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2016年4月28日 (木)

公益通報者保護制度WG第1回会合が開催されました

傍聴されておられた公益通報者さんからすでにコメントいただいておりますが、本日(4月28日)、消費者庁にて「公益通報者保護制度実効性検討委員会ワーキンググループ」の第1回会合が開催されました。東大の宇賀克也先生が座長に選任され、1回目は公益通報者の範囲を法律改正で拡大すべきかどうか、具体的に退職者、会社役員、取引事業者等を公益通報者に含めるべきかどうか検討いたしました。法律家委員が中心となる検討会でしたが(ご意見番の升田先生は他の委員会と重なりご欠席)、積極的な議論が交わされて私もおもしろかったです。板東長官も最後まで熱心に審議を見守っておられましたね。

議論の中身はまた正式な議事録が公表されますのでここでは控えますが、東大の田中亘先生や佐伯仁志先生にいろいろとお話が聴けたのは有意義でした(佐伯先生には終了後、会社法上の罰則規定や組織罰について質問させていただきました)。役員は公益通報者たりうるか・・・という議論の中で、(公益通報者さんもコメントで触れておられますが)田中教授の「取締役の職責」に関する考え方(利益追及と公益性確保の優先順位)はなかなか説得力がありました。私は現実の企業社会においては役員にも公益通報者としての地位を確保する必要性が高いとは思いますが、理屈の上でどう現行法の延長線上で認めてよいものか、いまひとつ合理的な説明ができないように思い、その旨発言させていただきました。

ところで昨日は日銀主催の金融機関向けセミナーにご招待いただき、慶應大学の池尾和人先生と初めてお会いしましたが、池尾先生の講演をお聴きした印象はジャパネットタカタの高田元社長によく似た話し方をされる人だなぁと(いや、そっくりかも)。話に熱が入ると声が急に高くなる(声が裏返る?)・・・ということなのでしょうかね。講演を拝聴したり、直接質問をさせていただき、ガバナンス・コードに関する新たな気付きをたくさんいただきました。金融庁CG・SCフォローアップ会議のメンバーでいらっしゃるエゴンゼンダーの佃社長のお話も、取締役会実効性評価についての基本的な考え方をお聴きできてとっても得した気分です。やっぱり策定に携わった方々の話を直接お聴きすることは有意義ですね。

さて、いよいよゴールデンウィークとなりますが、私は本業に専念させていただくため(関係者の方々からは「あたりまえだろ!」「ブログ書いてる場合じゃないだろ!」と言われそうですので)、5月9日ころまではブログ更新をお休みさせていただこうかと思っております(ひょっとしたら5月初めに一回だけ更新するかもしれませんが・・・)。みなさま、良い連休をお過ごしくださいませ。

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2016年4月27日 (水)

三菱自動車の対応に関する素朴な懸念(かなりピンチでは?)

今日(4月26日)も、午後4時半からの三菱自動車さんのトップ会見をニコニコ動画で拝見しておりました(最近は生中継で最後まで視聴できるので勉強になります)。これはあくまでもコンプライアンスに関心をもつ弁護士としての個人的意見にすぎませんが、三菱自動車さんの燃費性能偽装事件はかなりマズイ方向に進んでいるように感じました。

燃費偽装の不正を構成する高速惰行法による抵抗値測定は1991年から始まっていたことが明らかになりましたが、その一方で先日の会見では明らかにされていた特定社員の偽装指示の事実は撤回されました。つまり組織としての構造的な欠陥があったけれども、誰が主犯なのかは不明といった説明です。設置された特別調査委員会による調査結果を待つ、とのこと。不正発見の段階において自浄作用を発揮できませんでしたが、さらに危機対応としての不正調査や原因究明の段階でもまったく自浄機能を発揮することなく、むしろ放棄してしまったということになります。

また、高速惰行法による抵抗値測定を行った車種、机上計算によって抵抗値を算出した車種、いわゆる法令違反状況において製作された車種を特定できるにもかかわらず、記者会見ではその特定車両の開示を拒否しておられます。いまだ調査未了なので全貌は明らかにならないとしても、全国に多くの三菱自動車のオーナーがいるわけで、「自分の車はだいじょうぶか?」と心配する人たちに何らの情報提供もしないというのは、企業の社会的責任という視点からいかがなものでしょうか。ましてや、法令違反行為によって作られたクルマを、これからも売り続けることについて、どう経営トップは考えておられるのでしょうか。たしかに法令違反が=燃費偽装(不正)や安全性能の欠如につながるわけではありませんが、燃費偽装は法令違反行為と密接に関連していることは明らかなので、せめてどのクルマの性能試験に法令違反があるのか、すみやかに明らかにすべきです。

さらに、1991年から違法な試験方法が長年続いていたとなると、いくら開発部門だけしか知らなかった問題だとしても、すでに25年も経過しているのですから、不正に関与していた(もしくは不正を知っていながら黙認していた)社員がいまごろは経営幹部になっているはずです。ということは、もはや組織ぐるみで不正を隠ぺいしているといわれてもしかたないのでは、と素朴な疑問が湧いてきます。

結局のところ、国民の財産の安全を守るためには、国交省としては(全自動車メーカーに対して)性悪説に基づく事前規制の強化に乗り出すか、もしくは事前規制強化が他の自動車メーカーの国際的な競争力を低下させることになってマズイのであれば、三菱自動車さんだけに対して(見せしめとして)厳格な事後規制をかけるしか方法はないと考えます。たしかに三菱自動車さんは検察ご出身の方々による調査委員会を新たに設置していますが、元最高検検事の方が企業倫理委員会の委員長として、長年同社のコンプライアンス経営をチェックされてきても不正を発見できなかったわけですし、1991年から今日まで、このような不正の温床が継続していたとなりますと、(その間に何度もリコール隠し等の不正が発生していたのですから)どのような調査結果が出たとしても、もはや調査内容の信用性には疑問符が付くのではないでしょうか。

これは本当に私見にすぎませんが、三菱自動車さんの今回の件につきましては、たとえ国民ひとりひとりの損害はそれほど大きくないとしても、刑事事件に発展する可能性もあるように思えますし、今後の同社の危機管理能力が問われるはずです。私には、三菱自動車さんを支援する企業に対しても「なぜ、あのような会社を支援するのか、その合理的な理由を説明してほしい」と多くのステークホルダーから詰め寄られることまで想起されます。

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2016年4月25日 (月)

JR西日本のリニエンシーは組織の構造的欠陥解明に光をあてるか?

