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2016年7月 7日 (木)

よみがえる旧商法(月刊「企業会計」の特集記事のご紹介)

Dsc_0001今朝(7月6日)の日経新聞の広告にも掲載されておりました中央経済社「月刊企業会計」8月号では、「蘇る旧商法-会社法世代のためのコーポレートガバナンスの歴史」と題する特集が組まれております。今日、ガバナンス改革の中で主たる課題とされているテーマについてはそれぞれ企業社会に浸透してきた歴史がある、この歴史を見つめ直すことを通して、ガバナンス改革における「実質を伴うガバナンス改革」の方向性を検討しよう、といった趣旨で組まれた特集です。

月刊企業会計最新号(8月号)

表紙のとおり、私も「内部統制」に関するテーマで論稿を執筆させていただきました。大和銀行株主代表訴訟、神戸製鋼所株主代表訴訟の二つの裁判を取り上げて、内部統制というテーマが(法律の世界で)議論されるに至った経緯を、当時の(経済界が苦慮していた株主代表訴訟への対応等)時代背景とともに振り返る内容です。後半は内部統制を法的責任論として語るにあたっての今後の課題について個人的な意見を記しております。当月刊誌の主たる読者層である経理実務担当者、会計専門職の方々だけでなく、法律実務関係者の方々にもお勧めする一冊です。

各テーマをご覧いただければおわかりのとおり、いずれも近時の会社法改正やコーポレートガバナンス・コードの実効性審議の中で熱く語られている事項に関連しているところでありまして、(少なくとも私以外のご論稿は)ご執筆者の個人的な見解も盛り込まれていて読み応え十分です。個人的には、自分が一番「ガバナンスの歴史との関連性を知らなかった」という意味で勉強になったのが会計監査人制度とストック・オプション制度でした。

今回の原稿執筆にあたって、弁護士会の図書館等で平成10年から13年ころの新聞記事や法律雑誌等を読み漁りましたが、「内部統制システム」という言葉が裁判所の判断で初めて出てくるのは大和銀行株主代表訴訟・・・・・ではなかったのですね。そのあたりの事情は、内部統制システムという概念が、当時の株主代表訴訟制度の法改正および法解釈の紆余曲折の中で登場してきた背景事情からわかります(意見の異なる法律家や企業実務家の中で、喜びととまどいをもって議論が進められていた点はおもしろいですね)。

大和銀行事件判決の伏線となる野村證券株主代表訴訟事件判決は、大杉謙一先生が「経営判断原則」のところで詳しく紹介しておられます。また、大和銀行事件判決の後の商法特例法における委員会等設置会社(当時)の議論については(毎度のことながら興味深い論点提示で)中村直人弁護士が執筆されています。さらに神戸製鋼所事件の裁判で有名な「和解における裁判所所見」が出された背景には、牛島信弁護士が執筆されている株主総会対策への社会的な要請があったこともわかります(当時の新聞記事を読むのもたいへん有益でした)。次の会社法改正の論点として「株主代表訴訟の在り方、濫用防止のための訴訟委員会制度の見直し?」といったあたりが熱く語られようとしている昨今、かつての株主代表訴訟の在り方を巡る熱い議論がなされていた時代に焦点を当てることにも意味がありそうです。

平成18年改正会社法に慣れ親しんでいる私たちにとって、「目からうろこ」のお話がたくさん登場するところでして、現在のガバナンス改革を少し異なる視点から考えるうえでは有用な一冊ではないかと思います。ご興味がございましたら、ぜひともご一読いただければ幸いです(ちなみに「企業会計」は全国書店にて発売しております)。

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