「関与者」は十数名に絞られ、結局のところ、法令違反が認められた者(善管注意義務違反が認められた者)は合計5名ということで、現社長を含め、提訴された5名の方以外には善管注意義務違反は認められないとの結論に至っています。昨日のエントリーで予想していたような「善管注意義務違反が疑われる者」という認定も全くされていません(すいません、予想がはずれました・・・)。つまりシロとクロがはっきりと判断された、ということのようです。

法的判定において留意すべき点は、東芝さんは委員会設置会社(現在の指名委員会等設置会社)の機関形態ということです。委員会設置会社において不適切な会計処理が行われた場合、取締役と執行役と分けて「善管注意義務」の中身を整理することが役員の責任判定の前提となります。

実際に不適切な会計処理を実行していたのは(法律上は)各カンパニーの社長さん(執行役)ですが、この各カンパニーの社長さん達には公正なる会計慣行に基づいて会計処理を行うべき義務(善管注意義務)が認められます。ただ、いずれのカンパニーの社長さんにも「一定の注意義務を尽くしたと認められる」として、この義務違反は否定されています。会計処理が不適切であることは認識していたのですが、「社長月例」で本部の社長さん方から厳しくチャレンジの指令が出ていたことから、到底逆らえなかった、自ら本部の指示に従わないという選択肢はなかったということのようです(一応抵抗してみたものの、聞き入れられなかった、という事実認定もあります)。

この判断が裁判所で通る理屈かどうかはわかりません。大企業の社長さん方は、東芝の社長さん方に(「これくらい発破をかけることは社長として当然では?」といった)かなりシンパシーを感じておられる中で(9月12日毎日新聞朝刊アンケート結果参照)、「チャレンジ」の号令の下で、不適切な会計処理を具体的に実行した各カンパニーの社長さん方の責任が免除されるかどうかは微妙だと思います。執行役といえども、法令を遵守した業務執行を行う必要があることは当然であり、鬼より怖い歴代社長さん方の前で「適法行為の期待可能性がなかった」とまでは言えないのではないでしょうか。ここは今後も問題が残るような気がします。

もうひとつ、現社長を含め、多くの取締役が調査対象者とされたわけですが、取締役会議事録等をみるかぎり、提訴された5名以外の取締役さんが「取締役会において」不適切な会計処理が行われていることを認識する可能性に乏しかったとされ、取締役としての監視・監督義務違反は認められないとされています(多くの取締役さんは、自身が会計処理の担当者ではないので、適切な会計処理を行うべき善管注意義務についてはとくに問題にはなりません)。また、歴代のCFO経験者以外の取締役さんには、そのような認識可能性がないので、内部統制構築義務違反も認められないとされています。

たしかに東芝本部の取締役会における付議事項、報告事項はルール化されており、議事録を丁寧に調査したうえで「議題には上がっていなかった」とされたようです。しかし、議事録だけは他の取締役の方々の「会計不正に対する認識可能性」の有無を断定することは困難であり、こちらも(フォレンジック調査の範囲はわかりませんが)短時間での調査には限界があったものと思います。実際、第三者委員会報告書によると、会社側と監査法人側において、会計処理方針に食い違いが生じていたのですから、少なくとも監査委員である取締役の方々は問題意識を共有していたのではないかとの疑念も残ります。今後は裁判等で十分な審議を尽くすことで、他の取締役の方々の「不適切な会計処理」に関する認識可能性が判断されることになると思います。

つまりこの責任調査委員会報告書は、現取締役の方々の積極的な意味で(旧役員)5名に対する提訴義務を明らかにしたものであり、それ以外の取締役の方々の法的責任を積極的に否定したものとまではいえないように考えます(それはこの責任調査委員会の時間的制約による限界かと)。もちろんこれは私の個人的な意見でありますが、要するに東芝さんの会計不正事件は、誰も逆らうことができない偉大な経営者の主導によって行われたものであり、その指示も、社外役員が存在する取締役会のような場ではなく、「社長月例会」のようなクローズドな場所で下されていたということが本報告書の底流にありそうです。

11月 10, 2015 商事系 |

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/104680/62647370

この記事へのトラックバック一覧です: 東芝役員責任判定委員会報告書-鬼より怖い「社長月例」?:

コメント

仮に
>その指示も、社外役員が存在する取締役会のような場ではなく、「社長月例会」のようなクローズドな場所で下されていた
ことがあったとしたら、内部統制上ではどのように察知すべきなのでしょうか。
そのようなことがないことの証明は、悪魔の証明となるでしょうし。
非公式な場として、社内規程ないし運用で議事録を残さないような仕組みにされるとお手上げでしょうか(私的備忘録などは残るのでしょうが)。

投稿: 博多ぽんこつラーメン | 2015年11月10日 (火) 01時36分

従業員100人のオーナー企業ならいざ知らず、社長に適正化を上奏してNOだったから執行役クラスであっても法的責任の追及は困難、という理屈はいかがなものでしょう。
財務責任者(CFO)2名を除き、社長を監督・牽制できなくてもお構いなし、という結論も、会社の機関設計をあまりに軽視しているように感じます。
これらが今後の企業実務の判断基準にならないことを祈るしかありません。
経営に直接関与する立場であれば、職を辞する覚悟で問題を表面化させる程度の遵法性と職業倫理が求められるのではないでしょうか。
企業では少し前まで、「逆明利君」という言葉が本社スタッフの教育に使われていました。
報告書からは、コーポレートの会計・財務が「社長の傭兵」となっていた印象を強く受けました。
トップクラスの優秀な方々が何故、社畜同然になってしまったのか、社長の威圧のひと言では納得できません。
法律家が中心の法的責任追及はそれとして進めるにしても、東芝さんには、経営組織マネジメントの失敗の観点から、組織行動として背景や原因を分析・公表してもらいたいですね。
それが本当の社会的責任だと思います。

投稿: ゴリちゃん | 2015年11月10日 (火) 09時53分

少なくとも日本では会議って「手続き」なわけです。話し合いや討論の場ではない。
(根回しというものは、別に日本固有のものではなくどこの国にでもあるようですが)予め上層部の内諾を得て事前に関係者の間で調整して物事を決めておいて、それで重役レベルの会議、そして取締役会という流れになります。このことに是も非もありません。会社ってそうやって動いているものです。

いくら手続きを厳正にしたところで、それよりも前段階で決められた不正を完全に見抜くことなんて、不可能です。そんな方法、ありません。事後、数字という形になった段階で、会計士や不正検査士によってどこまでチェックできるか。そこの精度を上げていくぐらいしか、やれることはありません。そして、罰金や課徴金の金額を上げて、検査や監査によって大規模不正が発覚した場合は、当該企業の資産の大半を没収する。

制度をいくらいじったところで、不正がこの世から消えたりはしません。不正がなくせる、大きく減らせると考えていることにこそ、その誤解にこそ、問題があるように思います。

制度に問題がある、と考えるのは、もうやめにしませんか。

投稿: 機野 | 2015年11月12日 (木) 14時59分

皆様コメントありがとうございます。しかし東芝事件、えらいことになってきました。このあと、監督官庁がどう動くのか、目が離せません。

投稿: toshi | 2015年11月20日 (金) 02時08分

コメントを書く