4月24日(日)の読売新聞朝刊(一面および社会面)では、「鉄道6社、ミス懲戒対象外」として、運転士の人的ミスを報告した場合には、原則として懲戒処分の対象からはずすルールを導入している鉄道会社が6社に上ることが明らかにされました。とりわけJR西日本さんは、この4月から導入に踏み切ったそうです(他の5社はJR北海道、JR貨物、京王電鉄、新京成電鉄、首都圏新都市鉄道)。

運転士のミスを懲戒処分とすると、上司に報告することを隠し、その結果として重大な事故につながるようなリスクを経営トップが把握することが困難になります。また、そのような重大なミスが報告されないままになりますと、このたびのJR西日本福知山線事故における経営トップの無罪判決のとおり、刑事司法の限界によって事故を発生させた構造的欠陥が全く解明できない状況になってしまいます(組織を処罰する規定があればよいのですが、現在はそのような組織への処罰法はありません。なお毎日新聞の社説がこのあたりを伝えています)。航空機事故や鉄道事故にように、痛ましい事故をこれ以上増やさないためにも、現場におけるモラルハザード(懲戒処分を受けないというルールによって現場運転士の緊張感が緩んでしまうリスク)を多少犠牲にしてでも、国民の生命を守るための組織の構造的欠陥を解明し、再発防止への事業活動を優先する、といった姿勢が必要かと思います。

記事の中で、ノンフィクション作家の柳田邦男さんが指摘しておられるように、どんな失敗でも処罰されない空気が漂わないように、導入の狙いや意図的な法規違反は処罰されることを社員に周知すべき、というのはそのとおりかと。私も、故意または重過失によるミスがあった場合には、懲戒対象になることは当然かとは思います。ただその場合でも、やはり自己申告がなされたことはそれなりに評価すべきであり、一切懲戒処分がなされないということではないにせよ、処分の裁量的減免は認めるべきではないかと考えます。自身が不正に関与していたとしても、組織的な不正を申告した社員にはそれなりの減免措置をとるべき、とした大阪地裁の裁判例もあります。また内部統制システムの整備に熱心な経営トップのほうが、そうでない経営トップよりも刑事責任が問われやすいといったおかしな状況を防止するためにも、できるだけ現場の情報をトップに報告しやすい体制作りが求められるからです。

航空会社70社はすでにこの制度を導入済みです。実際にも日本航空の元担当者の方によると、「日航でも続けるうちに、正直に話すことが不利益にならないと理解されるようになり、社員がミスを率直に報告するようになった」そうです(上記記事)。鉄道会社もようやく懲戒免除措置を数社で導入するようになったようですが、企業コンプライアンスという視点からは、国民の生命、身体、財産の安全を確保すべき立場にある企業は導入を検討すべきです。導入したからといっても、(会社による不利益な取扱いをおそれて)自身のミスを社員がすぐに申告するとは思えませんが、ただこの制度を導入することでミスの一歩手前である「ヒヤリ・ハット」事例の報告が急増した組織の実例は散見されます。不祥事防止の実効性を高めるためにも、このような自社リニエンシー制度の導入を検討する価値はあると考える次第です。

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2016年4月24日 (日)

公益通報者保護制度検討委員会WGが開催されます。

以前、ご紹介したとおり、消費者庁の公益通報者保護制度検討委員会はいよいよ法改正の是非を検討するWG(ワーキングチーム)の議論が4月28日より始まります(消費者庁HPにも公開されています。検討項目は開示されておりますが、委員の氏名はまだ公表されていません。)8月末まで、おおむね8回程度の検討会議が予定されています。

私もWGの委員に就任しましたが、あの著名な会社法学者の方、あの日本を代表する刑法学者の方なども委員に就任されたようなので、これで商事法、刑事法、労働法、行政法の第一人者の学者の方々がそろい、そこに裁判官ご出身の著名な民事法の教授、消費者側支援で有名な実務家(弁護士)2名という錚々たるメンバーで構成されています(著名でも有名でもない私を含めて合計8名)。

ぜひ実りの多い検討会(作業部会?)になればいいなぁと考えています。関西から唯一の委員なので、ぜひとも部会の雰囲気をリアルタイムで関西でもお伝えできるように頑張ります。

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2016年4月22日 (金)

厳格な監査の前提となる「オオカミ少年監査」を考える

(4月22日午前 追記あり)

竹野内豊さんと松雪泰子さんが共演する企業法務モノ弁護士ドラマが始まりました。どなたが法律監修をされていらっしゃるのかは存じ上げませんが、いやいやリアルです。東京駅近くに拠点を構える(?)大手法律事務所の先生方にぜひともご覧いただきたい!(タイムチャージの相場やアソシエイト弁護士の訴訟対応についてのご感想もお聞きしたい!)と感じたのは私だけでしょうか?(いや、別に嫌味でもなんでもございませんが・・・)

さて、7月から日本公認会計士協会の会長に就任される方のインタビュー記事によると、企業の会計監査を担当する会計士に不正事例の研修を義務付けられるそうですね(4月19日日経新聞朝刊より)。このたびの東芝事件による会計士の信用不安に対する対応のひとつですが、十分な監査時間の確保、監査報酬の引き上げ等に対する企業の理解を得る目的もあるのかもしれません(なお、次期会長さんの19日毎日新聞インタビュー記事のほうでは、とても共感できる提言をされており、また別のエントリーで話題にさせていただきたいと思います)。ちなみに4月1日の日経新聞では、監査法人が外部の目を採用して厳格監査に励む、との紹介記事もありました。

監査法人や監査役さん方が、会計不正に厳格な姿勢で取り組むことは素晴らしいと思いますが、いつも監査役さんや監査法人さんの危機対応を間近でみている立場からすれば、どうか「オオカミ少年」になることを怖がらないでください!と申し上げたい(これはもちろん自戒を込めて、そう強調したいところです)。会計不正など、会社側が本気で隠した場合には、平面図ではわかるはずもなく、時間軸を持った立体図で(たとえば3期分を比較して)ようやく不正の疑惑に気付くのが通常の経過ではないかと。しかも「疑惑」が「投資行動に影響を及ぼしうるほどの重要性のある会計不正」と確信できることは稀です。

