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2016年8月30日 (火)

社内アンケート調査の「自由記述欄」は不正発見の端緒となりうるか?

さて、昨日に引き続き、先週の日本監査役協会長浜合宿における某監査役さんとの懇親会で盛り上がった話題をひとつご紹介します。

三菱自動車工業燃費不正事件に関する第三者委員会報告書にて、燃費不正を早期に発見する余地があったとして、社内アンケートに関する同社の不十分と思われる調査内容が紹介され、マスコミでも話題になりました。自由記述欄に「虚偽記載」を疑わせる内容が記載されたものの、一通りの調査で「不正事実は存在しなかった」と結論つけたことについて、「なぜコンプライアンス部門が中心になって調査をしなかったのか、開発部門に調査を丸投げしてしまえば、自部門の不正など隠すに決まっているではないか」といった論調が目立ちました。

本件について、某社の監査役さんが、「うちの会社でもコンプライアンス調査のために全社員アンケートを実施しているが、よほど不正疑惑が明確になっていない限り自由記述欄は見落としてしまいがち。うちの会社はまじめな会社であり、不正なんて起きないといったバイアスが働くから、どうしてもビッグデータ処理によるリスク・アプローチのほうに注意が向いてしまうのですよ。なんか三菱さんの件は、(それほど熱心に調査をしなかったことについて)わかる気がします」とのこと。そういえば、私も「自由記述欄」というのは、アンケートに回答した社員の労務上の不平不満が書かれていることが多いためか、ここに不正の兆候が潜んでるという意識は、よほど懐疑心を発揮しなければ見落としてしまうことが多いように感じています(もちろん専門家としてやってはいけないミスですが)。

先日、コンプライアンス対応で著名な同業者の方と食事をしたとき、第三者委員会における社内アンケートの極意についてお聞きしました。この「自由記述欄」に社員が告発したくなるような工夫を施すことがとても大事とのことでした(ここではその工夫について書くことは控えます)。どのように自由記述欄を活用すれば、社員が告発する気になってくれるか・・・というところがアンケートの勝負ドコロだそうです。

しかし、これは実際に企業不祥事が発覚した直後の社内アンケート調査ですし、当然のことながら第三者委員会の委員に高い懐疑心が存在するからこそ有効であって、平時のアンケート調査の場面とは相当異なる状況にあると考えられます。有事ではなく、平時から「高い職業的懐疑心」を持つことは、監査役さんや内部監査部門には要求されるところですが、実際にはなかなか困難なのですね。「ハイ、きちんとアンケート調査もやりましたよ」と、監査手続きを履行すること自体に関心が向けられているわけです。毎度申し上げるところではありますが、「オオカミ少年」を社内で許容する組織風土がなければ「職業的懐疑心」自体が組織で成り立たない気もいたします。

ちなみに本日(8月29日)、デロイトトーマツさんが、内部通報制度の運用に関する調査結果を公表されており、3分の2の企業で外部に通報窓口を設置しているものの、年間通報受理件数が10件未満の会社は72%に上るそうです(デロイトさんの調査結果はこちら)。通報制度に関心の高い企業ですら、事実上は内部通報制度が十分には機能していないのが実態です。この結果をみるに、通報窓口担当者が通報者の秘密を保持しうるスキルを磨くことと同時に(実務をみていて、これは最も重要!)、「内部通報制度」を機能させる組織風土を、時間をかけて形成する努力が必要だと再認識するところですね。

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2016年8月29日 (月)

自社監査役監査基準に注意義務のレベル表示を付する企業登場

8月25日、26日と、毎年恒例の日本監査役協会主催の夏期合宿(通称長浜合宿)に参加しました。琵琶湖畔長浜での夏期合宿は、もう30年以上続いている伝統のある行事です。「参加」といいましても、(研修を受けるほうではなく)全体講演の講師、2年目研修チームの講師として、ということですが、毎年楽しみにしているのは、夜の懇親会です。190社の監査役の皆様が一同に会しての立食パーティですが、多くの企業の監査役実務をお聴きできる「またとない機会」でして、とりわけ今年は取締役監査等委員の方、女性監査役の方の参加が急増していたのが特徴的でした。またガバナンス・コードが「トレーニング」に触れているせいか、社外監査役の方も多く参加されていましたね(頭が下がります)。

なかでも某会社では、今年から自社の監査役監査基準に1~5までのレベル感を表示しているそうです。「これは絶対にやらねばならない」「これは原則としてやらねばならない」「これはできる範囲でやるべき」「時間があればやるべき」等々。昨年、日本監査役協会が策定している監査役監査基準にレベル感が表示されるようになりまして、レベル1、レベル2と規定されている項目のみ自社監査役基準に盛り込む・・・といった会社はありましたが、すべて取り込んで、なおかつレベル表示まで(監査役協会の基準を参考にして)自社基準に付する会社さんは、あまり聞いたことがありません。

ここまで読んでピンときた監査役さんもいらっしゃるかもしれません。そうです。あのセイクレスト事件大阪高裁判決を意識した行動です。取締役に対して社長の暴走を防止すべき内部統制構築を勧告する義務、社長を解任するための臨時株主総会を開催することを取締役に勧告する義務などが認められたセイクレスト事件判決(今年2月に最高裁で不受理決定)ですが、なぜこんなキビシイ義務が監査役さんに認められたかというと、自社の監査役監査基準や内部統制システムの監査基準等に、そういった行動規範が盛り込まれていたからだ・・・という意見も出ているところでして、この判決をもとに自社の監査役監査基準を(たとえば日本監査役協会のモデル基準でレベル1と2と表示されている条項のみ自社に取り入れる等)見直している会社も多いようです。

