総会直前の取締役選任議案の撤回-「私がコーポレートガバナンスです!」
ソフトバンクさんの副社長退任に関するニュースには多くの方が驚かれたのではないでしょうか(私もビックリしました)。あと1年で社長の座を譲る・・・と言われてA氏は昨年、副社長に就任されたそうです。しかし、社長さんがいきなり「あと10年はやる」と宣言されて、結局おふたりの話し合いの末、副社長さんが取締役を退任されるとのこと。以上は日経ニュースによるところですが、おふたりに「よっぽどのこと」があったとみるのが自然ではないでしょうか。22日が株主総会なので、まさに総会直前の取締役選任議案の撤回ということだそうです。
このニュースはコーポレートガバナンス・コードにおける①サクセッションプラン(後継者育成計画)の実施、②独立社外取締役による取締役選解任への監督等へのコンプライに頭を悩ませておられた上場会社の社長さん方には思うところがあるのではないかと。いずれのコードにもコンプライしているソフトバンク社の社長さんが、後継者問題を副社長とふたりきりで決めた、俺のやりたいようにやらせてくれ、ということで(少なくともオモテ向きには)決まってしまうわけですから。取締役会における取締役の解任・選任への関与・・・というのはどこにも出てくる気配はありませんし、著名な経営者の方々が同社の社外取締役さんですが、おそらく(お忙しいでしょうから)「監督していた」という事実もなさそうです。
ソフトバンクさんは、2010年から後継者育成アカデミーを実施して、いわばガバナンス・コード実施企業として優等生とされていました(たとえば こちらのレポート参照)。しかしカリスマ経営者の方が1年後の社長交代予定を翻意して「やり残したことがあるから、あと10年は社長をやるぞ!」と言われますと、選抜候補者の方々は今、どんな思いでしょうかね?もちろんソフトバンクさんとしては、育成計画には何ら変更はないものと思いますが、このニュースを耳にした社長さん達からは「おお、優等生のソフトバンクだって、社長の一存で続投が決まっているではないか!そっか!いちおう後継者育成計画を策定・実施していると投資家には説明しておいて、いざとなったらソフトバンクさんのようにやっちゃえばいいんだ」といった安ど感が漂うような気がします。
日経ビジネスの今週号にエステーの鈴木会長の「指名委員会等設置会社にして後継者育成したけど、やっぱりトップは創業家になってしまいました」といったお話が出てきますが、ホントにサクセッションプランのむずかしさを感じます。創業家が中心にしっかりと座っているからこそ役職員が派閥も作らずに事業にまい進できるということも言えそうです。結果を出さねば投資家からはナットクされず、また事業を継続しなければステイクホルダーの信頼は得られないのですから、「私がこの会社のコーポレートガバナンスです」も十分あるかな・・・と感じます。ただ、(エステーの鈴木会長さんがおっしゃるように)人間は成功体験にこだわりますので、独裁に慣れて人が変わってしまったら安全装置が働くように、きちんとした独立社外取締役を選任しておくほうが望ましいのでしょうね。
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コメント
ソフトバンクは、ある意味、ガバナンスが見えていますよね。投資家もソフトバンクに投資するということは、孫さんに掛けるということだ、とわかっているわけで。そして、独創と独走のメリットが弊害より大きいと踏んで投資をするならばそれも投資の仕方だと思います。嫌な人は、コーポレートガバナンスコードの標準に沿った会社にだけ投資すればよいのですから。
コーポレートガバナンスコードは、「そういう理想なり標準とうちはこういうところが違うけど、それなりに理があると思ってやっているので、そのつもりで当社を見てくださいね。」と運用されるなら良い制度となり、「なんとかコーポレートガバナンスコード通りにやっているように繕わないと」みたいな運用をされると悪い制度になると思います。
という意味で、今回の出来事(事件だとは思わず)は、好意的に見てあげたいなと考えます。
投稿: ひろ | 2016年6月22日 (水) 08時44分
