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2016年1月 7日 (木)

裁量型課徴金制度の独禁法導入とコンプライアンス経営との親和性

価格カルテル、私的独占、優越的地位の濫用等、いわゆる独禁法違反行為に対する課徴金制度が(いよいよ)裁量制に転換される、という記事が本日(1月6日)の日経朝刊トップで報じられています。金商法上の課徴金制度は羈束行為(きそくこうい-違反事実が認められた場合には、法令に定められたとおりの課徴金納付を命じなければならない)とされていますので、裁量型が採用されるということになりますと、日本で初めての裁量型課徴金制度が導入されることになります。

要するに行政調査に協力をした企業には課徴金を減免して、証拠を隠したり口裏合わせをするといった調査妨害企業には逆に課徴金の増額を公取委が決定できる、といったもので、すでに欧米や中国等でも導入されています。海外企業から「日本の公取委は楽勝!」となめられているので、事件の早期解決と国際標準への転換を図ることが目的だと思います。以前は刑事罰による制裁と課徴金処分は憲法が禁止する二重処罰に該当するので、制裁的な意味合いのある裁量型課徴金制度は憲法違反ではないか、といった議論もありましたが、現在はあまり強く主張されることもないようです。

経済法については、私のような小さな事務所の弁護士が本業として関与することはあまりありません。しかし「裁量型課徴金制度の導入」となると仕事に関与するかどうかは別として、コンプライアンス経営との関係性が深まることは事実です。公取委の本格調査が開始されるまでの自主申告制度とは異なり、本格調査が開始された後であっても、自主的に社内調査を進めたり、不利益証拠を進んで提出したり、あるいは平時からのコンプライアンス経営にいそしんでいたことを主張することによって「高額の弁護士費用を使ってでも、企業にとっては弁護士を使ったメリットを享受できる」ことになるからです。また信用回復という意味においても課徴金の減免や加重の判断は大きいですね(法律家とは違って、一般の方は刑事罰と課徴金の違いはレピュテーションという意味においてはあまり関係ないと思います)。

これまではどんなに弁護士を使って頑張っても「羈束行為」である以上、決まった額の課徴金の納付が命じられましたので、「弁護士費用の費用倒れ」のケースが多かったのです。おそらく裁量型課徴金制度の導入により、平時からコンプライアンス経営に熱心な企業と、コンプライアンス経営の優先順位が低い企業との間で(有事に直面した場合に)大きな差が生じることになると思われます。日常的なリスク管理の場面においても、「このコンプライアンスプログラムの運用って、費用対効果の面からみてどうよ」といった疑問が呈されたところがあったかもしれませんが、間違いなく効率経営の面からも重要性が認められることになるかと。

ただ、新聞記事からは明らかではありませんが、裁量型課徴金制度が公取委に導入されるとなると、やはり恣意性が危惧されるところです。独禁法違反行為の事後規制手法を欧米並みに転換するのであれば、同じく欧米並みに弁護士秘匿特権、弁護士立会権、証拠閲覧権が保障されなければ(企業の独禁法リスクが高まるだけで)話にならないと思います。裁量型課徴金制度を導入する目的を実現するためには、行政調査の透明性確保も当然必要であり、そのためには少なくとも上記の三種の神器も制度として導入されなければならないと考えます。

最後になりますが、2月から始まる日本監査役協会での講演ですが、早くも大阪講演は二日間とも満席となりました(どうもありがとうございます)。ご期待に添えるよう、今年も周到な準備をして臨みたいと思っております。

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コメント

不正が見つからなければいいという「逃げ得作戦」を考えている企業にとっては考えを改める機会が来たものだと思います。
他の同業他社から先に付加価値のある証拠を出されて自分たちの会社を売られる可能性もありますので他社をどう高く売るかの競争になってくると予想します。
実際今の米国DOJも同じ流れですし。
公取はあまり動かなくてもこれからは各業界からさまざまな不正のタレコミがあるでしょうし、忙しくなりそうですね。

投稿: 和田 | 2016年1月 7日 (木) 10時50分

和田さんの予想に全く同感です。海外カルテル事件に関与した経験からいいますと、アムネスティ・プラスなどは日本企業同士の足の引っ張り合いでした。最初から画策する企業もあったりします。公取委も、自分たちが動かなくても有力証拠が集まる、調査が進むという工夫を考えると思いますし、企業においても通報や告発にできるだけ早くコンタクトできる態勢を整えることが必要だと感じます。でも最後は「事の重大性」をどれだけの組織が感じているか・・・ということに尽きますが。。。

投稿: toshi | 2016年1月 7日 (木) 11時08分

弁護士費用がそんなにかかるのなら社内に法律参与を設けたほうが効率的ではないでしょうか。わざわざ弁護士さんをもうけさせる必要はないし、コンプライアンスプログラムの実践にもなると思いますよ。

投稿: とおりすがり | 2016年1月 7日 (木) 11時37分

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