そこで某社では、「そんな判決が出たんじゃたまらない。でも、だからといって後ろ向きの自社基準を作ったって監査役としての仕事がおもしろくない。だったら、ベストプラクティスとしての監査基準を策定する中で、自社の監査役監査基準にも、善管注意義務の判断基準の元になるレベルを自分たちで決めて、それを明記しておこうではないか」ということで、基準へのレベル感の表示に至ったようです。私個人のセイクレスト事件判決の見方としては、決して自社の監査役監査基準の規定ぶりが決め手になったのではないと解釈していますが、なかなか前向きな監査役さんもいらっしゃるなぁと感心いたしました。

また、別の監査役さんからは、三菱自動車工業さんの燃費偽装事件に関する第三者委員会報告書に対する詳細な感想をお聴きし、似たようなご経験をされたこともあり、かなり三菱自動車さんに同情的な意見を拝聴いたしました。これも「なるほど」と思わせる内容でしたので、またあらためて別のエントリーでご紹介させていただきます。いずれにしても、現役の監査役さんからナマの監査実務をお聴きすることはたいへん有益でして、今後も機会があればまた夏期合宿に参加させていただきたいと思いました(参加された監査役の皆様、どうもお疲れ様でした)。

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2016年8月25日 (木)

出光興産の統合抗争は本当に「創業家の乱」なのか?

あいかわらず経済紙は「出光創業家の乱」を詳細に報じているようで、野次馬としてはとても興味深く騒動の進展を見守っておりますが、交渉自体が止まっているのでしょうか、新しい動きがみられないようです。そして、どの新聞、雑誌をみても「創業家VS現経営陣」の対立構図は変わっていないように思えます。

さて、今年5月に拙ブログエントリー「創業家の絡む経営支配権争いには二つの顔がある」を書きまして、流星さん他、常連の皆様にいろいろと有益なご示唆をいただきました。私の経験上も、「創業家対現経営陣」という表向きの抗争の裏で、実は社内の主流派対反主流派という内部抗争が背景にあり、そのまた背景にメインバンクや従業員組織があったりして会社が一枚岩ではないところをステイクホルダーに露呈してしまったケースがありました。ここまで膠着状態が続いてるところをみると、ひょっとして出光興産さんのケースでも、背景には統合賛成派と統合反対派の激しい対立があるのではないでしょうか?社内の情報は、反対派から大株主である創業家に筒抜けになっているのではないかと想像してしまいます。

そういえば8月16日の朝日新聞ニュースによりますと、出光興産さんは15日に臨時取締役会を開催して、社外取締役さんや監査役さんに対して、統合に向けた手続きに問題はなかった旨を説明した、と報じられていました。しかしこの報道が事実ならば、かなり違和感を覚えます。会社の統合に向けた手続きは、会社にとってまさに重大な経営判断のプロセスなので、タイムリーに社外取締役さんや監査役さんがそこに関与していなければおかしいはずです。

ときどき重要なM&Aの情報拡散を防止するために、ごく一部の経営陣のみで話を進め、社外取締役さんには意思決定の直前に説明をする、ということはありえます。しかし、自社の統合問題は支配権の移動に関わる重要な経営方針に関わるわけですから、いまになって社外取締役さん、監査役さんに事情説明がなされたということは、かなり不自然な形で隠密裡にコトが進められていたのかもしれません。かりに創業家側から社外取締役さんや監査役さんに「株主との対話」の一環として、「社外役員の意見が聞きたい」との要望が寄せられていたとしても、その疑念は拭いきれないところです。

マスコミ的には「お家騒動」「創業家の乱」といった構図を描くほうが読み手にもわかりやすく、またドラマチックなわけですが、会社としては社内抗争は企業価値を低下させることになるために、ぜひとも表沙汰にはしたくありません。こういった創業家の乱、創業家内のお家騒動といわれる事件は、もっと根が深く、取材する気が失せるほとにドラマとしてのおもしろみに欠けるストーリーというのが現実の騒動の姿なのではないかと。

 

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2016年8月24日 (水)

ガバナンス・コードへの対応-「とりあえずコンプライ」と「なんちゃってコンプライ」

昨日(8月22日)の日経夕刊2面に驚くべき調査記事が掲載されていました。主要企業の6割が企業統治指針73項目について「すべて順守」(オール・コンプライ)と宣言しているそうです。昨年12月は3割だったので、オール・コンプライ企業は倍増したことになります。コンプライを強く推奨するコードの本家英国よりも高い数字とのこと。一見すると、昨年6月に適用が開始されたガバナンス・コードが上場企業に浸透し、我が国でもガバナンス改革が進んできたものと言えそうです。

しかし「点検ガバナンス大改革」(R&I格付投資情報センター編 日本経済新聞出版社 2016年)の第1章(拙著)で述べたとおり、「横並び主義」の傾向が強い日本企業においては、2008年施行のJ-SOXと同様、オールコンプライは要注意です。たとえ大企業に限ったとしても、監査法人と社外取締役との十分な連携(補充原則3-2②)、後継者育成計画(サクセッションプラン)に対する取締役会の監督(補充原則4-1③)、監査役と社外取締役との定期的連携協議(補充原則4-4①)、独立社外取締役のみの会合(補充原則4-8①)、社外役員を中心メンバーとする任意の仕組みの活用(原則4-10)、内部監査部門と社外取締役との連携等、社外取締役が情報を入手するための工夫(補充原則4-13③)等は、(もちろん意識的に実施されている会社もありますが)、到底6割もの会社で実施されているようには思えません(私がコード対応を支援した7~8社程度と、自身が社外取締役を務める会社の相談事例等の経験に基づくものなので、確信的なものではありませんが・・・)。

なぜなら、上記に掲げた各項目は、会社側の事情ということよりも、選任された社外取締役や社外監査役の「独立役員としての姿勢やスタンス」によって、会社側がどうすることもできない事情により、対応が異ならざるをえないからです。単に「そんなオールコンプライできるほど社外取締役はヒマではない」といった時間的制約を問題にしているのではなく、社外取締役として会社のために職務を全うしようとすれば、とりわけ元経営者の社外役員の方は、「社外取締役はかくあるべき」といった思想をお持ちだからです。

