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2016年2月25日 (木)

「上場会社における不祥事対応のプリンシプル正式版」が確定

すでにご承知の方もいらっしゃるかとは思いますが、2月24日付で日本取引所HPにて、「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」の正式版が公表されました(正式版はこちらです)。パブコメに対する取引所の考え方もかなり詳細に開示されています(素案からの修正箇所も何点があります)ので、プリンシプル本文だけでなく、こちらも参考にされてはいかがでしょうか。ちなみにグループ会社における不祥事に対する親会社としての対応、という意味も明確になっています。企業不祥事を体験された(?)役員の方はご承知のとおり、情報開示という点からは、有事には東証さんからたくさんの質問が届きます。その質問への回答・・・といった場面でもこのプリンシプルは要注意ではないかな・・・と個人的には考えています。

そういったことも含みながら、本日(2月25日)、日本取引所主催による上場会社セミナー「『形だけ』に終わらないコーポレートガバナンス」(午後2時より ティアラこうとう)で講演をさせていただきますが、もちろんこのプリンシプルに関するお話も盛り込んでおります。対象は東証上場会社代表者、コンプライアンス担当役員、監査役向け、ということですが、800名近い方の前でお話するのは久しぶりなので、意外と緊張しております(^^;ちなみに大阪は3月3日、国際会議場でございます。

東京商工リサーチさんによる調査結果などもありますので、やはり上場会社の会計不正への対応が中心になります。ただ近時の会計不祥事をご紹介して「後出しじゃんけん」のような話をしても有益とは思えません。なので、ここ2年ほど、私自身が本業として体験した成功例や失敗例をもとに「企業が自浄作用を発揮する」ことの具体的なイメージを共有できればと考えております。まさにコーポレートガバナンスは仕組みや形を議論する時代から運用や取組みの是非を議論する時代へと変遷していくのでしょうね。

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2016年2月22日 (月)

シャープ再建支援策の選択と社外取締役の「特別利害関係者」該当性

Sharp0912社内の権力闘争を扱ったノンフィクションは大好きなので、さっそく週末に「シャープ崩壊~名門企業を壊したのは誰か」(日本経済新聞社編 1,600円税別)を読みました。

関西在住の50代のオッサンとして、あのシャープさんがこのような状況になってしまったのはいまでも信じられません。しかしコーポレートガバナンス改革が謳われる昨今、何が名門企業の価値を毀損していったのか、社内クーデターの勃発など、ガバナンスの側から眺めていくとナットクするところがあり、他社への警鐘(「形だけのガバナンス」への痛烈なる警鐘)にもなる一冊です。クーデターを起こす側も、また防御する側も、昨今の「ガバナンスコード」の考え方は自陣の行動を展開するにあたり、有利に援用できることがわかります(つまり「体制を変える」ということは理屈よりもパワーであり、勝てば官軍、勝利したら理屈は後からなんとでも言える、ということがわかってきます)。

そのパワーゲームの象徴が、なんといっても台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の存在です。ここ5年、シャープの権力闘争の中枢に存在した当該企業に、シャープのガバナンスが翻弄されてきたことがわかります。「決めきれない経営者」「過去の成功体験がもたらす誇り→奢りによる経営判断の遅延」「社内政治の末の宿敵サムスンへの接近」等、ホンハイの戦略に「正義」が宿る要因には事欠きません。本書はこの2016年2月初旬までの産業革新機構の動きとホンハイの動きまで追っていますので、大詰めを迎えたシャープの再建支援策協議の課題についても理解が進みます。

ところで先週末あたりからマスコミで話題になっているのがシャープの社外取締役2名の「議決権はずし」です。2015年6月に実施した債務の株式化による優先株の消却をめぐる産業革新機構とホンハイとの再建支援計画案の違いから、優先株を保有するファンド出身の2名(シャープの社外取締役)は再建支援策を決定する取締役会の議決には加わることはできないのではないか、との意見が出されているとのこと。当該2名の取締役は会社法369条2項における「特別利害関係者」たる取締役に該当するかどうか、といったことが問題になっています。おそらくこの2名の社外取締役が決議に加わることができるか・できないかによって、再建支援策の決定内容が左右されるからこそ問題になっていると推測されます。

