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2015年11月 3日 (火)

モノ言う監査役さんを支援する重要判例-昭和HD監査費用請求事件高裁判決

本日発刊の判例時報2015年11月1日号(2268号)に、監査役さん(監査委員会、監査等委員会の取締役さんも含む)にとって重要な判例が紹介されています。当エントリーでも2009年にご紹介した昭和ホールディングス(旧昭和ゴム)さんの支配権争いに関連する事件ですね。株主から提訴請求を受けた監査役(社外監査役)さんが、自ら会社を代表して経営陣の善管注意義務違反を主張して損害賠償請求訴訟を提起した事例に関連する裁判です。

6年前のエントリーでも述べているとおり、支配権争いの内実は複雑なので、ここでも触れませんが、要は監査役さんが(会社を代表して)社長さんを訴えた訴訟は二つあり、ひとつは勝訴、ひとつは敗訴したというものです。今回判例時報で紹介されている判例は、この二つの裁判ではありません。この訴訟提起に要した監査費用(625万円)について、監査役さんは立て替えていたそうで、その費用を会社側に会社法388条に基づいて償還請求しました。すると会社側は「原告は、監査役の職務として取締役を訴えたものではなく、(大株主と組んで?)会社の経営を混乱に陥れる目的で提訴したのだから払う必要はない」と抗弁。結論としては、横浜地裁の一審、東京高裁の控訴審とも監査役さんの費用償還請求が認められ、判例時報ではこの控訴審判決が紹介されています(なお、原審地裁判決も全文掲載されています)。

監査役によって支出された費用が監査のために必要なものだったか否かが争われた事案についての判例は、これまで公表されたものが見当たらないようで、判例時報の論評でも「本判決は貴重な先例として参考となる」と解説されています。

会社側は「監査役の提訴は監査権限の濫用であり、会社法388条の『監査役の職務執行に必要でない』費用に該当する」と主張しました。しかし裁判所は、監査役による費用償還を定める法388条には、株主代表訴訟の提訴とは異なり(法847条1項ただし書き)目的要件が定められていないこと、監査役にとって取締役への提訴は重要な善管注意義務履行の一環であることから、およそ「いやがらせ目的」といったことが明らかなほどの権利濫用が認められないかぎり(つまり会社側が不当目的による提訴と立証できないかぎり)、監査役の職務執行に必要でない費用とは認められない、と判示しています。判決理由には掲げられていませんが、監査役が取締役の違法行為差止請求権を行使するにあたり、仮処分命令を申し立てる場合には担保は不要とする会社法385条2項の趣旨なども参考になるのかもしれません。

ご参考までに

(費用等の請求)
第388条 監査役がその職務の執行について監査役設置会社(監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある株式会社を含む。)に対して次に掲げる請求をしたときは、当該監査役設置会社は、当該請求に係る費用又は債務が当該監査役の職務の執行に必要でないことを証明した場合を除き、これを拒むことができない。
1 費用の前払の請求
2 支出した費用及び支出の日以後におけるその利息の償還の請求
3 負担した債務の債権者に対する弁済(当該債務が弁済期にない場合にあっては、相当の担保の提供)の請求

今年施行された改正会社法施行規則100条3項6号でも、取締役会が決議すべき内部統制システムの基本方針の一つとして「監査役の職務の執行について生ずる費用の前払い又は償還の手続きその他の当該職務の執行について生ずる費用又は債務の処理に係る方針に関する事項」が規定されました。監査費用の償還に関する会社法388条の趣旨を明確にして、監査役が職務執行に消極的にならないための規定です。(平成24年の判決ということでやや古めですが)今回公表された判決は、この施行規則の趣旨をさらに明確にするものであり、監査役さんとしては、たとえ取締役を訴えて敗訴の可能性があるとしても、訴訟を提起することに合理性があるのであれば、積極的に訴えることが求められている(会社の利益につながる)、ということかと。

いや、むしろ取締役の善管注意義務違反が疑われる事態において、監査役さんが何もしないということについて、監査役さん自身の善管注意義務違反が認められやすくなるのかもしれません。株主から(監査役に対して)提訴請求がなされた場合などは要注意ですね。ただ、この監査費用の償還に関する裁判は、あくまでも「訴訟費用」の償還が争われたものであり、弁護士費用は含まれていないということです(ちなみに、弁護士報酬は6000万円を超えていたのですね・・・(^^; こちらも諸事情あってのことかとは思いますが、実際に報酬がいくら支払われたのかはわかりません・・・)。もし弁護士報酬が「監査費用」の一部として償還請求された場合には、おそらく「相当な額」を裁判所が認定をして、会社側に支払いを命じることになろうかと思われます(ダスキン株主代表訴訟の判決確定を受けて、原告株主代理人に対する会社の報酬支払金額が争われた例が参考になりそうですね)。

11月 3, 2015 監査役の理想と現実 |

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コメント

裁判では、トライアイズの件がありましたね。最終的には和解で終結したようですが。

投稿: Kazu | 2015年11月 4日 (水) 12時25分

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