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2016年6月18日 (土)

注目される会社役員の提訴リスク(その1)-HOYAの第三者委員会報告書

東京都知事の件、東電事故の件等、最近は第三者調査や第三者委員会調査がずいぶんと世間の話題になっております。ところで、先月、一部マスコミで報じられていたHOYAさんの企業不祥事の件(会社法の財源規制に違反して自己株式の取得を行ってしまった件)について、6月17日、同社HP(IRニュース欄)にて、取締役及び執行役にはこの違反に関して法的責任を負わない(故意または過失はない)と結論付ける第三者委員会報告書が提出されました(ちなみに同社は指名委員会等設置会社です)。

同報告書でも委員の方が指摘していますが(同報告書29頁)、「攻めのガバナンス」にかたよりすぎていると、守りのガバナンスがおろそかになってしまうということで、ガバナンス改革に熱心な会社ほど、この報告書は一読の価値があると思います。ミス発見時の経緯からわかるように、関係者が分配可能額を比較的容易に算定できるにもかかわらず(しかも社内にプロの弁護士、会計士を多数抱えていたにもかかわらず)、なぜこのようなミスを発生させてしまったのか、他社も「他山の石」として参考になるところが多いと思います。自己株式取得公表のタイミング等、実務を知るうえにも参考になります。

さて、いろいろな論点が「てんこもり」の同報告書ですが、私が注目しているのは、このような第三者委員会報告書が会社役員の提訴リスクに及ぼす効果の有無ですね。法的責任なし、との結論で、株主や債権者は責任追及訴訟を断念するのかどうか、という点です。企業不祥事発覚時における第三者委員会報告書は、ステイクホルダーへの説明責任を尽くすことが目的ですから、もちろん裁判所の判断を拘束するようなものではありません。ただ、公正独立な立場の法律専門家や会計専門家によって構成された第三者委員会が、慎重な判断のもとで上記結論に至ったということが、債権者や株主による役員の責任追及訴訟を「思いとどまらせる効果」があるのかどうか、ガバナンス改革の時代だからこそ、とても関心があります。

上記委員会報告書の結論の是非は別として、会社法462条1項の取締役・執行役の責任はいったいどのような制度趣旨で認められているのか(会社法423条による任務懈怠責任との対比、立証責任、会社に損害が発生していることは必要か等)、規範的要件たる「信頼の原則」が適用される前提事実とはどのようなものか(取締役と業務執行者とで区別すべきか、区別は不要なのか)、報告書でも検証されている会計処理に関する内部統制システムの適正なレベルとは一体どれほどなのか(そのレベル感が善管注意義務違反や法462条責任の根拠となる役員の法的責任判断とどのように結び付くのか)、いろいろと考えるところはありそうですね。でもそのようなことは「敗訴リスク」として、大手の法律事務所の優秀な弁護士の方々にお任せすればよいのではないかと。。。

HOYAさんはご存じのとおり、モニタリングモデルによる取締役会制度を運用している第一人者です(社外取締役5名、社内取締役1名)。執行と監督を分離する、ということが今、取締役会改革で議論されています。迅速な経営のために、どんどん重要な業務執行の決定が執行者に委任されます。そのような時代の中で、「監督」ということが十分機能しなければ、このような執行側の不祥事によって社外取締役の方々が監督責任追及に関するリーガルリスクを背負うことは間違いありません。かと言って、ホンネで申し上げれば、社外取締役や監査役は性善説に基づいて社長を全面的に信頼しなければ監督の前提となる情報すら入手できないはずです。だからこそ、(とりわけ上場会社は)社外取締役を含めた会社役員全般において「敗訴リスク」だけでなく「提訴リスク」にも配慮しなければならない時代となりました。

会社法の枠の中で議論されていた時代と、国の経済政策の中で議論されている今日とでは、コーポレートガバナンスに関する国民の認知度には雲泥の差があります。法律家がいくら「したり顔」でガバナンスを語っていても(←自戒をこめて)、また、最終的には役員の敗訴リスクが低いとしても(これもセイクレスト事件の最高裁上告不受理であやしくなってきましたが)、社外役員を辞めた後でも5年ほど裁判に巻き込まれるリスクは社外役員につきまといます(その間、会社は本当に保険料を払い続けてくれる保障はあるのでしょうかね?(^^; )なお、これは「敗訴リスク」にも関連しますが、たとえば上場会社としては、経営経験者の社外取締役さんを守るためにも、法律家の社外取締役をひとり選定しておけば「信頼の原則」の適用上都合がいいのになぁ・・・とも思うところです。(以下「その2」に続く)

6月 18, 2016 商事系 |

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コメント

セイクレスト事件不受理決定は、高裁判決から1年近く掛かったようで、最高裁としては慎重に審理されたとの認識で相違ないでしょうか?

また、この方とは別の社外監査役の弁護士賠償責任保険について保険会社が上告しているようですが、こちらも相当慎重に審理されるとみて間違いないでしょうか?

投稿: 大阪人 | 2016年7月 6日 (水) 17時22分

HOYAまた敗訴濃厚。原因は下請けへの債務不履行。不祥事多すぎ。何をしているのだか。?

投稿: unknown1 | 2017年11月16日 (木) 14時40分

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