監査等委員会設置会社への移行とISSの議決権行使助言ポリシーの改訂
あまり話題になっていませんが、昨年12月に監査等委員会設置会社に移行を表明していた三菱自動車さんは、今回の燃費偽装事件をうけて、5月に移行を中止しました。日産自動車さんとの資本業務提携の関係から・・・・ということらしいのですが、監査等委員会設置会社の長所を発揮できる前提となるガバナンス環境が整備されていないから、というのがホンネのところではないでしょうか。
ところで、すでにお読みの方もいらっしゃるかとは思いますが、本日(6月6日)発売の週刊東洋経済では、「移行ブームに隠れた企業の本音-急増中の監査等委員会設置会社は、不当ガバナンスの隠れみのになりかねない」と題する記事が掲載されておりまして(88頁以下)、私へのインタビュー記事もたくさん掲載されています(雑誌版のみ-本号はガバナンス改革特集で、なかなか読みごたえがありますね)。監査等委員会設置会社に移行することを提案するのは経営者ですが、最終的に移行を決定するのは株主です。だから、株主は監査等委員会設置会社のメリット、デメリットを十分認識し、企業価値を向上させるために監査等委員会を活用しなければなりません。
5月までに監査等委員会設置会社への移行を表明(すでに移行済も含む)した上場会社はすでに700社を超えているものと推測されますが、自社のガバナンス環境から、監査等委員会設置会社に移行することを表明している会社は約1割であり、その他の9割の移行会社は、あくまでも制度対応のため、ということではないかと。たとえばカプコンさんのように、監査等委員会設置会社に移行するのと同時に、内部監査部門をすべて監査等委員会の直轄に組織替えする、といった「本気モード」が説明されている会社であれば、私は移行について大賛成です。しかし、いわゆる「横滑り型」の移行表明会社については、監査の後退が懸念されるところです。
上記東洋経済の記事の中で、私がインタビューでグタグタ言っているところはスルーしていただいて結構なのですが、議決権行使助言会社ISSさんの日本代表の方の発言部分は要注意です。これまでISSさんは監査役会設置会社から監査等委員会設置会社への移行については賛成することをポリシーで述べていましたが、次の改訂(たぶん今年の11月ころ)で、賛成には何らかの条件を付ける方向で検討しているそうです。先日も監査等委員会設置会社への移行に反対をした機関投資家がいらっしゃいましたが、いよいよISSさんも、現実を直視して動き出すようです。
ガバナンスの短所を補完するタイプの移行は監査を後退させるおそれがあるので私は反対ですが、ガバナンスの長所を伸ばすための移行は大賛成です。指名委員会等設置会社への移行過程として(とりあえず)監査等委員会設置会社に移行する、といった理由での移行も賛成です。任意の指名報酬委員会の設置については、監査等委員会の形骸化を招くため、私は原則として反対です。そのあたりを考慮したうえで、ISSさんも賛成の条件が付加されるのではないでしょうか。いずれにしても、監査等委員会設置会社移行問題も、いよいよ「形式から実質」へと議論が進むことになりそうですね。
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コメント
内部統制のレポーティング問題は監査等委員会設置会社も指名委員会設置会社も大して変わらない気もします。
監査等委員会への内部統制のレポーティング委譲というのは監査等委員会設置会社にはやってもらいたい所ですが「内部統制は業務執行なのか」という問題の解決次第という気もします
「内部統制は業務執行」という考え方故に業務執行担当に内部統制を兼任させてしまうというのもありそうですね
ISSに関しては「監査役会設置会社抹殺」と「指名委員会等設置会社への移行段階としての監査等委員会設置会社容認」という感じが会社法459条適用を監査役会設置会社には認めないという部分に顕著に出てる気がします
指名委員会等設置会社の唯一の利点は株主総会に付議する役員選任議案が取締役選任だけで済むという事務的なモノ位しかない気もしますが言い換えれば監査委員選任の権限を株主総会から剥奪してる訳ですが
取締役会の自社株買いや配当の決定権付与には反対しときながら、監査関連役員の株主総会の決定権剥奪は無視というのはどんなモノかと思う所ではあります
投稿: 流星 | 2016年6月 7日 (火) 01時15分
本気モードに関してですが、監査役会の下に内部監査部をおくのはありでしょうか?監査役会は内部監査部がきちんと機能しているかを監視する職務があるのですが、まえまえから監査役直轄に内部監査室を置いたほうが健全なガバナンスじゃないかと考えていました。どうなんでしょう?
