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2016年1月29日 (金)

テレビ会議システムにみる消費者庁地方移転問題への危惧感

本日(1月28日)、公益通報者保護法の実効性検討委員会(消費者庁)の第7回会合が開催されまして、私も委員として出席しました。今回から「試運転」としてテレビ会議が導入され(マスコミの方がたくさんお見えになっていましたので、またニュース等でも報じられるかもしれませんが)、河野担当大臣もテレビ会議でご挨拶をされました。

本日の委員会では公益通報者保護法の要件・効果の改正に関する議論が白熱しておりまして、議論の内容はまた別途お話したいのですが、おそらく消費者庁の地方移転に伴って委員会や有識者会議で多用されるであろうテレビ会議について気になることを述べたいと思います(日弁連の意見とは全く関係ございませんので、あらかじめ申し添えます 笑)。なお、私も日弁連の委員会にはときどき大阪弁護士会館のテレビ会議室から参加しておりますし、某社の取締役会議長として、テレビ会議出席の取締役さんの発言意欲を高める工夫もしておりますので、ある程度はシステムについては存じ上げているつもりです。

今朝の日経新聞(4面)でも報じられているとおり、政治家の方々は省庁の地方移転に積極的であり、官僚の方々は静観している状況だと聞き及んでおります。ただ正直申し上げて、テレビ会議を活用した委員会運営はかなりむずかしいのではないでしょうか。もちろん、「テレビ会議には故障が多い」といった物理的な問題ではございません(産経ニュースでは こんな記事もありますが、とくに私が出席した会議の進行に物理的な支障はありませんでした)。私が「むずかしい」と危惧するのは「コミュニケーションツールとしてのテレビ会議」です。

公益通報者保護法実効性検討会議は、座長の目を見ながら必死で手を挙げないと(笑)、発言の機会が与えられないほど活発な議論が展開されています(本日、私は2時間で3回しか発言できませんでした・・・(^^; )。委員会に直接出席していてもそのような状況なので、カメラの前に座っている出席者におかれては相当な努力をしないと発言の機会は付与されないのではないかと。とくに座長さんは(あいつ、何度も手を挙げているな・・・)といった「場の空気」を読んで発言者を指名することが多いでしょうから、そのような「場の空気」を共有できないテレビの向こう側の委員は大きなハンディを背負うことになります。

また、「人は見た目が9割」とまでは申しませんが、コミュニケーションをはかるためには言葉だけではなく、発言者の表情や話し方の認知も重要かと。とくに消費者庁の委員会等は、それぞれ立場の違う方々が出席して議論を重ねるわけでして、情報を単に伝達するのではなく、他の委員や座長、当局関係者を説得しようと努力するわけです。そのような重要な説得の場において、話し方や表情等がわからない(少なくとも遠くてわかりづらい)テレビ会議はほとんど機能しないと思うのです。現にテレビに映って挨拶されていた河野大臣が、その後、委員会に直接お見えになって再度挨拶をされたのですが、額に汗して黒光りするニコニコ顔で話をされている大臣を目の前にすると「ああ、やっぱりこの方は本気で移転を考えてるんだ・・・」と感じました。

そして、なんといってもテレビ会議では(良い意味での)「場外バトル」がないということですね。立場の違う人が根回し(意見のすり合わせ)をしたり、場外で「誤解を正す」、言い過ぎたことの反省をする、といったことは絶対に必要です(会議時間には限りがあるのです)。本日の委員会終了後も、いろいろと委員会ではバトルがありますが、それぞれ意見のすり合わせや誤解部分を確認しあったりするための「談笑の時間」が委員数名ずつ集まって盛り上がっておりました。みなさん、公益通報者保護法をよりよくしたい・・・という気持ちは一緒なのですよ。しかしテレビ会議参加者にはこのような機会が付与されないのですよね。コミュニケーション不足がそのまま人間としての信頼関係の補修不足につながってしまわないかと心配になります。

有識者会議の運営方法くらいで省庁移転の是非など論じることなどナンセンス、とお叱りを受けるかもしれません。しかし、消費者庁は消費者の意見、有識者の意見を国政・行政に反映させることも重要な役割ではないかと思いますし、その消費者の意見を聴く重要な場である有識者会議がテレビ会議中心になる・・・というのは、かなり危機的状況ではないかと考えるところです。帰り際「あなた、テレビ会議システムのカメラの前にひとりぼっちでも、この会議に委員として参加したいですか?」と、委員おひとりおひとりにお尋ねしたい衝動にかられました。

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2016年1月27日 (水)

サプライチェーン・コンプライアンスと役員の法的責任の交錯点

横浜の傾斜マンション問題、壱番屋カレー廃棄食品の横流し事件等、サプライチェーン・コンプライアンスに関連する課題が世間を賑わせています。本日(1月26日)の朝日新聞朝刊でも、エアバック事故の件につき、タカタ社とホンダ社が事故原因及び補償負担割合に関する協議を始めたことが報じられていました。双方が別々の機関に事後原因調査を依頼していることから、仮に原因について異なる結果が出た場合には、この協議は難航することも予想されます。

