非業務執行役員の姿が見えないセーラー万年筆の社長解任劇
筆記具メーカーでおなじみのセーラー万年筆さん(東証2部)で社長解任劇(正確には「社長の解任および代表取締役の解職」です)が発生したそうで、毎日新聞ニュースによると、すでに解任された社長さんが東京地裁に地位確認を求める仮処分命令の申立てを行ったそうです。毎年、上場会社では社長解任劇は起きているのですが、「一身上の都合で辞任」といったリリースがほとんどのケースなので、紛争が表面化するのはひさしぶりです(日々東証の適時開示をていねいに読むと、「むむ!なんぞある!?」と疑問に感じる代取の異動開示が散見されます)。
12月14日にセーラー万年筆さんのHPで公表された「社長を解任した経過説明」を読むと、文章の前半と後半で「説明したいこと」の趣旨が異なります。これはリリース前日に前社長さんが「こんなのは不当な決議だ!法的請求も辞さない」と取材で述べたことへの対応だと思われます。
文章の前半では、「代表取締役を解職したことには正当な理由があります」という点が、会社側として説明したい内容になります。とくに理由がなくても「社長としての識見、人格、素養が欠ける」ということを理由に決議してしまえば解任(解職)の効力には影響はありません。しかし正当な理由がないと、会社は解任した相手方から民法上の委任契約の一方的解除、もしくは会社法339条2項の類推適用を根拠に(退任までに得られる報酬相当額の)損害賠償を要求されてしまいます。したがって「こんな経緯があってやむをえず我々取締役は社長を解任しました」と解任理由を述べることで解任された側からの賠償請求の根拠を否定しています。「俺が社長になってから業績は上がった」と反論する社長さんの気持ちもわからないではないのですが、それは解任の有効性を否定する根拠にはなりえません。
いっぽう重要なのは後半部分です。こちらは解任手続きをとった取締役会が定例の取締役会であったこと(→おそらく3日前までには招集手続きはなされていたので、正当な理由もなく開始30分前に社長が延期を宣言しても、それは正当な延期手続きではなく「病気等によって社長が出席できない場合」に該当するとの主張)、定足数を満たしていること(→社長は自身の解任議案については「特別利害関係人」に該当するので、とくに定足数が問題となることはないという主張)、法律専門家の意見(→適法であるとの意見をすでにもらっているという主張)などにより、解任手続きの有効性こそ説明したい内容になります。前社長さんは、仮の地位を定める仮処分の申し立てをされたそうですから、こちらの説明内容のほうが会社側にとっては重要かと思われます。
私のような野次馬弁護士が「どっちの言い分が正しい」などと意見を述べることは、背景事実もわかっていないのでやめておきます。ただ、ひとつ残念なのは、こういった有事にこそ立ち上がるべき非業務執行役員(監査役及び社外取締役)の活動が見えてこないことです。私はこういった事態にこそ監査役さんの意見表明があってもいいのではないかと思います。たとえば会社側リリースの中に、当日の定例取締役会に出席した3名の監査役全てが「この解任手続きには問題ない」と意見を表明しています、社外取締役が中立な立場で議長を務めました、といったリリースこそ、有事に求められる非業務執行役員としての正しい姿を反映したものではないでしょうか。
日経新聞ニュースでは、当日の定例取締役会に社外取締役さんは欠席されたと報じられています。ひょっとすると前社長さんの親しい方だったのでしょうか・・・。本当にご病気であったということならばやむをえませんが、こういったときこそ社外取締役さんが中立公正な立場でふるまわなければ、またまた世間から「何の役にも立たない社外取締役制度」と言われかねません。毅然とした社外役員の姿勢こそ、企業における有事対応として求められるところです。
しかしこの解任手続きを受けた方の「情熱社長」の記事を読むと、自身が入れ替えた取締役の方々から解任された、ということのようです。「成功の反対は失敗ではなく、なにもしないことだ」と述べておられますが、「なにもしないこと」を解任理由に掲げられてしまったのですね。うーーーん。。。
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