なんかユーシンやファーストリテイングでもこんな感じのことがありましたね
東芝も対立した副会長と相談役も当初は意気投合してたとか言ってた気もしますね
元グーグルだと転職に拘らないイメージや海外だと役員専業で天下りよろしく会社を転々というイメージなのでそこまで驚かない感じですが
各子会社社長を兼務するソフトバンク取締役の代表にアローラ氏を立て続けるのは難しいのかも知れませんね
余所者の社長後継者は社長から不適格を突き付けられた譜代の幹部の支持が薄かったり場合によっては反感持たれてる場合もあったりで難しいというのもありそうです
かといって独裁的にそういう不穏分子排除するのは組織の人材流出を招きそうですし
(中国とインドの対立を連想させてしまいますが影響してるかはは分かりませんん)
投稿: 流星 | 2016年6月22日 (水) 16時16分
身もふたもない話をすれば、要するに上場しなければよかった、というだけかと。上場株を買うことが、一経営者へのBetになってしまうというのは、問題があると思いますね。
もう、上場する際には創業者とかそういう方々の株式は、3%未満でなければならないとか、上位10位に入ってはダメとか、ルールで縛ってしまうのが良いのかと思うこのごろです。
自分が経営者をずっとしたいのであれば、上場をやめたらいいと思います。
上場したならば、その時点から自分の思うような経営、方向にいくことは諦めて経営するべきだろうと強く思います。
投稿: 場末のコンプライアンス | 2016年6月22日 (水) 19時48分
場末のコンプライアンスさんが言うような、創業者の株式を3%未満になんて規制を入れる必要はないと思います。海外にも創業者が大株主である企業はたくさんある。しかし、そういうガバナンスであることは投資家に知らせるべきだから、大株主上位の名簿は、有価証券報告書の中で開示されているし、関連当事者との取引等も開示される。あとは、投資家が判断すればよいことなのではないでしょうか。
創業家の社長による機敏な判断で救われることも多いのではないかと。
逆に創業者の持株が少なかったために、他社からの買収に曝されるリスクがあることで経営が不安定になっていったベンチャー企業にも関わっていたので、サラリーマン経営者が良くて、オーナー経営者が悪いと決めつけるような議論はおかしいと思いました。
投稿: ひろ | 2016年6月23日 (木) 08時41分
形式的にコンプライして後で発覚するより、どうして素直にエクスプレインしないのでしょうか。堂々とエクスプレイン下って株価は下がらないでしょうし。
投稿: KAZU | 2016年6月23日 (木) 15時25分
みなさま、ご意見ありがとうございます。本日あたりから、この退任劇と企業統治との問題(関連性)について報じられるようになりましたね。投資家サイドや経営者サイド等、ガバナンスに対する思いが各人の主張にも反映しているようで興味深いところです。このエントリーは少し茶化したようなタイトルで恐縮ですが、まじめにガバナンスを議論している人たちが、この京大企業のカリスマ経営者の行動をどのようにみるのか、今後さらに多くの方々の意見をお聴きしたいところです。
投稿: toshi | 2016年6月23日 (木) 16時23分
はい、KAZUさんのおっしゃるように、どんどんエクスプレインすればよいのです。日本の開示実務は、前例主義、他社と違わないように基準が幅を利かせていますが、そもそもそれじゃだめだからコーポレートガバナンスコードなんだと思います。で、「コーポレートガバナンスコード的なことをやっていては並みの企業にしかならない。わが社はそんな企業でいたくないため、そんなガバナンスは採用しない。その代わり、かくかくしかじかのリスクもあることを取締役全員が認識して、リスクが顕在化しないようにかくかくしかじかの対応策を採用している。」って開示すればよいのだと思うわけです。
投稿: ひろ | 2016年6月24日 (金) 08時51分
ところで監査報告を監査役や監査(等)委員がやらずに社長がやるのって法的にどうなんでしょうか?
投稿: 流星 | 2016年6月27日 (月) 23時21分