エアバック事故については、巨額の負担割合にタカタ社が耐えられないとして自動車メーカーが救済措置を講じるべきとの意見もあるようですが、(新聞記事にもあるとおり)安易な救済措置はホンダ社の役員にとって株主代表訴訟リスクを背負うことになりかねません。BtoCの企業にとって、重大事故が発生した場合には「安心思想」に基づくコンプライアンス対応が求められる時代です。ともかく社会からの要請に適切に対応する姿勢を示します。しかしそれが、法的な負担割合を超えるものとなりますと、免責されるべき理屈が求められます。

横浜の傾斜マンション問題のケースでは、販売元が「安心思想」に基づいて(本来ならば法的義務とは言えない可能性のある)全棟建替えに応じる予定です。もちろん販売元は施工主やその下請会社に対して応分の費用負担を求めることになるでしょう。しかし、マンション傾斜の原因が十分に判明しないまま費用負担に応じることは、施工会社や下請業者にとって法的にも躊躇せざるをえないのではないでしょうか(全棟建替えを基本として負担割合を決めること自体、下請業者等の株主に説明責任が尽くせるのかどうかは微妙です)。

コンプライアンスという言葉が「法令順守」から「社会の要請への適切な対応」と訳される時代になればなるほど、役員がコンプライアンス対応を全うすることと法的な善管注意義務を尽くすこととの距離が遠ざかる場面が生じるように感じます。いや、本来は遠ざかってはいけないわけですから、法律家は「企業のレピュテーションを守ることも経営判断要素になる」ことを善管注意義務との関係で検討する必要があると思います。

具体的な場面としては、株主から提訴請求を受けた監査役さんが、取締役の善管注意義務違反が認められるにもかかわらず、会社の利益に配慮して提訴を控えることの是非を論じる、といったことが想定されます。偽装メニュー事件において、レシートを持参してこなかった被害者にも補償する、といったような自社完結のケースであればまだ説明しやすいのですが、とりわけサプライチェーンコンプライアンスのように、他社の不祥事や重大事故を自社としてどう扱うべきか・・・といった問題への対応はなかなかむずかしいですね。

M&Aがさかんになりますと「企業の品質」という視点からは、個々の企業よりも企業集団(グループ企業)の信用が重んじられますが、これからはグループ企業を超えて、サプライチェーンとしての企業群自体の信用が消費者から重視される時代が到来するのかもしれません。サプライチェーンのグローバル化が進むと、専門家の手助けが必要となる場面もますます増えるはずです。ガバナンス・コードでは株式持ち合いが(資産の有効活用を毀損するものとして)問題視されていますが、紛争の未然防止や早期解決という点からみれば、ある程度の合理性もあるように思えます。

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2016年1月25日 (月)

取引所プリンシプルで第三者委員会制度(企業不祥事対応)は変わるか?

日本証券取引所は1月22日、「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」の原案を公表しました。パブリックコメントの募集期間は、本プリンシプルの早期実施を目指して、異例の短期間(意見募集は2月12日まで)となっています。取引所としては一昨年のエクイティファイナンスのプリンシプルに続き、二つ目のプリンシプルの策定・公表ということになります。

まず「不祥事やその疑惑が発生した場合の自浄能力」に光があてられているわけですから、経営陣に不正の疑惑がある場合、組織ぐるみと評価される可能性のある場合には、やはり社内調査委員会では対応できず、独立性が認められる第三者委員会の設置が強く求められるものと考えられます。従業員不正を早期に発見した場合等、社内調査委員会の設置で済むケースもありますが、経営者不正の疑惑がある場合や経営者による(従業員不正の)長期放置が問題とされる場合等では第三者委員会への社外役員の委員就任等も含めて、「どのような調査体制をとれば自浄能力を発揮していると評価されるのか」、企業側できちんと検討しなければならないと思います。

次に、上場会社において企業不祥事が発覚した場合、ご承知のとおり昨年の東芝事件をはじめ、多くの事件において「第三者委員会」が設置されるケースも多いと思います。昨年は東芝会計不正事件ばかりが注目されましたが、第三者委員会を3度にわたって設置し直し、その後に当局の立入調査が入って真相が究明されたケース、第三者委員会報告書の原因究明が甘いため、取引所からガバナンス問題が指摘された末、特設市場銘柄からの指定解除が大幅に遅れたケース、日弁連ガイドラインに準拠しているといいながら、報告書の全文が開示されなかったり、その独立性や客観性に多くの疑問が呈されたケースなどが散見されています。

やはり第三者委員会のベストプラクティスを議論しなければならない時期に来ているように感じます。不祥事が企業価値を毀損するものであるならば、早期の信用回復をめざすためにも第三者委員会の在り方を議論する必要があります。第三者委員会の設置方法だけが問題ではありませんが、有事の情報開示はそれ自体が取締役にとっては構造的な利益相反行動になるわけですから、上場会社の自浄作用全般にわたり見直しが求められます。

本プリンシプルが確定した後に、当ブログでも本プリンシプルの内容についてコメントしたいと思いますが、私が青山学院大学の八田進二先生とご一緒させていただく日本証券取引所の上場会社セミナー2016「形だけに終わらないコーポレートガバナンス」 (東京は2月25日、大阪は3月3日)においても、このプリンシプルの内容とともに、(私の経験に基づく)第三者委員会制度の課題、問題点や、「上場会社の自浄能力が発揮された」と評価される第三者委員会の活用手法について意見を述べる予定にしております(もちろん個人的な見解です)。どうか多数のご来場をお待ちしております。

