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2016年1月 6日 (水)

会計監査の在り方は東芝事件だけでは語れない

1月4日、東証2部のJFLA(ジャパンフード&リカーアライアンス)社は(ようやく)過年度有価証券報告書の訂正報告書、内部統制報告書の訂正報告書を提出されたようです(1月4日午前の東証適時開示をご覧ください)。すべての関係者の皆様、本当にお疲れ様でした。経営者の方々も、会計監査人の方々も、おそらく年末年始の休暇など全くなかったことと拝察いたします。

拙ブログでは残念ながら開示された事実しか書けませんが、会計監査人(S監査法人)の毅然とした不正リスク対応が同社の過年度決算訂正、内部統制報告書の訂正につながり、さらには同社のガバナンスを変えることになりました(いや、第三者委員会委員の皆様の頑張りや会社経営陣のご英断もあったと思うので「変えるきっかけとなりました」が正確なところかもしれません)。延期されていた定時株主総会において全取締役が退任され、会社は監査等委員会設置会社に移行されるそうです。会計監査人の警鐘が金商法193条の3、会社法397条1項による通知として(日本で初めて)開示されてほぼ5カ月、同社は新たなガバナンス体制で業績向上に臨むことになります。

巷では東芝事件を契機として新日本有限責任監査法人さんの監査に話題が集中していますが、監査対象会社と真っ向からぶつかって、監査契約を解除されることを覚悟して「市場の番人」としての公認会計士の役割を全うされようとした監査法人が存在することもご記憶いただければと。企業不祥事のマスコミ報道では「自浄能力」を発揮した企業の事例はほとんど取り上げてもらえず(会社からみればそのほうがいいのですが)、自浄能力を発揮できなかった企業の事例に(おもしろおかしく?)光があたります。監査法人さんの独占業務である「会計監査」についても、社会インフラとして悪いところは直すべきですが、良い例があればベストプラクティスとして広く紹介されるべきです。

もちろん監査法人さんも守秘義務は厳格なので、ご自身からは紹介できない「良い例」もあるとは思います。また、「良い例」とはいいつつも、過年度決算修正というのは「もっと早く監査人が発見できなかったのか」といった自問自答のジレンマを抱えていることは確かです。しかし、それでも「この会計処理はおかしい」と外に向かって声を上げる、その頑張りが監査法人のブランドになればいいなぁと考えています。上場会社の経理処理はITシステム化、外注化、専門化が進み、お金の流れ全てを把握できる経理担当者、内部監査担当者はますます少なくなります。おそらく市場の番人としての会計士さんの役割は今後ますます期待が高まることになるはずです。

監査法人さんの毅然とした態度には(社会的影響力が大きいため)リスクが伴います。しかし、これからの会計監査では、市場の健全性確保と市場の活性化という「トレードオフの調整弁としての期待」が寄せられている以上、ある程度のリスクをとらざるをえないと考えます(「時代の要請に応えること」は独占業務という特権を持つ職業の宿命では?)。一方においては、「監査人の適正意見が出ない=上場廃止」という図式はすでに東証ルールで緩和されており、市場関係者もリスクをとって「市場の番人」としての役割を果たす監査法人、公認会計士の方々を支える仕組みを考えるべきだと思います(たとえば会社法改正によって、不正会計の発見を支援する方法があることも以前のエントリーで述べたとおりです)。

JFLAの事案では、会計監査人が「資産流用」に異議を唱えたことによって「粉飾」事件に発展しましたが、粉飾の原因はやはり「経営者による見積りの悪用」でした。経営者の説明がつかない会計処理はおそらく内部統制の軽視につながり、業績の厳格な評価を妨げ、ひいては企業価値向上の妨げになります。情報開示の誠実な姿勢は社員にも理解され、かならず業績の向上につながります。私自身も、このブログを通じて、会計監査や第三者委員会等「市場の番人」「公益の番人」と呼ばれるにふさわしい制度について「良い例」も「悪い例」もきちんと根拠を示して公平かつ公正に取り上げていきたいと思っています。

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