三菱自動車特別調査委員会に期待する「真の原因究明」
企業不祥事発生時において設置される第三者委員会の評価を(勝手に)行う第三者委員会報告書格付け委員会では、2月~3月にかけて東洋ゴム工業免震偽装事件に関する調査委員会報告書の評価をめぐって、興味深いやりとりがありました。格付け委員会の委員は同報告書に対して極めて厳しい評価結果を下した(委員4名が不合格)のですが、東洋ゴム事件の調査報告書を作成した委員長(著名な弁護士)の方が、この評価委員会の評価結果に対して反論書を提出、そして3月末には、この反論書に対する格付け委員会としての再反論が出されました(いずれも上記委員会HPにて全文公開されています)。
このやりとりを通じて、とくに日弁連「企業不祥事における第三者ガイドライン」がなぜ策定されたのか、その経緯や目的がよくわかります。また、東証が2月に公表した「企業不祥事対応のプリンシプル」として上場会社に要望している危機対応の指針についても、この日弁連ガイドラインの趣旨がほぼそのまま踏襲されていることも理解できます(日弁連ガイドラインは、「あるべき企業対応を求めた規範を創設したもの」ではなく、ステークホルダーへの説明責任を果たすことで企業価値の再生を図ってきた企業不祥事の歴史の中で、ベストプラクティスの集大成として策定されたものである、という点がきわめて重要です)。
ところで三菱自動車さんは4月26日、約3カ月の調査期間を決めて特別調査委員会を設置したことを公表しました。そこには委員として、元検察官である弁護士の方々の名前が掲載されています。前掲の東洋ゴム工業免震偽装事件の調査委員については、いったん会社側の危機対応の支援をしていながら、その後調査委員として不正調査に関わったことを格付け委員会が厳しく指摘しているところですが、今回の燃費偽装事件に関する特別調査委員会の構成メンバーにはそのような独立性、公正性に問題はないのでしょうか。もちろん三菱自動車さんの公表文には独立性、公正性には問題がない、と記されています。しかし、4月27日の毎日新聞(東京版)朝刊「自浄作用働かず」と題する事件記事では、
関係者によると、三菱自動車は、当初、約3カ月間の調査委員会による調査が終わるまで発表を先送りすることを検討したが、日産などの反対を受けて発表に踏み切った
と報じられています。この書きぶりからすると、今回の燃費偽装問題を三菱自動車さんが公表する前から(社内調査を目的とした)特別調査委員会が設置されていたようにも読めます。そうなると、そもそも今回選任された委員の方々は、不祥事公表前の三菱自動車さんの危機対応を支援していたことも憶測されるところです。三菱自動車さんは上場会社なので、当然のことながら東証「上場会社における企業不祥事対応のプリンシプル」に沿った行動が求められます。そこでは第三者委員会を設置する場合における独立性・中立性・専門性の確保が要請されています。もし本当に「独立性、公正性に問題がない」のであれば、まずは今回の特別調査委員会のメンバーの方々は、どの時点から調査に関わったのか、その選定プロセスが明らかにされる必要があると思います(ちなみに日弁連第三者委員会ガイドラインの解説書では、公的機関による調査が同時並行的に進んでいる場合でも、第三者委員会はできるかぎり公的機関とのコミュニケーションを図りながら調査を進める必要があるとされており、三菱自動車さんが置かれている現状のもとでも、プリンシプル対応は不可欠だと思われます)。
国交省による再現試験等が厳密に行われる中で、とりわけ特別調査委員会に期待されることはこのような燃費偽装が20年以上も繰り返されてきた組織としての構造的欠陥がどこにあったのか、という点を明らかにすること(真の原因解明)です。三菱系の金融機関も、三菱商事さんも、三菱重工さんも、「今後、自動車を支援するかどうかは調査結果次第である」と社長さんが述べておられるので、まさに特別調査委員会の報告も、果たして支援に値する組織かどうか・・・という点へのスコープが求められます。そのような中で、昨日(5月2日)プレジデントオンラインに掲載されているモータージャーナリストの方の記事「三菱自動車の重罪-もしあなたが三菱自動車の社員だったら」がアップされましたが、とても説得力があり秀逸です。筆者はできるかぎり三菱自動車にとって有利な側面に光をあてつつも(私もこの側面には納得します)、それでも今回の不正は重大であり、その原因は三菱グループとしての「驕り」にあるのではないかと仮説を立てています。これまでの数々の不祥事への対応ぶりから、この仮説には私も同意します。
この筆者の厳しい指摘はあくまでも仮説であり、仮説である以上検証が必要です。三菱グループが三菱自動車さんを「社会的に価値のある企業」として支援を続けるのであれば、この検証こそ特別調査委員会によってなされるべきではないでしょうか。
「三菱という企業の慢心や驕りの臭い」「自らを勝手に例外扱いするエリート意識、相手が監督官庁であろうとも容喙されたくないという自己肥大」「人命よりも重い何かを守ろうとする構図」
という仮説について、これを否定するのであれば、その合理的な理由を示す必要があるように思います(1月に公表された旭化成さんの「親会社による中間調査報告書」では、子会社である旭化成建材さんのデータ偽装を放置してしまったグループ組織としての問題点に真正面から回答する努力をされていましたよね)。もちろん最後はこれらの仮説を否定することも自由ですが、普通の企業不祥事とは思えない今回の事例において特別調査委員会に公正性、中立性が具備されていることを示すためには、どうしてもこのような組織の在り方への切り込みが求められるのではないでしょうか。
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コメント
ガバナンスがそもそも効かない状態としては下記のような状態があることを経験しています。
(1)トップ/上司の指示を受け付けない
(2)マニュアルを守る文化がない
(3)問題のある業務慣行が外部から監査できない/されない
この状態でいかに世間の常識・コンプライアンスの遵守を教育しても、不正の原因である業務慣行を変えるのは困難だと思います。
今回は測定方法の問題で特に(3)の外部から監査できない状態から(1)(2)の文化が温存されたのではないかと私は見ており、そうであるならば((1)(2)を想像もできない調査側が)外部から見て腑に落ちる「真相」にたどり着くことはないのではないかと思います。
投稿: ansible_com | 2016年5月 7日 (土) 09時57分
ご意見ありがとうございます。なるほど、そういった形でガバナンスが効かない風土が生まれるというのも可能性は高いかもしれませんね。私自身も、仮設にすぎませんが、原因分析をしていますので、また別途エントリーで書かせていただきます(ご意見も参考にさせていただきます)。
投稿: toshi | 2016年5月12日 (木) 00時58分