シャープの社外役員には、私も存じ上げている著名な大先生(弁護士)がいらっしゃるので、たとえ地方弁護士による場末のブログ(このフレーズはひさしぶり・・・(^^; )の発言でも「何を偉そうに言うとんねん!」と叱られるかもしれず、以下の個人的意見は小声での「つぶやき」だけにしておきたいと思います(笑)。

おそらく弁護士による法律意見書にも記載されていると思うのですが、2名の社外取締役の方々の行動として問題となるのは再建支援策決定に向けての審議に加わることと、決議に加わることの適法性です。また、そのような「特別利害関係性」に疑義ある取締役が加わった取締役会の決議は無効になるのかならなのか、という点も考慮に入れて議論をする必要がありそうです。「提案内容」だけで考えるのであれば、当該2名の社外取締役さんは(おふたりともファンドの代表者たる地位にあるため)会社法369条2項の「特別利害関係人」に該当するように思います。

しかし、先の「シャープ崩壊」を読みますと、ホンハイのこれまでの行動から察するに、議論が必要なのは提案内容だけでなく、信頼に足るパートナーかどうか、将来的なシナジー効果はどうか、取引銀行との関係はどうなるか、といったことも含みます。そうなると、少なくとも審議についてはファンドご出身の2名の取締役の方々も参加すべきではないでしょうか(最近の会社法369条の解釈を前提とすると、「特別利害関係人」にあたる取締役は審議にも参加できない、といった説が有力なので、すでにこの段階で問題が生じていることになります)。

そして、当該2名の社外取締役の方々は、取締役会の再建支援策決定に関する議案については「特別利害関係者」には該当しないが(つまり審議には適法に参加できるが)、最終的な決議については実質的な利益相反状態が生じているものとして善管注意義務・忠実義務の一環として参加を控えるべきである、という解釈の余地が残ります。私的にはこの解釈が一番ナットク感が高いように思います。つまり、たとえ会社法369条2項の解釈問題をクリアできたとしても、不公正な手続きによって(忠実義務に反するような取締役による議決権行使があったとして)後日、取締役会の決議が無効になる、といったリーガルリスク(提訴可能性、敗訴可能性)を回避すべきではないかと。

2名の社外取締役の方々が「特別利害関係者」ではないとする点ではホンハイ側に有利な解釈ですが、最終的に「取締役の忠実義務」を持ち出して決議への参加を認めない点では産業革新機構側に有利な解釈です(取締役会議長はたいへんですね)。以上はあくまでも野次馬の私見にすぎません。結局最終判断はシャープ内部における権力関係(パワー)に依存するものであり、いまこそ内部権力が一枚岩になることがシャープ再建にとって最も大切だと(上記本を読んで)感じるところです。特別利害関係人であろうがなかろうが、忠実義務違反による不公正決議の可能性があろうがなかろうが、審議に参加する全員が一枚岩になることさえできれば、そもそもリーガルリスクはほぼ解消するものである(後で蒸し返すことは困難)、ということを忘れてはなりません。会社法が司法の場における権力闘争の武器として活用されるのではなく、ギリギリのところで組織が一枚岩になれるためのツールとして活用されることが最も大切だと考えます。・・・・・すいぶんと長い「つぶやき」になってしまいました。。。

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2016年2月19日 (金)

会計監査人を新日本監査法人から別法人に交代するリリースの解釈

東証1部のJACリクルートメントさんが、会計監査人の交代に関するリリースを出されています(3月の株主総会における付議案件の決定)。次期監査法人としては(新日本さんよりも)トーマツさんが適切と判断した、として新日本監査法人さんから交代するそうです。新日本監査法人さんが行政処分を受けた後、このように(新日本→別法人のように)会計監査人が交代するのは初めてではないでしょうか。

監査役会が会計監査人の選任議案の内容を決定することになるので、このたびの新日本監査法人さんの行政処分を受けて「別の監査法人に変更する」という監査役会の判断は十分考えられるところです。したがって、JACさんのような説明もありうると思います。逆に今後も新日本さんに会計監査を継続して選任する、という企業は(会社法430条やガバナンスコードとの関係から)株主総会、取締役会に対してそれなりの説明が必要になりますね(そもそも選任継続を決定するにあたり、新日本さんからどのような資料をもって説明を求めるか・・・というあたりも大事かと)。

ただ、新日本さんは改善計画のもとで監査の品質向上のために、いま、監査先企業への監査が適正であるかどうかを厳格に検証されているそうです(2月18日の日経ニュースによればば「東芝事件を受けて」とあります)。したがって逆に(品質向上のために)新日本さんのほうから企業の選別を図らねばならない・・・ということも十分考えられます。そうなると、新日本さんから別の監査法人に交代があった場合、「これは会社側から継続拒否となったのか、新日本側から拒否となったのか」株主や投資家としてはとても知りたいところではないでしょうか?

