「内部告発の時代」-オリンパス現役社員いよいよ浮上!
さて、いよいよ待望の一冊が本日発売されました(アマゾンさんでも発売開始となりました)。拙ブログでは組織別閲覧回数解析で常にベスト10に入っているオリンパスさんですが(いつもお世話になっております<m(__)m>)、本日はあえて本書をご紹介させていただきます。
内部告発の時代(山口義正、深町隆著 平凡社新書 840円税別)
オリンパス事件の内部告発といえば、あの「高裁逆転判決」の浜田さんが有名ですが、この深町さんは、マイケル・ウッドフォード氏が主役となったオリンパス社の「損失飛ばし・飛ばし解消」による会計不正事件を最初に内部告発された方です(今も現役のオリンパス社員の方なので、もちろん仮名です)。オリンパス事件を最初に報じたマスコミはFACTA誌でしたが、同誌に記事を持ち込んだフリージャーナリスト山口義正氏に情報提供をされた方です(山口氏のご著書「サムライと愚か者」 でも告発者として登場されましたね)。本書では第Ⅰ部を「内部告発をめぐる現在」として山口義正氏が、そして第Ⅱ部を「オリンパス事件の真相」として深町隆氏が、それぞれ「書き下ろし」ています。
なんといってもオリンパス会計不正事件がどのような経緯で明るみに出てきたのか、損失とばし・隠ぺいに関与していたとされる役職員の方々は、いまどうしているのか、これまでマスコミでも明らかにされていなかった事実が満載です(正直申し上げて、大手の監査法人、法律事務所の先生方は、読むのが嫌になるかもしれません。第三者委員会や責任調査委員会設置に関する経緯なども刻銘に記されています。私に直接、オリンパス事件の会計処理を丁寧にご解説くださった会計士の先生なども登場しますので、本書をご紹介するのがやや複雑な心境ではあります。。。)
また、新事実は深町氏の執筆部分だけでなく、山口氏の執筆部分にも驚くべき内容として出てきますので、オリンパス事件の真相は両方にまたがって記されています(たとえば情報管理の最先端を行くグローバル企業でも、こんな形でいとも簡単に重要情報が漏えいしてしまうとはオソロシイ・・・)。山口氏の執筆部分では、内部告発者の現実(正義を貫くという「きれいごと」だけでは済まない告発者と支援者との現実)なども紹介されており、社内通報の危うさ、弁護士等専門家を活用することの難しさ、そして公益通報者保護法の限界等、私にとっても耳の痛い話が登場します。
深町さんご自身による執筆部分をお読みになればおわかりのとおり、深町氏の財務、経理、法務に関する知識、知見のレベルはかなり高いと思われます。つまり、このような企業の中核(?)に現役でいらっしゃる社員の方が、2005年ころから今日まで、どなたか特定されずに普通に仕事をされている、ということです。なぜそのようなことが可能なのか?それは本書をお読みになるとおわかりになるかと思いますし、そのあたりが山口義正氏の執筆部分とつながる面白さになります。企業側からみても、内部告発リスクというものを、どのように考えるべきか、非常に参考になるはずです。
どうすれば上手に内部告発ができるか、これから内部告発を考えていらっしゃる社員の方や内部告発リスクを管理したい企業実務家の方々、そして経営者や法律家、会計専門職の方々にも、多くの示唆を与えることは間違いありません。ぜひともご一読いただきたいお勧めの一冊です(なお、本書は平凡社さんからご献本いただいたことを最後に付言させていただきます)。
(5月14日午前 追記)本書は私が最初にご紹介したと思っておりましたが、朝日新聞「法と経済のジャーナル」にて、私よりも早く紹介されていたようです。こちらはプロの記者の方が紹介されています。
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コメント
私は内部告発よりも(企業側の立場から)内部通報制度を重視しておりますので、本書で登場する意見とは異なる意見を持っているところもあります。ただ、通報者の秘密を保護することの重要さは本書で伝わりましたし、公益通報者保護制度の短所等も改めて認識した次第です。
あ、公益通報者さんもご存じの、あの実効性検証委員会の委員である●●先生も登場されますよ(笑)
投稿: toshi | 2016年5月14日 (土) 11時23分
たしかオリンパス事件を題材にした映画が(どういうわけか)上映中止になりましたが、こちらは大丈夫だったんですね。ぜひ読みたいです!
投稿: 智彦 | 2016年5月14日 (土) 11時42分
山口先生 本のご紹介ありがとうございます。
早速、東京駅近くの某ブックセンターで購入しました。
店内案内機の検索結果の書棚になく、在庫僅少の表示もされたため早くも完売かと焦りましたが、平積みコーナーにありました。本日入荷し、先ほど並べたばかりだったようでした。
投稿: Johm Doe | 2016年5月14日 (土) 16時45分
情報ありがとうございます。言い忘れましたが、過去に同じタイトルの本が出版されていますので、検索の際にはご注意いただいたほうが良いと思います。
ところで私も上映中止になったことは存じ上げておりますが、あれは何か圧力があったのでしょうかね?(笑)別の理由で中止になったのでは・・・と推察しているのですが。。。
投稿: toshi | 2016年5月14日 (土) 17時37分
はじめて投稿します。山口先生が紹介されていましたので購入いたしました。ご紹介ありがとうございました。現在の制度の不備が理解できましたし、一つの事件を二つの立場から書かれており大変興味深かったです。告発者が現在も現職であり、なぜそのような事が可能だったか書かれてあるとありましたが、私自身これが理由だ、という明確な結論を得ることができませんでした。山口先生は、この点何が理由だったとお考えでしょうか。
投稿: ヒロ | 2016年5月28日 (土) 21時30分
ヒロさん、コメントありがとうございます。いろいろとなところで話題になっているようで、もはや私のブログなどでご紹介するまでもない、という状況ですね(^^;。
ご質問の件、ネタバレになってしまいそうなのでここでは控えますが、私のように内部告発者の代理人を経験しておりますと、概ねふたつの理由が考えられます。「なぜ匿名通報はバレルか」といったことを過去にこのブログでも議論しましたが、そういった逆方向から考えますと、いろいろと理由が浮かんでくるのでは・・・と、思います。
投稿: toshi | 2016年5月29日 (日) 11時25分
「野村證券第2事業法人部」横尾宣政 講談社
発売日2月22日
住友銀行秘史に続く「実名」ノンフィクション本
野村証券のバブル全盛期とオリンパス事件の真相
こりゃタマランですね
投稿: unknown1 | 2017年2月 9日 (木) 21時20分
情報どうもありがとうございます。いやいや、ビックリです。これは発売後すぐに買います。
投稿: toshi | 2017年2月10日 (金) 02時30分