したがって、監査役さんや監査法人さんが「これは不正ではないか?」と声を上げるにあたっては、10回中7回は「グレーだが不正は認定できなかった」との結論に至り、「あの監査役、あの監査法人はオオカミ少年だ!いいかげんなことばっかり言いやがって、何を考えているんだ」と会社側から批判され、情報を遮断される、契約を解消される、法人の信用を落とす、といったリスクも覚悟しなければならないと考えます。それが嫌であれば、疑惑を見つけても声を上げることもせず、勇気のない自分を「時間がない」といった理由で慰めながら不正を見逃してしまうリスクを甘受すべきです。そして内部告発や金融庁からの要請が先行するような、誰がみてもおかしな会計不正、今自分たちが「おかしい」と声をあげないと今度は自分たちが法的リスクを抱えてしまうと思われる会計不正だけに手を上げる・・・といった状況に甘んじることになり、今後も東芝事件はときどき繰り返されることになります。

結局のところ、私は監査法人さんや監査役さんが「オオカミ少年」と呼ばれることを覚悟しなければ、今以上の厳格な会計監査は困難だと思います。もちろんフォレンジック調査を導入し、個々の会計士のスキルを磨き、監査法人さんの品質を向上させることで、このオオカミ少年リスクを低減させることはできるでしょう。しかし最後は個々の監査人が不正の有無を判断するのですから、オオカミ少年リスクがなくなることはありません。それどころか、最近は監査法人が「不正疑惑」を指摘した場合には、(ご承知の方も多いと思いますが)法律事務所が会社側について「もしそちらの主張を通して当社が上場廃止になった場合、貴法人はどのように責任をとるつもりなのか」といった質問を繰り返し、また大手監査法人のコンサルタントチームが会社側をバックアップして会計処理の適正性を主張する、といった事態が増えることは間違いありません。そのような状況のなかで、監査法人さんは(追加報酬請求の拒絶や契約解消の意思表明におびえながらも)不正疑惑を解明する姿勢を示さなければならないのです。

それでも監査法人側が「不正と闘う」意思を明確に示しうるためには、「不正あり」と声を上げたにもかかわらず、不正の認定はできなかったということが上場企業の監査一般に「普通にありうる」といった土壌を形成する必要があります。監査基準委員会報告書240、同250あたりを活用して、会計監査を担当する監査法人の意見形成に関与できる法律家を増やす努力も必要かもしれません。もしくは、「それではあまりにも市場を混乱させてしまうことになり、弊害が大きい」といった意見が強いのであれば、そもそも不正の有無にかかわらず、会計不正を発生させる危険性の高い内部統制の不備をきちんと情報開示できるJ-SOXの運用を市場で形成する、といった方策も考えられます。3年ほど前に、J-SOXの効率性を上げるための法改正はなされましたが、未だに有効性を上げるための法改正はなされていません。本当に不正会計を許さない会計監査を目指すのであれば、監査法人さんや監査役さんが「おかしい」とか「取締役会(統制環境)に不備がある」といった声を上げやすい監査環境を早期に構築する必要があると思います。

(追記)

本文とは関係ありませんが、監査法人の国際監督機関IFIARの本部事務局が東京に設置されるとのこと、まことにおめでとうございます。やはり大手町のフィナンシャルタワーに設置されるのでしょうか?苦節5年?会計教育研修機構さん等、会計監査関係者の皆様方ががんばってきた甲斐があったのではないかと。

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2016年4月21日 (木)

三菱自動車燃費性能偽装事件-やはりコンプライアンス経営はむずかしい

すでにマスコミで大きく報じられている三菱自動車さんの燃費性能偽装事件、私も午後5時からの社長さんの会見を生中継で視聴しておりました。毎月、毎月、外部委員を中心に企業倫理委員会をまじめに開催してきた三菱自動車さんですが、ホントにコンプライアンス経営はむずかしいと痛感します。また、いろいろと事実が明らかになれば詳細なエントリーを書きたいと思いますが、最初に気づいた点をいくつか述べておきたいと思います。

ひとつは同業他社(OEM供給先)からの指摘(正式な指摘は先週だったそうです)によって不正発覚に及んだこと。これはどう考えても自浄作用を発揮できなかったといわれてもしかたないところです。三菱自動車さんが最初に公表した文章は、かならず日産自動車さんの広報または法務のチェックを受けていますので、その文章内容から何が読み取れるかがポイントです(日産の指摘で発覚したこと、三菱の意図的な不正であることを明示することにより、日産はまちがっても不正に加担しているわけではない、むしろ日産は三菱の公表を後押しした、との強い日産側の意思が明確になっています)。なお、これに呼応して日産自動車さんも お詫び文書をHPで公開しています。

心配といいますか、懸念されるのは、三菱自動車英国法人が、英国・欧州向けに「不正はないから心配しないで」と公表している点(こちらのニュース)。今回の性能偽装はどこまで広がるかわからないのに、早々と英国法人が「海外向けは関係ない」と公表して大丈夫なのでしょうか?これから開始される第三者委員会による調査は、日産自動車から指摘された不正だけでなく、同様の不正がどこまで広がっているのか、という点も当然に調査範囲に含めるはずです。しかしこの英国法人のリリースからすると、もはや第三者委員会の調査範囲も三菱側が限定してしまう、ということになってしまうのでしょうか?このあたりも今後の重要なポイントです。

そしてもっとも気になるのが昨年11月の毎日新聞さんのこちらのニュースとの関係ですね(これは工場労働者さんもコメントで述べられているところかと)。開発が遅れていることを経営者に報告すると「しめしをつける」(同社広報部)として担当者の退職を余儀なくされ、また開発の遅れを隠すために偽装に走らざるをえないとなると担当者が責任をとらされてしまうって、まさに「チャレンジ」「工夫しろ」のジレンマの世界かなぁと。「攻めのガバナンス」が推進するスピード経営、効率経営を高めるため、三菱自動車さんはこの6月から監査等委員会設置会社に移行する予定ですが、まさにスピード経営、効率経営を目指した末にこのような不祥事が発生したわけです。今後、取締役監査等委員に就任される方はたいへんですね。

