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2016年3月13日 (日)

会計不正-監査法人規制の先に垣間見える事後規制について

Img_0471先日、こちらのエントリー(粉飾決算の不正)にて浜田康先生の新刊をご紹介しましたが、その浜田先生のご著書の中で、「衝撃的ともいえる感銘を受けた」とされる本の序文が引用されていました。その本(左写真の古書)をなんとかアマゾンで取り寄せまして、週末、(まだ3分の1程度ですが)一生懸命に読んでおります。いや、もう読み始めたら止まらないほどワクワクする一冊でして、3年前に出版した「法の世界からみた会計監査」を執筆する前に、なぜこの本の存在を知らなかったのか・・・と思うと後悔と反省しきりです(同じ同文館出版なので、編集者の方が教えてくれてもよかったと思うのですが・・・笑)。

本書は、執筆当時の河井検事が数多くの疑獄事件を手がける中で「異常な興味と関心をもって研究を続けた」成果とご自身で紹介されています。まさに法と会計の狭間に横たわる会計粉飾事件の解決に責任を持つ立場の方だからこそ本書を書きあげられたものと推察します。4年ほど前に、こちらのエントリー(公正なる会計慣行と古田最高裁判事の補足意見)でも申し上げましたが、長銀事件最高裁判決をテーマとしたシンポにおいて、「なぜ公認会計士や会計学者の方々は、検察官出身の古田最高裁判事の補足意見を絶賛するのか」といった疑問も、検察官ご出身の河井先生の本著を読んでナットクした次第です。やはり「粉飾摘発の歴史」を知ることは重要です。

会計上の粉飾と法律上の責任(三訂版) 河井信太郎著 同文館出版 1975年 3,800円)

500頁を超える力作です。本の内容を詳細にご紹介するようりも、上記浜田先生も引用されておられる序文(初版のはしがき)をご紹介したほうがよいと思います。

一般に簿記や会計を専攻したものは、法律に暗く、逆に法律を専攻したものにとっては、簿記、会計の素養は薄いにもかかわらず、企業会計における個々の会計処理は殆どすべて法律上の効果を生ずる問題である。まことに会計の実務は簿記、会計と民、商、刑事法や証取法、税法等の交錯する谷間に発生する問題の解決にある感が深い。本書は、この点の問題点を捉えて、解明を試みたもので、会計の実務に携わる人にとっては転ばぬ先の一本の杖として、同学の士に対しては問題点提起の意味において、多少とも参考となれば、私の望外の喜びである。思うに、資本主義経済の健全育成はその病根を発見して、これを解明することにあると確信する。この病根の基盤をなすものは会計上の粉飾であり、これを解明するものは、法律上の責任の追及である

私の手元に届いたのは三訂版でして、河井先生が広島高裁検事長に就任されていたころのものですが、初版は昭和39年(1964年)に出版されていますので、河井先生が東京地検特捜部の部長だったころに執筆されたものです(特捜部長という立場でこのような大作をよくお書きになれたものだと驚きます)。

もちろん50年前と現在とでは会計や監査を取り巻く環境が違いますし、また関連法令も変わっております。しかし大きな粉飾事件が発生して、監査法人は何をしているんだ!監査役はどうしたんだ!もっと規制を厳しくしろ!といった社会的批判が渦巻く中で、期待ギャップに悩みながら市場の健全性確保、債権者保護のために関係者が尽力されているのは全く現在と変わらないことがわかります。

ただ本書は一貫して「監査役など、社長の息のかかった人間が選任されているので何の役にも立たない。会計監査人による監査でも限界がある。そもそも経営者に迎合する監査法人は商売繁盛となり、良心的な監査を行う法人は閑古鳥が鳴くであろう。だからこそ最後は法律の出番なのだ」といった持論が展開されていますので、そのあたりは会計実務に携わる方々には少し異論のあるところかもしれません。

間もなく公表される金融審議会ディスクロージャー・ワーキンググループの報告書や、すでに公表されている会計監査のあり方に関する懇談会取りまとめ報告書、経産省「企業と投資家の対話促進委員会報告書」等で論点とされている事項の理解にも有益な一冊です。

また河井先生が提言されている①弁護士法23条による照会制度に匹敵する日本公認会計士協会による照会制度や②会社法上では行政罰として規定されている株式会社の計算書類等の記帳義務違反の刑事罰化といったことも、未だ実現はされていませんが、今後の法改正の課題になるのではないでしょうか。いや、おそらく東芝事件を契機とする会計監査制度に対する新たな規制手法の実効性が認められない場合には、今度こそ事後規制としての会計監査に対する司法の積極的介入が真剣に検討されるようになるものと確信しています(IFRS全盛の時代となればなるほど、会計基準の解釈に経営者自身による見積り、価値評価が重視されればされるほど、最終的には司法権による会計制度への介入が真剣に検討されるはずです)。

本書では1964年当時に河井先生が執筆されたもう一冊「経理不正と法律上の責任」についてもしばしば言及されておられるので、そちらも取り寄せました。また読み終えましたらご紹介したいと思います。

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