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2016年3月 4日 (金)

「第三者委員会制度」に対する期待ギャップを考える

弁護士等の有志による「第三者委員会報告書格付け委員会」は、2月下旬、東洋ゴム工業免震積層ゴムの認定不適合に関する(社外調査チームによる)「調査報告書」(公表版)の格付け結果を公表しました。これに対して、同報告書を作成した社外調査チームの代表者の方から、3月1日付けで反論書が同委員会に届き、その内容も公表されています(委員会に反論書が届くのは初めてですね)。ちなみに同委員会の委員による個別意見は、この調査報告書に対しては評価が分かれていますが、「不合格(F)」評価を下した委員が4名もいらっしゃるという点が特徴です。

私自身は昨年、この格付け委員会活動の一環である「優れた第三者委員会の表彰制度」の事務局を務めておりますので、上記調査報告書への個人的評価をここで行うことは(今後の表彰制度のあり方からみても)適切ではありませんので控えます。ただ、委員の方々の個別評価、また報告書作成責任者の方の反論を読み、企業不祥事が発生した際の第三者委員会報告書の役割について、あらためて考える点は以下のとおりです。

昨年出版された「会社法罰則の検証」(山田泰弘・伊東研祐編 日本評論社)の拙論稿でも詳細に書かせていただきましたが、ステークホルダーに多大な損害を生ぜしめるような企業不祥事への刑事罰適用は、企業の自浄能力の欠如が明確になった場合に初めて発動されるべきであり、少なくともソフトローによって自律的行動が期待できるかぎりにおいては抑止的でなければならないと考えています。これは最近取引所から公表された「上場会社の企業不祥事対応のプリンシプル」も、同様の趣旨で描かれているものと理解しています。

このたびの東洋ゴム工業さんの免震ゴム偽装事件については、その後に発覚した防振ゴム偽装事件とは関係なく、一部取引先団体の告発によって刑事捜査が開始されるようです(たとえば読売新聞ニュースはこちら。先日、告発が受理されたことが報じられています)。地検特捜部は同社の自浄作用の発揮が期待できないことから、もはや組織としての再発防止やガバナンス体制の構築は、国家権力による強制力を行使しなければ解明できないものと判断したのではないでしょうか。仮に調査チーム(第三者委員会型ではなく、あえて調査チーム型と言いますが)の選定過程や人選が公正であり、ごく普通の(つまり専門家ではない)読み手の方々の素朴な疑問に真正面から応えるような原因究明がなされているのであれば、企業側が企業風土改革に自主的に乗り出すインセンティブになりうるはずです。

日弁連作成の第三者委員会ガイドライン(これもソフトローと言えます)に準拠する第三者委員会の設置だけが推奨されるべきとは申しませんが、やはり「どうすれば社会から不祥事への適切な対応を企業が行ったと評価されるのか」という「外から目線」での危機対応には配慮が求められるものと考えます。どのような調査チームで臨むにせよ、「調査報告書」に求められる社会からの期待は公共財的な役割です。一方、これだけ第三者委員会の活動が増えてくると、不祥事を起こした企業側が「調査報告書」に求めるのは企業の信用回復、いや企業ではなく企業経営者の危機管理への期待です。最近ますます社会からの期待と企業からの期待とのギャップが大きくなっていることは深刻な問題です。

たとえば会計不正事件に目を向けると、公共財的な意味を持たない「調査報告書」に何度も監査法人がNOを突き付ける場面が出始めています。粉飾や違法配当の根本原因を見極められない第三者委員会報告書が続出すれば、おそらく「会計基準への適合違反」を司法が積極的に追及する風潮を助長し、会計制度、監査制度に著しい副作用をもたらすことにもなりかねません。「調査チーム」であれ「第三者委員会」であれ、法的枠組みの存在しない中で、いかにして企業と社会との共存を図るのか、不祥事発生の背景事情にまで踏み込まなければ企業が社会からの信頼を失ってしまうことになりかねません(企業活動が不正の発生リスクを抱えつつも、社会にとって有用と認められて活動を許されていることの当然の帰結だと思います)。

このような意見を持つ私にとって、上記格付け委員会のマスコミ代表委員の方の下記意見に、真摯に耳を傾けたいと思います。

むき出しの強欲や功利主義の害を緩和するため、市場経済は様々な自律的な歯止めを設けてきた。お上による規制とは別に、企業が自律的に不祥事の社会的責任を果たす手立てとしての第三者委員会もその一つで、客観性と透明性を捨てて、調査効率だけを求めると、企業にとっては逆効果となりかねない。

もし私が第三者委員会の委員長候補になったとすれば、この委員の方のフレーズを、十分経営者の方にナットクしていただいた上で就任する必要があると痛感するところです。最近のコーポレートガバナンス改革の中でも感じるところですが、結局「企業はなんのために存在するのか」(ガバナンスは目的ではなく手段である)という深遠なテーマと通じるところがあるのかもしれません。

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コメント

「社外調査チーム」名義で報告書を挙げずに、「社内調査受託チーム(外部法律事務所利用型)」などの名義で報告すれば、格付けされなくて済んだのではないでしょうか。
「準拠型第三者委員会ではなし得ない成果をなし得たと考えている」のあれば、もはや「社外」や「第三者性」に拘る必然性もないでしょうし。

素人の雑感ですが。

投稿: 博多ぽんこつラーメン | 2016年3月 8日 (火) 00時41分

そもそも日弁連のガイドライン自体の無謬性を前提に評価するのは、弁護士としては権威づけの観点から当然なのかもしれないが、少なくとも、準拠すると明言した意見書を評価するなら格別、要するに金融危機時にも問題になった格付会社の勝手格付けと全く同じ。

勝手に格付けして、格付けを落とされたくなければ(格付会社なら金を払って依頼しろ、になるが)、日弁連ガイドラインに依拠しろ、というのは間接的な強制を図るプロパガンダになるのではないか。

日弁連のガイドラインについて、制定過程が不透明なことも、もろ手を挙げてガイドライン準拠に賛成できない点の一つ。
せめてパブコメの実施や、制定過程における審議内容の公表などが望まれる。

投稿: 場末のコンプライアンス | 2016年3月 9日 (水) 11時41分

みなさま、コメントありがとうございます。私も格付け委員会の活動に関与している立場上、コメントは控えさせていただきますが、ご意見については参考にさせていただきます。

投稿: toshi | 2016年3月13日 (日) 01時03分

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