3年前、当ブログでも(こちらのエントリーで)取り上げましたが、三菱自動車さんは2012年に国交省から不適切なリコール対応で厳重注意を受けています。これは内部通報によって発覚したのですが、今回は一切内部通報や内部告発はなかったと会見で社長さんが述べておられました。現場でも性能偽装の事実を放置していたとすれば、コンプライアンス意識の欠如はかなり深刻なのかもしれません。

 

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無記名投票による取締役会の決議と取締役の監視義務

某大手流通グループの会長さんが同HDの職を辞するそうです(すいません、立場上、ガバナンス論については語れませんので、かなりマニアックなところだけ話題として取り上げます)。執行部の提出した「グループの中核事業会社の社長人事案」をHDの取締役会で審議したところ、15名の取締役は賛成7、反対6、棄権(白票)2に分かれ、結局のところ賛成が過半数に満たないために決議は成立しなかったと報じられています。

 

私は会長さんの記者会見を日経ストリームで視聴しておりましたが、この取締役会での投票結果にほとんどの記者の方がキョトンとされ、ざわつく中でみなさんが首をかしげておられました。記者の方々は


「執行部が出した案への賛成が多いのだから人事案は可決されたのでは?」

と思われたようです。一般的な感覚からすれば、記者さん方の感覚のほうが常識的かもしれません。「白票」ということは棄権したのだから、13名中7名の賛成は多数派です。

 

ただ、会社法369条1項は、


取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)が出席し、その過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行う

と定めています。 つまり出席している取締役の過半数の賛成が成立要件なので、棄権(白票)の方が2名いらっしゃるとしても出席者は15名です。その過半数の賛成が得られなかったということになり(賛成の方が反対の方より多くても)決議は成立しなかったことになります。

 

取締役会の議決を無記名投票で行う・・・というのは異例の事態ですが、出席取締役の方々がカリスマ会長さんの威光の前でも反対の意思を表明するためには必要だったのかもしれませんね(ただ実際には誰が白票を投じるかは投票前からわかっていたのではないか、とも思いますが)。取締役会における運営方法は基本的に定款自治に属するものであり、無記名投票も、とくに不公正な手続きといった(司法が介入するような)問題ではないと思います。ただ、棄権(白票)の存在が決議の成立に大きな影響を与えるような場合、なにかモヤモヤするものが残るのも事実ですね。

 

前にも当ブログで書きましたが、取締役会議長からみると、取締役会の議案について棄権というのをどのように取り扱うかはひとつの問題です。私が取締役会議長であれば、極力「棄権」という事実行為は回避したいと考えます。たとえば棄権(議決権行使の放棄という事実行為)は取締役としての善管注意義務違反のおそれがあるため(取締役の監視義務違反-もちろん会社法には「棄権」という概念はありません)、棄権したいと申し出た取締役について「あなたは賛成でも、反対でもどちらか多いほうの意見に与するという趣旨か、決議が成立した場合にはその決議に賛成という趣旨か、それとも賛成も反対も意思表示しない、つまりは法的には反対という理解でよいか」と釈明を求めることになります。また、今回の大手流通グループの件のように決議不成立なら良いのですが、決議が成立した場合には、このように釈明を求めておかないと、後日、意に反して「決議に賛成したものと推定され」る可能性もあります(会社法396条5項参照)。それでも、どうしても決議に加わりたくない、という取締役さんがいらっしゃれば「●●取締役は・・・といった理由により議決に加わらなかった」と取り扱うことになります。

 

そのように考えると、この無記名投票における「白票」は、タテマエ上は誰が白票を投じたのかわからないシステムなので、議長が白票を投じた取締役に釈明を求めることは困難です。ひょっとしたら「私は賛成意見が多いのであればそちらに従う、という意思で白票を投じた」といった趣旨で議決権行使をされたのかもしれません(そうであれば人事案は可決された可能性もありますね)。

 

ところで今回の件について一連の報道を眺めてみますと、ガバナンス改革を推進したい側からは「社外取締役制度が機能した事例」として取り上げられ、あまり改革に積極的でない側からは「やはり社外取締役制度は機能しなかった事例」として取り上げられています。私見は控えますが、人事案審議の1週間ほど前から、(任意機関としての)指名・報酬委員会を取り巻く情勢が逐一外部に漏れていていたことはよても気になりました。こういった場面において社内の事情は(どちらかのリークによって?)事前に漏れる・・・とうことは、今後の同種案件の教訓になりそうです。

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2016年4月19日 (火)

熊本・大分地震につきまして心よりお見舞い申し上げます。

「平成28年熊本・大分地震」により、被害を受けられた皆様に、心よりお見舞い申し上げます。 皆さまの安全と1日も早い復興を心よりお祈り申し上げます。

東日本の時と同様、ご迷惑にならない時期になりましたら、自分なりの支援活動をさせていただきたいと考えております。ともかく、地震活動が活発化しているとのことで、早期に沈静化することを祈念いたします。

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東芝会計不正事件-内部告発は二つ存在した

東芝会計不正事件について、朝日新聞に連載されている「(けいざいプラス)東芝の迷宮(ラビリンス)」はよく取材されており、たいへん興味深い内容です。毎日新聞出版「東芝不正会計-底なしの闇」でも疑問とされていた不正発覚の経緯が4月15日朝日新聞朝刊の「その5」で明らかにされています。私は内部告発後、金融商品取引法に基づく報告命令がいきなり東芝社に届いたのかと思っていましたが、その前に任意の資料提供要求があったのですね。

2014年12月ころに証券取引等監視委員会に内部通報(内部告発)がなされたことで、金融庁が不適切会計処理の存在を知ったことは既にいろいろなところで報じられていましたが、その後(時期は特定されていませんが)もう一度、別の社員から証券取引等監視委員会に内部通報(内部告発)がなされていたそうです(これは驚きの新事実です。私はてっきり社内の特別調査委員会に内部通報がなされて、経営陣に緊張が走ったものと考えていました)。しかも、朝日の「迷宮」の書きぶりからすると、最初の告発は(S元副会長の出身である)原子力部門における会計不正、そして二度目の告発は(N元会長の出身である)PC部門のバイセル取引の会計不正を暴くものだったそうです。