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金融庁SSC・CGCフォローアップ会議意見書への雑感

本日(2月18日)、金融庁に設置された「スチュワードシップコード及びコーポレートガバナンスコードのフォローアップ会議」から、「会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上に向けた取締役会の在り方」と題する意見書が公表されました。上場会社のガバナンスコードへの対応状況を踏まえ、形式ではなく実効的なガバナンスを実現するために、現時点で重要と考えられる視点を示したもの、とされています。今回はとりわけ取締役会のあり方に重点を置いた内容になっています。

CEOの選任・解任のあり方、取締役会の構成、取締役会の運営、取締役会の実効性評価等、企業の不断の努力(PDCA)が必要と思われる内容についてはそのとおりかとは思うのですが、内容的にやや不満なのは監査役の取締役会における役割が全く示されていないところです。

ガバナンスコードでは、監査役は「守り」に徹することなく、取締役会において積極的に意見を述べるべきであるとされ、「攻めのガバナンス」への貢献が期待されています。このコードにコンプライしている企業が圧倒的に多いのですが、監査役の貢献は「現時点では重要ではない」ということでしょうか?それとも次の意見書でとりまとめられる、ということでしょうか?どこの上場企業にも社外監査役が2名以上存在するにもかかわらず、またコード2-4では(持続的成長のために)多様な意見を確保すべき、とされているにもかかわらず、社外監査役の有効活用がまったく取締役会のあり方において触れられていないのは疑問に感じます。

監査役は取締役会において監督機能を果たすべき、とガバナンスコードでは謳われている一方で、独立社外取締役は増え続け、監査等委員会設置会社も増加傾向にある今。そのような今だからこそ、各企業が監査機能をどれだけ重視しているか(軽視しているか)を株主が確認する指標としては、以下のような質問を(経営者に)投げかけることも一案です。

ひとつは社外取締役と社外監査役との報酬の差です。株主総会招集通知の添付資料を読むと、おおよそ差がわかりますので、「社外取締役と社外監査役との、この報酬の差はどこにあるのか、説明してほしい」と質問することです。

二つ目は監査等委員会設置会社に移行した会社の場合には、「これまでの社外監査役の報酬と、社外の取締役監査等委員との報酬がほぼ同じである理由はどこにあるのか?」と質問することです。

そして最後に常勤監査役さんには、「御社は今年の日本監査役協会監査基準の大幅な改訂に対して、どのように社内監査基準を改訂したのか?」と質問すべきです。改訂した企業、そうでない企業様々ですが、いずれであれ監査役さんの自信に満ちた理由を聞くことができれば、その会社の監査環境の整備状況がわかります。

これらの質問は、いずれも個々の上場会社の経営者が監査役監査の重要性をどのように考えているか、ひいては監査法人による監査(つまりは株主に対する情報開示の重要性)をどれだけ重視しているかを理解する糸口になるはずです。

私自身、社外取締役として取締役会議長を務め、任意の委員会の委員を務める経験からしますと、たしかに業績向上を後押しする重責を(社外取締役が)担っていることは否定しません。しかし、企業がスピード経営重視で儲けるためには常に「不祥事の芽」を抱えざるを得ないわけですから、行く先に光を照らす役割を務める監査役をどのように攻めのガバナンスに活かすか、これからとても重要に思えるのです。制度対応(外向き)ではなく、ガバナンスの実効性を高めるという視点でいえば、まさに外向きには説明しにくい「監査役」の活用こそ競争力向上のカギになると思います。

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2016年2月18日 (木)

企業不祥事対応プリンシプルの趣旨を反映した第三者委員会報告書が登場

上場してわずか4か月後に過年度決算を訂正、しかも元役員の資産流用事件が原因という、またまた日本取引所を悩ませる会計不祥事が話題になっておりますが、こちらもそんな中小上場会社の不祥事対応の話題です。すでにパブコメ期限が締め切られ、まもなく日本取引所の「考え方」とともに正式版が公表される「上場会社における企業不祥事対応のプリンシプル」ですが、早くもこのプリンシプルの趣旨を取り入れた第三者委員会報告書がリリースされています(2月12日付け ジェイホールディングス社「第三者委員会による調査報告書受領のお知らせ」-報告書本文2頁の下注に記載されていますね)。興味深く読ませていただきました。

