内部通報・内部告発が暴くのは組織ぐるみの不正である
皆様、明けましておめでとうございます。4日が「仕事始め」ということで、少し正月休みが短かったように感じますね。どうか本年もよろしくお願いいたします。
昨年12月25日から更新をしておりませんでしたが、その間、東洋ゴム工業さんの防振ゴム偽装事件に関する社内調査報告書が公表されました。8月20日の内部通報によって偽装が判明した、とありましたが、実は2年前から本社取締役(の一部)も偽装を認識していたことが報告されています。通報がなければ「偽装」の事実だけでなく「不正の放置」という組織ぐるみの不適切な事実も発覚しなかったということになります。
また、元旦の読売新聞一面トップには数研出版さんの検定未了教科書に関する謝礼問題が報じられました(元旦の新聞には時々不祥事がトップ記事として掲載されますので、毎年かならず各紙正月版には目を通しています)。数研出版さんの事例について、読売記事では、記者さんの手元にある内部文書が詳細に分析・解説されていましたので、こちらも(推測ですが)内部告発によるものと思います。営業社員に対する具体的な指示(学校以外の場所で、口外しないようお願いしたうえで・・・等)までコメント欄に記載されていたとありますので、まさに組織ぐるみのルール違反かと。
内部通報・告発を行う人の支援、内部通報・告発がなされた会社側対応の支援等を通じて「通報や告発を行いやすい組織風土が企業に形成されつつある」と感じます。「見て見ぬフリをする組織の中で働くことは耐えられない」「不正な手法で自分より待遇が良いというのはナットクできない」「共同通報者・共同告発者が5人から10人に増えた」等、通報や告発に至るハードルがかなり下がっていることを実感します。また、これまでは(内部通報制度に関する課題が周知されていなかったので)匿名通報がすぐにバレてしまう、ということが多かったのですが、最近はヘルプラインの整備とともに、一般社員の方々にもノウハウが蓄積されてきましたので、匿名性がかなり高い確率で確保されるようになってきました。これも通報や告発を行いやすい土壌が形成されてきた一因だと思います。
今年も内部通報や内部告発が企業不祥事の端緒となるケースが多いと予想いたしますが、社内調査委員会や第三者委員会が設置されると、そこに通報や告発が届き、多くの情報が提供され、不祥事がさらに大きく発展するケースも増えるものと予想いたします。最近はパワハラ案件を中心に共同通報、共同告発も増えており、告発することに暗いイメージはなくなりつつあります。40代、50代社員の「組織における大人の流儀」は非正規社員の方や30代以下の社員の方には通用しないように思います。ヘルプライン担当者の方々も、このあたりの事情を十分に理解しておく必要があるのかもしれません。
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コメント
山口先生 明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い致します。「見て見ぬフリをする組織の中で働くことは耐えられない」そんな組織は、許せないと思います。・・・社会は変わっているのだと、私もそのように少しですが感じています。昨年12月でしたが、学校での生徒に対する体罰を行う教員を見過ごす同僚(教員)も、まだ各県にいるとの報道を見聞きすると、胸が張り裂けそうになります。どこの企業・組織にも、攻撃的な人物はいますよね。攻撃的な上司のもとで、暴言により人格が傷つけられて、腹の底から声が出なくなってしまった方が、私の直属の上司として異動されてきたことがありました。そんな職場環境の中では、私も「ときめく」と感じる時間は、本当に少なかったなと思います。(少し気分を変えて)今手元には、ある法律雑誌の付録「LAWYERS GUIDE 2012」があります。手がけた案件・主要取扱い業務・ご著書などが書かれています。ほとんどの法律事務所は、日比谷公園から徒歩圏内もしくは、TAXIでワンメーターのところばかりの立地の良い場所ですね。クライアントの社員の「人権を守る」とはどこにも書かれていませんでした。ほとんどの方は、司法制度改革以前に最難関な試験を合格されていた方々なのに、この付録の中では「社員の人権を守る」というフレーズがないのには違和感がありました。会社は利益を稼ぐ場所ですが、企業法務だけでなく労働者も守ってくれるという企業側弁護士事務所も、ちゃんとあるんだと公益通報者が安心して納得できることも必要ではないでしょうか?昨年、ある法令出版会社のHPからYouTubeにジャンプできるようになっていたのでチェックしました。講師が説明するのは「問題社員」の処置についてでした。なんか違うよなと思いました。まっとうな安全な商品を消費者の口元に届けたいと思う社員も、企業の不正を通報すると、この付録の中に登場されるほとんどの事務所は企業側サイドに立って通報者を「問題社員」として扱うのでしょうか?(私が間違っていましたら、スミマセン)・・・まっとうな企業は、HPのCSR情報に全国の本店各部署・自社事務所に、企業側弁護士事務所のシニアパートナーの顔写真を載せた「私達、◎◎(企業側)弁護士事務所は、お務めの会社からは報復をさせない、通報者自身の人権を守る」という宣言書を設置し、縦覧していることを情宣されたらいかがでしょうか?