« 会計不正-監査法人規制の先に垣間見える事後規制について | トップページ | エナリス社の議決権拘束契約に関する取締役の説明責任 »

2016年3月14日 (月)

監査等委員会設置会社への移行に反対する機関投資家登場(その2)

先日、米系運用大手のRMBキャピタルさんが株式会社オプトホールディングス社の監査等委員会設置会社への移行について反対を表明し、委任状争奪戦も視野に入れている、といった日経記事を こちらのエントリーでご紹介しましたが、その後、本件についてRMB社からのリリース(時事ドットコム・ビジネスワイヤ)とオプトHD社からのリリースが出されまして、ずいぶんと盛り上がってきました。RMBキャピタルさんが委任状争奪戦をあきらめ、他の株主への反対意見同調呼びかけを行うに至った過程についても上記リリースにおいて説明されています。

先日のエントリーに対するコメント欄には流星さんをはじめ、有益なご意見も述べられておりますが、ある上場会社が機関形態を変更することへの賛否については、仕組みについて議論するのか、個々の企業における運用について議論するのか、分けて検討したほうがよさそうですね。RMB社の反対呼びかけのリリースの内容から判断しますと、同社は決して監査等委員会設置会社という仕組みを選択したことのみをもって反対しているわけではなく、その機関形態をオプト社において運用することに強く反対されているように思えます。

仕組みという面からいえば、監査等委員会設置会社の取締役監査等委員には、経営者の指名・報酬に関する意見決定への関与も職責に含まれますので、経営者への監督は(制度としては)十分に期待されるはずなのですが、同社の社外取締役の人数や「横滑り人事」といったことからすれば、経営者の監督は全く期待できないことのようです。また、常勤の取締役監査等委員が選任されない場合には、これまでよりも監査機能が減退することも考えられますので、そのあたりの懸念もあるのかもしれません。

ちなみにRMB社側からの提案として、これまで通りの監査役会設置会社のままで、ガバナンス・コードを意識した任意の指名・報酬委員会を設置したほうが適切、といった考え方が示されています(結局のところ、新たに社外取締役候補者を見つけてこなければ任意の指名・報酬委員会はなかなか設置できないと思いますが・・・)。

オプト社では、前年においても敵対的買収防衛策の廃止を巡り、賛否が拮抗した経緯もあったようで、今回もかなり会社側に微妙な議決権行使結果となることが予想されます。今後、RMBさんのご主張のように「コーポレートガバナンスは、経営者を管理するために機能しなければならない」ということを強調するのであれば、指名委員会や報酬委員会の設置を検討する企業も増えるはずです。ただ、そうなりますと(先日のクックパッド社の監査委員のご意見のように)会社法違反となるような経営判断がなされるリスクも無視できません。いずれにしても、監査等委員会設置会社へ移行した企業、移行を表明した企業においては、今後の参考になる一連のリリース内容かと思われます。

|

« 会計不正-監査法人規制の先に垣間見える事後規制について | トップページ | エナリス社の議決権拘束契約に関する取締役の説明責任 »

コメント

指名・報酬委員会とありますが、だれが任命するのでしょうか?結局、これらの委員会が会社の言いなりなら結局いっしょではないでしょうか?北米ではその中立性や独立性をどう保っているんでしょうか?

投稿: 工場労働者 | 2016年3月14日 (月) 13時52分

アメリカにおいては上場企業のみが監査委員会、報酬委員会が必須であり、指名委員会は任意かつ諮問機関的な権限しかないとか聞いたことはあります

日本においても監査役会設置会社及び監査等委員会設置会社が任意でおける指名委員会や報酬委員会も諮問機関的な権限しかないそうなので指名委員会等設置会社の指名、報酬委員会のように決定に法的拘束力がないという話だそうです

投稿: 流星 | 2016年3月16日 (水) 08時46分

なんか同機関投資家が指名委員会設置会社についてあまり理解してない様な気もしますね

監査等委員会設置会社同様に指名委員会設置会社も常勤監査委員を置かなくても良いのですが

(もっとも常勤監査等委員や常勤監査委員を置くこともできますが)