原案の「趣旨」にも記載されているとおり、本プリンシプルへの充足度が低い場合であっても、取引所が根拠なく上場会社に対する措置を発動するわけではありません。しかし、このプリンシプルが策定されるに至った背景事情、会計不正事件によって過年度決算訂正に至った上場会社に対する取引所の膨大な質問が提出される状況等からみて、本プリンシプルへの充足度が低い場合には、上場企業には諸々の企業リスクが想定されます。不祥事に直面していない平時の上場会社こそ、有事における不祥事対応プリンシプルの理解が必要だと思います。

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2016年1月23日 (土)

コーポレート・コア・コンピテンシーで考える企業成長戦略と企業の期待価値向上

9784569828473世界陸上の銅メダリストでいらっしゃる為末大さんの著書が大好きで、対談集まですべて拝読しているのですが、為末さんの「走りながら考える」(ダイヤモンド社 2012年)の中で、ご自身が400メートル障害を選択した理由が詳細に語られています。中学生までは100メートルで負けたことがなかったそうですが、次第に後輩にも抜かれるようになって限界を感じ、自分が世界で闘える、自分の強みを発揮できる場を模索した結果として400メートル障害にたどりついたそうです。

私はこの為末さんの考え方に共感を抱くものですが、企業経営においても、弱者が強者に勝つのが戦略であり、そのためには企業として一点に集中し、そして他社(強者)と差別化することが重要、いや不可欠だと認識しています。本書の著者でいらっしゃる三鍋伊佐雄氏は、私が社外取締役を務める大東建託株式会社の前社長ですが、私が取締役に就任する前に退任され、ボードでご一緒したことは全くございません。ただ、同氏の前著「弱者が勝つ戦略」を拝読して以来感銘を受け、同社とは全く関係のない場所で多くの経営における考え方、ビジネスの発想について有益な示唆をいただいております。その三鍋氏の新著が、先日発売されました。最近のコーポレートガバナンス・コードやスチュワードシップ・コードに従えば企業価値が向上するのだろうか、KPIとしてROEを信奉していれば持続的成長は図られるのだろうか・・・と疑問を抱いていらっしゃる経営幹部の皆様にはぜひお勧めしたい一冊です。

コーポレート・コア・コンピタンシーで考える「企業成長戦略」と「企業の期待価値向上」(三鍋伊佐雄、竹内朗 著 PHP研究所 1,600円税別)

近時のガバナンス改革の中で「企業価値」が語られることが多いのですが、本書は上場会社、非上場会社すべてを対象として「企業価値」(=すべてのステークホルダーからみた期待価値)の向上を語っています。たしかにガバナンス・コードが示す指針は上場会社向けであり、では日本における圧倒的多数である非上場会社にとって企業価値を向上させるためにはどうすべきか?ということには何ら応えられていません。著者は、ガバナンス・コードが示すものは「企業価値向上」ではなく「(株主からみた)投資価値の向上」であり、それは企業価値の一要素にすぎないと捉えています。私も以前当ブログで「業務執行社外取締役待望論」を書かせていただきましたが、三鍋氏も(会社法では「社外取締役」とは認められない)社外取締役の有用性を高く評価しておられます。

本書は机上のお勉強の本ではなく、ビジネスに直結する実践的かつ現実的な回答を用意しています。取締役会評価の手法等にも言及されており、ガバナンス・コードを実施する取締役会の実効性評価手法としても参考になります。なんといっても、企業の持つ「固有の強み」に焦点をあてており、筆者はこれをCCC(コーポレート・コア・コンピテンシー)と指摘します。古くから言われている「コア・コンピテンシー」や「コーポレート・アイデンティティー」のような単なる「企業の存在意義」といわれるものをもう一歩進めて(表紙にも掲載されていますが)「CCCとは、わが社がわが社であり続けられる企業存立の理由」と定義付けています。本書では、この企業存立の理由をきちんと見出すための道すじも解説されています。

「なぜ我が社のいまがあるのか」「何が評価をいただいているのか(いただいてきたのか)」ということを明確に言葉として整理することこと「今日以降の企業経営を、たとえ社長が代々承継していったとしても、顧客や地域住民と共感し続け合って存続」していくことを確かなものにすると主張されています。これがまさに「CCC」の真髄とされ、三鍋氏の前著にも通じるところがあり、この点にとても共感するところです。もともと企業に存在する強み(財産)に再度照準を当て、この財産を再度有効活用することで「自社が勝てる領域、勝てる方法」を見出すことはマネジメントとして重要なものと考えます。コーポレートガバナンスの構築がいろいろと議論されていますが、著者は「長所を伸ばすためには必要だが、業績の悪い会社が弱点を補強する目的でガバナンス改革を行っても逆効果だ」と断言しています。監査等委員会設置会社への移行会社が310社を超える今、この三鍋氏の意見は私も全く同感です。

さらに、本書に厚みを持たせているのが企業法務で有名な竹内朗弁護士の共著部分です。これまで会社法や金商法の世界で語られてきたガバナンス論、いわゆる「守りのガバナンス」の視点から「三鍋ガバナンス、三鍋内部統制システムの世界」に光をあてています。なるほど、竹内先生のコメントやコラムがあるからこそ、まさに本書が本書であり続けられる存在理由が明確になっているのですね。著書は原則として「非上場会社」の方々に向けて書かれたそうですが、上場会社の経営に携わっておられる方々にも、たいへん有益な一冊だと自信をもってお勧めいたします。

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2016年1月21日 (木)

東証、企業統治指針への対応状況を開示-いよいよ正念場?

