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2016年1月15日 (金)

大王製紙・内部告発者の懲戒解雇無効判決の射程距離

各紙で報じられているとおり、1月14日、大王製紙社の海外子会社における会計不正問題を告発した社員の方について、解雇無効判決が東京地裁で出されたそうです(たとえば毎日新聞ニュースはこちらです)。大王製紙社の経営企画部の元社員の(金融庁等への)告発状について、ちょうど3年前の1月に業界紙に実名で公表された件ですね。降格処分は有効だが、出向命令については懲戒目的でなされたものとして出向命令に従わないことを理由とする懲戒処分は無効とされたようです(会社側はこの判決に不服として直ちに控訴したとのこと)。

降格処分を有効とした理由については、「告発は伝聞や憶測に基づく内容であり不当」(時事通信)「告発事実を裏付ける客観的資料が乏しく、目的も経営陣を失脚に追い込むためで正当性を欠く。就業規則違反による降格処分は不当とは言えない」(日経ニュース)と報じられています。これらの記事からしますと、当該社員は公益通報者保護法によって保護されなかったものと思われます。会社側の降格処分が有効とされたのは、この社員が、業界紙によって社内情報が広く公表されることを容認したうえで(会社関係者を通じて)会社情報を第三者に提供した、という点が問題視されたのかもしれません。社内における降格処分の理由としては、おそらく会社の信用(名誉)を毀損した、という点もしくは会社情報を不正に第三者に漏えいした、という点が服務規律違反と推測されます。

行政当局に対する告発だけでなく、マスコミ報道を期待して情報提供したことが会社の名誉毀損(信用毀損)行為にあたり、懲戒処分は有効とされたとすると、公益通報者が保護されるにあたっては、最も厳しい保護要件をクリアしないと内部告発の正当性が認められません(たとえばプラダ日本法人セクハラ報道損害賠償請求事件判決-東京地裁2013年11月12日 判例時報2216号81頁参照)。告発事実の真実相当性と会社が設置しているヘルプラインシステムが機能していない状況、といった要件が必要になります。

金融庁への公益通報(本件では金商法違反行為に関する通報)が公益通報者保護法で保護されるためにも、行政機関への通報保護要件として「通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信じるに足りる相当の理由がある場合」であることの立証が必要となります。上記判決において「告発は伝聞や推測を根拠としており、告発として正当であったとは認められない」と判示されていることからすると、そもそもこの要件が満たされなかったのかもしれません。ただ、最近は内部告発を支援する法律家も増えてきたことから、告発前に専門家に相談して「相当性要件」のチェックを受けていれば伝聞や推測に基づく、とはいえないことも多いと思います。そして客観的な資料に乏しいとして、「信じるに足る相当な理由」が認められないとすれば、やはり何らかの社内書類(の写し)の持ち出しが正当化される(明文化される?)必要がありそうです。

降格処分の有効性を検討するにあたり、告発の目的や手段等にも言及されているようなので本件は公益通報者保護法の要件該当性を考えるためには価値のある判例ではないかと思います。いずれにしても、この東京地裁判決は全文を読んでみたいので、判例雑誌等に判決文が全文掲載されることを期待しています。

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