投稿: 工場労働者 | 2016年6月 7日 (火) 05時55分
すいません、追記です。小生、海外の枠組みで考えています。監査役会とaudit committeeは似た組織ですが、微妙に異なるようです。どう違うのかはよくわかりません。IAという内部監査の雑誌に、海外の例として監査委員会の下に監査部門を置き、報酬から指揮系統からすべて執行部からは独立させているような例を見たことがあったので、監査役会の下直属のほうが機能するんではないかといった疑問です。
投稿: 工場労働者 | 2016年6月 7日 (火) 06時10分
個人的には、カプコンさんのように、監査等委員会設置会社に移行するのと同時に、内部監査部門をすべて監査等委員会の直轄に組織替えする、といった「本気モード」がないと、不祥事リスクを抱えることになると思います。
委員会型会社なのであれば、米国型は監査役会の下に内部監査部をおくことが多数であり、監査委員会が人事権も予算権限も確保していて、執行部が予算を決めることはなかったと思います(その意味で、工場労働者さんのお考えは、米国流と思います。)。
もちろん、社長さんが監査部門というお庭番をもって従業員不正に目を光らせたいというお気持ちはわかるのですが、それでは、従業員監査はできても役員監査はできず、役員が絡む不正には無力かと思います。役員のチェックアンドバランスがコーポレート・ガバナンスでしょうから、役員監査ができるよう、監査役や監査(等)委員が監査スタッフを充実させる(その中には監査の専門家である会計士等が必要。)ことが必須と思います。
投稿: KAZU | 2016年6月 7日 (火) 11時20分
監査等委員(監査委員)にしろ監査役にしろ、本来の監査機能を十全に発揮し得る諸条件をどう整備するかに関しては、その差異よりは共通の課題の方が多いと思われます。その意味で、セイクレスト監査役責任追及事件が最高裁で上告不受理となり、木を見て森を見ない不当判決が確定したことは、まことに残念なことであり、今後の監査機関の実務に深刻な影響を与えるおそれがあります。東芝事件等において職責を果たす充分な努力をしているとは思えない監査委員(監査役)が「知らなかった」が故に責任を問われず、その一方で本事件のように職責を果たそうと様々な形で正当に努力した社外監査役が損害賠償責任を負うという不条理な状況を許してはならないでしょう。確定した以上、判決の射程範囲をどう限定するかが重要なポイントになりますが、最近法律家の一部に判決の論理を不当に一般化する見解が見られることに大きな危惧を抱いています。山口先生に是非本判決の問題点と射程範囲の問題について、本格的に論じて頂きたいと切望致しております。
投稿: いたさん | 2016年6月 8日 (水) 01時40分
すいません、私、その不受理決定は知りませんでした。どこかにニュースで出ていたのでしょうか?確認しておきたいと思います。
投稿: toshi | 2016年6月 8日 (水) 02時03分
上告不受理の情報は知り合いのE弁護士から教えてもらいました。そこで原告代理人のK弁護士に問い合わせたら不受理とのことでした。憤懣やる方ない思いでコメント投稿した次第です。
投稿: いたさん | 2016年6月 8日 (水) 07時58分
いたさん、ご教示ありがとうございます。そうでしたか・・・。たしか商事法務では遠藤元一先生が的確な論稿をお出しになっていたかとは思いますが、本件は射程範囲をきちんと示す必要はありそうですね。
投稿: toshi | 2016年6月 8日 (水) 11時22分
会社法の建付けでいえば、監査役が執行部門の不正な行為をやめさせるための手続きとして、裁判所に差し止め請求するか、株主総会の開催を請求し、あるいは、自ら株主総会を招集するのが原則かもしれませんが、この手続きを具体化することは、時間的にも、技術的にも、あまりに非現実的ではないかと感じております。
特に、執行部門と会計監査人が結託し、監査役が孤立した状態に置かれた時や、執行部門と一部の有力株主が結託して場合には、監査役として、有効な対応手段は、辞任以外に、現実にはないように思います。
(監査役をやめるぞというのが、執行部門への本当の脅しになるのか、むしろ、責任放棄にもなるのではないかということから、私は、監査役人という行為は疑問だと思っています。)
公認会計士・監査法人による不正・違法行為発見時における通報制度?が金融商品取引法193条の3に定められています。しかしながら、監査役には、このような制度がありません。
この点で、企業を取り巻く法令の中で、会計監査人に義務付けて、監査役に義務付けないのは、バランスを欠いているように思っている監査役は、世の中に多いのではないかと感じている次第であります。
このようなアンバランスな状況を改善してゆくために、日本監査役協会等の積極的な対応が望まれているのではないかとわたくしは考えております。
投稿: 法律しろうと | 2016年6月 9日 (木) 17時20分
セイクレスト事件は、控訴審の事実認定を前提とする限りは、上告不受理になるのが自然なのではないかと思います。法律審として、最高裁判所ができることは限られているように思われるところです。問題があることを知っている以上は、可能な手段を講じるべきであったという高裁の一般論を法律論として覆すのは難しいのではないでしょうか。
投稿: とおりすがりの商法研究者 | 2016年6月12日 (日) 10時24分