本報告書では、会社にとって重要なファイナンスを実行する際の社内手続き違反、適時開示違反が問題とされており、当該事案が発生するに至った原因を内部管理体制上の問題点を中心に掘り下げています。また、類似案件の存否についても熱心に調査が行われ、過去5年以内に数件の同種案件の存在を明らかにしています(これに伴い、会社側は2月12日付けで過去の案件について新たに開示しています)。経営陣(旧経営陣含む)からのヒアリング結果だけをみると、「ビックリするようなガバナンス体制・・・」のようにも感じますが、自ら調査範囲を設定して、内部管理体制を中心に原因究明を行い、説得的な再発防止策を提示しているところは、まさにプリンシプルの趣旨に沿った報告書ではないかと。

「経営者の内部統制無効化リスク」に触れているところも特徴的です。1月27日、東芝事件を受けて日本公認会計士協会の会長通牒「公認会計士監査の信頼回復に向けた監査業務への取組」が公表され、その中で光があてられた(すべての上場会社に存在する)リスクです。職業的懐疑心を発揮して監査に臨むためには、会計監査人の方々もこの「経営者の内部統制無効化リスク」の存否について厳しく評価をしていただきたいと思います。ちなみに私の個人的見解としては、管理担当取締役が存在しない点や上場会社の社外監査役の月額5万円報酬・・・という点において、すでに経営者の内部統制無効化リスクが高いとしか言いようがないような気がします(社外監査役の重要な役割からすれば、「どうか働かないで」といったメッセージだったのでしょうか・・・)。

取締役会、監査役会への厳しい意見が述べられ、このままでは将来的にも同様のガバナンス不全、開示義務違反が起こってしまう、と委員会は警鐘を鳴らしています。「あなたが出席していた取締役会で、もしこの少数の経営陣で決められたことが(付議案件として)上程されていたとすると、あなたは止めることができましたか?」と調査委員から質問され、「いやぁ、私はそれを止める自信はありませんね」と堂々とおっしゃる取締役、監査役の方々がいらっしゃるわけで。。。(^^;)「経営者=企業価値、期待価値」のような中小規模の上場会社のガバナンスって、どうしたらよいものでしょうかね。。。(^^;)

いずれにせよ、不祥事発生時、自浄作用を発揮できない企業は上場すべきではない(上場を維持すべきではない)…という点は、おそらく皆様方の共通認識ではないでしょうか。不祥事対応のプリンシプルは「時間軸」を持つ原則指針なので、ジェイホールディングスさんが「自浄作用を発揮した」といえるためには、今後この報告書を基にどのようなガバナンスを構築していくか、そこが最も重要なポイントです。真に「不祥事対応のプリンシプル」に準拠したといえるためには、これからの同社の地道な内部管理体制の構築が大前提です。お金のかかる「仕組み作り」よりも、気合いを重視する「運用」にこそ光が当たるガバナンス構築が必要ですね。

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2016年2月15日 (月)

ガバナンス改革に反応する会社法改正と株式買取請求制度の整備

最近会社法が改正されたかと思ったら、法務省を中心に、もう次の会社法改正に向けての議論が始まっています(商事法務研究会における審議状況はこちらです)。研究会では社外取締役の義務付け、といった会社法附則25条に関連する論点だけが取り上げられるのかと思っていましたが、最近の会計不祥事に起因する検討事項なども含め、かなり広い範囲で「改正の是非を検討すべき事項」が含まれています(昨年7月に公表された経産省のガバナンス研究会報告-会社法解釈指針が基になっているものが多いようです。ちなみに前回の改正事項として最後に消えてしまった「金商法違反によって取得した株式に関する議決権行使禁止」に関する論点などは挙がっていないみたいですね。企業統治とはあまり関係ない、ということでしょうか・・・)。

