実践して初めてわかる「取締役会の実効性評価」のむずかしさ
コーポレートガバナンス・コードへの対応として、どこの上場会社も苦慮されているのが取締役会評価制度ではないでしょうか。私も某上場会社の取締役会の実効性分析・評価に携わっておりますが、実際にやってみるとむずかしいですね。以下、個社事情は含まず一般的なモノ言いしかできませんが・・・
取締役会が長期戦略ビジョンを共有し、数値目標を共有していたとしても、現状からその目標に至るまでのビジネスモデルを考えますと、どうしても現状の「改善」(これまでの成功体験の延長線上の方法)によって達成しようと考えてしまい、「改革」による達成まではなかなか思いが至らない。その結果、目標達成の実現可能性は将来の経営環境の見通し次第ということになってしまう。
オペレーション能力よりもマネジメント能力、つまり「引き算」による資源集中やM&Aの発想も必要ですが、自社の強みを再確認して「改革」につなげることにどれだけ取締役会が機能しているかを評価しなければいけない。また独立社外取締役が、経営推進に役立っているのか、監督に役立っているのか、それとも全く役に立っていないのか(あるいは有害になってはいないか)、冷静に自己分析・評価をしなければいけない。
スピード経営が競争上欠かせないのであれば権限委譲もまた不可欠ですが、権限委譲の前提は「責任と権限の明確化」を図ることです。取締役会における意思決定はボトムアップ型なのかトップダウン型なのか。「なんとなくみんなで決めたから経営判断の責任があいまい」な取締役会では、いくら権限委譲型にしたところで全く監督機能は実効性がなく、かえって不正の温床になってしまいます。
評価結果の概要は対外的に開示することになりますが、評価ポイントをどこに置くのか、そのポイントについて検討すべき課題はどこにあるのか。対外的に上手に説明できて投資価値が上がったとしても、取締役会の機能が対内的に真の競争力の向上(期待価値の向上)につながらないと意味がないわけです。
自社が目指す取締役会の在り方自体が、100社あれば100社違うわけですから、この取締役会評価というのは経営陣が必ず自身でやるべきであり外注はできない性質の職務ではないかと思います(もちろん自社の競争力向上のためではなく、ガバナンスコードなる制度対応のため、ということであれば別ですが)。そもそも投資家と経営者とのコミュニケーションが良好な会社であれば、開示すべきは評価結果よりも「株主との対話」の「たたき台」となる短所と長所(評価すべき点と不足している点)ではないかと考えるようになりました。
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コメント
英国の調査では、90%近い上場企業が取締役会評価にポジティブな影響があると評価しているようです。
具体的には、①取締役会のプロセス・取締役会会議の強化②取締役会内の関係・取締役個人のパフォーマンスの強化③取締役会全体のサクセッションにおける優先順位の特定④取締役会の目的の明確化と目的に対する注力の改善。
実務的に難しい面もありますから、英国のようにガイダンスを作成する必要もあるかもしれませんね。
FRC Guidance for boards and board committees
https://www.frc.org.uk/Our-Work/Codes-Standards/Corporate-governance/UK-Corporate-Governance-Code/Guidance-for-boards-and-board-committees.aspx
投稿: 迷える会計士 | 2016年1月30日 (土) 13時37分
ありがとうございます。本当に企業のパフォーマンスを上げるための取締役会の実効性評価については、ブログに書けないことも含め、いろいろと意見を持っておりますので(笑)、またどこかのタイミングで論稿を書きたいと思っております。
投稿: toshi | 2016年2月 3日 (水) 11時55分
実践の話題になってきたので、久しぶりにコメントさせていただきます。ガバナンスや取締役会の実効性を決めるのは、ガバナンス形態や取締役会評価ではなく、経営者の強い信念と使命感、自らを律する責任感だと思います。オーナー経営者だからダメとか、プロの経営者がいいということでもなく、短期の業績プレッシャーに負ける懸念はプロの経営者のほうが社内昇格取締役と同様に強いかも知れません。社外取締役や監査役が企業のパーフォーマンス向上の役に立てるかは、懐疑的です。野球をやったことがない人間ができるのは審判が限度です。野球であれば、硬式でも軟式でも、プロでも大学、高校野球でも構いませんが、修羅場に立った豊富な経験と知見がなければ、不確実性の多い下で妥当な経営意思決定を行うことはできません。社外役員に提供される情報量や支援体制の不足が問題視されますが、本質的な問題ではありません。知見がなければ、言われる経営者も聞きませんし、周りの取締役に対する説得力もないでしょう。その意味では人間性も重要な必要条件になりますが、十分条件ではありません。社外役員を選定しているのは実質的に経営者の社長であるという実態を無視した観念論が横行していないでしょうか。社外取締役に他企業の社長や社長経験者が多いのも当然の結果です。身も蓋もない結論ですが、これが最近到達した私の実感です。
投稿: 森本親治 | 2016年2月12日 (金) 14時58分