各企業によってガバナンスの実態は異なるわけですから、社外取締役だけ集まって会合を開くことは好ましくないと考える方もいらっしゃいますし、事務局による社外取締役への事前説明を「これは反対されるのを防ぐための根回しやないか!」と拒絶する方もいらっしゃいますし、さらに後継者育成計画や中長期インセンティブ報酬の考え方に異を唱える方もいらっしゃいます。監査役を飛び越えて、社外取締役が監査法人と意見交換を行うことに意義を認めない方もいらっしゃるはずです。社外と社内の取締役が、コードをすべて順守することをよしとする会社などありえないように感じます。

おそらく、こちらのレポートに掲載されている東証さんの見解(とりあえずコンプライしておいて、後からエクスプレインするのもルール違反ではない)がかなり出回っており、各社とも現在は「とりあえずコンプライ」の状況にあるのかもしれません。社長自らガバナンス改革に熱心であれば経営企画の担当者も「これはエクスプレインではないでしょうか」と言いやすいかもしれません。しかし、あまりガバナンス改革に熱心ではない社長さんの場合には、おそらく「やっつけ仕事」としてガバナンス・コードへの対応が担当者に丸投げされているものと思います。

しかしガバナンス評価を丸投げされる担当者ほど過酷な状況に立たされる人はいません(うちの役員は全くだらしない・・・とは評価できないでしょう 笑)。担当者としては、「とりあえずコンプライ」に東証さんのお墨付きがあるのならば、(コンプライの場合には理由を開示する必要がないので)社長に煩わしい思いをさせることもないので「オール・コンプライ」にしておくのが無難だという判断に帰着しているように推測します。

上記東証さんの見解は「とりあえずコンプライ」はセーフだと述べているわけですが、コードを自分勝手に解釈して、コードの趣旨精神に反する対応に終始しているケースもあり、こういった「なんちゃってコンプライ」は明らかに東証ルール違反でペナルティの対象になります。私が上記に掲げた項目は、比較的「とりあえず」か「なんちゃって」か判断が容易なものなので、株主の方々は、具体的な運用状況(実際にコードに基づいて履行した結果)を、独立社外取締役の皆様から直接お聴きになるべきです(会社ではなく、社外取締役さんからお聴きになるのが肝要です)。私は「このコードは当社の企業価値向上には合わない。当社では、むしろ反対の行動をとったほうがビジネスモデルの種を大きくする土壌になると考えています」と述べる企業ほど、コーポレートガバナンスの長所を活かしきれる会社だと理解しています。

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2016年8月23日 (火)

岸監査役とのお別れ

本日は予定を変更しまして、関係者かぎりのさみしいお話で失礼いたします。

私が取締役を務めているニッセンHDの社外監査役、岸秀隆氏が逝去されました。岸さんは長く監査法人トーマツの代表社員を務められ、退所後に当社の監査役(社外)に就任されました。岸さんとは役員仲間であること以上に、ある研究会で長年ご一緒させていただき、拙著「法の世界からみた『会計監査』」の執筆時にも、有益なご意見を頂戴しておりました。また、グループ会社経営の「全体最適、部分最適」の考え方等も教えていただきました。私は参加しておりませんが、経営者の方々を集めて自主勉強会も定期的に開催されていました。

ここのところ、お身体の調子が良くなかったのですが、当社の役員会にも精力的に出席され、(電話会議ではありましたが)先週までご出席いただいておりました。会社自身が厳しい状況に置かれている中で、財務会計的知見から貴重なご意見をいただいておりました。まだまだお若かっただけに、このような訃報に接することは非常に残念でなりません。

岸さんからは、「会計士の職業倫理」を含め、まだまだ教えていただきたいことが山ほどありましたが、たいへんわずかではありますが、私がこれまでに学ばせていただいた知見を実務に活かすことで、岸さんへの感謝の気持を示したいと思います。謹んでご冥福をお祈りいたします。

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2016年8月18日 (木)

ガバナンス改革時代におけるコンプライアンス経営(セミナー告知)

さて、本日はひさしぶりの私のオープンセミナーのご紹介です。自ら企画し、レクシスネクシスさんにご協力いただきまして、法務、コンプライアンス関連業務ご担当の役員、社員の皆様向けに「ガバナンス改革時代におけるコンプライアンス経営~役職員はどう動くべきか」と題するセミナーを東京(9月20日)、大阪(9月6日)で開催することとなりました(レクシスネクシスさんのセミナー告知はこちらです)。

セミナー概要を引用しますと、

コーポレートガバナンス・コードの施行、会社法改正等により、企業が稼ぐ力を取り戻すためのガバナンス改革が本格化しています。一方で、外向けの制度対応のみに終始している上場企業も中には見受けられ、「ガバナンスの優等生」と評価されていたはずの企業で、次々とマスコミが大きく報じる不祥事が発生しました。ガバナンス改革への形式的な取組みは、かえって不祥事の原因となる「構造的欠陥」を抱えることにつながるといえるでしょう。本セミナーでは、ガバナンス改革が進む中で企業が留意すべき不正リスクを検証し、昨今の企業不祥事に顕著な「構造的欠陥」を露呈しないための、全社的取組みについて提案します。

というものです。主に法務・コンプライアンス部門ご担当者向けと申しましたが、もちろん経理、総務、監査、経営企画等ご担当の皆様、士業の皆様も大歓迎でございます!

