ステークホルダーが重視する「企業のコンプライアンス違反」
今朝(4月9日)の日経新聞(経済面)では、東京商工リサーチさんの調べで「2015年の企業倒産は前年度に比べて減った」と報じられていますが、4月8日付けの帝国データバンクさんのリリースによると「2015年度のコンプライアンス違反による企業倒産は過去最高」とのこと。帝国データバンクさんの総評では、
「近年の景気回復基調に伴って増加する仕事量に対し、資金繰りや社内体制強化が追い付かなくなる中小企業も多い傾向にあり、粉飾決算や融通手形、循環取引、不透明な資金操作、詐欺などの法令違反が相次いで明るみに出ている。」
と書かれています。
私はこの「コンプライアンス違反と倒産の関係」については、以前から懐疑的な意見を持っておりまして、「そもそも企業は業績が悪くなったからコンプライアンス違反に走るのではないか?したがってコンプライアンス違反と倒産との因果関係はハッキリしないのではないか?」と当ブログでも述べておりました。
しかし上記の各調査会社さんのデータが正しいのであれば、原料安や金融機関の対応の変化などで(全体としての)企業倒産が減っている中で「コンプライアンス違反企業の倒産の増加」が生じているとなると、(帝国データバンクさんが総評で述べられているとおり)コンプライアンス違反に対する世間の目、とりわけ金融機関や取引先等、企業をとりまくステークホルダーの企業選別の目が厳しくなったものと認めざるをえないようです。言い訳にしか聞こえないかもしれませんが、私個人としては、不正調査のレベルが上がったり、コンプライアンス概念が広がってきたために、従来よりも「倒産の陰に隠れていた不正」が認定しやすくなったことも原因のひとつではないかと思っておりますが。。。
業法違反や粉飾といった「明らかな法令違反行為」だけでなく、企業倫理に悖る行為や当局は動かないけれども限りなくブラックに近い行為等による企業信用の低下が、取引先による取引解消や停止といったビジネス上の不利益を招くことが増えている、ということなのでしょうね。単純に商品やサービスが不祥事によって売れなくなった、ということよりも、グレーな企業との取引を、取引先がコンプライアンス経営(CSR経営)の一環として回避することが増えた・・・ということは注目すべきだと思います。
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コメント
世間ではパナマ文書が話題になってますね。自分の会社や社長がこれに載っていたら、内部監査室や監査役会はどう動くんでしょうかね。
投稿: 工場労働者 | 2016年4月10日 (日) 07時17分
私は、まだ先生の旧説の可能性を維持したいと思います。
すなわち、「コンプライアンス違反からの倒産」には懐疑的で、「倒産の危機からコンプライアンス違反に走り結果として倒産」が多数だと推定します。
コンプラ違反が見られない倒産が減る中でコンプラ違反が見られる倒産が減らないのは、「コンプラ違反に走る企業は重症な企業が多いから」という仮説で説明可能だと思います。
相関関係から因果関係を導く議論には、非常に慎重な考察が必要だと思うのです。
投稿: S.N. | 2016年4月11日 (月) 23時25分
コンプライアンス違反の難しいところは、業況の良し悪しにかかわらず発生するという点かと思います。
業況が活発なときには、多くの営業成果を求める声にかき消されて、やるべきことが行われないという、不作為系のコンプライアンス違反が起きやすいこととなります。
他方、業況が悪化したときには、業況の回復を望む、又は企業の存続可能性の確保の観点から、やってはいけないことに手を染めてしまう、作為系のコンプライアンス違反が起きやすいかと思います。
ただ、業況悪化時には、コスト削減の観点から、やるべきことが行われないという、不作為系のコンプライアンス違反も同時に起きやすくなることから、違反が生じやすい状況ということは明確化と思います。
業況悪化時のコンプライアンス違反は、発覚時の企業体力が限界にきていることから、コンプライアンス違反→倒産という流れになりやすい面がありますが、業況が活発なときにおいても、近時のコンプライアンス違反に対する社会的な選別が進んだ結果、違反発覚時に耐えるための企業体力は相当水準が引き上がっているという感じはあります。
個人的には、コンプライアンス違反と倒産の他に第三の要素があり、コンプライアンス違反と倒産については疑似相関になるのではないかと睨んでいますが、非才の身には想像すらつかないところです。
投稿: 場末のコンプライアンス | 2016年4月21日 (木) 12時52分