日本取締役協会の「独立取締役の教科書」においては西村あさひの弁護士が指摘する所、アメリカの上場企業においては指名委員会は推薦権しか持たせておらず、最終的な決定権は取締役会が握る企業が多数であり、監査等委員会設置会社に任意の指名諮問委員会や報酬諮問委員会の方がアメリカの上場企業に近いとのことですが

同機関投資家が第一案に

(強すぎて行使しづらい独任権と取締役会議決権が無い)監査役会設置会社や(常勤監査設置義務が無いし、利益相反取引)監査等委員会設置会社に任意の指名諮問委員会や報酬諮問委員会を置く案でなく、

常勤監査委員の設置義務がなく、代表執行役が報酬、指名委員になれる故にかんぽの宿問題で証明された「最強の社長専制体制」が構築可能で
(因みにクックパッドでは代表執行役兼務取締役は指名委員や報酬委員になっていませんでした)

現在の会社法において、社外役員が「社長の友達」ならガバナンス的に一番採用するとマズイ

指名委員会等設置会社を
第一案に

提案してる点はガバナンス二の次の提案という気がしますが

なお監査役会設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会設置会社ともに取締役任期一年だと会社法460条に基づき株主提案権が制限できます

(議決権行使助言会社は否決推奨)

がそれはオプトはやってないですね

投稿: 流星 | 2016年3月17日 (木) 17時34分

流星さん、コメントありがとうございます。私は本文で

RMB社の反対呼びかけのリリースの内容から判断しますと、同社は決して監査等委員会設置会社という仕組みを選択したことのみをもって反対しているわけではなく、その機関形態をオプト社において運用することに強く反対されているように思えます

と書きましたが、いろいろ取材を受けて知ったのですが、RMBさんは何度もオプト社と協議をされたうえで反対意向を表明されたようですね。たしかに常勤性は「仕組み」の問題ですが、常勤不在の場合における内部統制を活用した監査の有無は「運用」に関する課題です(たとえば内部監査と監査役、監査等委員との協働関係等)。そのあたりに光をあてて最終的には反対されたようです。だからこそ岸田先生の「指名委員会、報酬委員会といっても実際は社長の意見を追認しているのが日本の現状」といった反対論が展開されているものと思われます。
社長の友達だと「マズイ」指名委員会等設置会社・・・というのはまさにそのとおりかと。だからこそガバナンスの議論は形から実質へと移っているのでしょうね。対内的にも、対外的にも、このあたりは周知する必要があると考えています。

投稿: toshi | 2016年3月17日 (木) 20時19分

この件については、制度そのものを否定しているのか、この会社特有の状況からすると移行が望ましくないという判断なのか、どちらなのかに興味があります。
一部の企業を除き、監査等委員会設置会社に移行した企業は、ガバナンスを単なるコストと判断して(その判断に基づき)最小限のコストでガバナンスに対応する手段として監査等委員会設置会社に移行しているとしか思えない状況に、投資家が不満を持つのはそれなりに理解できます。
ただ制度設計に対する不満を、特定の会社だけへの反対として表明することには違和感が…
制度上、監査等委員会設置会社が、社外取締役が一人もいないことが許される監査役設置会社に比べて劣後しているという論拠がないと、制度面からの批判は難しいかと。
#実質面からみた批判についてはよく理解できるのですが、今回はあくまでも制度面から見た批判に終始しているので、どうしても違和感が…

投稿: ty | 2016年3月17日 (木) 21時07分

tyさん(おひさしぶりです)、コメントありがとうございます。
いやいや、プロキシーファイトになりましたね。とりあえず手続き的に問題がなければ・・・ということですが。
http://www.businesswire.com/news/home/20160316006593/ja/