東証さんが本日(1月20日)、上場企業のコーポレートガバナンス・コードへの対応状況を開示されました(昨年の12月末現在の状況)。本則市場の1858社のうち、73項目すべてを実施(オールコンプライ)する会社が11,6%、9割以上の項目を実施する企業と合わせると78%に上るそうで、(制度対応としては)本コードの影響力はかなり大きいことがわかります。

ただ(予想どおりといいますか)、73項目の中で、ぶっちぎりに「うちは今のところ実施しません」と開示する企業が多い項目が「取締役会の実効性の分析、評価とその概要の開示」ですね(説明率63%)。取締役会の実効性の分析・評価すらやらない企業と、分析・評価をやっているが、その開示はしない企業が含まれますが、いずれにしても、コード対応の中では各企業が腐心している項目だと思います。私が社外取締役を務める会社でも、いま取締役会の実効性評価作業の真っ最中でして、いざやってみると、プロセスからしてかなり難易度が高いと思います。

いずれまた個社の作業内容については開示の時期に合わせてご説明したいと思いますが、作業プロセスを考えるにあたり、注意すべき点があると考えます。ひとつは上で述べたように、取締役会の実効性の分析、評価だけでなく「概要の開示」が求められているという点です。「エンゲージメント」を「株主との対話」と訳すわけですが、そもそもエンゲージメントは「分かり合うための対話」という意味だそうですから、会社と株主とが永続性ある企業成長のために分かり合える対話に資する内容を開示しなければ意味がないと思います。

つぎに(これは法律家的な課題ですが)ガバナンス・コードは「ソフトロー」と言われていますが、そもそも実施する(コンプライする)ことと、説明する(エクスプレインする)ことに軽重はあるか?という点です。ソフトローであることの意味を重視すればやはりコンプライするのが原則であり、たとえエクスプレインしたとしても、将来的にはコンプライすべき、との意味が含まれていると考えるのが筋でしょう。しかし、コードの趣旨尊重義務が東証規則で明記されていて、その趣旨さえ尊重していればエクスプレインすることも全く構わない(つまりソフトローであることの意味は趣旨尊重義務を尽くすことである)という考え方も成り立ちそうです。最終的には「対話や開示を通じて株主がどのように判断するか」ということでコードの社会的な影響力が担保されていればよいのではないか(あまり神経質にならないでよいのでは)と。

そしてもうひとつが「エクスプレインの内容」です。今回、取締役会の実効性評価を実施しない(つまりエクスプレインする)と決めた企業も、その理由を読むと「2年後までには実施します」とか「実施するかどうか検討中です」といった理由になっていない理由が圧倒的に多いですよね(そもそもこれらの回答が「エクスプレイン」といえるのでしょうか?会社法の「社外取締役を置くことが相当でない理由」と同じ現象が生じているような気もします)こういった制度対応が「あたりまえ」になって、「これで良いのであれば横並びが一番!」と考える上場会社さんが増えれば、これはもう「J-SOXの二の舞現象到来」といったところでしょうか。

弁護士的には、北越製紙さんが大王製紙さんの取締役の方々を相手に年末に提起した損害賠償請求訴訟のように、ガバナンス・コードを取締役の善管注意義務と関連付けて援用するような事例が増えてくるのであれば、各企業のコード対応の真剣度も高まるような気もいたしますが(たとえばこちらや こちらを参考)。さあ、企業統治指針もここからが正念場ではないかと。。。

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2016年1月19日 (火)

旭化成建材・外部調査委員会報告書にみる「二人の現場責任者の対比」

横浜マンション傾斜問題については1月13日に国交省による関係会社等への処分が出ましたが、これに先立ち、1月8日に旭化成建材さんの親会社から外部調査委員会報告書(中間報告書)がリリースされています。私もようやくこの中間報告書を読み終えましたが、企業不祥事を考えさせる、なかなか興味深い内容です。当該マンションの基礎杭工事の現場責任者は2名であり、そのうちの1名の社員がデータ偽装に手を染めてしまったわけですが、もうひとりの方は全くデータ偽装には手を染めていなかったということが判明しています(両名とも調査委員会はヒアリングを行ったようです)。「なぜこのような違いが出てしまったのか」という点が克明に対比して描かれています。

この横浜のマンションの基礎杭工事は2005年12月から2006年2月ころまで行われ、杭工事の現場責任者は旭化成建材の社員(出向社員)2名が担当していました。この2名の現場責任者については、最初は旭化成建材さんから現場作業を請け負った工事業者から2名とも選任される予定だったのですが、そのうちのおひとりが体調不良となったため、いわゆる(現場責任者等を派遣する)人材派遣業者から現場責任者がおひとり選出されたようです。報告書ではA社員(派遣社員、データ偽装を行った者)とC社員に区別されているので、ここでもそのように表記いたします。

詳細は上記社外調査委員会報告書をお読みいただくとして簡単に説明しますと、C社員の場合、現場作業を担当している方々と同じ会社出身ということであり、電流計データや流量計データの取得において現場作業員らとのコミュニケーションがきちんと確保されていたそうです。また自分が体調不良で仕事を休むときも、代わりの現場責任者への引継ぎが行われ、代役の方の日報や作業完了書といった書類関係もきちんとそろっていました。また、C社員がそもそもデータの整理をこまめに行っていたそうで、偽装を疑わせるような事情は何らみられなかったとされています。