朝日の記者さんに上記新事実を提供しているのは「当時の役員」ということですから、こういった取材内容からしますと、これまで「闇」とされてきた部分に少し光があてられてきたように思います。あくまでも推測ですが、内部告発合戦が派閥争いの中で繰り広げられていた可能性についても否定できないように感じます(しかし、この朝日の記事には「元役員」とか「元副社長」とか、多くの元経営幹部が協力しています。このあたりも興味深いところです)。

最近、某社の不祥事が新聞で少しだけ記事になりましたが、その不祥事を経営トップが知るに至ったのは、現場社員からの内部通報でした。しかしながら、当該社員は会社側に「黙っているから誠意をみせてほしい」と暗に取引を要求してきたそうです。会社側は毅然とした対応をとりましたが、その際、自主的に公表することを決断しました。内部通報制度や公益通報者保護制度の運用は、通報者の正義感による通報を当然の前提として議論されているわけですが、実際は通報者の様々な意図によって通報や告発が行われる、ということも現実の課題として受け止めねばなりませんね。

著名企業が会計不正に手を染める原因や動機は様々かもしれませんが、オリンパス事件や東芝事件の不正発覚の経緯を眺めてみますと、不正を暴く内部告発の力の大きさを痛感します。誰がどのような目的で金融庁に内部告発を行ったのか、そのあたりが東芝事件の真相を解明するためのカギだと思います。

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2016年4月18日 (月)

独立社外取締役の複数選任制と経営者の交代

会長さんの処遇問題(「名誉会長」「最高顧問」として指名するか否か)で、某大手流通グループが揺れている・・・との報道が続いておりますが、任意機関としての指名・報酬委員会の委員である社外取締役2名の方々が、会社側人事案に反対されているそうです。いままで大きな影響力を持っていた会長さんが取締役を退くとしても、その後に「最高顧問」等の肩書きを残すとなると影響力がそのまま残ってしまうのではないか・・・と不安に感じるところも理解できるところです。

以下は一般論にすぎませんが、社長や会長職から退き、「顧問」や「相談役」として残るケースでは、単に肩書だけでは影響力や支配力が残っているかどうかは不明です。仮に私が一般株主として、このような人事案がガバナンスに与える影響について質問するのであれば、①専属秘書の有無、②(専属運転手は別として)社用車保有の有無、③個室の有無、④かりに個室がある場合には社長と同じフロアなのか、別の階に移動したのか⑤出勤状況(週2回以上出勤されているのか)といったことを具体的にお聴きしたいです(ほかにも「交際費の支払条件」などもありますが、これはたぶん回答されることはないと思います)。

なかでも経営権争いの事例に携わった経験からしますと、③と④は大きいかなぁ・・・と思います。顧問や相談役の方々が、今後の社内人事に深く関与できるためには、このふたつはどうしても外せないように思いますし、非定例の事件によって社長、会長さんが退任される場合に最も抵抗があるのが③と④かと。ただ、コーポレートガバナンスの理想型だけを追い求めて、会社の企業価値向上、持続的な成長を維持するために、社長、会長さんの影響力を一切排除することがベストだとは考えていません。あくまでも当該会社の株主構成や人事慣行とのバランスに配慮しながら決定すべきです。

ところで齋藤教授(慶応大学)、小川教授(早稲田大学)、宮島先生(経済産業研究所)らによる共著論文「企業統治制度の変容と経営者の交代」が独立行政法人経済産業研究所のHPにて公開されています。ガバナンスについての経済的アプローチによる実証研究の成果として、また多くの論文等に引用されることになると思いますし、ご一読をお勧めいたします。こちらも会社規模や機関投資家比率(海外機関投資家比率を含めて)との関係に配慮しなければ明確なことは言えませんが、会社の業績が悪化した場合、独立社外取締役は経営者交代に果たして機能するかどうか、という点に関する実証研究はたいへん興味深いところです。

独立社外取締役が1人または2人の場合には、業績が悪化した企業の経営者交代についてあまり影響はなく、むしろ業績悪化を覆い隠す要因になってしまう可能性があるのに対し、独立社外取締役が3人以上(もしくは取締役会の構成比率が30%以上?)の場合には、経営者交代に対して有意に機能する、とのこと。なるほど、外向けのガバナンス対応は会社の七難を隠す一方で、3人以上の独立社外取締役を選任する会社の場合には、社外取締役自身が業績向上のための施策について真剣に考える契機になる、ということでしょうか(そういえば某大手流通グループさんも独立社外は4名です)。

会社の業績が堅調なときにこそ次のビジネスモデルへの転換を模索しなければならない、業績が悪化してからでは遅すぎる・・・・・。では、その方向性は、これまで会社をけん引してこられたカリスマ経営者のひらめきに依拠すべきか(すべての取締役に反対されながらも、自らの信念を通してやってきたからこそ、今の会社の繁栄があるわけです)、それとも多様性を保持した取締役会の変革の中に見出すべきか、とても悩ましい課題です。某会長さんの会見での言葉をお借りすれば「最後は資本と経営の分離の問題、資本の信任があってこその経営」かとは思いますが、これはスチュワードシップ・コードの遵守を宣言されている機関投資家の方々からみても、かなり難問ではないでしょうか。

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2016年4月17日 (日)

「自浄作用」としての会社による役員損害賠償訴訟の提起

マスコミではほとんど取り上げられていませんが、先日(2016年3月25日)、名古屋地裁岡崎支部において、フタバ産業さんの元社長さん、元専務さんに対する損害賠償請求訴訟の判決が出ています(WSJのニュースはこちらです)。フタバ産業さんの不正会計事件は、当ブログでも過去に何度かご紹介していましたが、一連の事件に対して、会社が不正見逃し責任を追及した事例かと思われます(判決文を読んでおりませんので、あくまでも記事からの推測ですが、会社資金の不正支出を主導したとして刑事処分を受けた役員さん方とは異なるようです)。

元社長さんには14億7000万円、元専務さんには2億1000万円の返還命令、ということで非常に高額ですが、過去の事件経過からみて、この裁判を最後まで進めたのはフタバ産業さんの監査役の方々だった可能性があります。おそらく会社としての自浄作用を発揮されたうえでの裁判だったものと推測いたします。近時、FCPA問題等、フタバ産業さんではいろいろとコンプライアンス上の問題が重なりましたので、社会的な信用を維持するためにも、会社自身が(和解もせず)経営トップの責任追及を果たした意義は大きいものと考えます。

