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2016年4月18日 (月)

独立社外取締役の複数選任制と経営者の交代

会長さんの処遇問題(「名誉会長」「最高顧問」として指名するか否か)で、某大手流通グループが揺れている・・・との報道が続いておりますが、任意機関としての指名・報酬委員会の委員である社外取締役2名の方々が、会社側人事案に反対されているそうです。いままで大きな影響力を持っていた会長さんが取締役を退くとしても、その後に「最高顧問」等の肩書きを残すとなると影響力がそのまま残ってしまうのではないか・・・と不安に感じるところも理解できるところです。

以下は一般論にすぎませんが、社長や会長職から退き、「顧問」や「相談役」として残るケースでは、単に肩書だけでは影響力や支配力が残っているかどうかは不明です。仮に私が一般株主として、このような人事案がガバナンスに与える影響について質問するのであれば、①専属秘書の有無、②(専属運転手は別として)社用車保有の有無、③個室の有無、④かりに個室がある場合には社長と同じフロアなのか、別の階に移動したのか⑤出勤状況(週2回以上出勤されているのか)といったことを具体的にお聴きしたいです(ほかにも「交際費の支払条件」などもありますが、これはたぶん回答されることはないと思います)。

なかでも経営権争いの事例に携わった経験からしますと、③と④は大きいかなぁ・・・と思います。顧問や相談役の方々が、今後の社内人事に深く関与できるためには、このふたつはどうしても外せないように思いますし、非定例の事件によって社長、会長さんが退任される場合に最も抵抗があるのが③と④かと。ただ、コーポレートガバナンスの理想型だけを追い求めて、会社の企業価値向上、持続的な成長を維持するために、社長、会長さんの影響力を一切排除することがベストだとは考えていません。あくまでも当該会社の株主構成や人事慣行とのバランスに配慮しながら決定すべきです。

ところで齋藤教授(慶応大学)、小川教授(早稲田大学)、宮島先生(経済産業研究所)らによる共著論文「企業統治制度の変容と経営者の交代」が独立行政法人経済産業研究所のHPにて公開されています。ガバナンスについての経済的アプローチによる実証研究の成果として、また多くの論文等に引用されることになると思いますし、ご一読をお勧めいたします。こちらも会社規模や機関投資家比率(海外機関投資家比率を含めて)との関係に配慮しなければ明確なことは言えませんが、会社の業績が悪化した場合、独立社外取締役は経営者交代に果たして機能するかどうか、という点に関する実証研究はたいへん興味深いところです。

独立社外取締役が1人または2人の場合には、業績が悪化した企業の経営者交代についてあまり影響はなく、むしろ業績悪化を覆い隠す要因になってしまう可能性があるのに対し、独立社外取締役が3人以上(もしくは取締役会の構成比率が30%以上?)の場合には、経営者交代に対して有意に機能する、とのこと。なるほど、外向けのガバナンス対応は会社の七難を隠す一方で、3人以上の独立社外取締役を選任する会社の場合には、社外取締役自身が業績向上のための施策について真剣に考える契機になる、ということでしょうか(そういえば某大手流通グループさんも独立社外は4名です)。

会社の業績が堅調なときにこそ次のビジネスモデルへの転換を模索しなければならない、業績が悪化してからでは遅すぎる・・・・・。では、その方向性は、これまで会社をけん引してこられたカリスマ経営者のひらめきに依拠すべきか(すべての取締役に反対されながらも、自らの信念を通してやってきたからこそ、今の会社の繁栄があるわけです)、それとも多様性を保持した取締役会の変革の中に見出すべきか、とても悩ましい課題です。某会長さんの会見での言葉をお借りすれば「最後は資本と経営の分離の問題、資本の信任があってこその経営」かとは思いますが、これはスチュワードシップ・コードの遵守を宣言されている機関投資家の方々からみても、かなり難問ではないでしょうか。

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コメント

管理人さんの一般株主として、人事案がガバナンスに与える影響についての質問4点は株主総会での質問の参考にしたい話ですね

投稿: 流星 | 2016年5月 5日 (木) 22時12分

社外取締役の増加が要求される中、あまり注目されない地方新興市場上場企業においては大会社でない故や人件費の問題もあってか社外取締役や監査役会、会計監査人の設置が自体がない企業も見られる訳ですが

そういった上場企業の監査役会や会計監査人の選任を促すのも企業価値向上として必要な気もします

投稿: 流星 | 2016年5月17日 (火) 19時30分

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