しかし派遣業者から出向してきたA社員は、過去に何度か旭化成建材さんの現場責任者を務め、現場作業を担当した業者の現場責任者も経験していたのですが、現場作業員との相性が悪く、コミュニケーションがとれなかったそうです。また病気欠勤の際にも、同じ会社の者が全くいなかったので引継ぎが十分に行われておらず、したがって代役の現場責任者(この方はC社員の欠勤のときにも代役)の方の日報や作業完了書といった書類がきちんと作成されていませんでした。A社員自身もデータの取得にも熱心でなかったため、きちんとデータを保存・整理もされないままに放置されていたとのこと。

現場責任者の仕事は繁忙を極めており、A社員もC社員も、クレーン車やトラックの誘導、関係者との打ち合わせ、清掃作業などをこなしながらの杭打ちデータ取得作業だったので、両者ともデータ取得だけに注力できる立場にはありませんでした。しかし、現場を離れる際に、C社員は気軽に他の作業員や旭化成建材の社員にデータ取得を依頼できたのですが、気心の知れた仲間がいないA社員はデータ取得を頼みにくい状況にあったため、最終的には他のデータを流用して報告書を提出したという経緯があります。もちろん手続きをきちんと残すことの重要性を認識していれば、いくらコミュニケーションがとれなくてもデータ取得の偽装など発生しないはずではありますが、このような現場におけるチームワークの崩れから重大な企業不祥事が発生するということは、思わずぞっとするような背景事情です。

一方において、本件が発覚した直後から「どこの現場でもデータ偽装などあたりまえに行われている」といった意見がマスコミ等で明らかにされていましたが、C社員のように「偽造など全く考えたことはない、自分の仕事が手一杯であれば、ほかの社員にきちんと代役を頼む」ということで、普通にコンプライアンス重視の姿勢で仕事に従事されている方の姿が報告書で浮かんできた(しかも、その姿勢は供述だけでなく、残っている書類からも明らかにされた)ことは、ややホッとするところです(いや、それがあたりまえだろう、といわれればそれまでですが・・・)。「データを後で偽装するといったことは、それほど悪いことではない」といった感覚が、すべての社員に蔓延していたわけではないということです。また現場責任者の代役(報告書ではE社員)の仕事ぶりが、A社員から依頼された場合とC社員から依頼された場合と異なっていることは、組織としてのコンプライアンス意識を考える場合にも参考になりそうです。

この社外調査委員会の中間報告書は、組織としての関与(現場責任者によってデータが偽装されていたことを組織として容認していたのかどうか)という点については触れられていません。10年も前の不祥事なので、もし現場統括者がデータ偽装の事実を容認していたとすれば、その事実を知っていた方は会社幹部になっている可能性があります。だからこそ、現場統括者あたりが、このデータ偽装の事実を知りながら放置していたかどうか、読む側からすると関心が向けられます。そのような点においてやや不満は残りますが、なぜ現場責任者二人のうち、ひとりだけがデータ偽装に手を染めたのか、職場環境を対比しながら浮きぼりにした内容は、一読の価値があります。

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2016年1月15日 (金)

大王製紙・内部告発者の懲戒解雇無効判決の射程距離

各紙で報じられているとおり、1月14日、大王製紙社の海外子会社における会計不正問題を告発した社員の方について、解雇無効判決が東京地裁で出されたそうです(たとえば毎日新聞ニュースはこちらです)。大王製紙社の経営企画部の元社員の(金融庁等への)告発状について、ちょうど3年前の1月に業界紙に実名で公表された件ですね。降格処分は有効だが、出向命令については懲戒目的でなされたものとして出向命令に従わないことを理由とする懲戒処分は無効とされたようです(会社側はこの判決に不服として直ちに控訴したとのこと)。

降格処分を有効とした理由については、「告発は伝聞や憶測に基づく内容であり不当」(時事通信)「告発事実を裏付ける客観的資料が乏しく、目的も経営陣を失脚に追い込むためで正当性を欠く。就業規則違反による降格処分は不当とは言えない」(日経ニュース)と報じられています。これらの記事からしますと、当該社員は公益通報者保護法によって保護されなかったものと思われます。会社側の降格処分が有効とされたのは、この社員が、業界紙によって社内情報が広く公表されることを容認したうえで(会社関係者を通じて)会社情報を第三者に提供した、という点が問題視されたのかもしれません。社内における降格処分の理由としては、おそらく会社の信用(名誉)を毀損した、という点もしくは会社情報を不正に第三者に漏えいした、という点が服務規律違反と推測されます。

行政当局に対する告発だけでなく、マスコミ報道を期待して情報提供したことが会社の名誉毀損(信用毀損)行為にあたり、懲戒処分は有効とされたとすると、公益通報者が保護されるにあたっては、最も厳しい保護要件をクリアしないと内部告発の正当性が認められません(たとえばプラダ日本法人セクハラ報道損害賠償請求事件判決-東京地裁2013年11月12日 判例時報2216号81頁参照)。告発事実の真実相当性と会社が設置しているヘルプラインシステムが機能していない状況、といった要件が必要になります。