結局のところ、アベノミクスを後押しする(日本再興戦略2015をバックアップする)法改正の趣旨が強いようで、上からも(ガバナンスの視点からも)下からも(株主による監視強化の視点からも)かなり「ゆるふわ」になってしまうことが懸念されるような内容です。いくら「攻めのガバナンス」が期待されているからといっても、2月12日のブルームバーグニュースで報じられているように、「形ばかりで実質が伴わないゆるふわガバナンス」となりますと、経営陣のモラルハザードを助長することが危惧されます。もしこのような方向で法改正が進むのであれば、韓国のように「法律参与(遵法監視人)制度」を導入するか、法律家の社外役員を導入することを検討しなければ、経営戦略的にもマズイことにならないでしょうかね。リスクを承知でアクセルを踏み込む勇気は良質なブレーキの存在が前提ですよね。

ところで上記研究会において、「おお!これは良い論点だ!」と個人的に思いましたのは「特別支配株主(又は一定の支配株主)に対する少数株主の株式買取請求権(セル・アウト権)を導入することについて」という検討事項です。株式会社は有限責任の株主で構成される法人なので、持分会社と比較しますと、株主の利益よりも(債権者の利益保護を中心とした)法人としての存続性が重視される傾向にあります。最近の会社法改正でも、株主の監督是正権が、やや後退しているように思います(今回の検討の中でも、たとえば株主代表訴訟の少数株主権化、訴訟委員会前置の是非等が検討されるようです)。株主による監督是正権行使への期待が薄れるとなりますと、法人からの離脱容易性が当然に問題になるわけでして、この時期にセル・アウト権の導入問題に光があたるのはタイムリーではないでしょうか。

また、非公開かつ取締役会非設置会社などでは、支配株主の横暴によって少数株主の利益が侵害されるケースが目立ちます。最近の東京地裁立川支部平成25年9月25日判決では、支配株主の横暴によって会社法109条2項の「属人的制度」が濫用された場合の支配株主による定款変更の効力を否定しています。法人の永続性を重視するのであれば、少数株主が適正な株式評価のもとで、法人から離脱する機会を法制度として保証すべきではないでしょうか。一般的には株主総会の決議取消訴訟を提起したり、会社解散の訴えを提起して、その訴訟の中で裁判所の和解的解決を目指すわけですが、きちんとした手続き的保障がないと公正な価格で少数株主が離脱することができないのが実態です。これはぜひ取り上げていただきたい論点です。

なお、話は変わりますが、これだけ「攻めのガバナンス」を支援する法改正が検討されるのであれば、非業務執行役員が活躍できる環境整備についても検討していただきたいところです。たとえば社長と対決できる監査役さんの環境整備については、監査役の地位を喪失しても違法行為の是正に向けた権限を喪失しないこと(たとえば監査役としての地位喪失後も株主総会の決議取消訴訟における原告適格を喪失しないこと-株主はすでに法改正がされましたね)、監査役解任決議が争われる株主総会における検査役選任申立権の付与、といったことは法改正が検討されてもよいのではないでしょうか(実際、立法事実もあります)。次回の法改正では無理としても、今後の検討課題にしていただきたいところです。

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2016年2月10日 (水)

旭化成建材社のデータ偽装問題にみる「平時型二次不祥事」の脅威

本日(2月9日)、地元大阪の某会社さんにおいて役員セミナーをさせていただきました。経営幹部の方が理解すべき「二次不祥事」に関するお話が中心でしたが、なかでも「平時型二次不祥事の脅威」について、横浜マンション傾斜事件における旭化成建材さんの事例をご紹介させていただきました。子会社不正による不祥事によってなぜ親会社のトップが退任せざるをえないのか、同業者9社が同じ不正で国交省の処分を受けたにもかかわらず、なぜ旭化成建材さんだけに批判が集中したのか、といったことを私なりに1月8日に公表された外部調査委員会報告書をもとに分析・解説いたしました。

そしてセミナー終了後、旭化成さんから「社内調査委員会の中間報告」がリリースされたことを知りました(社内調査委員会による中間報告書公表のお知らせ)。私はセミナーのレジメにおいて、以下のような外部調査委員会報告書に対する疑問点をパワーポイントシートで示していましたが、本日リリースされた社内調査報告書では、私の疑問に対して真正面から会社側の回答が示されたようです(同報告書21頁以下)。内容の真偽は別として、この素朴な疑問に正面から回答された旭化成さんの姿勢は評価されるべきだと思います。