このフタバ産業さんの件だけでなく、最近は会社自身が(つまり新経営陣や監査役が会社を代表して)経営者の責任を追及して勝訴判決を得るケースも出てきています。特筆すべきは会社が訴える場合における会社の「損害」に関する捉え方(何をもって会社の損害とみるか)です。たとえば先日、会社側が一部勝訴したクラウドゲート社事件判決では、会計不正事件が発覚した際の社内・社外調査費用、追加監査報酬、課徴金、有価証券報告書訂正費用等が損害として認定された模様です(「模様です」と書いたのは、これも会社側リリースからの推測であり、判決文まで確認したわけではないことからでして、あしからず)。また、こちらは株主代表訴訟ですが、シャルレのMBO頓挫事件の大阪高裁判決(2015年10月29日)においても、元経営者らのMBO遂行時における公正性を疑わせる手続き的瑕疵を問題にして、たとえ株主に対する損害が明確でないとしても、不正の疑義を解明するために設置された第三者委員会の費用等が会社の損害であると認定をしていました。

監査役さんによる提訴理由の判断権は、株主代表訴訟制度の見直しとの関係で、次の会社法改正における検討項目にもなっているようです。ただ、会社側勝訴の裁判例が重なり、何をもって会社の損害とみるか、という点が明確になってきますと、そもそも(経営陣に遠慮をして)監査役さんが提訴をしない理由の合理性が厳しく問われる事態となり、逆に監査役さんの善管注意義務違反が追及される可能性が出てきます。コンプライアンス経営の一環としての「自浄作用」の発揮という点は、それ自体は法的責任の枠外の議論ですが、その発揮された事例が裁判例として積み重なることにより、とりわけ監査役さんの善管注意義務の根拠(とくに不作為の違法性を高める根拠)になりつつあるように感じます。

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2016年4月14日 (木)

相次いで公表される日本再興戦略「攻めの経営」の促進プラン

日本再興戦略改訂2015において、攻めの経営の促進プランとして掲げられている具体的施策の中身が次々と公表されています。本日(4月13日)の金融庁HPでは金融審議会ディスクロージャーワーキンググループの報告(案)が開示資料として公表されており、株主と企業との対話の促進、開示制度の一元化の促進案等が示されています(統合報告書についても触れられています)。また日経ニュースでは金融庁が(攻めの経営を支える銀行の役割を明確にするために)銀行監督を強化することも報じられていますね。

コーポレートガバナンス・コード、スチュワードシップ・コードの運用についても別の有識者会議が先日中間報告書をとりまとめていましたので、進捗度が高まってきたように思います。そういった日本再興戦略改訂2015「攻めの経営の促進」プランの中に、あまり目立ちませんが海外不正リスクへの対応策というものが盛り込まれています。経産省の海外贈賄防止指針の改訂はすでに行われてますが、(何度も当ブログでは申し上げておりますとおり)日本政府ではなく、たとえばDOJに対応したコンプライアンス・プログラムの社内体制の整備なども企業側にとっては重要です。

昨年6月当ブログの こちらのエントリーにて国広さんの新刊書をご紹介しましたが、旬刊商事法務の最新号(4月5日号)では、一昨年に出版させていただいた「国際カルテルが会社を滅ぼす」(同文館出版)の共著者である井上朗弁護士が「米国司法省が求める『実効性のある』コンプライアンスプログラムについて」と題する論稿を執筆されています。井上弁護士は、東京の渉外事務所のパートナーとして米国との司法取引を何度も経験されておられるので、実務に密着した論稿になっています(平易な文章ですし、とても参考になると思います)。

有事となれば、もちろん井上弁護士のような渉外弁護士と相談する必要があるわけですが、「コンプライアンスプログラム」とあるように平時にこそ準備すべき課題もあります。「なぜ、日本企業が狙われるのか?」といったフレーズでときどき特集が組まれることもありますが、海外当局がどのような「大義」をもってカルテルや贈賄に取り組もうとしているのか、その大義こそ平時から理解しておく必要があるのではないかと思います。

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2016年4月13日 (水)

第82回監査役全国会議にてコーディネーターをさせていただきました。

4月12日、第82回の監査役全国会議が開催されまして(パシフィコ横浜・国立大ホール)、6年ぶりにコーディネーターをさせていただきました。今回はカルビー社の松本会長兼CEOによる基調講演と「企業不祥事防止と監査役-会計監査人等との連携の在り方を巡って-」と題するパネルディスカッションです。

まいどのことながら、1900名の監査役の皆様の前でお話するのは緊張いたしますが、「連携と協働」についてこれほど真剣に考えたことがなく、私自身が一番勉強になったのではないかと。ご来場者の皆様との懇親会では、いろいろと改善すべき点などもご教示いただいたので、個人的にも有益でした。進行については正直、パネリストの皆様のキャラクターに助けられました。

ところで終了後の懇親会で、西山芳喜先生(九州大学名誉教授)と少しばかりお話させていただく機会があり、日本監査役協会の歴史とともに、監査役制度の歴史についていろいろと教えていただきました。①戦前の企業は取締役6名に対して監査役は4名程度であり、取締役も含めてみんな「独任制」の機関だったため、監査役もいわば「経営者」であったこと、②25年ぶりに会計監査だけでなく業務監査権限を復活させた昭和49年商法改正のころは、大企業では取締役が50名ほどのところに監査役は1名だったこと、③だからこそ、日本の監査役を商法学者は支援する必要があり、鈴木竹雄先生が初代会長、大隅健一郎先生が初代副会長として日本監査役協会を発足させたこと、④多くの有能なビジネスマンが監査役に就任してほしいとの願いをこめて「適法性監査(監査役は適法性だけをみればよい、という解釈)」という概念を推し進めたこと等。ちなみに学説は違えども、文化勲章を受章された大先生おふたりはとても仲が良かったそうです。

