エナリス社の議決権拘束契約に関する取締役の説明責任
特設注意市場銘柄からの解除を目指して内部管理体制を一生懸命整備しておられるエナリスさんが、少し珍しいリリースを出しています(前代表取締役社長等の議決権行使(委任)に関するお知らせ-3月9日付)。
第三者委員会の提言を受けて、会社側は大株主である元経営者の株式持分を低減させる方策を検討していたところ、最終的には「元経営者の持分低減が実現されない間は大株主である元経営者の議決権行使については会社側に一任をする」といった合意が、昨年8月に会社と元経営者との間で交わされました。しかしながら年末までにこの持分低減が実現しなかったので、3月の定時株主総会を前にして、元経営者側から(会社側が指定する)第三者に議決権行使に関する委任状が届いた(元経営者側の株式持分比率は49.1%)とのこと。
ところで、このエナリスさんが出したリリースの意味は、来るべき3月の定時株主総会に出席する少数株主(一般株主)の方々にも普通に理解されるものなのでしょうか?ちなみに3月10日付けの同社定時株主総会招集通知には、どこにもこの議決権拘束契約については触れられていないようです。株主間ではなく、会社と特定株主との間において継続的に議決権行使を拘束する合意というものは一般的に効力を有するものなのか?これって現経営陣や(逆に)大株主のやりたい放題になってしまうのではないか?といった疑問は出てこないのでしょうか。
ちなみに会社法310条1項、2項を紹介いたしますと、
1 株主は、代理人によってその議決権を行使することができる。この場合においては、当該株主又は代理人は、代理権を証明する書面を株式会社に提出しなければならない。2 前項の代理権の授与は、株主総会ごとにしなければならない。3 (以下略)
と規定されています。
形式的には会社が指定する第三者に元経営者らは(合意に基づき)このたびの会社側上程議案(社外取締役1名増員の件)について、委任状を提出していますので「株主総会ごとに」といったルールに合致しているように思えます。しかし、大株主が委任状を提出した根拠としては、「大株主側の事情次第では、この先ずっと(撤回できない状況のままで)会社側の指定する第三者に委任状を出し続ける法的な義務がある」ということに依拠しているので、そもそも代理権の授与は株主総会ごとにしたことにならず会社法違反の状態ではないか、といった素朴な疑問も生じます。
下級審ですが会社法310条2項の制度趣旨を重視した判例もあるようなので、このあたりを参考にして「経営者による支配権濫用のおそれはなく、310条2項違反にはあたらない」ということを少数株主の方々に説明をする必要があるのではないか、とも思うのですが、いかがなものでしょうか。エナリスさんの現状に鑑みるとコンプライアンス上の問題点は払しょくしておく必要があるように感じました。
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コメント
このプレスを見て「影響力を軽減」させることが目的であれば、議決権行使を誰かに委任するのではなく、棄権するという選択のほうが順当ではないかと思ったのですが、50%近くの議決権を棄権させると役員選任や特別決議の定足数(1/3)を満たせなくなるという判断なのでしょうか。
投稿: unknown1 | 2016年3月17日 (木) 11時36分
コメントありがとうございます。私も棄権・・・という選択のほうが・・・と考えました。定足数や議決権個数の問題は、もう少し柔軟な対応によって回避できるのではないか、とも思えるのですが。
投稿: toshi | 2016年3月17日 (木) 22時17分