旭化成建材社のデータ偽装問題にみる「平時型二次不祥事」の脅威
本日(2月9日)、地元大阪の某会社さんにおいて役員セミナーをさせていただきました。経営幹部の方が理解すべき「二次不祥事」に関するお話が中心でしたが、なかでも「平時型二次不祥事の脅威」について、横浜マンション傾斜事件における旭化成建材さんの事例をご紹介させていただきました。子会社不正による不祥事によってなぜ親会社のトップが退任せざるをえないのか、同業者9社が同じ不正で国交省の処分を受けたにもかかわらず、なぜ旭化成建材さんだけに批判が集中したのか、といったことを私なりに1月8日に公表された外部調査委員会報告書をもとに分析・解説いたしました。
そしてセミナー終了後、旭化成さんから「社内調査委員会の中間報告」がリリースされたことを知りました(社内調査委員会による中間報告書公表のお知らせ)。私はセミナーのレジメにおいて、以下のような外部調査委員会報告書に対する疑問点をパワーポイントシートで示していましたが、本日リリースされた社内調査報告書では、私の疑問に対して真正面から会社側の回答が示されたようです(同報告書21頁以下)。内容の真偽は別として、この素朴な疑問に正面から回答された旭化成さんの姿勢は評価されるべきだと思います。
旭化成建材さんのトップ(当時)も、やはりデータ偽装(流用)問題を認識しておられたのですね。また、同社の経営幹部の方々も、現場におけるデータ偽装問題を認識しておられたようですが、安易に「極めてレアなケース」として根本的な対策をとる必要はないと考えたそうです。また、現場責任者という立場は専門性が高く、人事が固定しているものであり、他の職場の文化に触れる機会が少なかった、だからこそ過去から踏襲されていたデータ偽装を当たり前の文化として引き継がれていった(つまり、現場の状況を知りながらその後経営幹部になった者はいない)ということのようです。
私から見れば、「データ偽装はあってはならない」といったコンプライアンス教育を徹底するだけであれば、(責任が自分に回ってくる)中間管理職の方々にとって、発生したデータ偽装事件に「見て見ぬふりをする」のはむしろ当然だと思います(みなさん自分の人生があり、家族があるので、それを大切にする気持ちは当然です)。むしろデータ偽装が発生することを知った以上、そのデータ偽装が(別の不祥事や事故をきっかけとして)どのようなコンプライアンス問題に発展するのか、そこをきちんと想定できなかったことに親会社トップが退任しなければならないほどの問題点が隠されていると考えます。つまり経営トップは「データ偽装は起きる!起きたときにどうすべきか?」という発想を前提とした対応手法を現場に示す必要があります。
「有事型二次不祥事」は、一次不祥事を「隠す」「証拠を隠滅する」「虚偽報告をする」「見て見ぬふりをする」といった組織的行動を指すもので、イメージが湧きやすいのです。しかし「平時型二次不祥事」は、「社内に潜む軽微な瑕疵に見えるけれども、いざ軽微な瑕疵が表面化するような事態に至った際には、社会的にその軽微な瑕疵を放置する組織に批判が集中する」というもので、一次不祥事よりも時間的には先行する二次不祥事です。これはなかなか平時には見えにくいからこそリスク管理が必要となります。旭化成建材さんのデータ偽装は、おそらく横浜マンションの傾斜の原因ではないはずです。しかし「たまたま」横浜のマンションの傾斜問題が発生したことで、他社でもやっていたはずのデータ偽装が、ただ旭化成グループだけの信用失墜の引き金になりました。これは多くの会社おいても「他山の石」とすべき二次不祥事の脅威です。
そしてこの軽微な瑕疵の放置が「二次不祥事」だからこそ親会社トップが退任せざるをえないほどの混乱に至ります。たしかにくい打ち作業の現場では熟練作業によって安全が確保されていることから、データ記録の確保は形式的な作業なのかもしれません。しかし社外からみればその理屈は世間に通用するものではなく、データの正確な収集=安全性の確保なのです。毎度申し上げるとおり、(競争社会にある)企業は「一次不祥事」を防止することはできませんが、「二次不祥事」は100%防ぐことは可能であり、またマスコミが飛びつく「二次不祥事」こそ未然防止に努めなければなりません。社内には至るところに「放置していてもどうってことない社内ルール違反や不正(瑕疵)」がころがっています。しかしその瑕疵に火がつくとどうなるでしょうか?事件や事故、他社の不祥事などに巻き込まれた場合、その事件の原因にはならずとも、組織としてのコンプライアンス意識の欠如に批判が集まる「瑕疵」も眠っているのではないでしょうか。
私は社内に存在する不正やルール違反を直ちにすべて正せ、とは申しません(効率経営を重視すべき企業において費用対効果の問題は無視できません)。しかし、すこし想像力を働かせて、その小さな不正やルール違反の放置が、どのような重大なリスクに発展する可能性があるのか、考えていただきたいということです。また、そのようなリスク管理能力を持つ人を社内で育成すべきだと思います。「不正は起こしてはいけない」という発想は、仕組み作りばかりに予算を投入し、現場における思考停止を生みます。やはり「不正は当社でも起きる」という発想を前提としたリスク管理が必要であり、仕組よりも運用に注力するリスク管理が経営戦略には求められると思います。
さて、旭化成の社長さんが退任されるという報道がなされ、建材事件は一区切りかと思われていますが、旭化成さんには実はもうひとつ重大な法律問題が今後控えているものと私は予想しています。それはまた別の機会に皆様方と考えてみたいと思います。
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コメント
日経BPの細野さんの記事を読むと、記録の紛失なんかで騒いでいる場合ではないような気がしますが
http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/sj/15/150245/012500036/
投稿: ansible_com | 2016年2月14日 (日) 11時55分