企業の不正リスク管理に必要な「日本再興戦略2015改訂」の理解
靴販売大手ABCマートさん(東証1部)及び同社役員の方々が、東京労働局より「違法残業」を理由に東京地検に書類送検されたことが報じられています(100時間残業といえばブラック企業として公表されてしまう基準ですね。たとえば読売新聞ニュースはこちら)。本日の同社リリースでは、1年前に同局から指摘を受けて、直ちに外部専門家とともに是正に乗り出し、現在は法令遵守に向けた内部統制システムをすでに構築している、と開示されています。
ABCマートさんの弁明によると、決してコンプライアンス問題を放置していたわけではないようで、本日の一連の報道には大きな不満を持っているそうです。しかし「ブラック企業」と揶揄されてしまう不正リスクが突如顕在化してしまったことは事実ですし、同社が急きょ「続編」リリースを出しておられる様子からしても、この時期の書類送検は予期されていなかったのではないでしょうか。
今年2月、トラック運転手の方々の長時間労働体制を放置していたとして、北海道の中堅運送会社さんが「一発業務停止」となり、業界を震撼させた例がありましたが(たとえばyahooニュースはこちら)、今回のABCマートさんの例も(上記読売新聞ニュースによると)4月に発足された労働局特別対策班による書類送検としては第一号だったようです。ちなみに長時間ドライバーを含め、労働時間の短縮促進の具体的施策は、6月30日に閣議決定された「『日本再興戦略』改訂2015-未来への投資・生産性革命-」でも喫緊のテーマとされています(たとえば「工程表」23頁)。政策が変われば行政の対応もまた変わります。
この改訂2015の本文や工程表を読みますと、企業の不正リスク管理の方策(優先順位の付け方)もなんとなく見えてきますね。不正リスクは「リスクの重大性×リスクの発生可能性」で測定することが一般的ですが、これまでリスクが顕在化したとしても、それほど重大とは受け止められなかったものが、時の政府の政策によって急に重大性が高まるということは十分に留意しておくべきです。まだざっとしか読めていませんが、「なるほど、今後はこのような方面で法令に違反した行動をとってしまうと、これまでは形式的なペナルティで済んでいたものが、重大な行政処分や刑事告発、または株主代表訴訟の端緒につながってしまうのか・・・」と理解できるポイントがいくつかありそうです(たとえば民間企業における情報漏えい対策の懈怠、といった問題はリスクが極めて高くなりそうです)。
もちろん業種・業態によって重大と判断されるリスクは異なりますが、日本再興戦略改定版をチェックして、不正リスクの「重大性」に影響を及ぼす施策を拾い出すことも、企業のリスク管理として必要な作業のように思えてきました。
PS
あっそうそう、不正リスク管理には政策の改訂だけでなく、行政人事の改訂(?)にも配慮が必要かもしれませんね。一昨年に拙著の書評を書いてくださったあの「金融庁のちょい○オヤジ」ことS審議官がこのたび証券取引等監視委員会の事務局長に異動されるようです(時事通信ニュース)。うーーーん、これは(ある意味で)スゴイ。。。ここだけの話ですが、上場会社のガバナンスにとても関心の高い方なので、とりわけ監査役の皆様、監査法人の皆様は要注意かもしれません。アメリカのように会計不正事件が発生した場合には、役員の業績連動報酬を会社に返還させる制度とか導入されることはないのでしょうかね(笑)S審議官のこれからのご活躍に期待しております。
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