« 監査法人が課徴金処分を下された場合の監査役会による再任拒否 | トップページ | 内部通報・内部告発が暴くのは組織ぐるみの不正である »

2015年12月25日 (金)

2016年、光があたる企業法務の話題とは?

25日が仕事納め・・・という方もいらっしゃるようなので、年末恒例のエントリーでございます。昨年の年末(12月29日)のエントリーにて、「2015年は『市場の番人・公益の番人』に光があたる年になる」と予想しておりましたが、最後になって大きな監査法人さんの行政処分が日経新聞の一面で報じられるに至り、見事的中(?)となりました。「第三者委員会の在り方」などにも関心が寄せられましたが、まだまだこの「市場の番人論」は来年以降も注目されるものと思います。

さて、来年(新たに)光があたる企業法務の話題をひとつ挙げるとすれば「社外役員の支援体制」ですね。 「攻めのガバナンス」「企業不祥事とガバナンスは関係ない」「不祥事にガバナンスは機能しない」「なんといっても社外役員候補者は現役経営者・経営者OBが最適」といった意見がかなり強くなってきました。意見が正しいのかどうかは論じませんが、コーポレートガバナンスに関する上記のような意見が強くなってきますと、「攻め」も「守り」もなにか問題が生じたときには「社外取締役の期待ギャップ」が問われることになるわけです。おそらくこれから社外役員、とくに社外取締役に就任される方々の役割には、投資家や消費者からの要求レベルが相当に上がるだろうな・・・と感じています。ガバナンス・コードにも「上場会社は(費用をかけてでも)取締役・監査役の支援体制を整備すべき(原則4-13)」「その役割を全うするためトレーニングを積むべき(原則4-14)」といったことも要請されています。

「官製ガバナンス論」がさらに加速する中で、制度対応として「形だけは統治機構を整えた」上場企業さんが実際には多いように思います(私などは、「自社の企業価値を高めるためには社外取締役など邪魔だ!」と堂々と公表する会社が増えることを期待しているのですが・・・)。攻めの議論においても、また守りの議論においても、社外取締役さんに向けられた期待は非常に高いようですが、次期社長を決める手続きや個々の社内取締役さんの報酬を決める手続き、中長期企業価値向上を図るためのインセンティブ報酬体系の策定手続きなどにどれだけの社外取締役さんが本気で関わるのかは未知数です。しかし、今後は「当然に関与している」と世間的には認識されるのではないでしょうか。この「期待ギャップ」を埋めるためにも、社外役員の方々への(自己研さんの支援を含む)支援体制は喫緊の課題です。

たとえば監査等委員会設置会社においては監査等委員による(監査等委員以外の取締役の)人事・報酬への関与が法律上要求されているにもかかわらず、指名委員会や報酬委員会を任意で設置している会社は極端に少ないですね(移行もしくは移行を表明した上場会社300社中15社くらいでしょうか)。冗談抜きで、監査等委員会における社外取締役を支援する体制をどのように作るのか、機関投資家に説明できるようにしておかないとマズイのではないかと思います。また、今年高裁判決の出たサントリーホールディングス損害賠償請求事件のように、通報を受け付けた社員が「パワハラに加担した」として被告になってしまう時代ともなりますと、「社外役員が内部通報の窓口になることも検討すべき」とガバナンス・コードで要望される中で、社外取締役の訴訟リスクも高まることになろうかと思います。これをガバナンスの問題とみるかどうかは識者次第ですが、リスク管理の面でも支援体制は不可欠かと。

今朝(12月24日)の日経新聞の社説では「監査法人はなれ合い排し虚偽を見抜け」としてCFE(公認不正検査士)の存在も紹介されていました。私にはありがたい話ですが、これも社外役員の支援体制として話題になりつつあります。ただしCFEの一人として、また資格団体であるACFEの理事として申し上げると、監査法人さんや不正検査の専門家だけががんばっても(ビジネスモデルを熟知していない以上)不正を見抜くのは困難です。実際、今回行政処分を受けた監査法人さんには、とても優秀な会計不正の調査専門組織があります。また東芝さんの(旧)経営監査部にも優秀な不正検査の資格をお持ちの方がいらっしゃるそうです。しかし残念ながら不正を見抜けたとは言えません。

日本企業がスピード経営と効率経営を最優先せざるをえない以上、経理や監査部門はITシステムの中で統合され、優秀な社員がコモディティ化しています。以前のように「ミスター経理」と呼ばれるような、自社の経理の全体像を熟知している社員が激減しているように感じます。つまり優秀な経理社員が経理システムのパーツしか担当していないのです。したがって我々が経理社員の方々にヒアリングをしても経理処理の全体像は把握できず会計不正の端緒は容易には探れません。また、監査法人や社内の監査部門が「疑惑」を知ったとしても、四半期決算実務が優先されるなかで、「疑惑」を深堀りする時間的余裕もないのが現実です。

本当に「虚偽を見抜け」と監査法人に期待されるのであれば、会社側も「見抜ける」ように協働する体制を整備する必要があるわけで、これは中期経営計画や年度計画において数字目標だけでなく、その数字目標を達成するための具体的な道筋を取締役会で議論することが最低限求められると考えます。そうです、昨年拙著でも述べているように「攻めのガバナンス」の実効性を上げることがそのまま不正防止にも役立つことになるはずです(そのことによって、法律に詳しくない社外取締役の方々でも、会計不正の「違和感」をようやく抱けるようになると思います)。社外役員の支援体制が整備され、このような「違和感」が伝えられることにより、公認不正検査士の役割が機能することになります。会計不正を見抜くというスゴ技は、監査側と会社側の協働作業があって初めて発揮できる、ということを忘れてはならないと思います。

さて、本年のエントリーはこれが最後となります。今年も多くの皆様に拙ブログをお読みいただき、ありがとうございました。今年は日本年金機構の情報漏えい事件、某会計不正事件等、いくつかの重大事件の危機対応に関与できて、とても充実していました(まだ現在進行形の事件もありますが)。そのためにブログの更新回数はかなり減りましたが、来年もできる範囲で更新したいと思いますので、どうかよろしくお願いいたします。では皆様、良い年末年始をお過ごしください<m(__)m>。

|

« 監査法人が課徴金処分を下された場合の監査役会による再任拒否 | トップページ | 内部通報・内部告発が暴くのは組織ぐるみの不正である »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 2016年、光があたる企業法務の話題とは?:

« 監査法人が課徴金処分を下された場合の監査役会による再任拒否 | トップページ | 内部通報・内部告発が暴くのは組織ぐるみの不正である »