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2016年5月25日 (水)

上場会社は「株主との対話」の前に「監査法人との対話」が必要ではないか?

拙ブログはアドレスをたどってお越しいただく方よりも、BLOGOSで読まれている方が圧倒的に多いのが現状です。なので、コメント欄はあまりご覧にならない方が多いと思うのですが、最近は「流星さん」ほか、多くの方の有益なコメントが付いておりますので、ときどきはアドレスから拙ブログに入っていただき、参考にしていただければ幸いです。

ところで、東芝さんが減資発表と同時に2016年3月期の連結決算を訂正することを発表しましたが(たとえばYAHOOニュースはこちら)、「ひろさん」より、先日の新日本監査法人さんの改革に関するエントリーに対して、以下のようなコメントをいただきました。全文引用させていただきます。

時事通信にこんな記事がありました(注:東芝の決算修正の件)。
http://www.jiji.com/jc/article?k=2016052300538&g=eco
日経でも同様に東芝が決算修正をしたと(報じられています)。5月12日にいったん決算短信を出したものの、23日に誤りと監査法人との見解の違いがあって、修正を出しました。こういう訂正がもっとなければいけなかったんだと思います。今まで、おそらくは「いまさら言うな」と言われて受け付けてもらえていなかったことなのではないかと。一般の人や監査の在り方に関する懇談会のメンバーでさえ、株主総会まで3カ月、その招集通知の発送までに監査報告書なのだから、60日くらいは監査の日数があるんだろうくらいに思っていたと思います。しかし、実際は決算短信を出したらもう数字は動かせないという形で企業側に縛られていたのが実態なのではないかと。短信を出しても誤りがあれば直す、この当たり前のことが日本のエクセレントな大企業で行えるようにならない限り、監査での発見漏れは今度も起きるのだと思うわけです。今回、東芝は、自分が事故を起こしたこともあり、そして、来期は新日本監査法人から交代されることになり、直し漏れを残すわけにはいかないという事情があって、こういうことになったのではないかと思いますが、これが多くの企業で毎期何社も生じるようになってほしいと考える次第です。(注及び下線は管理人による)

私も会計監査人サイドから上場会社の会計不正対応に従事する機会が増えましたが、この「ひろさん」の指摘は共感を覚えます。「決算短信を出したらもう動かせない、いまさら言うな」と監査法人は会社側から恫喝される一方で、行政当局から(会社側が)不正の疑惑を指摘されるやいなや、今度は「いやいや、私たちは監査法人からお墨付きをもらっています。一点の曇りもなく、やましい会計処理はありません」と回答されてしまいます。会計監査人側によるビジネスモデルの理解不足が原因の場合もあるでしょうから、会社側の気持ちもわからないわけではありません。しかし、会計監査人は不正を見つけるのではなく、自分たちの会計処理にお墨付き(適正意見)を述べることが仕事(そのために高い報酬を払っているのだ)という意識が、上場会社サイドにかなり強いことは間違いないと思います。

昨日、東洋経済オンラインに伊藤歩さんの記事「1年後、決算短信からBSとPLが消える?」と題する記事が掲載されました。金融審議会の「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告書をもとに作成されたものです。もちろん審議会の提言は、2019年までに開示の簡素化を図り、投資家のためにわかりやすい投資情報を開示しようとの日本再興戦略2016(素案)の趣旨を実現するための第一弾だと思います。しかし、上記「ひろさん」の意見などを拝読しますと、企業と会計監査人との信頼関係を構築すべし、とするコーポレートガバナンス・コードの趣旨を実現するために、会計監査人と企業との対話を促進させる意味も含まれているのかもしれません(これは私の勝手な推測ですが)。

基準日をずらして株主総会の日程をずらしたり、株主総会関連手続きの電子化を図ることで決算監査の日数を増やすことも「適切な情報開示」にとっては重要ですが、なによりも意見表明に至るまでの会社と会計監査人との実のある対話を促進することが、最終的には株主と会社との対話の促進につながるものと思います。統制環境が財務報告に及ぼす影響や重要性の判断については、監査人どうしのコミュニケーションが円滑でなければ会社側に説得力ある説明ができないと思いますが、そういった監査人どうしの円滑なコミュニケーションも、やはり会社と会計監査人との対話が前提になるはずです。

ディスクロージャーが、会社の株主に対する説明責任を尽くす手段である以上、会社と会計監査人とは二人三脚で情報開示に努めるべきであり、だからこそ会社と会計監査人との信頼関係が維持できない場合には「監査人の変更」ということも堂々と議論されることになり、会計不正が発覚した場合には、会計監査人の責任を問えることになると考えます。

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コメント

IFRS対応への決算早期化や個人株主の減少と外国人投資家の拡大が進む中での外国人投資家中心の招集通知発送早期化要求を考えれば監査法人や公認会計士の監査高速化が要求されてきそうではあります

外国人投資家が主流となる状況や決算短信の訂正が容易でない状況においては海外を参考にして決算から株主総会開催までの期間の法的見直しやなんかも必要そうじゃありそうですね