投稿: toshi | 2016年3月17日 (木) 22時10分

指名委員会等設置会社では指名・報酬委員会の決定が取締役会でも撤回不可能なので、取締役会で過半数でなくとも社外が過半数の指名・報酬委員会で過半数取れれば役員人事や報酬権を制することができますので会社乗っ取りをやり易い部分はありますね

(村上ファンドは黒田電気においてこれを狙った可能性がありますが)

かんぽの宿問題では100%株主の政府が指名委員会の抵抗により郵政社長を更迭に苦労した事例もあるとか
「完成された社長専制」と同時に「社外取締役と癒着する株主『だけ』に優しい社外取締役専制」も可能らしいです

また指名委員会等設置会社においても監査委員が指名委員や報酬委員が兼帯可能なので、社外監査役をそのまま社外取締役に横滑りして監査委員、指名委員、報酬委員の三委員兼帯とすることは可能です

そもそも運用に問題があるなら監査等委員になる取締役への旧監査役選任に反対して対立候補擁立で済む話です

監査等委員会設置会社に反対して指名委員会等設置会社への移行を要求するのは、少ない株数で会社を支配したいだけでガバナンスは口実という感じにしか見えませんね

報酬委員会設置で同機関投資家による報酬コンサル業務受注要求が目的とも見なされそうですが

投稿: 流星 | 2016年3月18日 (金) 02時56分

監査等委員会が流行しているようですが、IPOの世界では流行していないような気がします。EDINETで調べるとIPO時に監査等委員会の会社は、1社出てきますが(間違ってたらすみません)、会社法改正後に数十社もIPOしているのにこの結果です。すなわち、会社法がOKであるにもかかわらず取引所は実は監査等委員会を積極的には認めていない可能性があります。
平成18年改正で取締役会書面決議がOKになっても、取引所は積極的には書面決議を認めなかったとも言われます。上場会社は合法なので認めざるをえないが、実は取引所としてはガバナンスの弱体化は認めたくないとの思いはありそうですね。

投稿: IPO好き | 2016年3月23日 (水) 22時33分

監査役会設置会社の方が、監査等委員会設置会社よりも実効性がある、という考え方は大変興味があります。キーは常勤の者ということが、大きいかと思います。監査役設置会社には、常勤監査役が必要であると条文上で記載されていたか、ちょっと記憶はないのですが(この業務から離れてしまいずいぶん経ってしまいました)、他方、旧・委員会設置会社において、監査委員会には、常勤という言葉はありませんでした。この状況は、指名委員会等設置会社でも監査等委員会設置会社でも変わっていないと思います。
 しかし、会社法も常勤委員を定めることは排除していないとは思います。東証が常勤(常任)委員を定めよ(コンプライオアエクスプレイン)と決めて下さればよいのかもしれませんが。

 ただし、常勤という方も人間ですから、急病や長期入院ということも実はあるかと思います。監査役会設置会社では、常勤かつ社内の監査役が1名、非常勤かつ社外の監査役が2名が多く、そのうえで、補欠監査役は、社外監査役の補欠として設けていることが大方かと思います。常勤監査役において事故がおきることもありえます。
 これは、指名委員会等設置会社や、監査等委員会設置会社でも同様です。委員会設置会社の枠組みでは、常勤については拘りはないようですが、社外については、拘りがあります。各委員会は通常3名で、1名が社外取締役、そして、委員長に就任しているケースが多いと思います。その社外である1名に事故があれば、委員会は二人でワークさせねばならず、しかも委員長は欠けてしまいます。ほかの二人は委員長になるには欠格です(社内取締役)。社外取締役は年配者が多いことがあり、困った事態になるのではと懸念します。

 以上、常勤云々ということと、補欠云々ということに言及してみました。

投稿: 浜の子 | 2016年3月26日 (土) 23時12分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 監査等委員会設置会社への移行に反対する機関投資家登場(その2):

« 会計不正-監査法人規制の先に垣間見える事後規制について | トップページ | エナリス社の議決権拘束契約に関する取締役の説明責任 »