ガバナンス云々・・と紹介しておりますが、セミナーの内容はコンプライアンス経営の実践的なお話が中心です。どこかの本で仕入れてきたようなガバナンス論のお話はせず、自らの体験に基づくお話を中心にさせていただきます。ブログでは到底書けないような話も含めて(?)、オフ会感覚で講演をさせていただきますので、ぜひともブログをご愛読いただいている皆様方にもご来場いただければ幸いです。最近はブログで書きたくても、忙しくてなかなか書けないネタも多いので、そういったネタについても披露させていただきます。もちろん、ただ楽しめる講演ではなく、今後の皆様の実務に参考になるところを3時間バージョンでお話するつもりで用意しています。

いつも講演で心掛けていることは、聴講される方に「なるほど~」と唸っていただくのではなく、「このオッサンの言ってることはもっともらしく聞こえるけど、ホンマかいな?どっかおかしいような気もするな・・・、よし、会社に帰って誰かに尋ねるか、調べてみよっと」と懐疑心満載でお帰りいただくことです。また、ブログは「問題提起型」「問題発見型」なので、問題解決の処方せんについては触れておりません。せめてセミナーくらいは、具体的な事案などを取り上げて、私なりの問題解決の処方せんをいろいろと述べてみたいと思っています。

参加費用が「そこそこ」なので、やや心苦しいところではございますが、その分ご期待に応えられるよう準備してまいりますので、どうか皆様、東京もしくは大阪での講演にご参集くださいませ(セミナーといえば、最近は役員セミナーや経済団体での講演が多く、ブロガーであることを知らない方ばかりの中でお話をしておりますので、できれば「ブログ読んでますよ!」とお声をかけていただければたいへんうれしいです)。お申し込みは上記レクシスさんのHPからよろしくお願いいたします。<m(__)m>

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2016年8月17日 (水)

鳥貴族アルコール製剤誤提供事件にみる企業の誠実性

企業側で有事対応の仕事をしたり、不正事実の情報提供をする従業員側で告発のお手伝いをしておりますと、顧客の利益を侵害するような不祥事を発生させた企業が「バレないのなら公表しない」という決断を下すケースが非常に多いことを痛感します。健康被害が出なかったダスキン事件大阪高裁判決(違法添加物入りのぶたまんを販売したケース)において、役員に5億7000万円の損害賠償責任が認められたような事例が生じても、やはり取締役の皆様は「ダスキン事件は運が悪くて後日バレちゃったケース。ウチはバレません。バレずに済むのなら公表はしないでいいのでは?」という結論が役員の間で暗黙のうちに承認される、というのが現状です。

そんな中、東証1部の鳥貴族さんが食品添加物アルコール製剤を、焼酎と間違えて150人ほどのお客様に提供してしまったという不祥事を8月15日に公表しています(HPではリリースを若干修正のうえ、16日付けで再公表しています)。取引先であるサーバーメンテ業者の方が知りえた可能性はあるとはいえ(飲食されたお客さんも「なんか泡が多いのでは」と不審に思った方もいらっしゃったようですが)、かなりカッコ悪い不祥事を潔く公表し、保健所に届け出たことは(私のような仕事をしている者からみると)評価に値すると思います。

よく講演等で「不祥事が発生した時の対応によって、その企業経営者の誠実性がよくわかる」と申し上げますが、今回の件でも、どんな企業でも不祥事は起きるわけですから、このような対応はむしろ誠実性あるものと考えたいところです。ただ、再発防止策を検討するということであれば、「ドリンクサーバーから抽出されるチューハイに異変が感じられた」にもかかわらず、そのままお客様にその商品を出していた、といったことへの対応に触れていないのはやや疑問が残ります。もちろん、このようなことが二度と発生しないような体制をとることも大切ですが、どんなに頑張っても、同じようなことはまた起きます。起きたときに、現場社員さんがどのような対応をとるべきか、ということを検討しておくことがよほど再発防止策になるものと考えます。

そしてもうひとつ、私が一番気になったのは7月21日に異常を感じたにもかかわらず、公表が8月15日になった点については説明が必要ではないでしょうか。善解すれば、「他店舗での不祥事の有無を先に事実確認する必要があったため」とも考えられますが、このような場合、顧客の被害状況を一日も早く情報収集する必要があるわけで、また被害弁償にはレシート等が必要になるのですから、他店舗における不祥事の有無を確認することよりも「情報収集のための公表」が優先されるべきではないでしょうか。ひょっとすると経営者にまで誤提供の事実が報告されるまでに時間を要したのかもしれませんが、もし会社側で公表が3週間余り先になってしまった合理的な理由があれば、その経緯についても説明すべきではないかと思いました。

あまり報じられていませんが、王将フードサービスさんは、あの第三者委員会報告書が公表されて以来、委員会から提示されたガバナンス向上のための提言をひとつひとつ誠実にクリアされていて、先日はついに創業家との取引を一切停止できたことがリリースされました。これでようやく一区切りがついたようです(こちらのリリース)。こういった姿勢こそ、企業価値を評価するにあたってとても重要だと考えるところでして、このたびの鳥貴族さんの不祥事公表も、社員の方々の注意を喚起させ、よりよい企業風土の形成に寄与してほしいと願うところです。

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2016年8月12日 (金)

D&O保険の免責条項の解釈と「もうひとつのセイクレスト事件高裁判決」

世間はお盆休み&オリンピックモードではございますが、私自身はいろいろと思い悩むところがございまして(?)、あまりアクセス数も上がらないことを承知のうえで取締役の法的責任に関連するマニアックな話題をひとつだけ書かせていただきます。判例時報の8月1日号(2296号)に、平成28年2月19日に大阪高裁で言い渡されたセイクレスト事件判決の全文が掲載されています。あの社外監査役さんが責任査定された件(監査役の善管注意義務違反が判断された件)ではなく、セイクレスト社に対する現物出資(第三者割当増資における金銭出資に代わる対価)の価額相当証明に関与した弁護士さんの損害賠償責任について、弁護士賠償責任保険の適用が認められた件でございます。

高く見積もっても5億円の土地(現物出資の対象物)について、当該弁護士さんが20億円程度なら価格として相当だと証明した行為について、原告の破産管財人との間で当該弁護士さんは価額不足填補責任額として3億5000万円を払う旨の和解をしています。当該和解は、おそらくこの弁護士賠償保険の適用を前提として、双方合意したものと思われます(もちろん馴れ合い・・・といったものではござません)。ところが保険金の支払いにあたり、保険会社側は「当該弁護士は『他人に損害を与えることを予見しながら行ったもの』であるから特約によって支払いは免責されると主張していました。