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旭化成建材さんのトップ(当時)も、やはりデータ偽装(流用)問題を認識しておられたのですね。また、同社の経営幹部の方々も、現場におけるデータ偽装問題を認識しておられたようですが、安易に「極めてレアなケース」として根本的な対策をとる必要はないと考えたそうです。また、現場責任者という立場は専門性が高く、人事が固定しているものであり、他の職場の文化に触れる機会が少なかった、だからこそ過去から踏襲されていたデータ偽装を当たり前の文化として引き継がれていった(つまり、現場の状況を知りながらその後経営幹部になった者はいない)ということのようです。

私から見れば、「データ偽装はあってはならない」といったコンプライアンス教育を徹底するだけであれば、(責任が自分に回ってくる)中間管理職の方々にとって、発生したデータ偽装事件に「見て見ぬふりをする」のはむしろ当然だと思います(みなさん自分の人生があり、家族があるので、それを大切にする気持ちは当然です)。むしろデータ偽装が発生することを知った以上、そのデータ偽装が(別の不祥事や事故をきっかけとして)どのようなコンプライアンス問題に発展するのか、そこをきちんと想定できなかったことに親会社トップが退任しなければならないほどの問題点が隠されていると考えます。つまり経営トップは「データ偽装は起きる!起きたときにどうすべきか?」という発想を前提とした対応手法を現場に示す必要があります。

「有事型二次不祥事」は、一次不祥事を「隠す」「証拠を隠滅する」「虚偽報告をする」「見て見ぬふりをする」といった組織的行動を指すもので、イメージが湧きやすいのです。しかし「平時型二次不祥事」は、「社内に潜む軽微な瑕疵に見えるけれども、いざ軽微な瑕疵が表面化するような事態に至った際には、社会的にその軽微な瑕疵を放置する組織に批判が集中する」というもので、一次不祥事よりも時間的には先行する二次不祥事です。これはなかなか平時には見えにくいからこそリスク管理が必要となります。旭化成建材さんのデータ偽装は、おそらく横浜マンションの傾斜の原因ではないはずです。しかし「たまたま」横浜のマンションの傾斜問題が発生したことで、他社でもやっていたはずのデータ偽装が、ただ旭化成グループだけの信用失墜の引き金になりました。これは多くの会社おいても「他山の石」とすべき二次不祥事の脅威です。

そしてこの軽微な瑕疵の放置が「二次不祥事」だからこそ親会社トップが退任せざるをえないほどの混乱に至ります。たしかにくい打ち作業の現場では熟練作業によって安全が確保されていることから、データ記録の確保は形式的な作業なのかもしれません。しかし社外からみればその理屈は世間に通用するものではなく、データの正確な収集=安全性の確保なのです。毎度申し上げるとおり、(競争社会にある)企業は「一次不祥事」を防止することはできませんが、「二次不祥事」は100%防ぐことは可能であり、またマスコミが飛びつく「二次不祥事」こそ未然防止に努めなければなりません。社内には至るところに「放置していてもどうってことない社内ルール違反や不正(瑕疵)」がころがっています。しかしその瑕疵に火がつくとどうなるでしょうか?事件や事故、他社の不祥事などに巻き込まれた場合、その事件の原因にはならずとも、組織としてのコンプライアンス意識の欠如に批判が集まる「瑕疵」も眠っているのではないでしょうか。

私は社内に存在する不正やルール違反を直ちにすべて正せ、とは申しません(効率経営を重視すべき企業において費用対効果の問題は無視できません)。しかし、すこし想像力を働かせて、その小さな不正やルール違反の放置が、どのような重大なリスクに発展する可能性があるのか、考えていただきたいということです。また、そのようなリスク管理能力を持つ人を社内で育成すべきだと思います。「不正は起こしてはいけない」という発想は、仕組み作りばかりに予算を投入し、現場における思考停止を生みます。やはり「不正は当社でも起きる」という発想を前提としたリスク管理が必要であり、仕組よりも運用に注力するリスク管理が経営戦略には求められると思います。

さて、旭化成の社長さんが退任されるという報道がなされ、建材事件は一区切りかと思われていますが、旭化成さんには実はもうひとつ重大な法律問題が今後控えているものと私は予想しています。それはまた別の機会に皆様方と考えてみたいと思います。

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2016年2月 7日 (日)