会計監査法人や監査役、監査等委員は上場企業においては株主総会において任命されるのであり会社が擁立しなくとも株主提案で擁立可能であるのだから会社よりは大株主との関係を重視すべきとも思うところです

投稿: 流星 | 2016年5月25日 (水) 04時23分

流星さん、ご意見ありがとうございます。そういえば、監査役や会計監査人を株主提案で選任する、という手もありますね(いままであまり考えてもみませんでした 笑)。株主提案であれば監査役会の同意は不要ですし。たとえばプロの取締役監査等委員の選任議案が株主提案で出てくる、といったことになればおもしろいかもしれません。

投稿: toshi | 2016年5月28日 (土) 21時59分

もう一つ。
投資家側、株主側、そして金融機関側の意識改革も重要です。
決算短信の数字が動くことに対するネガティブインパクトが株価に表れるようでは、この慣習はなくなりませんし、それに対する金融機関の評価がネガティブになるのであれば、避けたいと思うのが経営者としての当然の姿勢でしょう。

というか、不正なり事件なりに縁が無い企業では、むしろ、対投資家、対金融機関の面で数字は変えられない、ということに尽きるわけで、行政当局なんぞを意識している企業は、ほんのわずかな業法対象の企業だけではないでしょうか。

投稿: 場末のコンプライアンス | 2016年5月30日 (月) 14時45分

減資といえばニッセンホールディングスですがニッセンの場合は子会社もシャディでも含めて1億円以上の所ばかりなので子会社を1億円未満に減資したり、連結納税制度なんかも検討した方が良さそうに見えますがどうなんでしょうか?

投稿: 流星 | 2016年5月31日 (火) 14時21分

ご意見ありがとうございます。
>場末のコンプライアンスさん
「行政当局なんぞを意識している企業は、ほんのわずかな業法対象企業だけでは」とのご意見、ごもっともです。ただ、その投資家、金融機関にさかんにプレッシャーをかけているのも行政当局である、という事実は大きいかなと思います。
>流星さん
もちろんノーコメントです。

投稿: toshi | 2016年5月31日 (火) 21時05分

はじめまして。
監査のあり方について疑問がありまして、「経営者確認書」というものを監査人は取得するようなのですが、この書類の裏付けなどはどうなのでしょうか?
東芝などのケースでは、この経営者確認書の内容が虚偽であったと推測されますので、新日本はこれを基に東芝を訴えることもできるかと思ったのですが。

投稿: 南従事生 | 2016年6月 1日 (水) 08時20分

経営者確認書、ありますよね。財務諸表の作成責任は、会社にあるとか、別紙にある以外の未修正の虚偽記載事項はないとか、会社が宣誓しているわけですが。でも、こんなものをもらっているからと言って、世間が許してくれるわけでもなく、新日本監査法人が株主に訴えられた際に利用できるかな?という程度のものなのかもしれません。その割に、手間かけて作って、受領しているわけですが。

投稿: ひろ | 2016年6月 2日 (木) 13時04分

観念的な議論が多いようなので、実務的な視点で意見を申し上げます。
1.有報が正式公表決算で決算短信は速報というような古くさい見方は完全に捨てる。業績見込みとそのトラッキングが資本市場で最重視され、四半期の決算短信、四半期報告書でUPDATEを3回繰り返し、年度末決算の公表に至っているという認識を会社側も会計監査人も社外役員も強く認識すべきです。
2.また、開示内容は開示時期のズレに関わらず、基本的に統一される潮流にあることを見逃してはいけません。最初の開示になる決算短信や決算説明資料にターゲットを置いた会社側の開示統制(ディスクロージャー委員会など)の強化と会計監査人との事前協議、監査結果報告会を日程として組まないと回らないことを認識すべきです。決算短信から事業報告書、有報、CG報告書までの内容はほとんど同じになっています。決算短信からBS,PLを例え除外しても、売上、営業利益、経常利益、業績見込みが公表される本質に変わりはありません。記載しなくとも機関投資家への決算説明会で聞かれます。
3.会計監査人は監査人室にこもって事前依頼資料の数字合わせとPC入力、アリバイ調書づくりに没頭するのではなく、経営者や担当役員、実務責任者との対話を増やすべき。監査の業務執行責任社員は法人内の管理業務やパワーゲームに傾注し、主査任せで現場に行かない自分が監査の形骸化の元凶になっていることと自覚すべきです。
4.社外役員、特に監査役は会計監査人頼みの姿勢を改め、会計監査の相当性に重大な関心をもって監査法人と健全な緊張関係を持つべきです。選任と報酬交渉の権限が分かれ、それでなくとも緊張の実効が保たれにくい環境にあります。会計監査人から報告を受けたというアリバイ作りと保身のみに熱心な監査役が外部監査の形骸化を助長していることを自覚すべきです。

投稿: 森本親治 | 2016年7月 3日 (日) 06時58分

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