※・・・ちなみに、原審の大阪地裁判決も併せて読みましたが、この価額証明をされた弁護士さんは、私から見ればかなり一生懸命仕事をされていたようで、損害賠償責任を負うこと自体、かなりシンパシーを感じます。セイクレスト社は他の弁護士さんにも価額証明業務を依頼したのですが、報酬として数千万円を要求されたために断念。この弁護士さんは50万円で請け負ってしまったようです。。。ただ、50万円で請け負うためのリスク回避条件はかなり会社側に出していて、これが実行されていたことも事実です。

弁護士が職務上の損害賠償責任を負う場合に「他人に損害を与えることを予見しながら行った行為」については、弁護士賠償保険について保険会社は免責される特約が付されています。そしてセイクレスト事件では諸事情を認定のうえ、価額証明を担当した弁護士に他人の損害を予見できる蓋然性は高いとはいえなかったとして、地裁も高裁も保険会社側に和解額に見合う金額の支払いを命じました。いわゆる「認識ある過失」の場合には責任保険契約に基づく責任が免除されるということですが、価額証明にあたり、弁護士がどのような行動をとれば認識ある過失はなかったとされるのか、とても興味深い判決内容になっています。

ところでガバナンス改革のもと、急増している社外取締役さんにとってとても気がかりなのがD&O保険(会社役員賠償責任保険)の適用問題ですよね(もちろんすべての会社役員さんにとっても関心が高いと思いますが)。上場会社の社外取締役さんの中で、自社の保険にどのような特約が付いているのかきちんと理解しておられる方はあまりいらっしゃらないのではないでしょうか。6月27日付け日経法務インサイドの特集記事にもありましたが、損害保険会社によって、D&O保険の内容がかなり変わりましたし、外資系と国内会社でも免責条項の内容は異なります。

もちろん、どこの保険会社さんの契約でも、会社や第三者に損害を与えることを予見しながら行った行為について、D&O保険の適用が免責されてしまう点では同じですが、先のセイクレスト事件高裁判決は、専門家責任保険ではない一般のD&O保険の条項解釈にも参考になるのではないかと思います。たとえば上場会社の取締役として求められる一般的な注意義務を基準として、その注意義務を尽くしたと言える行動とは具体的にどのようなものか、その行動をどこまで尽くしたのか・・・、また具体的に求められる行動は、当時の状況からみて「とろうと思えば容易にとりえた」行動だったのかどうか、といったあたりがきちんと第三者にも説明できることが大切です。

弁護士賠償保険についてはそれほど問題になりませんが、D&O保険は法律の素人である取締役さんを被保険者とする制度なので、敗訴リスクだけでなく提訴リスクにも関心が寄せられます(たとえば提訴された場合の弁護士費用等)。さらに、来年予定されている会社法改正に向けた研究会においても、D&O保険を会社法にどのように取り込むか、モラルハザードに配慮した免責条項との関係や事業報告による契約内容の開示等が議論されているところです。昨年は経産省内のガバナンス研究会でも指針が公表されました。したがって、D&O保険の契約内容については、企業法務的にももう少し話題になってもよいのではないかと感じています。

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2016年8月10日 (水)

取締役会全会一致の原則の裏に潜む「暗黙のお約束」

コーポレートガバナンス・コードが実施されて2年目となりますが、ご承知のとおり複数の社外取締役さんが選任されている上場会社もたいへん増えました。コードの要請としてダイバーシティ(取締役会構成員の多様化)が求められていますから、さぞや取締役会の議論は活発化して反対議決票も投じられているのでは・・・と思われる向きもあるかもしれません。しかし8月8日の日経新聞朝刊「経営の視点(取締役会、全会一致のなぜ)」で編集委員の方がお書きになっているとおり、取締役会の意思決定は「全会一致」が事実上の原則になっています(会社法上は出席取締役の過半数の賛成が決議成立要件です)。

上記の記事で有識者の方々が指摘しておられるとおり、「事を荒立てて決めたくないので全会一致が慣例になっている」のであり、「社外取締役のひとりでも反対すれば採決を強行しない」というのが実情だと思います。ガバナンス・コードでは、取締役会の活性化のために社外役員に対する事前レクチャーなども推奨されていますが、実態は取締役会で反対されないための「根回しの場」と化しているのも事実でして、むしろ2時間以内で取締役会が紛糾せずに終了するために事前レクチャーが存在するといっても過言ではないと思います。

モニタリングモデルが採用されている米国企業の取締役会でも全会一致が多いようですが、アドバイザリーボード型の日本で全会一致が慣例とされるのは、やはり「みんなで決めた」という責任分散志向が強いから、と言われています。ただ、私はむしろ「取締役はPDCAが嫌い」というのがホンネのところではないかと考えます。毎月重要な審議案件が次から次へと取締役会にかけられる中で、スピード経営を維持するためには目先の案件に気持ちが集中しているわけでして、「あの3か月前の案件の経過はどうなってますか?」と社外役員から質問しないと、報告が聴けない状況が多いように感じます。誰かが反対したり、議事録に異議を述べたような案件だと、いやでもPDCAに配慮せねばならず、社内取締役も社外取締役も、業務執行の是非を判断しなければなりません。モニタリングのクセがついていない取締役会では、これがとても面倒に感じられるのではないでしょうか。

しかしながら、社外取締役さんが増えたことで、上記記事で有識者のおひとりがおっしゃっておられるように「社外取締役の理解が得られず、決議が持ち越しになる事例が増えている」ことも事実。いわば社外取締役に事実上の拒否権が付与されているのでありまして、「あの人、ちょっとムズカシイ人だな」と思える社外取締役さんが就任した取締役会では、このあたりの悩みを抱えてしまうことになります(タテマエではなく、ホンネベースで考えてくださいね)。そこで登場するのが「条件付き決議」と「詳細は社長一任」です。議論が紛糾した場合に、なんとなく「ここのところは●●の条件で賛成、ということで決議をとりましょう」とか「もう取締役会も時間が押していますので、詳細は社長一任・・ということで」といった形で決議がとられます(昨年経産省でまとめられた取締役会のプラクティス集の中でも、このような条件付き取締役会決議が行われている実例が紹介されています。14ページ以下参照)。