コーポレートガバナンス改革の中、監査役制度は海外から批判的にとらえられていますが、長年この制度が活用されてきた商法の歴史をふりかえりますと、時代にあった監査役の権限を考えてみるのもおもしろいかもしれません(まぁ、その一つの回答が監査等委員会設置会社かもしれませんが・・・)。しかし取締役が50名もいる時代の取締役会とは、いったい何を審議していたのか・・・昔日の感があります。むしろ「閑散役」と揶揄されながらも、多数の取締役の中に一人だけ監査役が存在していたことを想像しますと、逆に会社内ではそれなりの存在感があったのではないかと。

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2016年4月10日 (日)

ステークホルダーが重視する「企業のコンプライアンス違反」

今朝(4月9日)の日経新聞(経済面)では、東京商工リサーチさんの調べで「2015年の企業倒産は前年度に比べて減った」と報じられていますが、4月8日付けの帝国データバンクさんのリリースによると「2015年度のコンプライアンス違反による企業倒産は過去最高」とのこと。帝国データバンクさんの総評では、

「近年の景気回復基調に伴って増加する仕事量に対し、資金繰りや社内体制強化が追い付かなくなる中小企業も多い傾向にあり、粉飾決算や融通手形、循環取引、不透明な資金操作、詐欺などの法令違反が相次いで明るみに出ている。」

と書かれています。

私はこの「コンプライアンス違反と倒産の関係」については、以前から懐疑的な意見を持っておりまして、「そもそも企業は業績が悪くなったからコンプライアンス違反に走るのではないか?したがってコンプライアンス違反と倒産との因果関係はハッキリしないのではないか?」と当ブログでも述べておりました。

しかし上記の各調査会社さんのデータが正しいのであれば、原料安や金融機関の対応の変化などで(全体としての)企業倒産が減っている中で「コンプライアンス違反企業の倒産の増加」が生じているとなると、(帝国データバンクさんが総評で述べられているとおり)コンプライアンス違反に対する世間の目、とりわけ金融機関や取引先等、企業をとりまくステークホルダーの企業選別の目が厳しくなったものと認めざるをえないようです。言い訳にしか聞こえないかもしれませんが、私個人としては、不正調査のレベルが上がったり、コンプライアンス概念が広がってきたために、従来よりも「倒産の陰に隠れていた不正」が認定しやすくなったことも原因のひとつではないかと思っておりますが。。。

業法違反や粉飾といった「明らかな法令違反行為」だけでなく、企業倫理に悖る行為や当局は動かないけれども限りなくブラックに近い行為等による企業信用の低下が、取引先による取引解消や停止といったビジネス上の不利益を招くことが増えている、ということなのでしょうね。単純に商品やサービスが不祥事によって売れなくなった、ということよりも、グレーな企業との取引を、取引先がコンプライアンス経営(CSR経営)の一環として回避することが増えた・・・ということは注目すべきだと思います。

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2016年4月 7日 (木)

異動のご挨拶の季節ですね。(今日はほとんど中身はありません)

当ブログもおかげさまで12年目に突入いたしました。11年ほど前のブログを読み返しますと、ずいぶんと尖がったことを言っていたのですね。最近は内容証明をいただくこともなくなり平穏無事に更新できておりますが、この11年の間に、いろんなところで「しがらみ」ができてしまって、その分、おもしろみが薄らいできたような気がします。とりあえず私自身が懲戒処分を受けたり、刑事処分を受けることなく、つまりこのブログが「閲覧不可」の状況に追い込まれることなく、ここまでやってこれました。これからも、皆様方にアクセスしていただいたときに「404 file not found」とならぬよう、地味に更新していきたいと思います(^^;;

ということで(?)、世界を震撼させているパナマ文書事件やLINE社の資金決済法違反疑惑、サードポイントから要求を突き付けられている「あの会社」の件、オプト社定時総会の委任状争奪戦の結果等、いろいろとブログで書きたい話題が山積しておりますが、微妙に利害関係があったり、ここで持論を述べることが本業に影響を及ぼすおそれがあったり、ということで差し控えざるをえません(ネタを選ばねばならない・・という状況は、実名ブロガーとしてはかなり残念です。しかし、いずれも興味深いです)。

ここ数年、ガバナンス改革といえば政府主導といいますか、法律主導といいますか、「上からのガバナンス改革」が主流だったように思います。しかしこうやって事件が報じられるものは(くわしくは書きませんが)下からの(地下からの?)ガバナンスが機能したケースばかりです。内部統制が機能しない場面において、組織の改革を促す力が発揮される別のシステムが機能するわけでして、いわば「もうひとつのガバナンス改革」が始まっているような気がします。

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2016年4月 5日 (火)

横浜マンション傾斜事件-難問山積の三井不動産求償権問題

先週3月29日の日経朝刊13面において、横浜の傾斜マンション問題に関する三井不動産レジデンシャル(販売元)社長さんの会見記事が掲載されていました。住民の方々への陳謝とともに、傾斜に関する原因調査の終了時期は5月以降までズレこむこと、施主である三井住友建設さんには(建替え費用の)求償権を行使する予定であること、さらにその費用負担に関する協議は長期に及ぶ、との予想が述べられています。

マンションの傾斜が生じた原因を客観的に確定させること自体、こちらのブログ等も拝見したうえで、私はかなり難問だと理解しておりました。今年1月27日の拙ブログ「サプライチェーン・コンプラアンスと役員の法的責任との交錯点」におきまして、私は「マンション傾斜の原因が十分に判明しないまま費用負担に応じることは、施工会社や下請業者にとって法的にも躊躇せざるをえないのではないでしょうか」と書きました。ただ、5月下旬ころまでには関係者間で傾斜原因の調査を確定させる、ということなので、費用負担協議に向けてとりあえず一歩前進、というところではないかと。

しかし、たとえ関係者間で事後原因が明確になったとしても、やはり誰がどれほどの費用を負担するのか・・・という点についてはさらなる課題が待ち構えており、関係当事者による解決方法について、企業コンプライアンスの見地からたいへん関心を持っています。BtoC企業である三井不動産さんにしてみれば「安心思想」によって「全棟建替え」という数百億円を要する工事を率先して行うことは理解できます(たとえ法的責任として補修を超えて全棟建替えまでは不要だとしても、企業の社会的信用を維持するためにはやむをえない、とする経営判断もありえます)。

