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2015年12月14日 (月)

日産・ルノー連合vs仏政府-相互保有株式の議決権行使をめぐる攻防

平成26年改正会社法が国会で成立した際、衆参両議院において概ね以下のような附帯決議がなされています(会社法附則25条参考)。

政府は、この法律の施行後二年を経過した場合において、社外取締役の選任状況その他の社会経済情勢の変化等を勘案し、企業統治に係る制度の在り方について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて、社外取締役を置くことの義務付け等所要の措置を講ずるものとする。

社外取締役の義務化を含め、コーポレートガバナンスに関わる会社法関連法規について「所要の措置を講ずる」べきかどうか、企業統治に係る制度の在り方を検討する会議がいよいよ来年早々から開始されるようですね。最近の会社法改正では、法制審議会における審議開始前の「研究会」での意見がとても重要な役割を担っているので、研究会の検討課題については注目しておきたいところです。(ということで?)本日は会社法関連の話題を一つ。

日産自動車がフランス政府との間で経営不介入の合意を得たということが大きく報じられています。ルノーと日産の経営統合を強く望んていたフランス政府を相手に、日産自動車さんが経営の独立性をギリギリのところで守ったということは、日本人としては素直に喜ばしいことです。ルノー側の投資家の方々は失望したのかもしれませんが、日産の従業員の方々、海外の機関投資家の方々はホッとされたのではないでしょうか。

相互保有株式に関する議決権制限規定(会社法308条)が日産の最後の切り札として威力を発揮したことは間違いないと思います。日産はルノー株式をすでに15%保有していますので、日本の会社法によると更に10%程度買い増せば(もちろん市場を混乱させるリスクはありますが)ルノーが日産に対して保有する43%の株式の議決権は行使できなくなります。会社法施行規則67条によって、たとえフランスの法律で既に保有している株式の議決権が制限されていても、相互保有の算定株式数に加算できることになっています。

この会社法308条は会社の自己保有株式の議決権制限と同様、現経営陣が株主総会における議決権行使に影響を及ぼすことにより(相手方とのなれ合いによる議決権行使のおそれがあります)、他の株主による公正な議決権行使が妨げられることを防止するために設けられた規定です。相手方(株主)に対して一定の支配力を有している場合には、その相手方の保有株式の議決権行使を禁じるというもの。そうであれば、相手方が意に沿わないような議決権行使が予想される場合(つまり現経営陣の影響力が相手方に及ばない場合)にも、この会社法308条がそのまま適用されるのかどうか、やや疑問を感じるところもあります。しかし、308条、施行規則67条1項には何らの例外規定もないので、おそらく条文のとおり議決権行使が禁止されることになるのでしょうね。

さて、こういった経営不介入の合意によって日産は「経営の独立性を守る」という実益を得たことになりますが、一方のフランス政府は合意によってどのような実益を得たのでしょうか。新聞報道からはよくわかりません。ルノーを逆転するほどに向上した日産の資産価値を一方的に取り込もうとしただけ、というものでもないように思います。

もしかすると日産が本気であと10%の株式を取得することによってルノーの43%の日産株式の議決権行使が制限されることを阻止しただけでなく、日産が本気で新株の発行(募集株式の発行等)に動くことも警戒したのではないでしょうか。増資によってルノーの日産に対する保有株式割合が40%以下になりますと、日産のルノーに対する保有株式の議決権が復活します。つまり日産の経営に(40%の議決権によって)介入することができず、逆にルノーの経営に対して日産が(大株主として)介入できることになります。そうなると、今後日産の株主によってフランス政府が懸念する国内の労働政策などに影響を及ぼすことも可能となります。

10年前、米国のペプシコ社が(フランスの)ダノン社の買収に乗り出しているとの噂が流れた際、フランス政府はダノンが買収されると、フランスの農業政策がアメリカ企業によって「筒抜けになってしまう」として、徹底した拒絶反応を示しました。今回の日産の場合にも、日産が本気でルノーとの関係を変動させた場合に、逆にフランスの労働政策に影響を及ぼされるという点について拒絶反応を示したのではないかと。フランスとしては、自国の政策への不当な干渉を日産の株主から守ったというのが「実益」ということになるのかもしれません(ルノーの戦略的決定についてのみフランスは保有株式の2倍の議決権行使を行うことを日産が容認した、とあるのも、そのような趣旨かと。あくまでも私の推測なので、間違っていましたら後で訂正いたします・・・)。ともかく、このようなグローバルな企業紛争において日本の会社法の規定が「切り札」になったということで、私的にはたいへん関心の高い法務ネタになりました。

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