ところで私自身が社外取締役兼取締役会議長という立場でもあるせいか、この条件付決議というものがどうも気になるのです。そもそも契約行為でもない取締役会決議に法的な条件を付すことができるのかどうか、といった法理上の疑問はさておいて、この「条件」というのは停止条件なのか解除条件なのか、という点です。停止条件ならば(賛成決議をとったとしても)いまだ決議の効力は生じておらず、後日、条件が成就した時点ではじめて決議の効力が発生します。また解除条件であれば、決議の瞬間に効力は発生しますが、後日、条件不成就が明らかになった場合には効力がなくなります。いったい「条件付き決議」と言う場合は、どっちを指すのでしょうかね?さらにいえば「●●の条件で」といっても、その●●の条件が成就したかどうかは、一体だれが決めるのでしょうか?

ちなみに、法律に詳しい社外取締役が、別の社外役員の方々に「いまの条件付き決議って、法律上はなんの意味もないですよ。解釈すれば、全員異議なく承認可決されました。ただ、後日事の経過を社長が説明するというリップサービスがついただけですよ」と申し上げると、またまた議論が紛糾するという事態も想定されます。このあたりは会社のお約束ゴトとして、大人の対応が必要なのかもしれませんね。

また、「詳細は社長一任」として決議される場合もありますが、この「詳細というのは、何が詳細なのですか?ひょっとして、その詳細の中には今回の決議の方向性を変えてしまうような要素はないのですか?」と聞きたくなるような重要事項が含まれていることもあります。法律上の「包括委任」を容認する趣旨なのか、それとも個別委任の意味で一任する、ということなのか、あまり詰めた議論もなされないままに「社外役員の皆さんもお忙しいことでしょうし、もう時間も押してますので、詳細は社長一任で・・・」とされるケースが見受けられます。このあたりも会社のお約束として大人の対応が求められるのかもしれませんが、いずれにしても、このPDCAに注力するのが社外取締役の重要な役目であり、決して妥協してはならないところだと考えます。

PDCA嫌いの日本企業の取締役会において、取締役会の議決権行使に多数決原理が持ち込まれるのであれば別ですが、今後も全会一致の原則が多用されるのであれば、このあたりは結構社外取締役さんにとっては重要な問題ではないかと。最近は取締役会議事録も詳細に記録される会社が増えているようなので、このあたりの趣旨もきちんと残しておくべきではないでしょうか。

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2016年8月 8日 (月)

出光創業家の株式取得で改めて考える「公開会社法待望論」

9784492732588日本選手の金メダル獲得でリオ五輪も盛り上がりを見せていますね。しかしその一方で、逃亡していた元弁護士の方が9年ぶりに海外で身柄を確保され、送還後にさいたま地検に逮捕されたとの報道に、五輪や高校野球どころではない・・・と、真っ青な顔でビクビクされている方も多いのではと拝察しているところでございます。いやいや、高橋篤史さんの名著「兜町コンフィデンシャル」をひさしぶりに読み返しておりました。。。

さて話は全く変わりますが、出光興産社の現経営陣と創業家との対立は溝が深まる一方のように報じられています(ただ、ホントのところは「大戸屋さん」のところと同じように、水面下で話し合いが行われているのかもしれませんが、私は単なる野次馬なのでまったく存じ上げません)。創業家は金融商品取引法上の公開買付ルールを逆手にとって、ロイヤル・ダッチ・シェルと出光との相対取引を妨害する「強硬手段」に出ました。創業家の方々は、出光興産の社外取締役の方々に情報開示等を求めておられるようで、コーポレートガバナンス・コードによる「健全な株主との対話」も活用されているそうです。

双方とも(裏事情が公表されてしまうような裁判沙汰だけは避けたいところなので)協議を有利に進めるための地位確保に向けた動きが活発化しているわけで、これもその一環ではないかと思われます。企業法務に精通した方であれば、おそらく創業家側の株式取得についても予想していたものと思いますが、ただ日経新聞の8月4日朝刊記事で早稲田の黒沼先生がおっしゃっているように、そもそも「特別関係者」の概念は支配権異動を伴うTOBから一般株主を保護するために定められたものなので、支配権異動で協調行動が想定されないような場合まで「特別関係者」の概念を適用すべきかどうか疑問をぬぐいきれません。金商法という性格上「形式基準」はあくまでも形式的に解釈されるべきですから、ルールに反する行動の違法性を排除するということまでは言えないかもしれませんが、なんとなくモヤモヤするものが残るのも事実です。

8月5日の日経朝刊記事によりますと、出光経営陣は取得数を減らして、あくまでも相対取引で株式を取得する方向だそうですが、これに対してはまた創業家が買い増すことも検討されるようで、どこで終息するかわからない様相です。そこで、たとえば「特別関係者」規定の趣旨を逸脱した金商法の活用を敢行したのは創業家なのだから、出光経営陣側も強硬手段として当初の合意どおりロイヤル・ダッチ・シェルの株式をすべて買い取ったらどうなるのでしょうかね?(まぁ、コンプライアンス経営の視点からみて実行されることはないと思いますが)。

そういえばこの問題は平成26年改正会社法で解決されるはずだったのではないでしょうか?TOB規制に反して取得された株式の議決権停止については、会社法と金商法の狭間で残された課題として会社法改正の中間試案までは改正条文が存在したのですが、最終的に内閣法制局の意見で削除されたものと記憶しています。民事上は株式取得は有効ですが、議決権行使というごく一部の権限だけが金商法違反によって停止する、といった建てつけだったと思います。改正会社法で規定されなかったということで議決権は停止しないとみるべきか、それとも金商法の解釈問題として停止される、もしくは民事上の合意そのものが無効とされるのでしょうか。また民事保全は使えるのでしょうか(そもそも本訴の原告適格はあるのか?)。いずれにしてもビミョーにグレーゾーンの問題です。