外国公務員贈賄疑惑(FCPA、不正競争防止法違反)はどこまで開示すべきか

2月5日、オリンパスさんはHP上に「当社子会社に対する米国司法省の調査に係る追加の特別損失の計上に関するお知らせ」と題するリリースをアップしておられます。この海外不正事件は昨年5月に「米国医療事業関連活動に関して平成23年11月より米国司法省の調査を受けていた事件」としてリリースされた件の続編リリースですが、このように突然特損の追加リリースが出されるのが海外不正事件疑惑の特徴です。

ところでひとつオリンパスさんの事件で気になるのが、昨年6月に朝日新聞「法と経済のジャーナル」で報じられた中国国内における「コンサルタント契約問題」(海外公務員への贈賄疑惑)です。オリンパス社の社外監査役さんの要請で「中国におけるコンサルタント契約に関する事件」が社内調査の対象になりました。たしか当時の会長さんが取材に応じられて、社内調査が開始されたことが報じられ、さらに同ジャーナルでは昨年10月に調査報告書を経営陣に提供されたことが報じられました。中国税関当局への贈賄事件だと報じられていますが、外国公務員への贈賄は米国、中国、日本でそれぞれ現地法違反が問題となります。したがってFCPA、不正競争防止法違反事実の有無等、はたして社内調査の結果はどうだったのでしょうか?

FCPA疑惑の場合、米国司法省による捜査対象となり、弁護士秘密特権や弁護士作成文書保護の要請がありますので、社内調査には外部弁護士が加わり、報告書は米国の司法制度に耐えうるものとして作成されているはずです。したがって日本の第三者委員会報告書のように全文が開示されるということはありません。しかし中国における贈賄事件が事実だとすれば、(今後の捜査進展の状況次第では)制裁金の金額は投資家の損害につながる事件なので、社内調査の概要の結果だけでも開示する必要はないのでしょうか。それとも未だ中間報告ということなのでしょうか。このあたりは投資家への適切な開示という視点からとても気になっているところです。

経産省の外国公務員贈賄防止指針(平成27年7月改訂版)などでも、親会社による海外贈賄事件の調査はとてもむずかしいことが示されています。たとえば現地子会社のトップや担当者のヒアリングはできたのでしょうか、また代理店(コンサルタント会社)の担当者のヒアリングは可能だったのでしょうか。この現地の二者のヒアリングが困難ですと、たとえフォレンジック等を活用したとしても、そもそも違反事実は確定できないものと思われます。また、コンサルタント会社のオ社子会社との取引比率やコンサルタント委託事業の内容、資金の流れなども、ゼネコンによるわいろ疑惑と同じような「不自然さ」が認定のキモになります。さらに、調査委員会の結論が「真っ白」だったのか「真っ黒」だったのか、それとも「グレー」だったのかも注目です。先に述べたように、関係者ヒアリングがとても困難なのが実際のところなので、「真っ黒」というのはなかなか認定はできず、「社内調査の限界としてのグレー」という結果だとすれば、かなり疑惑が深まるということになるのではないかと。

本日、某研究会で、某メーカーの会長さんから、ロシアでの事業開始直前、同国公務員からわいろを要求され、これを拒否したことによって事業が1年以上停止し、たいへんな損害を被った話をお聴きしました。業界挙げて外国公務員への贈賄禁止に取り組む必要性を語っておられましたが、私自身も本当に海外贈賄への取り組みの必要性を痛感しています。当初から何らの開示もなければ問題にはなりませんが、中国における贈賄(と思料される)疑惑について社内調査が開始されたとマスコミ報道がなされたこをと前提としますと、オリンパスさんにとっても、何らかの追加開示が必要になってくるように思うのですが、いかがでしょうか。いずれにしましても、社外監査役から調査要請のあった「海外不正疑惑」を発生させたオリンパス社の内部統制には、かなり重大な問題があったのかもしれませんね。

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2016年2月 4日 (木)

自浄作用が発揮されない企業には事後規制(刑事処分)が待っている

東洋ゴム工業社とその子会社が免震ゴムの性能データを偽装していた問題で、大阪地検特捜部は、取引先関係者から不正競争防止法違反(誤認惹起表示)容疑で告発状の提出を受け、これを受理する方針と各マスコミで報じられています(当時の担当者らの関与について捜査する方針を固めたとのこと)。

