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2016年4月 5日 (火)

横浜マンション傾斜事件-難問山積の三井不動産求償権問題

先週3月29日の日経朝刊13面において、横浜の傾斜マンション問題に関する三井不動産レジデンシャル(販売元)社長さんの会見記事が掲載されていました。住民の方々への陳謝とともに、傾斜に関する原因調査の終了時期は5月以降までズレこむこと、施主である三井住友建設さんには(建替え費用の)求償権を行使する予定であること、さらにその費用負担に関する協議は長期に及ぶ、との予想が述べられています。

マンションの傾斜が生じた原因を客観的に確定させること自体、こちらのブログ等も拝見したうえで、私はかなり難問だと理解しておりました。今年1月27日の拙ブログ「サプライチェーン・コンプラアンスと役員の法的責任との交錯点」におきまして、私は「マンション傾斜の原因が十分に判明しないまま費用負担に応じることは、施工会社や下請業者にとって法的にも躊躇せざるをえないのではないでしょうか」と書きました。ただ、5月下旬ころまでには関係者間で傾斜原因の調査を確定させる、ということなので、費用負担協議に向けてとりあえず一歩前進、というところではないかと。

しかし、たとえ関係者間で事後原因が明確になったとしても、やはり誰がどれほどの費用を負担するのか・・・という点についてはさらなる課題が待ち構えており、関係当事者による解決方法について、企業コンプライアンスの見地からたいへん関心を持っています。BtoC企業である三井不動産さんにしてみれば「安心思想」によって「全棟建替え」という数百億円を要する工事を率先して行うことは理解できます(たとえ法的責任として補修を超えて全棟建替えまでは不要だとしても、企業の社会的信用を維持するためにはやむをえない、とする経営判断もありえます)。

しかしBtoCではない施工主やその下請企業にとっては、たとえマンション傾斜の原因が工事にあったとしても、「建替えまで行う必要はなく、補修作業を行えば法的責任を尽くしたことになる」と考えるはずです。今後の販売主との信頼関係を重視して、建替え費用を前提に費用負担を行うとすれば、その経営判断は(法的責任を超過した費用を合理的な理由なく支払ったものとして)施工主や下請企業の役員にとって株主代表訴訟に耐えうるものでしょうか。←ここで企業コンプライアンスの視点からは「敗訴リスク」を低減させるための「提訴リスク」コントロールが考えられますが、これはまた別のエントリーで検討したいと思います。

さらに、旭化成建材さんの現場責任者によるデータ偽装問題が、たとえマンションの傾斜とは関係がなかったとしても、「全棟建替え」という販売元の対応決定にどの程度寄与したのか、という問題もありそうです。今年1月の国交省の行政処分によって、同業他社でも同じようなデータ偽装が行われていたことが明らかになりましたが、単なるミスによる工事の瑕疵と、どのような理由があるにせよ、故意によるずさんな工事が行われていたことによる工事の瑕疵とでは、おそらく一般消費者の視点からみれば物件への金銭的評価としては大きな差があると思われます。したがって旭化成建材さんが果たして費用負担問題にどのように対応されるのか、企業コンプライアンスという見地からは注目されるところです。

それぞれの企業のブランド維持のために早期決着を図る方向で協議がされるのか、それともそれぞれの企業における役員の法的責任問題を回避するために、司法の場で費用負担を決着させることも辞さないのか。コンプライアンス経営があたりまえの時代となり、「安心思想」による対応と「安全思想」による対応について企業が選択肢を有するなかで、事故の原因が明らかにされた後にも、大きな難問が横たわっているように思います。

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コメント

細野氏の3月2日記事によると、載荷試験の報告書は4社連名で旭化成建材も入っているため、不適合内容はその時点で把握していたはずです。従って裁判所としては、違法行為の共犯関係とみるのが容易なので旭化成建材はかなり苦しいと思います。

一方この載荷試験結果の不適合が旭化成建材関係の報告書からは明らかになっていないことからすると、その当時の資料は旭化成建材には残っていないと推察できます。

商取引上は(たとえ中止・やり直しを提言したとしても)施工主・元請がやらなかったので下請けの立場では何もできなかった、のは明らかで問題があるとわかっていて進めた側に責任があるのは明らかですが、違法行為への加担については裁判所は厳しくみるのではないか、証拠で立証ができないのは苦しいのではないかと思います。

上記の共犯関係を除けば、安心のための費用の問題については全く同感です。

投稿: ansible_com | 2016年4月 6日 (水) 05時37分

ansible_comさん、ご意見ありがとうございます。この細野氏のブログは私も更新されるたびに注目しております。法的な問題については私なりの考えがありますが、マンション建設の実情といいますか「相場観」といいますか、そのあたりは非常に参考にさせていただいております。おそらく多くの法律家がそれぞれの立場で関与していると思いますので、裁判に至る前に収束できるかどうか、もしくは裁判で決着を望むのか、コンプライアンス経営を検討するうえで極めて注目すべき事件です。

投稿: toshi | 2016年4月 7日 (木) 01時37分

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