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2016年4月27日 (水)

三菱自動車の対応に関する素朴な懸念(かなりピンチでは?)

今日(4月26日)も、午後4時半からの三菱自動車さんのトップ会見をニコニコ動画で拝見しておりました(最近は生中継で最後まで視聴できるので勉強になります)。これはあくまでもコンプライアンスに関心をもつ弁護士としての個人的意見にすぎませんが、三菱自動車さんの燃費性能偽装事件はかなりマズイ方向に進んでいるように感じました。

燃費偽装の不正を構成する高速惰行法による抵抗値測定は1991年から始まっていたことが明らかになりましたが、その一方で先日の会見では明らかにされていた特定社員の偽装指示の事実は撤回されました。つまり組織としての構造的な欠陥があったけれども、誰が主犯なのかは不明といった説明です。設置された特別調査委員会による調査結果を待つ、とのこと。不正発見の段階において自浄作用を発揮できませんでしたが、さらに危機対応としての不正調査や原因究明の段階でもまったく自浄機能を発揮することなく、むしろ放棄してしまったということになります。

また、高速惰行法による抵抗値測定を行った車種、机上計算によって抵抗値を算出した車種、いわゆる法令違反状況において製作された車種を特定できるにもかかわらず、記者会見ではその特定車両の開示を拒否しておられます。いまだ調査未了なので全貌は明らかにならないとしても、全国に多くの三菱自動車のオーナーがいるわけで、「自分の車はだいじょうぶか?」と心配する人たちに何らの情報提供もしないというのは、企業の社会的責任という視点からいかがなものでしょうか。ましてや、法令違反行為によって作られたクルマを、これからも売り続けることについて、どう経営トップは考えておられるのでしょうか。たしかに法令違反が=燃費偽装(不正)や安全性能の欠如につながるわけではありませんが、燃費偽装は法令違反行為と密接に関連していることは明らかなので、せめてどのクルマの性能試験に法令違反があるのか、すみやかに明らかにすべきです。

さらに、1991年から違法な試験方法が長年続いていたとなると、いくら開発部門だけしか知らなかった問題だとしても、すでに25年も経過しているのですから、不正に関与していた(もしくは不正を知っていながら黙認していた)社員がいまごろは経営幹部になっているはずです。ということは、もはや組織ぐるみで不正を隠ぺいしているといわれてもしかたないのでは、と素朴な疑問が湧いてきます。

結局のところ、国民の財産の安全を守るためには、国交省としては(全自動車メーカーに対して)性悪説に基づく事前規制の強化に乗り出すか、もしくは事前規制強化が他の自動車メーカーの国際的な競争力を低下させることになってマズイのであれば、三菱自動車さんだけに対して(見せしめとして)厳格な事後規制をかけるしか方法はないと考えます。たしかに三菱自動車さんは検察ご出身の方々による調査委員会を新たに設置していますが、元最高検検事の方が企業倫理委員会の委員長として、長年同社のコンプライアンス経営をチェックされてきても不正を発見できなかったわけですし、1991年から今日まで、このような不正の温床が継続していたとなりますと、(その間に何度もリコール隠し等の不正が発生していたのですから)どのような調査結果が出たとしても、もはや調査内容の信用性には疑問符が付くのではないでしょうか。

これは本当に私見にすぎませんが、三菱自動車さんの今回の件につきましては、たとえ国民ひとりひとりの損害はそれほど大きくないとしても、刑事事件に発展する可能性もあるように思えますし、今後の同社の危機管理能力が問われるはずです。私には、三菱自動車さんを支援する企業に対しても「なぜ、あのような会社を支援するのか、その合理的な理由を説明してほしい」と多くのステークホルダーから詰め寄られることまで想起されます。

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コメント

米環境保護局が動き出したようです。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160427/k10010500251000.html
http://www.reuters.com/article/us-mitsubishimotors-usa-epa-idUSKCN0XN2OX

となれば、米国でクラスアクションが起こるのも時間の問題ですね。
日本だけの問題ではなくなりそうです。

投稿: 和田 | 2016年4月27日 (水) 16時17分

支援企業があるとしても、会見などで言われているレベルの売上減少と、これから予想される賠償責任の積み上げを考えると、法的整理を経由して役員責任追及と株主責任の貫徹後、ということになると予想しています。

投稿: 場末のコンプライアンス | 2016年4月28日 (木) 18時53分

和田さん、場末のコンプライアンスさん、どうもありがとうございます。5月に入っても先行きが見えない状況で、いろいろな事件対応に関する会社側の行動にも疑問が生じます。場末のコンプライアンスさんの意見に現実味が帯びてきたかもしれません。また続編を書きたいと思います。

投稿: toshi | 2016年5月 3日 (火) 12時49分

この話が出たのは三菱重工業狙いなのか三菱商事狙いなのか三菱東京UFJ銀行狙いなのか、2017年問題を抱えるトヨタの外堀埋めなのか最近、急速充電器拡充などの電気自動車拡充に動いてる日産&ルノーの絡みなのか

フォルクスワーゲンの問題があったにしても今更、この問題が出てきた経緯というのも見所かも

三菱商事が資源安の影響で日本KFCなどを手放してる状況なので安く買いたい輩でもいるのかも興味深い限りで

投稿: 流星 | 2016年5月 5日 (木) 22時29分

いつも拝読しています。コンプライアンス違反によって日産の傘下に事実上入ることになり、コンプライアンス経営がいかに大事かということがいまさらながら認識しました。今回ばかりはグループ支援だけでは収まりきれなかったということなのでしょう。

投稿: masako | 2016年5月12日 (木) 12時28分

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