出光興産VS創業家-創業家の反対表明は当然ではないのか?
(30日午後 追記あり)
出光興産の創業者一族の方々が、昭和シェル石油さんとの合併に反対表明をされたことが話題になっています。28日の出光さんの定時株主総会ではすべての議案が可決されましたが、創業家の資産管理会社の代表者が議案質問の際に、合併反対表明をされたそうです(マスコミでは「代理人弁護士」とありますが、代理人ではなく「弁護士資格を有する社長さん」ですね。そうでないと創業家側のストーリーが立たないです)。29日の毎日新聞夕刊では「会社側が創業家の株式保有比率を低下させるために第三者割当増資を検討」と報じたため、会社側が(慌てて?)「そんなことは一切検討しておりません!」と適時開示を出しています。
法律上の「主要目的ルール」に関する議論等はさておいて、私は創業家の株式比率を下げるために第三者増資を検討することは、いくら会社側の要望が強いとしてもタブー(禁じ手)だと思います(そんなことをすると全国のオーナー企業さんを敵に回すことになりかねません)。どうせやるなら(?)オモテ沙汰にならないように、巧く創業家を崩すことを検討すべきです。大塚家具さんやロッテさんではありませんが創業家一族だって一枚岩ではないかもしれません。また出光さんの株を保有する公益財団法人について、創業家の税務対策として活用しているのかどうか不明ですが、公益財団法人の評議員や理事と創業家との属人的な関係、同法人の資産である議決権行使に契約上の制限が課されていないかどうか、といったところも問題になるかもしれません(ちなみに出光興産さんの定款をみると、種類株式は発行されていないようですね)。
日経新聞の論調は、2010年2月のキリンとサントリーの統合撤回のときとまったく同じ状況で、業界におけるシナジー効果が失われることへの懸念が示されています。しかし、私の個人的な意見としては、あのキリン・サントリー統合撤回のときに、当ブログのエントリーで(恥ずかしい経験談と共に)述べたのと同じく、創業家側の対応には共感いたします。勝ち負けのハッキリしていない上場会社の国策的統合は失敗する確率は極めて高いと思いますし、成功するとしてもそれは才覚や能力ではなく「神風(運)」に依拠するものと考えます(対立する中東の国と親密な関係にある2社に神風は吹くのでしょうか)。
時代の要請によって変容はしていますが「大家族主義」を貫いてここまで経営をされてきた出光さんは、「ここぞ」というときに創業家が経営に口を出すのがむしろ当然のことではないでしょうか。私の経験上、経営者にモノが言えない従業員に代わってモノを言う(言わねばならない)のが創業家です。「創業家の乱」などと見出しが躍っていますが、これも株主主権主義ではなく、労働者主権主義を重視した普通のコーポレートガバナンスの在り方のひとつだと考えます。企業風土が変わればビジネスの種を伸ばす土壌(ガバナンス)の在り方も変わるのがむしろ当然だと思います。
労働組合を作らない(会社は従業員の生活を保証するものであり、解雇もせず、給与は労働の対価ではない、との)出光さんの企業風土が、他の会社の風土と合うかどうか、それを最も判断できるのは(100年以上、この会社を経営してきた)創業家一族ではないでしょうか。そもそも創業者(佐一氏)が「財産と経営を一致させてこそ、会社は社会の公器としての責任を全うできる。株式会社など、いかがわしいものである。税務上しかたなく株式会社形態を採用しているにすぎない」と公言しておられた企業なので、その精神的支柱はいまも創業家にあると思います。創業家の支配力が単純に持株数だけではわからないということは、先日の大手流通グループさんやセコムさんの件でも明らかではないでしょうか。
(30日午後 追記)臨時報告書によると、28日の出光興産定時株主総会において、社長に対する取締役選任議案の賛成率は53%だったそうです。創業家側の保有比率を34%とみても、多くの株主が合併に反対していることがうかがわれます。創業家の精神的支柱、100年企業の社風というバランスシートに乗らない「無形資産」の持ち分保有者の声は大きいなぁと感じます。
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