縦覧する目的は、社員だけでなく、外部の来店者や消費者にも窮屈(?)な思いをさせない。社員からは、「当社は、ブラック企業でもないし、ヘドロ企業でもない!」外部の来店者や消費者からは、「おたくの社員は、ときめきを感じることもできる企業風土なんだね?良い企業じゃない!株主になり、おたくの企業を応援したいな!息子・娘・孫を入社させたい。」・・・こんな素敵な宣言書が一社だけでも実現してくれれば、東洋経済さんのCSR調査の項目の中にも入れてもらえるのではないでしょうか?消費者擁護家の方も、企業は公益通報者を大事にしてるねと安心出来るのではないでしょうか?米国には、amicus curiaeという制度があります。裁判所の法定助言者であることから、a friend of courtと呼ばれています。公益通報者も、不正を暴いていただける「コンシュマーの友」(a friend of consumer)と呼んでも差し支えないのではないでしょうか?私のメンターも、数十年前に米国の大学の研究室にいる頃に、本来の意味のamicus curiaeを経験されたと話されていました。
投稿: サンダース | 2016年1月 4日 (月) 04時42分
法廷と書くべきところ法定と誤って記載しました。訂正させて頂きます。
投稿: サンダース | 2016年1月 4日 (月) 15時16分
岡山大学の件は極めて深刻な問題だと存じます。
投稿: 機野 | 2016年1月14日 (木) 12時16分
山口先生 1月19日朝のNHKニュース「おはよう日本」で“内部告発者”知られざる苦悩が紹介されました。消費者庁消費制度課課長からは、「通報者が違法な行為を目の当たりにして 萎縮してしまうというのは社会の利益に反することなので そういったことの障壁は取り除かないといけない」とお話しされていました。」 このショートコーナーでは、要点だけでしたが、詳しくは今月21日(木)夜7:30にクローズアップ現代「内部告発者 知られざる苦悩」でさらに詳しく紹介されるとのことでした。
投稿: サンダース | 2016年1月20日 (水) 00時37分
情報ありがとうございます。そうなのですか。かならず見ないといけませんね。なんとか録画してでもみます!
投稿: toshi | 2016年1月20日 (水) 01時55分
山口先生 1月19日朝のNHKニュース「おはよう日本」の内容は、HPにアップされていましたのでお知らせいたします。http://www.nhk.or.jp/ohayou/marugoto/2016/01/0119.html
投稿: サンダース | 2016年1月21日 (木) 05時43分
今朝のおはよう日本のインタビューは拝師先生だったのですね。そういえば毎日新聞でも拝師先生は本日、消費者庁移転問題について発言されていますね。私はこの取材の日はたまたま欠席だったので、ホント残念です。議事録を読むと、これからが本格的な議論になりそうですね。
投稿: toshi | 2016年1月21日 (木) 16時59分
山口先生 今、BIZLAW「何がクライシス・マネジメントの成否を決めるのか」の対談記事を拝読いたしました。3月1日(火)18:00より弁護士会館講堂クレオBCにて、シンポジウム「企業コンプライアンスと内部通報制度」-公益通報者保護法改正の視点 - が開催されることを日弁連HPで知りました。
投稿: サンダース | 2016年1月28日 (木) 11時46分
山口先生 本日、日本弁護士連合会から、公益通報者保護の実効性を高める法改正を求める会長声明が出されました。http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2016/160609_2.htmlますます、消費者の司令塔である消費者庁の方向性を見届けなくてはなりません。長官は行政官として副知事を経験されただけに、今、頭の中は、ご主人の故郷である徳島県への移転が、最優先事項になってなければいいのですが?市民に向かって、市民のための公益通報者保護法改正は何がなんでも改正すると、市民のための「指令塔」である自覚を持って長官自ら、一人でも多くの方の目に触れるように自らの言葉で、雑誌やマスコミにもメッセージを送ってほしいと思います。
投稿: サンダース | 2016年6月10日 (金) 00時26分
サンダースさん、ありがとうございます。恥ずかしながら、会長声明は存じ上げませんでした。サンダースさんもご存じのとおり、ワーキングチームには強力な2名の弁護士委員(私以外の)がいらっしゃいますので、次のワーキングの際に紹介があるかもしれませんね。もちろん、この声明の内容は私も同意いたしますので、積極的に広報していきたいと思います。
投稿: toshi | 2016年6月10日 (金) 01時00分
山口先生 本日、TBSテレビ NEWS23において、公益通報者保護法改正に関するコーナーの中で
中村雅人弁護士が生出演されました。また、コーナーでお話されたことは改めてご報告させていただきます。
投稿: サンダース | 2016年9月29日 (木) 00時34分