金融庁への公益通報(本件では金商法違反行為に関する通報)が公益通報者保護法で保護されるためにも、行政機関への通報保護要件として「通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信じるに足りる相当の理由がある場合」であることの立証が必要となります。上記判決において「告発は伝聞や推測を根拠としており、告発として正当であったとは認められない」と判示されていることからすると、そもそもこの要件が満たされなかったのかもしれません。ただ、最近は内部告発を支援する法律家も増えてきたことから、告発前に専門家に相談して「相当性要件」のチェックを受けていれば伝聞や推測に基づく、とはいえないことも多いと思います。そして客観的な資料に乏しいとして、「信じるに足る相当な理由」が認められないとすれば、やはり何らかの社内書類(の写し)の持ち出しが正当化される(明文化される?)必要がありそうです。

降格処分の有効性を検討するにあたり、告発の目的や手段等にも言及されているようなので本件は公益通報者保護法の要件該当性を考えるためには価値のある判例ではないかと思います。いずれにしても、この東京地裁判決は全文を読んでみたいので、判例雑誌等に判決文が全文掲載されることを期待しています。

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2016年1月13日 (水)

「一時社外取締役監査等委員」の職務はかなりしんどいかも・・・・・

いつも読ませていただいている某ブログの情報で知りましたが、新年早々(1月8日)、ある監査等委員会設置会社(JDQ)の取締役監査等委員の方が「一身上の都合」により辞任されたようです。その会社は監査等委員は3名であり、また補欠取締役監査等委員を選任しておられなかったため、近々裁判所に一時取締役等職務代行者(一時取締役監査等委員)の選任申し立てをされる予定とのこと。社内取締役監査等委員の方が辞任されたのではなく、会計士資格をお持ちの社外取締役監査等委員の方の辞任ですから後任は「社外要件」を満たす必要がありますね。

辞任された監査等委員の方は、次の取締役監査等委員が就任するまでは「権利義務取締役監査等委員」としての職責を負っているわけですから、法律上監査等委員会としての職務が全く機能しないというわけではありません。むしろ権利義務取締役が職務を継続できるのであれば346条2項による「仮取締役選任の必要性」要件が認められるかどうかもわかりません。こうなりますと、昨年こちらのエントリーで懸念しておりましたように、やはり監査等委員会設置会社に移行した会社としては「補欠取締役監査等委員」を総会で選任しておく必要があると思われます。

(ホントに余計なお世話かもしれませんが)当ブログで何度も申し上げているように、取締役監査等委員の職務としましては、経営評価の中心的役割を果たさねば善管注意義務を尽くしたことにはならないはずです。正規の社外取締役監査等委員でもたいへんなのに、ましてや補欠の方がいきなり取締役に選任されるケースや、本件のように裁判所から選任されて一時的に取締役監査等委員に就任されるケースでは、社内のことがわからないままにどうやって取締役人事や報酬決定に関与するのでしょうか。適法性監査を原則とする監査役としての職務ならまだわかりますが、取締役としての職務を超えて経営評価となると、うーーーん、どのように職務を履行されるのかナゾです。

今年の6月総会に向けて、まだまだ監査役会設置会社から監査等委員会設置会社に移行する上場会社は増えるものと予想されますが、会社経営陣と経営評価職務をめぐって意見対立などが想定される社外取締役監査等委員の辞任リスクには、移行会社としてきちんと向き合っておかれたほうがよいと考えます。

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2016年1月12日 (火)

実践して初めてわかる「取締役会の実効性評価」のむずかしさ

コーポレートガバナンス・コードへの対応として、どこの上場会社も苦慮されているのが取締役会評価制度ではないでしょうか。私も某上場会社の取締役会の実効性分析・評価に携わっておりますが、実際にやってみるとむずかしいですね。以下、個社事情は含まず一般的なモノ言いしかできませんが・・・

取締役会が長期戦略ビジョンを共有し、数値目標を共有していたとしても、現状からその目標に至るまでのビジネスモデルを考えますと、どうしても現状の「改善」(これまでの成功体験の延長線上の方法)によって達成しようと考えてしまい、「改革」による達成まではなかなか思いが至らない。その結果、目標達成の実現可能性は将来の経営環境の見通し次第ということになってしまう。

オペレーション能力よりもマネジメント能力、つまり「引き算」による資源集中やM&Aの発想も必要ですが、自社の強みを再確認して「改革」につなげることにどれだけ取締役会が機能しているかを評価しなければいけない。また独立社外取締役が、経営推進に役立っているのか、監督に役立っているのか、それとも全く役に立っていないのか(あるいは有害になってはいないか)、冷静に自己分析・評価をしなければいけない。

スピード経営が競争上欠かせないのであれば権限委譲もまた不可欠ですが、権限委譲の前提は「責任と権限の明確化」を図ることです。取締役会における意思決定はボトムアップ型なのかトップダウン型なのか。「なんとなくみんなで決めたから経営判断の責任があいまい」な取締役会では、いくら権限委譲型にしたところで全く監督機能は実効性がなく、かえって不正の温床になってしまいます。

評価結果の概要は対外的に開示することになりますが、評価ポイントをどこに置くのか、そのポイントについて検討すべき課題はどこにあるのか。対外的に上手に説明できて投資価値が上がったとしても、取締役会の機能が対内的に真の競争力の向上(期待価値の向上)につながらないと意味がないわけです。