しかしBtoCではない施工主やその下請企業にとっては、たとえマンション傾斜の原因が工事にあったとしても、「建替えまで行う必要はなく、補修作業を行えば法的責任を尽くしたことになる」と考えるはずです。今後の販売主との信頼関係を重視して、建替え費用を前提に費用負担を行うとすれば、その経営判断は(法的責任を超過した費用を合理的な理由なく支払ったものとして)施工主や下請企業の役員にとって株主代表訴訟に耐えうるものでしょうか。←ここで企業コンプライアンスの視点からは「敗訴リスク」を低減させるための「提訴リスク」コントロールが考えられますが、これはまた別のエントリーで検討したいと思います。

さらに、旭化成建材さんの現場責任者によるデータ偽装問題が、たとえマンションの傾斜とは関係がなかったとしても、「全棟建替え」という販売元の対応決定にどの程度寄与したのか、という問題もありそうです。今年1月の国交省の行政処分によって、同業他社でも同じようなデータ偽装が行われていたことが明らかになりましたが、単なるミスによる工事の瑕疵と、どのような理由があるにせよ、故意によるずさんな工事が行われていたことによる工事の瑕疵とでは、おそらく一般消費者の視点からみれば物件への金銭的評価としては大きな差があると思われます。したがって旭化成建材さんが果たして費用負担問題にどのように対応されるのか、企業コンプライアンスという見地からは注目されるところです。

それぞれの企業のブランド維持のために早期決着を図る方向で協議がされるのか、それともそれぞれの企業における役員の法的責任問題を回避するために、司法の場で費用負担を決着させることも辞さないのか。コンプライアンス経営があたりまえの時代となり、「安心思想」による対応と「安全思想」による対応について企業が選択肢を有するなかで、事故の原因が明らかにされた後にも、大きな難問が横たわっているように思います。

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2016年4月 1日 (金)

コーポレートガバナンス・コードの今後の運用と社外取締役の有効活用-大阪開催のお知らせ!

昨日定時株主総会が開催されたK社(C社?)では、予想どおり「なぜ当社はあの監査法人を再任するのか?きちんと説明してほしい」との株主質問が出たそうですね。2月から3月にかけて、全国2500名以上の監査役の皆様に、私なりのモデル回答をお示ししましたが、富士フイルムさんのように会計監査人を変更する事例も出てきましたし、監査役の皆様は、きちんと準備をしておく必要がありそうですね。

さて、本日はお知らせでございます。来る4月25日(月)午後3時~6時、大阪弁護士会館2階ホールにおきまして、「コーポレートガバナンス・コードの今後の運用と社外取締役の有効活用-『社外取締役ガイドライン』を使った課題と活動-」なる公開講座を開催いたします。社外取締役就任を希望される皆様、またガバナンス・コードの運用や社外取締役の有効活用にお悩みの(?)企業様向けに、日弁連が主催するものでして、不肖私が企画させていただいたものです(ですので、ぜひぜひ多くの皆様にお越しいただきたい!)。東証さんにも後援していただいております(大阪弁護士会、近畿弁護士連合会共催)。

日弁連の広報ページはこちらでございます。リード文をご紹介しますと、

社外取締役は既に多くの上場会社において選任されており、さらに、独立した客観的な立場から経営陣に対し実効性の高い監督(モニタリング)を行う役割・責務を果たす独立社外取締役2名以上を選任すべきであると提示するコーポレートガバナンス・コードの適用を受け、多くの企業がこの独立社外取締役の選任について検討しています。しかし、社外取締役の職責と活動範囲はいかにあるべきか、これらを含むコーポレートガバナンス・コードの具体的運用はどうあるべきかについては、今後、掘り下げて議論をするべき課題が数多く残されています。世界的潮流としても、投資家を中心に、社外取締役には人事・報酬等各方面での活躍が期待されているところです。

上場企業にとって、社外取締役をいかに有効に活用できるかが、ガバナンスの観点から喫緊の課題であり、さらに、これらの有効な活用が競争力や市場評価に直結することになります。本公開講座では、当連合会の「社外取締役ガイドライン」(2015年3月改訂)を基に、社外取締役とその活用方法について、企業の持続的成長と企業価値向上の観点から、企業関係者および投資家とのパネルディスカッションを行います。

というものです。

上記広報ページをご覧いただきますとおわかりのとおり、(これって本当に大阪開催!?東京じゃないの?と疑いたくなるほど)たいへん豪華なご登壇者の顔ぶれです。基調講演は、元新生銀行社長、元エッソ石油社長でいらっしゃる八城政基氏、そして東京証券取引所取締役専務執行役員でいらっしゃる静正樹氏です。日米における経営実務の中で、コーポレートガバナンスの歴史を体験されてこられた八城氏から、コーポレートガバナンス・コードをいかにして上場企業が理解すべきか、その道筋を示していただく予定です。また、ガバナンス・コードの運用主体である東証の静氏から、まさにコード運用の現状と今後の課題について語っていただく予定です(今後の打ち合わせにより、内容は変更される場合がございます)。

また、第2部のパネルディスカッションでは、上記基調講演者お二人に加え、木村祐基氏 (一般社団法人スチュワードシップ研究会代表理事/元金融庁総務企画局企業開示課専門官)、弁護士・公認会計士の資格をお持ちの中野竹司氏、上場会社の社外取締役を務める弁護士市毛由美子氏らに、社外取締役をどのように有効活用すべきか、社外取締役とは何をすべきか、といった議論を中心にガバナンス・コードの運用課題について語っていただきます(モデレーターは中西和幸弁護士に務めていただきます)。ちなみに地元大阪での開催ですが、私は(先日の東京開催のほうで登壇させていただいたこともあり)今回は完全に企画側でございます。

八城さんと先日、打ち合わせをさせていただきましたが、やはり「社外重役」の時代からガバナンス戦略を実践されてこられた方の話は違います!多くの「気づき」を頂戴いたしました。上場会社の皆様には東証さんから広報されているものと思いますが、とりわけ中部、西日本を基盤とする企業の皆様、社外を含む役員の皆様、会計士・税理士等士業の皆様、そして同業者(弁護士)の皆様、参加無料でございますのでぜひともご参加くださいませ(事前申込が必要なので、お申し込みは上記日弁連の広報ページよりお願いいたします。追記 なお大阪弁護士会の会員の皆様には会員専用ページ内でも告知しております)。なお、静様の肩書を訂正させていただきました。失礼いたしました。

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