こういった事例は大量保有報告書制度や委任状勧誘規則との関係でも実際に起きるわけですから、法務省と金融庁との管轄の垣根を超えて、公開会社法の制定を真剣に検討してもよいのではないかと考えますが、いかがでしょうか。

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2016年8月 5日 (金)

本日のエントリーに関するおわびと訂正 

いつもご愛読いただき、ありがとうございます。

本日付けエントリーにおきまして、不適切な表現がタイトルおよび本文中に含まれている、と複数の読者の方から指摘を受けました。私自身は差別的表現ではないと考えておりますが、放送禁止表現であることは間違いないところでありますので、安易にそのような表現を使ったことにつきまして、深くおわび申し上げるとともに、該当箇所を訂正させていただきました。

今後はブログ作成にあたり、表現にも細心の注意をしてまいる所存でございますので、どうかよろしくお願い申し上げます。

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突然の会計不正事件疑惑にみる「経営者の思い込み」を考える

世間では海外のショートセラー(株の空売りで儲ける投資家)が日本の某総合商社さんを「第2の東芝事件」と指摘して大儲けをしている事件が話題に上っております(当該ファンド作成にかかる日本語版の44頁のレポートを読みましたが、最初と最後に「この会社は第二の東芝になる」との推測が明記されていますね。ずいぶんと煽りすぎのような気もしますが)。

日本の企業では社内の「オオカミ少年」は肩身の狭い思いをしていますので、商売のひとつとして社外のオオカミ少年が登場しても不思議ではないかもしれません。そもそも日本の内部統制報告制度が機能していない以上、「不正会計の可能性情報」を投資家が渇望していることは十分考えられます。

エンロン事件の発端は、一地方経済誌に掲載された推測記事に興味をもったショートセラーの空売りでした。当初エンロン社はその非倫理性に怒りつつも冷静さを失わずに反論し、エネルギー業界に精通している有力な機関投資家も「エンロンは全く問題なし」と冷静さを保っていました。その後、いくつかのショートセラーが追随して株価が下落したことにより、エンロンの会計手法に多くの投資家が関心を向け始めました(「エンロン~内部告発者」 ミミ・シュワルツほか著 ダイヤモンド社 283頁以下参照)。

私は某総合商社さんに不正会計の疑惑があるとは全く思いません。ただ、エンロン会計不正事件の首謀者らは今でも意図的な会計不正をやったわけではない、あれは「思い込みの強い希望」によるものだったと述べていますし、行動経済学者のダン・アリエリーも、このように考えるのは不自然ではないとされていますので、会計不正というのは「これは会計不正ではない、一点の曇りもなく断言できる」と誠実な企業ほど説明されるものだと認識しています。意図的な不正であればおそらく嘘が顔に出るかもしれませんが「盲目的希望」であればウソ発見器も反応しないわけです。このあたりは著名なショートセラーであれば百も承知でしょうから、会社が反論すればするほど、世間が騒げば騒ぐほど喜んでおられると思います。

エンロン事件はご承知のとおり最後は監査法人から転職された経営幹部の方が内部告発をすることで大事件に発展するわけですが、今回の事例でも狙われた某総合商社さんに内部告発者が現れることをショートセラーは期待しているのかもしれませんね(そういえば8月3日の日経ビジネスさんの記事では、東芝事件と同様に記事の末尾に「内部告発を求む」とあります)。ちなみに個人的感想としては(すいません、ホントにお世話になっている会社さんなので主観が入っておりますが・・・)、ここ7,8年でビジネスモデルも大きく変わったとはいえ、どうも内部告発という形で何かの疑惑が浮上する風土には思えません。

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2016年8月 3日 (水)

関係者になってしみじみわかる「鬼より怖いマスコミのリーク記事」

昨日は三菱自動車燃費不正問題に関するリーク記事についてお話をいたしましたが、今朝も日経一面に三角株式交換による完全子会社化に関するリーク記事が出ておりまして、たいへん驚いた次第であります。かなり前ですが、加ト吉さんを日清食品さんがグループ会社化することをリリースする直前に、詳細なスキームまで日経一面で解説されており、「一体だれがこんなこと漏らすのだろうか」と批判的にみておりましたが、いざ自分が関係者になってみますとこんな情け容赦のないリークはあるのだろうか・・・と呆れてばかりです。

たとえば非上場会社のトップに某有名経営者が就任するとか、「●●社、いよいよ上場を検討」といった記事であれば「こりゃおもしろいネタだわ、ひょっとしてフライング?」で笑って済む話かもしれません。しかし上場会社の場合には一般投資家に混乱を生じさせることもあるわけでして(まぁ、それも投資家の自己責任だ、とか、情報管理ができていない会社側が悪いのだ、と言われればそうかもしれませんが)、市場にとっては悪い影響を及ぼす可能性が高いと思います。たしかに三菱自動車さんの公表した第三者委員会報告書を読みますと、すでに読売新聞の一面記事に出ていた内容のとおりでありまして「なんで調査委員会関係者以外知らない事実が漏れるの?ひょっとしてリークをさせて世間の反応を確認しているのかな?」と勘繰りたくもなります。

不祥事対応や支配権争い、不正調査等、企業の有事対応の仕事をしておりますので、マスコミの方々がレアな情報にアクセスしておられる(アクセスする努力をしておられる)ことは当然だと認識しております。しかし、保有している情報を記事化するタイミングというのは十分な配慮が求められると考えます。たとえば本日のフライング記事にしても、会社が正式に発表する時間まで、極めてインサイダー取引リスクが高まるわけでして、とりわけ昨日報じられた某上場会社の元会長さんのように「情報伝達者」の刑事立件が行われる時代になった今、犯罪を誘発する可能性も高まります。