自社が目指す取締役会の在り方自体が、100社あれば100社違うわけですから、この取締役会評価というのは経営陣が必ず自身でやるべきであり外注はできない性質の職務ではないかと思います(もちろん自社の競争力向上のためではなく、ガバナンスコードなる制度対応のため、ということであれば別ですが)。そもそも投資家と経営者とのコミュニケーションが良好な会社であれば、開示すべきは評価結果よりも「株主との対話」の「たたき台」となる短所と長所(評価すべき点と不足している点)ではないかと考えるようになりました。

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2016年1月 7日 (木)

裁量型課徴金制度の独禁法導入とコンプライアンス経営との親和性

価格カルテル、私的独占、優越的地位の濫用等、いわゆる独禁法違反行為に対する課徴金制度が(いよいよ)裁量制に転換される、という記事が本日(1月6日)の日経朝刊トップで報じられています。金商法上の課徴金制度は羈束行為(きそくこうい-違反事実が認められた場合には、法令に定められたとおりの課徴金納付を命じなければならない)とされていますので、裁量型が採用されるということになりますと、日本で初めての裁量型課徴金制度が導入されることになります。

要するに行政調査に協力をした企業には課徴金を減免して、証拠を隠したり口裏合わせをするといった調査妨害企業には逆に課徴金の増額を公取委が決定できる、といったもので、すでに欧米や中国等でも導入されています。海外企業から「日本の公取委は楽勝!」となめられているので、事件の早期解決と国際標準への転換を図ることが目的だと思います。以前は刑事罰による制裁と課徴金処分は憲法が禁止する二重処罰に該当するので、制裁的な意味合いのある裁量型課徴金制度は憲法違反ではないか、といった議論もありましたが、現在はあまり強く主張されることもないようです。

経済法については、私のような小さな事務所の弁護士が本業として関与することはあまりありません。しかし「裁量型課徴金制度の導入」となると仕事に関与するかどうかは別として、コンプライアンス経営との関係性が深まることは事実です。公取委の本格調査が開始されるまでの自主申告制度とは異なり、本格調査が開始された後であっても、自主的に社内調査を進めたり、不利益証拠を進んで提出したり、あるいは平時からのコンプライアンス経営にいそしんでいたことを主張することによって「高額の弁護士費用を使ってでも、企業にとっては弁護士を使ったメリットを享受できる」ことになるからです。また信用回復という意味においても課徴金の減免や加重の判断は大きいですね(法律家とは違って、一般の方は刑事罰と課徴金の違いはレピュテーションという意味においてはあまり関係ないと思います)。

これまではどんなに弁護士を使って頑張っても「羈束行為」である以上、決まった額の課徴金の納付が命じられましたので、「弁護士費用の費用倒れ」のケースが多かったのです。おそらく裁量型課徴金制度の導入により、平時からコンプライアンス経営に熱心な企業と、コンプライアンス経営の優先順位が低い企業との間で(有事に直面した場合に)大きな差が生じることになると思われます。日常的なリスク管理の場面においても、「このコンプライアンスプログラムの運用って、費用対効果の面からみてどうよ」といった疑問が呈されたところがあったかもしれませんが、間違いなく効率経営の面からも重要性が認められることになるかと。

ただ、新聞記事からは明らかではありませんが、裁量型課徴金制度が公取委に導入されるとなると、やはり恣意性が危惧されるところです。独禁法違反行為の事後規制手法を欧米並みに転換するのであれば、同じく欧米並みに弁護士秘匿特権、弁護士立会権、証拠閲覧権が保障されなければ(企業の独禁法リスクが高まるだけで)話にならないと思います。裁量型課徴金制度を導入する目的を実現するためには、行政調査の透明性確保も当然必要であり、そのためには少なくとも上記の三種の神器も制度として導入されなければならないと考えます。

最後になりますが、2月から始まる日本監査役協会での講演ですが、早くも大阪講演は二日間とも満席となりました(どうもありがとうございます)。ご期待に添えるよう、今年も周到な準備をして臨みたいと思っております。

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2016年1月 6日 (水)

会計監査の在り方は東芝事件だけでは語れない

1月4日、東証2部のJFLA(ジャパンフード&リカーアライアンス)社は(ようやく)過年度有価証券報告書の訂正報告書、内部統制報告書の訂正報告書を提出されたようです(1月4日午前の東証適時開示をご覧ください)。すべての関係者の皆様、本当にお疲れ様でした。経営者の方々も、会計監査人の方々も、おそらく年末年始の休暇など全くなかったことと拝察いたします。

拙ブログでは残念ながら開示された事実しか書けませんが、会計監査人(S監査法人)の毅然とした不正リスク対応が同社の過年度決算訂正、内部統制報告書の訂正につながり、さらには同社のガバナンスを変えることになりました(いや、第三者委員会委員の皆様の頑張りや会社経営陣のご英断もあったと思うので「変えるきっかけとなりました」が正確なところかもしれません)。延期されていた定時株主総会において全取締役が退任され、会社は監査等委員会設置会社に移行されるそうです。会計監査人の警鐘が金商法193条の3、会社法397条1項による通知として(日本で初めて)開示されてほぼ5カ月、同社は新たなガバナンス体制で業績向上に臨むことになります。

