監査法人が課徴金処分を下された場合の監査役会による再任拒否
halcome2005さんがコメントで述べておられるとおり、平成26年改正会社法との関係で、監査役さん方にとって悩ましい課題に直面することになりましたね。もうすでにネット上では話題になっていますが、東芝さんの監査を担当しておられる新日本有限責任監査法人さんに、今回の会計不正事件との関係で金融庁による行政処分が発出される可能性が高まってきたそうです。ちなみにその「可能性」はCPAAOBによる12月15日付け勧告書に盛り込まれた監査法人の運営上の不備事由から推察されます。
担当公認会計士ではなく、「監査法人に不当証明があった、品質管理に問題があった、審査業務を怠っていた」として法人自体に処分が下されるとなりますと、現在新日本監査法人さんと監査契約を結んでいる会社は(監査法人との)監査契約を解消する必要があるのではないか?、不再任としなければ改正会社法で会計監査人の選任・解任権限を持つことになった監査役(会)としては善管注意義務違反に問われるのではないか?といった懸念が生じてきます。
まだ発出されたわけではないので(具体的な処分次第では)杞憂に終わることもありえますが、マスコミが報じるところによると業務改善命令の他に、課徴金、新規契約締結禁止命令等の行政処分が当該監査法人さんに発出されるとのこと(一応、これらの処分はワンセットで発出されることが想定されているようですね)。そこで、私なりには一応監査役もしくは監査役会としての対応について争点を整理したうえで、監査役会としての有事対処の方策を検討してみました(これはまさに監査役さん方にとっては「有事対応」のひとつです)。そこで、来年2月1日の大阪を皮切りにラストの東京まで、来年も日本監査役協会の「監査役の有事対応を考える」ための全国講演をさせていただきますので、そのときに(拙案を示しながら)詳細な対処方法を監査役の皆様方と一生懸命に考えてみたいと思います。もちろん、個別の案件に関する具体的な考え方を述べることはできませんので、今回の事件を契機に架空の事案を想定しての監査役の対応を検討する、というものです。
なお、行政処分のひとつとして「新規契約締結の禁止処分」も予想されていますが、会計監査人の再任はこの「新規契約締結」にはあたらないとの当局の考え方が示されています(過去における公認会計士・監査法人に対する懲戒処分等の考え方について」パブコメ回答参照)。また、金融庁設置法21条に基づく「監査法人の責任の在り方」と題する金融庁建議によれば、監査法人の社員の監査見逃し(不当証明)は監査法人自体の監査見逃し(不当証明)として取り扱われるべき、と理解されていますので、このあたりはすでに整理されているものと扱ってよいのではないかと。
最終的には会社法340条の解釈(とりわけ同条の制度趣旨の理解、同法1項2号の文言)、事業報告に記載された「選任・解任・不再任に関する監査役会としての方針」の解釈(どこの会社も抽象的な文言ですよね)、そしてコーポレートガバナンス・コード補充原則3-2①、3-2②あたりをどう活用するかが重要かもしれませんね。いずれにしても、ほとんどの上場会社がコンプライしているガバナンス・コード原則3が関係する以上は「ひな形」「マニュアル」に頼るわけにはいかないと思います。
| 固定リンク
コメント
課徴金納付命令に係る審判手続開始の決定がされましたね。これも大事件ですが、個人の公認会計士に、故意によるものでない(故意によるとは認定されていない)にもかかわらず、6か月の業務停止命令がでたのは、これまでになく厳しいような気がします。いずれにしても、上場廃止などのリスクがない以上、監査法人にしても、担当社員にしても、処分を争わなければ、民事責任追及訴訟ではかなり不利になるのではないでしょうか。
投稿: とおりすがり | 2015年12月22日 (火) 23時23分
金融庁から新日本監査法人への厳しい処分が出て一週間以上過ぎ、来年度からの各企業さんの監査人選解任の対応がどうなるか注目されるところだと思います。「会計士の監査ミス」以外にも「法人の運営が著しく不適切」だった事が処分理由である以上、運営に深く関与していた経営執行役員と呼ばれるメンバー(理事長を含め18人)全員が辞職・辞任する事から始めないと世間の理解は得られないと思います。
多分、現場の会計士達は、程度の差はあれ、誠実に真剣に職務に向き合っていたはずであり、それが組織全体の責任として×がついたのではやりきれない思いをしている人が大多数ではないでしょうか。監査法人の組織運営の責任者なる経営執行役員の総退陣がない限り新生新日本として再出発を果たしたという理解は得られないと思います。膿を全て出し切るべきです。
投稿: 会計太郎 | 2015年12月30日 (水) 23時21分