大手の新聞社・通信社では、リークのタイミングは重要会議で検討されるわけでありまして、そこには経営陣も介入できない「編集権」の壁が存在することは承知しております。ただ、偉そうに言える立場でもありませんので「お願いベース」ではありますが、どうかリークされた方の苦しみも少しは理解していただきたいと思うところでございます。

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2016年8月 2日 (火)

三菱自動車燃費偽装事件-危機意識がなければ内部監査は絵に描いた餅に終わる

本日(8月2日)は三菱自動車さんが燃費偽装問題に関する特別調査委員会報告書を公表する日ですね。会社側もどのような報告書の内容なのか知らないはずなのですが、どういうわけか(?)事前にリークされていて、7月29日の読売新聞朝刊のトップに「三菱自動車、不正指摘を軽視」と題する記事が掲載されておりました。その後、朝日新聞さんでも同様の記事が掲載されています。

2011年に過去のリコール隠し事件を受けて、三菱自動車さんが社員に向けたアンケート(匿名だが在籍部署名の記載は必要)を取ったそうです。その際、開発部門の社員複数のアンケート結果から、データ偽装や資料の虚偽記載に関する記述が認められました。これを契機に開発部門が自ら社内調査を行ったのですが、不正はなかったとして「問題なし」と上層部に報告していた、とのこと。特別調査委員会の関係者は取材に対して「この時点で徹底的な調査を行っていれば、燃費不正を見つけられた可能性がある」と証言されているようです。おそらく開発部門で不正が行われている兆候が見つかったのであれば、開発部門のトップを調査責任者にすべきではなく、内部監査部門が調査をすべきだった、という趣旨がこめられているように思います。

ただ、社内調査が徹底的に行われないのは、なにも三菱自動車事件に限られるものではありません。会社で不正が発覚した際、「まだほかにもあるのではないか」との気持ちから、類似案件の発見作業が行われますが、こういった調査では類似の不正事実が出てくるケースが多いはずです。これまで長年にわたって監査では発見できなかったような不正が、いとも簡単に会社の多くの部署で発見されてしまうとなると、「いったい監査部門は何をしていたのか」と世間から批判を浴びます。しかし「不正を指摘する通報はあったけれども、おそらく何かの間違いだろう。疑いを晴らすために監査を行おう」と考えるのか、「火のないところに煙は立たず、社内で不正の兆候を発見した際には、徹底的に調査を行う」と考えるのとでは不正発見の可能性には大きな隔たりがあると思います。

本気で不正を見つけようとする社内調査には自然と内部通報が集まります。通報者の共感が得られるからであり、不正を通報しても会社から不利益な取り扱いを受けない、といった安心感が通報者に生じるからです。逆に予定調和的な社内調査、とりあえず調査したけども社長を安心させるためのストーリー作りに専念する社内調査では、到底有力な情報は集まらないし、また不正の兆候を見つけることも困難です。要は「不正は早期に見つけること」といった意識をどれだけ組織が持っているか、ということで社内調査の質は決まるのであり、徹底した調査以前の組織風土こそ重要です。

なお、上記読売新聞ニュースによると、2011年3月にデータ偽装等の指摘がありながら、「不正はなかった」といった報告がなされるまで約1年を要しています。なぜこのように調査が長引くのでしょうか?この一年間に、具体的にはどのような調査が行われていたのでしょうか?この空白の1年を埋める作業こそ、組織風土を変えるためのヒントが隠されているような気がします。

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2016年8月 1日 (月)

会計不正事件に浸透し始めた日本取引所「不祥事対応プリンシプル」

定時株主総会が終了したことも影響しているのかもしれませんが、7月下旬になって東証1部上場会社の企業不祥事公表が目立ちます。とりわけ三井ホームさん、住友電設さん、住江織物さん等、老舗企業もしくはそのグループ会社における不適切会計処理事案が目を引きます。それぞれの会社リリースを読みますと「なぜこの程度で過年度決算をしなきゃいけないの?」「なぜ第三者委員会を設置せず、社内調査で済ませようとするの?」「なぜこの時期に公表なの?もっと早く公表できたのでは?」と疑問を抱くところもあるかもしれません。

おそらく、今年3月から適用されている日本取引所自主規制法人「上場会社における企業不祥事対応のプリンシプル」が、各企業の対応にかなり影響を及ぼしているはずです。企業不祥事の発覚時には、会計監査人との協議とともに、取引所への相談も重要となります。たしかに同プリンシプルは特別な行為規範を上場会社に新たに要求したものではなく、また細かなルールベースで規定されたものではありませんので、従わない場合に何らかのペナルティが取引所から課せられるというものでもありません。

ただ「会計不正はかならず発見される」という保証はないわけでして、証券市場には実際に「隠れ会計不正事件」は多数存在します。したがいまして、もしプリンシプルの趣旨精神に反するような不祥事対応に終始しておりますと、ステイクホルダーから「この会社はもっと大きな不正を隠しているにちがいない」と安易に推測されてしまうので、これを回避したい不祥事企業へのインセンティブ効果は大きいといえるでしょう。私が昨年から今年にかけて関与した事例のように、最初は資金流用で調査を始めたところ、会社の非協力的な態度が尋常ではないのでさらに追及すると組織ぐるみの粉飾が発見された、という事件も普通に発生しています。

とりわけプリンシプル対応においては、不祥事発覚時点における調査範囲の決定方法、調査を誰に委ねるか、再発防止策の実効性をどのように担保すれば説得力があるか、といったあたりは最大の課題です。社外取締役や社外監査役さんの有効活用が求められる場面でもあります。私としましても、もう少し時間的余裕ができましたら、ブログでひとつひとつの事例を紹介して取引所プリンシプルがどのように活用されているのか、私なりの解釈を申し上げたいところです。皆様方におかれましても、たとえば上記3社のリリースを参考として、企業不正発覚時における企業の危機対応を学ぶことも有益ではないでしょうか。

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