« 注目される会社役員の提訴リスク(その1)-HOYAの第三者委員会報告書 | トップページ | 総会直前の取締役選任議案の撤回-「私がコーポレートガバナンスです!」 »

2016年6月20日 (月)

注目される会社役員の提訴リスク(その2)-三菱自動車の一律賠償案

松本潤さんが刑事弁護士扮する「99.9 刑事専門弁護士」、最終回まですべて視ておりました。実務家として、もちろん「はぁ?」と感じるところはありますが、話の展開は素直におもしろく、刑事弁護に焦点を当てたドラマを丁寧に作っていただいたことに拍手を送ります。私は(もう30年以上前ですが)NHK連続ドラマ「事件」シリーズで、若山富三郎さん扮する刑事専門弁護士の事実解明に向けた姿に感銘を受けて司法試験受験を決意しました。今日の深山弁護士(松本潤さん)の最終弁論のシーンをみて、刑事弁護士になりたい、と思っていただける方が増えればいいなぁと、素直に思います(←全然ストーリーとは関係ありませんが、あの検察官をされていた俳優さんは女優の優香さんとの結婚を発表された方ですよね?)。ちなみにこれからの刑事弁護ドラマでは取調べの可視化や司法取引に関するシーンがどうしても必要になりそうですね。

さて、三菱自動車さんが、燃費データ偽装事件に関連して、顧客の方々に賠償金を支払うことを公表しました(三菱自動車さんの公表内容はこちらです)。。軽自動車を購入された方には一律10万円を、その他3つほどの車種を購入された方には一律3万円を支払うというものです。会長さんの会見では「わかりやすさと総合的に判断」したとのこと。いちおう、10万円の中身は①迷惑料、②車検時の税額、③燃費悪化に伴うガソリン差額分だそうで、これが合理的な説明と思われます。

しかし中古車としての販売価値の下落というものは損害に含まれないのでしょうか?また、10万円を受け取ることで示談が成立したとみるのか、それともこれは賠償金の「内金」として支払われるのでしょうか?「わかりやすさ」とはずいぶんほど遠いようにも思えます(そのあたりは個別の対応文書の中で説明されているのかもしれません)。また、ベネッセさんの個人情報漏えい事件などでも顧客への一律賠償の提案がありましたが、個人情報については被害が見えにくいのに対して、燃費偽装事件については顧客の被害が目に見えるものですから、他の顧客との一律賠償が逆に不公平感を生むことにはならないのか疑問です。

一昨日のHOYAさんの事件と同様、この三菱自動車さんの一律賠償案の提案も、敗訴リスクとは別に「提訴リスク」を念頭に置いた対策ではないかと思われます。いや、たとえ三菱自動車さんが真摯な気持ちからこのような一律賠償の処理を検討しているとしても、私としての最大の関心は、このような一律賠償案の提示によって、どれだけ裁判に進む顧客数を減らすことができるか、という点です(原告団に参加する顧客の数がどれだけ減るか・・・というのが正確なところかと)。

敗訴リスクといっても、三菱自動車さんにとってはそれほどたいしたことはないのかもしれません。しかし、具体的には正式な裁判を通じて被害損害額の増加ということは考えられるところです。また、被告の範囲が広がることも考えられます。たとえば全国の多くの顧客の方々が集まって大きな裁判が提訴されますと、そのような裁判に関するニュースが報じられる中で社員による有力な情報提供が原告代理人事務所に届く可能性もあります。そうしますと、開発部門による暴走と説明されている内容が、実は「組織ぐるみ」だったということになるかもしれません(もちろん、あくまでも推測です)。株主代表訴訟が提訴されるというきっかけにもなります。

そういったリスクを考えますと、たとえ国交省による正式な調査結果が出る前であったとしても、顧客による提訴リスクを低減させるために、すみやかに賠償金の金額を確定して顧客との信頼関係を維持しておきたいところです。ただ、こういった不正リスク管理の手法が、このような事件が発生してもなお、三菱自動車の顧客であり続けていただくための経営判断として妥当なものかどうかはわかりません。一律これだけ、といった対応が、事件の早期収束に資する対応であることは間違いないとしても、そのことで、三菱ファンをさらに失う結果になることが懸念されるところです。企業不祥事発生時に企業の損失を最小限度に抑える対策は、それが逆に多くの顧客の信頼を破壊する(顧客を失う)結果となり、企業の損失を最大化することにつながりかねません。リスク管理としての100点満点は、事業戦略としての100点満点とはトレードオフの関係に立つものと考えておく必要があります。

6月 20, 2016 商事系 |

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/104680/63803007

この記事へのトラックバック一覧です: 注目される会社役員の提訴リスク(その2)-三菱自動車の一律賠償案:

コメント

私なら、賠償請求権の一部としての受領である、という内容証明を送りつけたうえで受領しますね。

とはいえ、恐らく請求手続きのなかで、これが全てだとか、その他の債権の不存在だとかを認めさせるような用紙になっているような気がします。

そして、それが雑誌等でまた叩かれる。。。

投稿: 場末のコンプライアンス | 2016年6月22日 (水) 19時51分

連投で申し訳ありません。

こちら、今回は対象外ですが、今後の行為(正確には本年10月以降の行為)についてであれば、完全に消費者団体訴訟制度の対象になるので、こんな金額では済まないと思いますが、如何でしょうか。

投稿: 場末のコンプライアンス | 2016年6月22日 (水) 19時58分

場末のコンプライアンスさん、三菱自動車事件と消費者団体訴訟制度については次のエントリーネタなので(笑)ここでは触れませんが、こういった事件も含めてコンプライアンス問題としては大きな課題になると考えています。ベネッセのときもたしか賠償提案文書の内容が火に油をそそぐ結果になったかと思います。

公益通報者さん、示談交渉とコンプライアンスの問題について、私は自分が関与した事件で成功例も大失敗例もありますので、また別のエントリーでご紹介したいと思います。

投稿: toshi | 2016年6月22日 (水) 20時14分

コメントを書く