JR北海道・ノバルティス-刑事罰は企業の構造的欠陥に光をあてるか
(平日にはなかなかブログを更新する時間がとれませんので、週末アップとなりましたが・・・・・)今年5月に出版されました「会社法罰則の検証」(山田泰弘・伊東研祐編 日本評論社 2015 5,200円+税)の第4編第2章の執筆を担当させていただき、「コンプライアンス時代の刑事罰適用の道」と題するテーマでノバルティスファーマ社のデータ改ざん事件、そしてJR北海道のデータ改ざん事件を取り上げました。ちょうど今週、偶然にもこの二つの事件に動きがありました。
ひとつは薬事法違反(虚偽誇大広告)の公訴事実で社員および法人が起訴されたノバルティスファーマ社の事件です。東京地裁において第1回公判が行われ、個人法人とも無罪を主張されているそうです(たとえば中日新聞ニュースはこちら)。第三者委員会報告でも「本件では薬事法違反に問うのはむずかしいのではないか」とされていますが、上記の私の論文(259頁以下)では「立件できるかどうかは慎重な判断を要することになるが」、これまで前例のない薬事法違反という刑事罰適用を、本件で積極的に検討することを評価しています。
また、もうひとつはJR北海道のデータ改ざん事件です。上記の論文で、私は(JR北海道のデータ偽装については)組織のどこに問題があったのか、事実を解明するためには刑事処分を活用する以外に方法はない、とこれも積極的に評価しました(同259頁~260頁)。新聞等が報じるところによると、虚偽報告を行った者、法人としてのJR北海道のほかに、「虚偽報告を黙認した幹部」も書類送検の対象とされているそうです(たとえば毎日新聞ニュースはこちらです)。こちらも鉄道事業法を刑事立件に適用するのは(起訴されるとすれば)初めてのことだそうです。おそらく鉄道事業法55条1項、同70条15号、とりわけ法人処罰については運輸安全委員会設置法18条2項、同32条、同33条が根拠規定だと思われます。
企業不祥事において、近時は「自浄能力」を発揮させるために第三者委員会が設置されるケースが多いのですが、その調査能力には限界があり、とりわけ国民の生命身体の安全を確保するため、もしくは国策として、当該業界の信用を確保するためには組織の構造的欠陥を解明することが強く求められる場合もあると考えます。たとえばノバルティスの事件では、組織としての構造的な欠陥が明らかにならなければ、日本の製薬業界の世界的信用が回復されないわけで、そのためにも国が動く必要があると思われます。また、重大な脱線事故の再発につながるおそれのある組織的な問題については、国民の安全を守るために事後規制によって厳格な処分が必要と思われますので、「虚偽報告を行った社員」でけでなく、「虚偽報告がなされることを見て見ぬふりをした社員」に対しても刑事処分が検討される、ということになります。
もちろんJR北海道の場合は「書類送検」の段階なので、立件の可否は今後の課題となりますが、企業不祥事が発生した場合、その時点における(企業に向けられた)社会の目を勘案しながら「できるかぎりの自浄能力の発揮」に努める必要があり、これを怠ると事後規制の厳罰が待っているものと認識しておくべきです。企業の構造的欠陥に対して薬事法違反、鉄道事業法違反といった、これまで適用してこなかった法律で、しかも両罰規定を用いて対応するのが規制緩和が進む時代の事後規制の在り方(国家による企業不祥事への対応)だと肝に銘じておく必要があります。
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