社内アンケート調査の「自由記述欄」は不正発見の端緒となりうるか?
さて、昨日に引き続き、先週の日本監査役協会長浜合宿における某監査役さんとの懇親会で盛り上がった話題をひとつご紹介します。
三菱自動車工業燃費不正事件に関する第三者委員会報告書にて、燃費不正を早期に発見する余地があったとして、社内アンケートに関する同社の不十分と思われる調査内容が紹介され、マスコミでも話題になりました。自由記述欄に「虚偽記載」を疑わせる内容が記載されたものの、一通りの調査で「不正事実は存在しなかった」と結論つけたことについて、「なぜコンプライアンス部門が中心になって調査をしなかったのか、開発部門に調査を丸投げしてしまえば、自部門の不正など隠すに決まっているではないか」といった論調が目立ちました。
本件について、某社の監査役さんが、「うちの会社でもコンプライアンス調査のために全社員アンケートを実施しているが、よほど不正疑惑が明確になっていない限り自由記述欄は見落としてしまいがち。うちの会社はまじめな会社であり、不正なんて起きないといったバイアスが働くから、どうしてもビッグデータ処理によるリスク・アプローチのほうに注意が向いてしまうのですよ。なんか三菱さんの件は、(それほど熱心に調査をしなかったことについて)わかる気がします」とのこと。そういえば、私も「自由記述欄」というのは、アンケートに回答した社員の労務上の不平不満が書かれていることが多いためか、ここに不正の兆候が潜んでるという意識は、よほど懐疑心を発揮しなければ見落としてしまうことが多いように感じています(もちろん専門家としてやってはいけないミスですが)。
先日、コンプライアンス対応で著名な同業者の方と食事をしたとき、第三者委員会における社内アンケートの極意についてお聞きしました。この「自由記述欄」に社員が告発したくなるような工夫を施すことがとても大事とのことでした(ここではその工夫について書くことは控えます)。どのように自由記述欄を活用すれば、社員が告発する気になってくれるか・・・というところがアンケートの勝負ドコロだそうです。
しかし、これは実際に企業不祥事が発覚した直後の社内アンケート調査ですし、当然のことながら第三者委員会の委員に高い懐疑心が存在するからこそ有効であって、平時のアンケート調査の場面とは相当異なる状況にあると考えられます。有事ではなく、平時から「高い職業的懐疑心」を持つことは、監査役さんや内部監査部門には要求されるところですが、実際にはなかなか困難なのですね。「ハイ、きちんとアンケート調査もやりましたよ」と、監査手続きを履行すること自体に関心が向けられているわけです。毎度申し上げるところではありますが、「オオカミ少年」を社内で許容する組織風土がなければ「職業的懐疑心」自体が組織で成り立たない気もいたします。
ちなみに本日(8月29日)、デロイトトーマツさんが、内部通報制度の運用に関する調査結果を公表されており、3分の2の企業で外部に通報窓口を設置しているものの、年間通報受理件数が10件未満の会社は72%に上るそうです(デロイトさんの調査結果はこちら)。通報制度に関心の高い企業ですら、事実上は内部通報制度が十分には機能していないのが実態です。この結果をみるに、通報窓口担当者が通報者の秘密を保持しうるスキルを磨くことと同時に(実務をみていて、これは最も重要!)、「内部通報制度」を機能させる組織風土を、時間をかけて形成する努力が必要だと再認識するところですね。
| 固定リンク
コメント
私も東京都建設局の外郭団体で職場での
ハラスメント・暴行を公益通報して退職させられましたし。
法律は絵に描いた餅という印象。
投稿: yamada | 2016年8月30日 (火) 08時29分
社内アンケート調査の「自由記述欄」は不正発見の端緒となりうると思います。
ただし、社長や業務執行取締役が関与(黙認など)する不正に対しては、監査役が監督能力を発揮できる環境が整備されていなければ、監査役宛てにアンケートで通報する従業員はいないのではないでしょうか。
不正を見て見ぬふりにしておくことが、会社のためだと勘違いしている監査役も散見されるなか、社内アンケート調査をしている監査役さんの会社はコンプライアンス経営の進んだ会社ですね。素晴らしいと思いました。
投稿: たか | 2016年8月30日 (火) 23時57分