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2016年3月 7日 (月)

コーポレートガバナンス・コードとクックパッド社監査報告書の「両成敗でいいじゃない」

すでにいろいろなネットメディアで話題になっておりますクックパッド社(2193)の監査報告書ですが、ひさびさの「モノ言う監査役の乱」シリーズ(正確には同社は指名委員会等設置会社なので監査委員の乱、ということですが)にふさわしい内容です。(当該監査報告書が掲載されているクックパッド社第12回定時株主総会招集通知はこちら)。

ご承知のとおり、昨年末から今年2月初めにかけて、同社経営陣による支配権争いが表面化したわけですが、紛争勃発から手打ちまでの舞台裏を、同社社外取締役監査委員が(後発事象としてではありますが)が明らかにして、一連のゴタゴタに関する法的評価を下しておられます(監査役の有事対応を考えるにあたっても非常に参考になります)。ちなみに指名委員会等設置会社の監査委員会は組織的監査を行いますので、監査委員ひとりひとりが独任制の機関ではございません。ただ、監査委員会としての報告の中で、おひとりの監査委員(たいへん有名な法律家の方)が「補足意見」を述べおられ、その「補足意見」がなかなかに読みごたえがあります。私が同じ監査委員の立場であればどのような対応をしただろうかと、真剣に悩む事例です。

コーポレートガバナンス・コード原則4-4、同4-5は、上場会社の監査役等に対してボードの監督機能の一翼を担うべきことを要請しており、これにコンプライする上場会社の監査役等は、積極的・能動的に権限を行使し、また経営判断の妥当性についても能動的に意見を表明することが求められます。この監査委員の補足意見のように、たとえ違法とは言えないまでも、取締役の職務執行の妥当性に問題あり、と考える監査役等は積極的に意見表明を行うことが投資家の議決権行使にとっては有益と考えられます(だからこそ、このたびのコード4-4、4-5にコンプライすることを表明しながら、社外取締役と社外監査役に報酬の差を設けている上場会社に対しては、私はその報酬の差が存在する理由を明確に株主総会で説明していただきたいと考えるところです)。

クックパッド社は、指名委員会等設置会社の機関形態を選択していますので、指名委員会、報酬委員会は必要的機関(設置が強制される機関)です。取締役候補者の人選にあたっては、社外取締役が過半数を占める指名委員会において実質的な決定がなされる必要があるわけです。私は同社の内部事情は存じ上げませんので、このような監査報告がなされた背景には社内力学が働いている可能性も否定できません。しかし、この監査報告書(補足意見)で述べられている経営権争いの「和解」として、総会上程議案とされた取締役候補者が決定された経緯が真実であるならば、同社の指名委員会の権限は経営陣によって完全に無視されたこととなり、会社法違反の疑いも浮上するのではないでしょうか。監査委員のおひとりが、43%の株式を保有する創業者取締役の対応に厳しい法的意見を述べつつも、最終的には現経営陣も含めた「両成敗」の形で双方に警告を発しているのは、やはりコーポレートガバナンス・コードを実施する上場会社が、取締役会の実効性を全く無視した形でこのような紛争を解決したことを問題視したからだと推察いたします。

もちろん社外取締役が中心となる指名委員会及び有事対応として構成された特別委員会の判断が大株主の意向に沿わない場合には、最終的には取締役交代ということで判断が覆されることは予想されます。したがって指名委員会においても、大株主の意向が企業価値向上や少数株主保護の見地から妥当ではないと思いつつも、紛争の長期化を回避して企業価値の毀損を防ぐために「グッと飲みこむ」こともやむをえないところがあります。しかし少数株主保護の見地から妥当ではないと考えるのであれば、ガバナンス・コード原則4-3(取締役会による支配株主等関連当事者との利益相反の管理)、同4-7(社外取締役による支配株主と取締役との利益相反に関する監視・監督)に従った行動が各取締役に求められるはずです。これらの原則にコンプライしている以上、はたして各取締役がコードに沿った行動をとっていたと評価できるのか、一般株主に判断してもらうためにも、監査委員はこのような一連の事実経過を情報として株主に提供をすべきであり、後は一般株主との対話や議決権行使に委ねるべきものと考えられます。

ところで、この監査報告(補足意見)を読みますと、当該監査委員は、今回退任を予定してキビシイ意見を述べておられるものの現経営陣、創業者取締役いずれに対しても、株主代表訴訟等にならないように・・・との愛情を感じるのは私だけでしょうか。ここまでゴタゴタの内幕を明らかにしたのはこういった支配権争いが表面化した場合には、法的責任ではなく経営責任によって解決されるべき、との監査委員の判断があったのかもしれません。コード補充原則1-2では、上場会社は株主総会において株主が適切な判断を行うことに資すると考えられる情報については、必要に応じ適格に提供すべき、と規定されています。取締役(取締役会)がこのような情報を提供していないと判断した監査役等としては、コード原則4-4における受託者責任を尽くすためにも監査報告を積極的に活用しなければならないと考えます。有事に直面した監査担当役員の身の処し方として、クックパッド社の実例は実務上参考になるものと思いました。

3月 7, 2016 コーポレートガバナンス・コード |

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コメント

こういった形で、裏側で行われてきた経営権争奪戦が表に出ることが慣例化すれば、「企業価値のき損」を錦の御旗にして経営権争奪戦を裏で画策するようなこともできなくなり、真っ当に委任状争奪戦が行われる流れになることを期待します。
そうすることで、少数株主権に配慮しなければ大株主とて上場したからには自由にはできない、という事実上の制約が機能するようになり、結果的に株式市場全体が(超々長期的には)活性化する方向になると良いと思います。

投稿: 場末のコンプライアンス | 2016年3月 9日 (水) 10時47分

おひさしぶりです。
おっしゃるとおり活性化の方向性になればよいですね。監査役(監査委員)の胆力に依存するところが多いとは思いますが、このような傾向が続くといいなあと私も思います。
ちなみに議決権行使助言会社がこの監査委員の意見に同調されているようです。ぜひとも続編を書きたいと思います。

投稿: toshi | 2016年3月13日 (日) 01時00分

この話、佐野氏が候補にした人物2人が少数株主に不利益なMBOに関係ある人物だった点が密かな話題になってたりしてましたね

投稿: 流星 | 2016年3月13日 (日) 18時20分

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