巷では東芝事件を契機として新日本有限責任監査法人さんの監査に話題が集中していますが、監査対象会社と真っ向からぶつかって、監査契約を解除されることを覚悟して「市場の番人」としての公認会計士の役割を全うされようとした監査法人が存在することもご記憶いただければと。企業不祥事のマスコミ報道では「自浄能力」を発揮した企業の事例はほとんど取り上げてもらえず(会社からみればそのほうがいいのですが)、自浄能力を発揮できなかった企業の事例に(おもしろおかしく?)光があたります。監査法人さんの独占業務である「会計監査」についても、社会インフラとして悪いところは直すべきですが、良い例があればベストプラクティスとして広く紹介されるべきです。

もちろん監査法人さんも守秘義務は厳格なので、ご自身からは紹介できない「良い例」もあるとは思います。また、「良い例」とはいいつつも、過年度決算修正というのは「もっと早く監査人が発見できなかったのか」といった自問自答のジレンマを抱えていることは確かです。しかし、それでも「この会計処理はおかしい」と外に向かって声を上げる、その頑張りが監査法人のブランドになればいいなぁと考えています。上場会社の経理処理はITシステム化、外注化、専門化が進み、お金の流れ全てを把握できる経理担当者、内部監査担当者はますます少なくなります。おそらく市場の番人としての会計士さんの役割は今後ますます期待が高まることになるはずです。

監査法人さんの毅然とした態度には(社会的影響力が大きいため)リスクが伴います。しかし、これからの会計監査では、市場の健全性確保と市場の活性化という「トレードオフの調整弁としての期待」が寄せられている以上、ある程度のリスクをとらざるをえないと考えます(「時代の要請に応えること」は独占業務という特権を持つ職業の宿命では?)。一方においては、「監査人の適正意見が出ない=上場廃止」という図式はすでに東証ルールで緩和されており、市場関係者もリスクをとって「市場の番人」としての役割を果たす監査法人、公認会計士の方々を支える仕組みを考えるべきだと思います(たとえば会社法改正によって、不正会計の発見を支援する方法があることも以前のエントリーで述べたとおりです)。

JFLAの事案では、会計監査人が「資産流用」に異議を唱えたことによって「粉飾」事件に発展しましたが、粉飾の原因はやはり「経営者による見積りの悪用」でした。経営者の説明がつかない会計処理はおそらく内部統制の軽視につながり、業績の厳格な評価を妨げ、ひいては企業価値向上の妨げになります。情報開示の誠実な姿勢は社員にも理解され、かならず業績の向上につながります。私自身も、このブログを通じて、会計監査や第三者委員会等「市場の番人」「公益の番人」と呼ばれるにふさわしい制度について「良い例」も「悪い例」もきちんと根拠を示して公平かつ公正に取り上げていきたいと思っています。

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2016年1月 4日 (月)

内部通報・内部告発が暴くのは組織ぐるみの不正である

皆様、明けましておめでとうございます。4日が「仕事始め」ということで、少し正月休みが短かったように感じますね。どうか本年もよろしくお願いいたします。

昨年12月25日から更新をしておりませんでしたが、その間、東洋ゴム工業さんの防振ゴム偽装事件に関する社内調査報告書が公表されました。8月20日の内部通報によって偽装が判明した、とありましたが、実は2年前から本社取締役(の一部)も偽装を認識していたことが報告されています。通報がなければ「偽装」の事実だけでなく「不正の放置」という組織ぐるみの不適切な事実も発覚しなかったということになります。

また、元旦の読売新聞一面トップには数研出版さんの検定未了教科書に関する謝礼問題が報じられました(元旦の新聞には時々不祥事がトップ記事として掲載されますので、毎年かならず各紙正月版には目を通しています)。数研出版さんの事例について、読売記事では、記者さんの手元にある内部文書が詳細に分析・解説されていましたので、こちらも(推測ですが)内部告発によるものと思います。営業社員に対する具体的な指示(学校以外の場所で、口外しないようお願いしたうえで・・・等)までコメント欄に記載されていたとありますので、まさに組織ぐるみのルール違反かと。

内部通報・告発を行う人の支援、内部通報・告発がなされた会社側対応の支援等を通じて「通報や告発を行いやすい組織風土が企業に形成されつつある」と感じます。「見て見ぬフリをする組織の中で働くことは耐えられない」「不正な手法で自分より待遇が良いというのはナットクできない」「共同通報者・共同告発者が5人から10人に増えた」等、通報や告発に至るハードルがかなり下がっていることを実感します。また、これまでは(内部通報制度に関する課題が周知されていなかったので)匿名通報がすぐにバレてしまう、ということが多かったのですが、最近はヘルプラインの整備とともに、一般社員の方々にもノウハウが蓄積されてきましたので、匿名性がかなり高い確率で確保されるようになってきました。これも通報や告発を行いやすい土壌が形成されてきた一因だと思います。

今年も内部通報や内部告発が企業不祥事の端緒となるケースが多いと予想いたしますが、社内調査委員会や第三者委員会が設置されると、そこに通報や告発が届き、多くの情報が提供され、不祥事がさらに大きく発展するケースも増えるものと予想いたします。最近はパワハラ案件を中心に共同通報、共同告発も増えており、告発することに暗いイメージはなくなりつつあります。40代、50代社員の「組織における大人の流儀」は非正規社員の方や30代以下の社員の方には通用しないように思います。ヘルプライン担当者の方々も、このあたりの事情を十分に理解しておく必要があるのかもしれません。

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