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2015年12月 7日 (月)

誠実な技術者の「誇り」が「驕り」に変わるときとは?-血液製剤偽造事件

すでに報じられているように、血液製剤の分野で国内シェアのおよそ3割を占める熊本市の製薬会社「化血研」さん(化学及血清療法研究所)が、国の承認を受けずに「ヘパリン」という血液を固まりにくくする成分を添加するなど、12種類の血液製剤について、国が認めた内容とは異なる方法で製造していたことが判明しました。しかも第三者委員会報告書によると、不正は40年間も続いていたそうです。ところで、化血研さんのHPはずっと閲覧不可の状態になっています。

「心が痛む」として社員から厚労省に対して内部告発があったことが不正発覚の端緒だそうで(朝日新聞ニュースはこちらです)、厚労省もいろいろと内部告発の放置問題で揺れておりましたので(?)、今回は「抜き打ち調査」などによって、かなり積極的に真剣に対応されたのかもしれません。驚くのは、「もうそろそろ内部告発があるかもしれない」ということで、化血研さんの内部では告発がなされたことを想定した対策をとっていた、とのこと(毎日新聞ニュースはこちらです)。東洋ゴムさんの免震ゴム偽装のときもそうでしたが、最近は内部告発リスクへの対策をとる企業も出てきました(もちろん、決して許されるものではありませんが・・・)。

さて、内部告発ネタとしても本件は参考になりますが、私がもっとも気になったのが、どうして厚労省のルールを無視して血液製剤を作り続けてきたのか、といった不正の動機の部分です。12月2日のNHK午後7時のニュースでは

(化血研の)第三者委員会は、「問題の根幹は『自分たちは専門家だ』とか『製造方法を改善しているのだから当局を少々ごまかしても大きな問題ではない』という、研究者のおごりだ」と厳しく指摘している

と報じられています。もうすでに過去のエントリーでも紹介していますが、私が過去に性能偽装事件の危機対応に関与した案件でも、技術者の方々の同じような言い訳を聞きました。A社は当局の外郭団体(安全技術協会)に「チャンピョン品」と隠語で呼ばれる「テストを一発で通すためだけに作られて製品」を持ち込んで試験をクリアしていたというものですが、A社技術担当社員には社長から厳しいミッション(販売時期を遅らせないように、かならずテストは一発で通せ)が課せられていたため、工場ぐるみで偽装を行っていました。A社で長年性能偽装が続いていた理由としては、「我々はトップメーカーであり、お客様のために、最終出荷時の安全基準は世界一である。たとえレベルの低い当局の性能テストを偽装したとしても、最終出荷のテストをクリアすれば何ら問題はない」というものでした。またA社と監督官庁との長年の「持ちつもたれつ」の関係からか、安全協会の検査ルールについては、安全協会側にも落ち度があり、A社としては「お互いさま」といった感覚もあったようです。

たしかに頭の冷えている平時の感覚であれば「そんなのは技術者の驕りであり、不正を正当化できる理由にはならない」と誰でもわかります。しかし、経営者からのミッションや同業他社とのし烈な販売競争、行政との長年の(悪い意味での)信頼関係の醸成といったことが重なりますと、技術者の有事感覚としては、化血研のような発想になっても不思議ではないかもしれません。たしかに国から承認を受けている方法とは異なる方法で血液製剤を製造していたとしても、それは「国の承認しているものよりも、さらに安全性を高めるための改善の結果であり、また製造効率を高めて少しでも多くの患者さんに喜んでもらえるのであれば、偽装などたいした問題ではない」と考えることも(有事の感覚としては)十分ありえるように思います。

誠実な企業であればあるほど、技術者の方々は自社技術に誇りを持つのが当然でありますが、その誇りが、社内・社外の経営環境の中でいつしか「驕り」に変わっていくというのが真実ではないかと。しかも客観的にみても、化血研さんのワクチンがどうしても必要なので、「客観的にみて、この程度のことで我々の仕事はなくなるわけではない、とりあえず医療の場を混乱させたことは謝罪するが、再発防止に取り組んでまいります、といえば済む問題だ」といった認識が社内でも社外でも通用するのではないでしょうか。40年間も不正を続けていたのはけしからん!と批判するのは正道ですが、しかしただ批判しただけでは不正の芽を摘むことはできないと考えます。さて、この業界におけるコンプライアンス問題の捉え方を理解するには、化血研さんに対する今後の厚労省さんの対応が非常に興味深いところです。

12月 7, 2015 企業不祥事を考える |

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コメント

最近の品質不祥事に連なる2年前の事案ですが、2017/12/20 日経メディカルWEBに「化血研事件にみる日本の行政規制」というタイトルの医師と弁護士両方の資格を持つ先生の論稿が掲載されております。
「むしろ、最終製品の抜き打ち定期チェックのようなシステムを導入してみてはどうか、とも考えます。少なくとも、微に入り細に入り「安全」の名の下に役人のためのペーパーワークを増やすだけのシステムは、そろそろ全部やめてはいかがでしょうか。ペーパーワークだけの規制強化の流れが医療に及んでくることを恐れます。」

投稿: たか | 2017年12月22日 (金) 08時19分

たかさん、いつも有益な情報ありがとうございます。WEB情報なので正月休みに読んでみようと思います。医療における安全性確保は監査にしても内部統制にしても最重要課題であり、今後も行政規制の在り方が問われ続けることになりますね。今後ともご教示のほどよろしくお願いいたします。

投稿: toshi | 2017年12月29日 (金) 20時17分

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