東証、企業統治指針への対応状況を開示-いよいよ正念場?
東証さんが本日(1月20日)、上場企業のコーポレートガバナンス・コードへの対応状況を開示されました(昨年の12月末現在の状況)。本則市場の1858社のうち、73項目すべてを実施(オールコンプライ)する会社が11,6%、9割以上の項目を実施する企業と合わせると78%に上るそうで、(制度対応としては)本コードの影響力はかなり大きいことがわかります。
ただ(予想どおりといいますか)、73項目の中で、ぶっちぎりに「うちは今のところ実施しません」と開示する企業が多い項目が「取締役会の実効性の分析、評価とその概要の開示」ですね(説明率63%)。取締役会の実効性の分析・評価すらやらない企業と、分析・評価をやっているが、その開示はしない企業が含まれますが、いずれにしても、コード対応の中では各企業が腐心している項目だと思います。私が社外取締役を務める会社でも、いま取締役会の実効性評価作業の真っ最中でして、いざやってみると、プロセスからしてかなり難易度が高いと思います。
いずれまた個社の作業内容については開示の時期に合わせてご説明したいと思いますが、作業プロセスを考えるにあたり、注意すべき点があると考えます。ひとつは上で述べたように、取締役会の実効性の分析、評価だけでなく「概要の開示」が求められているという点です。「エンゲージメント」を「株主との対話」と訳すわけですが、そもそもエンゲージメントは「分かり合うための対話」という意味だそうですから、会社と株主とが永続性ある企業成長のために分かり合える対話に資する内容を開示しなければ意味がないと思います。
つぎに(これは法律家的な課題ですが)ガバナンス・コードは「ソフトロー」と言われていますが、そもそも実施する(コンプライする)ことと、説明する(エクスプレインする)ことに軽重はあるか?という点です。ソフトローであることの意味を重視すればやはりコンプライするのが原則であり、たとえエクスプレインしたとしても、将来的にはコンプライすべき、との意味が含まれていると考えるのが筋でしょう。しかし、コードの趣旨尊重義務が東証規則で明記されていて、その趣旨さえ尊重していればエクスプレインすることも全く構わない(つまりソフトローであることの意味は趣旨尊重義務を尽くすことである)という考え方も成り立ちそうです。最終的には「対話や開示を通じて株主がどのように判断するか」ということでコードの社会的な影響力が担保されていればよいのではないか(あまり神経質にならないでよいのでは)と。
そしてもうひとつが「エクスプレインの内容」です。今回、取締役会の実効性評価を実施しない(つまりエクスプレインする)と決めた企業も、その理由を読むと「2年後までには実施します」とか「実施するかどうか検討中です」といった理由になっていない理由が圧倒的に多いですよね(そもそもこれらの回答が「エクスプレイン」といえるのでしょうか?会社法の「社外取締役を置くことが相当でない理由」と同じ現象が生じているような気もします)こういった制度対応が「あたりまえ」になって、「これで良いのであれば横並びが一番!」と考える上場会社さんが増えれば、これはもう「J-SOXの二の舞現象到来」といったところでしょうか。
弁護士的には、北越製紙さんが大王製紙さんの取締役の方々を相手に年末に提起した損害賠償請求訴訟のように、ガバナンス・コードを取締役の善管注意義務と関連付けて援用するような事例が増えてくるのであれば、各企業のコード対応の真剣度も高まるような気もいたしますが(たとえばこちらや こちらを参考)。さあ、企業統治指針もここからが正念場ではないかと。。。
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コメント
この取締役会の評価は本来、社内関係者がやるのではなく、指名委員会がやることを半分前提にした制度ではないでしょうか?指名委員会が設置されていない会社は基本的にこれができない。前提を考えず海外の制度を輸入してしまったことが問題じゃないでしょうか。当然取締役会のメンバーは社外の役員を含めて評価できません。自分のしていることを自分で評価してしまうことになるので。あえて今の制度上で評価できる人がいれば、監査役会の社外監査役が妥当ではないでしょうか。
投稿: 工場労働者 | 2016年3月28日 (月) 18時54分