昨年7月、木曽路さんの不正競争防止法違反事件に関する こちらのエントリーでも書きましたが、やはり自浄作用が発揮できない企業不祥事には事後規制としての刑事処分が待っている、と考えるべきです。東洋ゴムの新社長さんは昨年11月、「旧経営陣には損害賠償請求は考えていない」と述べておられました(たとえば山陽新聞はこちら)。また、防振ゴムに関する三回目の偽装事件が発覚した後の外部調査委員会も中途半端な事実認定に終わってしまい、組織の構造的欠陥の究明がなされないままになっていると評価されています(たとえば産経新聞ニュースはこちら)。このように東洋ゴム工業さんにおいて、未だ自浄作用を発揮していないのであれば、もはや原因究明のために刑事処分が活用されることは十分予想されたところです(前にも述べた通り、最近は消費者取引においても不正競争防止法が活用される時代になりました)。

日本の両罰規定の法的性質から、関係者の犯罪実行を前提として法人が処罰されるわけですが、誰のどのような行為に問題があったのか、司法当局によって徹底的に究明されることが予想されます。ただ、不正競争防止法における法人処罰としての罰金(誤認惹起は3億円以下)は「ペナルティ」ではなく「サンクション」だといわれており、道義的責任を追及する(法人の消滅もやむをえない)ということよりも、再生のためにお灸をすえるといった意味合いが強いと考えられます。したがって、この機会にこそ、グループ全体としての不祥事体質にメスを入れて、不正に立ち向かえる自浄能力を備える組織になっていただきたいと願うところです。

他社さんにおいても、様々な社内力学によって不祥事の真相解明に消極的になってしまうこともあるかもしれません。東洋ゴム工業さんの事例は、組織の不正リスク管理の在り方に多大な教訓を残すものと思います。

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2016年2月 3日 (水)

本林塾講演録・新時代を切り拓く弁護士(商事法務)

Ew448lo廃棄カツ横流し事件や情報漏えい事件等、企業の危機対応の仕事が重なっておりまして、ブログを書く時間がとれない状況ですが、本のご紹介だけさせていただきます。

本林徹弁護士(元日弁連会長)からお誘いを受け、昨年「若手の弁護士、弁護士を目指す人たちにビジネス法務のおもしろさを伝えてほしい」との趣旨に賛同し、同弁護士が主催する会合で講演をさせていただきました。このたび、様々な分野のビジネス弁護士による「本林塾」での講演録が一冊の本にまとめられ出版される運びとなりました。

本林塾講演録・新時代を切り拓く弁護士(本林徹編著 商事法務 2,300円税別)

商事法務さんのHPでの紹介文は、

編者が主宰した「本林塾」において、ビジネス法務の最前線で活躍する弁護士10名が行った講演録をまとめたもの。コンプライアンス、海外進出、危機管理・第三者委員会、企業再生、知的財産権、独禁法、M&A、社外取締役・社外監査役などビジネス法務全般を第一線の弁護士が解説。

とのこと。推薦文を書かれた方々の顔ぶれも豪華。私は社外取締役・社外監査役に関連するお話をさせていただきましたが、もう少しページがあればD&O保険の実務についても述べておきたかったところです(今年、おそらく話題になるかと)。

正直申し上げて、私以外はまちがいなくビジネス法務の最前線で活躍されている方ばかりです。ほかの方の講演録を読みましたが、法律家という職業が「職人芸」として大好きなのは皆様共通しているのですね。私はフラフラしながらいつのまにかコンプライアンスやガバナンス関連の分野で仕事をしているわけですが、「気がついたら○○の専門家になっていた」という経歴をお持ちの方が私以外にもいらっしゃるようです。

「こうなりたい」といった熱意が私になかったものですから後悔することも多いです。某社委任状争奪戦の際、海外ファンド側社外取締役候補の打診を受けましたが、語学力が不十分で「若いときに留学しておけばなぁ・・・」と思いながら断念しました。ただ、今はあつかましいので、(知り合いの通訳さんと二人三脚で)海外ファンドとコミュニケーションはとれる!なんとかなる!と前向きに考えますね。秘密特権や法律作成文書保護が問題とならない限り、経歴不足は人脈でカバーできる、と考えるようにしています。

私も含め、講演者10名全員が無償で講演録の執筆に従事しましたので、本の分厚さと比較しますと手ごろなお値段になっております。多くの方にお読みいただければ幸いです。

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