ガバナンス改革に反応する会社法改正と株式買取請求制度の整備
最近会社法が改正されたかと思ったら、法務省を中心に、もう次の会社法改正に向けての議論が始まっています(商事法務研究会における審議状況はこちらです)。研究会では社外取締役の義務付け、といった会社法附則25条に関連する論点だけが取り上げられるのかと思っていましたが、最近の会計不祥事に起因する検討事項なども含め、かなり広い範囲で「改正の是非を検討すべき事項」が含まれています(昨年7月に公表された経産省のガバナンス研究会報告-会社法解釈指針が基になっているものが多いようです。ちなみに前回の改正事項として最後に消えてしまった「金商法違反によって取得した株式に関する議決権行使禁止」に関する論点などは挙がっていないみたいですね。企業統治とはあまり関係ない、ということでしょうか・・・)。
結局のところ、アベノミクスを後押しする(日本再興戦略2015をバックアップする)法改正の趣旨が強いようで、上からも(ガバナンスの視点からも)下からも(株主による監視強化の視点からも)かなり「ゆるふわ」になってしまうことが懸念されるような内容です。いくら「攻めのガバナンス」が期待されているからといっても、2月12日のブルームバーグニュースで報じられているように、「形ばかりで実質が伴わないゆるふわガバナンス」となりますと、経営陣のモラルハザードを助長することが危惧されます。もしこのような方向で法改正が進むのであれば、韓国のように「法律参与(遵法監視人)制度」を導入するか、法律家の社外役員を導入することを検討しなければ、経営戦略的にもマズイことにならないでしょうかね。リスクを承知でアクセルを踏み込む勇気は良質なブレーキの存在が前提ですよね。
ところで上記研究会において、「おお!これは良い論点だ!」と個人的に思いましたのは「特別支配株主(又は一定の支配株主)に対する少数株主の株式買取請求権(セル・アウト権)を導入することについて」という検討事項です。株式会社は有限責任の株主で構成される法人なので、持分会社と比較しますと、株主の利益よりも(債権者の利益保護を中心とした)法人としての存続性が重視される傾向にあります。最近の会社法改正でも、株主の監督是正権が、やや後退しているように思います(今回の検討の中でも、たとえば株主代表訴訟の少数株主権化、訴訟委員会前置の是非等が検討されるようです)。株主による監督是正権行使への期待が薄れるとなりますと、法人からの離脱容易性が当然に問題になるわけでして、この時期にセル・アウト権の導入問題に光があたるのはタイムリーではないでしょうか。
また、非公開かつ取締役会非設置会社などでは、支配株主の横暴によって少数株主の利益が侵害されるケースが目立ちます。最近の東京地裁立川支部平成25年9月25日判決では、支配株主の横暴によって会社法109条2項の「属人的制度」が濫用された場合の支配株主による定款変更の効力を否定しています。法人の永続性を重視するのであれば、少数株主が適正な株式評価のもとで、法人から離脱する機会を法制度として保証すべきではないでしょうか。一般的には株主総会の決議取消訴訟を提起したり、会社解散の訴えを提起して、その訴訟の中で裁判所の和解的解決を目指すわけですが、きちんとした手続き的保障がないと公正な価格で少数株主が離脱することができないのが実態です。これはぜひ取り上げていただきたい論点です。
なお、話は変わりますが、これだけ「攻めのガバナンス」を支援する法改正が検討されるのであれば、非業務執行役員が活躍できる環境整備についても検討していただきたいところです。たとえば社長と対決できる監査役さんの環境整備については、監査役の地位を喪失しても違法行為の是正に向けた権限を喪失しないこと(たとえば監査役としての地位喪失後も株主総会の決議取消訴訟における原告適格を喪失しないこと-株主はすでに法改正がされましたね)、監査役解任決議が争われる株主総会における検査役選任申立権の付与、といったことは法改正が検討されてもよいのではないでしょうか(実際、立法事実もあります)。次回の法改正では無理としても、今後の検討課題にしていただきたいところです。
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